東方変幻録   作:大神 龍

43 / 67
第四十三話

 素早く拳を振り抜く美鈴。

 

 しかし、ゆらりと動いて青いローブの人物は避ける。

 

「あ……そうだ……私…名乗ってなかった……ね」

 

「…私も名乗っていませんね。紅 美鈴。この紅魔館の門番です」

 

「私………は…虚血…壊疽………壊疽って…呼んで……」

 

「私はどう呼んでもらっても構いませんよ」

 

 言いながらも美鈴は攻撃の手を緩めない。が、一向に当たらない。

 

「…なら、これで」

 

 美鈴は一瞬攻撃の手を止め、右足に力を溜める。

 

「なに…を…?」

 

「ハァッ!!」

 

 美鈴が足を全力で振り上げると同時、七色に輝く光の波が飛んでくる。

 

「ッ!!」

 

 想像もしていなかった攻撃に驚き、その光の波をまともに受ける。

 

「びっくり……した………何…?今の………」

 

「三年前くらいに出来るようになりましてね…威力はそこまでではないんですが、一応使えるので使ってるだけですよ」

 

「そう………なん…だ」

 

 威力は無い。そうは言っているが、今の攻撃でコートのフードが消えていた。

 

 その奥にあるのはミイラの様な乾いた少女の顔をしていた。

 

「…心配はしませんよ。もし死んでも挑んだ自分を恨んでください」

 

「君には……無理…………だよ…?」

 

 壊疽の言葉と共に美鈴は回し蹴りを放つ。

 

 しかし、壊疽はひらひらとそれを躱す。

 

「あは………は……!!」

 

「なら、コレはどうですか!」

 

 拳を突きだそうとする美鈴。それを察し、壊疽は避けようとし――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宙を舞う。

 

 

 

 

「あ………」

 

「セイッ!!」

 

 瞬時に放たれる追撃の拳。

 

 それは正確に壊疽の腹部を狙い――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ガッ!!

 

 

 

 

 大剣に防がれる。

 

「ッ!!!」

 

 美鈴は瞬時に後ろに下がる。先ほどの美鈴の一撃を防いだのは少年。肩に担いでいる大剣は不思議な形をしている。

 

「選手交代だ。行くぞ?」

 

 少年は大剣を片手で構え、

 

「『氷竜旋尾(ひょうりゅうせんび)』」

 

 放たれた氷の斬撃を、美鈴は瞬時に右へと転がる事で回避。そのまま落ちていた手頃な石を少年に投げつける。

 

「『群鳥氷柱(ぐんちょうつらら)』」

 

 投げられた石は無数の氷柱によって迎撃され、氷柱は勢いを落とさぬまま突き進む。

 

「『紅砲』!」

 

 ドォンッ!!と音を出し振り抜かれた拳から、まるで盾の様に真っ赤な波紋が広がり、氷柱が打ち落とされる。

 

「へぇ?じゃあ、『撫斬(なでぎり)』」

 

 一瞬にして間を詰め振るわれた炎を纏った大剣。美鈴は瞬時に回避が無理だと判断し、

 

「『黄震脚』!!!」

 

 ドゴォッ!!と、地面を力強く踏んだ際に生み出された衝撃波が大剣を包んでいた炎を吹き飛ばし、それを確認するよりも早く速く美鈴は大剣を両手で叩くように掴み、威力を殺ぐ。

 

「今のを止める!?ハハハッ!!良いな!!どんどん行くぞ!!」

 

 力任せに大剣を引き、美鈴の手を引きはがすと、そのままもう一度大剣を振るう。

 

「『降華蹴』!!」

 

 小さく跳び上がると同時に振るわれる美鈴の蹴りに、今まさに振り下ろさんとしていた大剣を力任せに止め、防御に回す。

 

 ガギィッ!!と金属音を発し、少年を数メートル飛ばす。

 

「おっとっと…ハハッ、良いな。ならこれはどうだ…?『鬼火(おにび)』!!」

 

 放たれた不可視の一撃。空間を歪ませながら飛んでくるその一撃。美鈴は冷静に構え――――

 

「『紅砲』!!」

 

 先ほどと同じように放たれた紅い波紋は、向かって来ていた不可視の弾丸に衝突し――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゴォッ!!と音を立て美鈴は吹き飛ぶ。

 

 

 

 

 

「カハッ!!!」

 

 二、三度地面をバウンドし、ゴロゴロゴロ…と転がった後、止まる。

 

「…熱の砲弾ですか…コレは予想外。そんな事も出来るとは思いませんでした」

 

 美鈴はゆっくりと立ち上がり、再び構える。

 

「まだやるのか?」

 

「えぇ、ここで倒れる訳にはいきませんからね。何としてもこの館を守る必要があるんですよ」

 

「…そうか。まぁ、それでも俺は戦うがな。『千年氷牢(せんねんひょうろう)』」

 

 突然降り注いできた無数の氷柱に対処することが出来ず、そのまま囲まれると同時、美鈴を包み込むかのように氷が生み出され――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カツッ!と、ナイフが突き刺さる。

 

「ん?」

 

 少年は疑問の声を上げ、

 

 直後、氷が砕け散る。

 

 砕け散った氷は徐々に消え、一つだけ、氷でできた何かが見える。

 

「…椅子?」

 

 それは、確かに椅子だった。そこには一人の人間が座っている。

 

 燕尾服を着て、シルクハットをかぶった彼は、足と手を組み、不遜な態度でそこに居た。

 

「誰だ?」

 

 目に傷のある男がそう聞く。

 

「私は、この紅魔館の執事、黒焔幻魔。何故この紅魔館を襲撃したかは知らないが、君たちは私を不快にさせた。その罪は償って貰おうか?」

 

「へぇ?やるってのか?」

 

 男の疑問に答えるように幻魔は立ち上がる。

 

 パチンッ!と彼が指を鳴らすと同時に氷の椅子は砕け散り、

 

「原因はそこのサーヴェだろうが、一応君たちも潰す。さぁ、かかって来い。一片の容赦も無く、私は君たちを闇の底へと沈めよう」

 

 吹き荒れる小さな砂を含んだ暴風は、浅く彼らの皮膚を裂いて行く。

 

「やれるものならやってみるがいい」

 

「俺の力がどこまで通じるか…試させてもらうぜ!」

 

「私…を……倒せる………?」

 

「来いよ、遊んでやる」

 

 瞬間、獄炎が彼らを飲み込む。




 おい、こいつ館の主より主らしいぞ。どうすんだよ。主の立場がもう崖っぷちだぞ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。