「さて。幻魔が帰って来たのだ。パーティーでも開こう」
「え、最初からそのつもりで買い物に行かせたんですよね?」
プレジールが妙にキリリッとした表情で言ったのを一瞬でぶった切るクレア。
現在は食堂にいる。
「……それは言わない約束だろう?」
「あ、そうでしたね。反省はしません」
「反省しろ!!」
珍しく怒るプレジール。さすがにサプライズブレイクは不味かったらしい。
「まぁ、別にいいんだが…はぁ。まぁいい。それで、料理は出来てるのか?」
「あ、それは大丈夫ですよ。今回は無理矢理手伝おうとした幻魔をあの手この手で阻止しましたので安心してくださいな」
「それは、クレアにしては珍しくしっかり働いたな」
「そりゃ、幻魔君が帰ってきたら雑にできないじゃないですか。そこらへんは分かってますよ」
「……それを通常にやってくれるとありがたいんだがな……」
「はっはっは!私が言う通りにするなんて滅多にないって知ってるでしょ!」
「…なんか、嫌になって来たよ」
「素が出てますよ~」
「ゲフン。さて。幻魔は先に席に着いていろ。良いか?席に着いてるんだぞ?立っているなよ?そんな事されたら倒れるぞ?」
「…フリですか?」
「違う!」
本格的に心が折れそうなプレジール。
「とにかく、座っていてくれ。私は雪花の元へ行ってくる」
「あ~…なるほど。では、私は座ってますよ」
幻魔はそう言うと、自分の席に座る。
「さて、迎えに行こうか」
プレジールはそう言うと、食堂を出て行く。
「ま、くつろげないと思うけど頑張って耐えててね~」
クレアはそう言って出て行く。
「……働いてないと落ち着かないんだが…まぁ、何かしていよう」
幻魔はそう言ってカードを取り出す。
* * *
再びプレジールが食堂に向かうと、何やら騒がしい。
「何かやってるんですか?」
つれて来た雪花が聞く。だが、そんな事は企画していないプレジールも聞きたかった。
「わからん。まぁ、入ってみれば分かるだろう」
「そうですね」
プレジールが扉を開けると――――
――――氷の城のようなモノが目の前にあった。
「……クレア?なんだコレは」
視界の端に映ったクレアに聞くプレジール。
「え?あぁ、これですか?なんか戻ってきたらできてました」
「何だそれは…」
「幻魔が原因じゃないかと」
「……待ってろと言ったのに…」
プレジールは瞬時に妖力の槍を生み出すと、投げつけて氷の城を粉砕する。
「あ、ご主人。戻っていたんですか」
氷の城の奥から見えた幻魔がこちらに手を振る。その隣には美鈴も居た。
「……はぁ…もう、何も言わんよ。ほら、料理も出来たんだろう?運んでくれ」
「はいは~い」
クレアはそう言うと、出て行く。
「クレアさん、去る前より軽くなってません?」
「あれが本来のクレアだからな…まぁ、外ではしっかりしているから良いんだが」
「なんだかんだでご主人も甘いんですね」
「全くですよねぇ…」
「なんだなんだ?厳しくしてほしいのか?」
「「それはちょっと」」
「ならいいだろう」
幻魔が出て行く前と比べて、随分雰囲気が軽くなっていた。
「まぁ、雪花も座ってくれ。私はあいつを呼んでくる」
「あいつ?他に誰かいるんですか?」
「幻魔が居ない間に来た奴でな。図書館の管理を任せているのだよ」
「へぇ…そうなんですか。それは会ってみたいです」
「あぁ、連れて来るから待っていてくれ。次は何もするなよ?」
「フリですね分かります」
「いい加減にしろ!」
プレジールはそう言い放って、行ってしまう。
「じゃ、遊びますか」
そう言って、また幻魔はカードを取り出す。
* * *
「主様…あの……その、幻魔さんは…怖くないんです…よね?」
「大丈夫だ。一応この屋敷で一番怖いのは私という事になっているからな」
「一気に不安になったんですけど…?」
「会ってみるのが一番だ。大丈夫だろう?」
「え~…それが大丈夫だったらもっと自信持って今歩いてますよ…」
プレジールの後ろをちょこちょことついて行く少女は、疲れたような表情をしている。
「うぅ…お腹痛いです」
「そう弱気になるな。ほら、着いたぞ」
「うぅぅ……やっぱ戻っていいですか…嫌です。怖いです。見ず知らずの人とか死んじゃいます」
「それならまず私と知り合えてないだろう」
「うぐぐ…分かりました。会います。会って帰ります」
「せめて食事はとって行け」
「あぅ。分かりました」
プレシールが扉を開けると――――
――――無数の花びらが降ってくる。
「うわぁ。きれいですねぇ…」
「……………クレア?コレは?」
「だから、幻魔ですって」
少女が花びらに見惚れている中、プレジールがクレアに聞くが、予想していた通りの答えが返ってくる。
「幻魔。またなのか?」
「またです」
「お前は…」
もう、何か、諦めてしまったプレジール。なんせ、雪花が嬉しそうな表情をしていたからである。
「…それで、もういいか?」
「えぇ、気は済みましたよ」
パチンッと幻魔が指を鳴らすと同時に待っていた花びらが全部消える。
「あっ…!」
一瞬、雪花が悲しそうな表情をするが、すぐに我に返り、顔を赤くして俯く。
「……まぁ良い。それで、呼んできた。入れても良いか?」
「それはご主人が決める事ですよ。私達は従うだけです」
「従わないだろうが」
「はて?何の事でしょう」
とぼける幻魔に少しイラッとするが、何とか落ち着かせ、
「入れ」
「は、はい!」
カクカクとした動きで動く少女。
明るい茶色のポニーテイルに緑色の瞳をした、紺色のメイド服を着た少女。
「あ、あのっ、リブラって言います!!よ、よろしくお願いしまぅっ!!あうっ!舌噛んだっ!」
珍しいキャラだった。雪花の最初の頃が一番近いようにも思えるが、それ以上にダメっぽい雰囲気が漂っている。
「こちらこそ、よろしくお願いします。リブラさん」
幻魔は柔らかい笑顔でそう言い、
「さて、いい加減始まるか。料理は早く食べた方が美味いからな」
プレジール達、立っている者が全員座り、幻魔の帰還祝いを始めるのだった。