東方変幻録   作:大神 龍

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第四話

 美鈴を雇ってもらってから再度一週間ほど経った時の夜の事である。

 

「幻魔。一度手合せをしてみないか?」

 

 いつも通り(ほうき)を持って(すでに終わってもうやる必要はない)掃除を(しているふりを)していると、プレジールがそう言ってきた。幻魔は少し不思議そうな表情になりつつ、

 

「はぁ、手合せですか?私は良いですが……えっと、ご主人とですか?」

 

「あぁ、そのつもりだが、何か不味いか?」

 

「いえ、そう言うわけではございません。では、どこで始めます?」

 

 幻魔が問うと、プレジールは少し考え、

 

「そうだな……大広間はどうだ?あそこならあまり貴重な物も置いていないし、それに広いからな」

 

「分かりました。では大広間で始めましょう。私はこのままで大丈夫ですが、ご主人は準備などはありませんか?」

 

「あぁ、特に必要なものは無い」

 

「分かりました。では――――」

 

 幻魔はそう言うと指をパチンッと鳴らし、周りの景色は一瞬にして大広間になる。

 

「――――勝敗はどういたしましょうか?降参と言う。又は行動不能の場合敗北という事で良いですか?」

 

「あぁ、それで構わない。それと、能力は遠慮無く使うと良い」

 

「では遠慮なく使わせていただきます。それでは――――」

 

 幻魔はそう言って懐から一枚のコインを取り出し、

 

「――――これが地面に落ちるとともに開始です。では行きますよ?」

 

 そう言い、幻魔はコインを上へ弾き、持っていた箒を構える。

 

 そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――キンッ!と、金属音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時。幻魔とプレジールは前方へ走る。

 

 幻魔は箒を右下から左上へと体をひねって跳びながら振り上げる。プレジールはそれに対し右手の、いつの間にか伸びている爪で応戦する。そして、箒と爪が衝突すると、ガキィンッ!という金属音が響く。

 

 そして、拮抗により止まりかけた瞬間、幻魔は素早く箒から手を離してそのまま回し蹴りをする。それをプレジールは右手を振った勢いをそのままに体を左回転させ、勢いそのままに右手を振り上げ足を上へと打ち上げる事で攻撃を回避する。

 

 幻魔は足を上へ打ち上げられた瞬間、箒を掴み、手元の棒の部分を地面に立て、それを軸にして左足をプレジールの首に絡める。回転していた勢いがあったプレジールは回避が遅れ、対処ができず、そのまま倒れ込んでしまう。

 

 倒れると同時に幻魔は素早く右足を左足の前、プレジールの背中の方へと回し、首を絞める。

 

「ッッ!!」

 

 プレジールは首を絞められるとすぐに反撃する。首を絞められたまま上体を起こして思いっきり地面に倒れる。が、幻魔は再び倒れようとしているのを察した瞬間、拘束を解いてバク転して着地する。

 

「ケホッ、ケホッ……意外と戦えるんだな。なら、もう少しやる気を出しても大丈夫かな?」

 

「フフッ、えぇ、もちろん大丈夫です。ここに来る前にはもっととんでもない人間と手合せをしていたことがありますからね」

 

「そうか…なら、いつかその人間達とも戦ってみたいな」

 

「そうですね……私も、また会えると嬉しいんですけどねぇ……まぁ、続きをしましょうか」

 

「それもそうだ……なッ!」

 

 プレジールは幻魔に近づき回し蹴りを仕掛ける。幻魔はそれを箒で防ぐ。

 

 瞬間、プレジールは気付く。幻魔の右手にカードが一枚ある事に。

 

 幻魔はそれをプレジールの額に向かって投げる。即座にプレジールは首を曲げて回避する。

 

 そのままプレジールは体勢を元に戻すと、下から上へと爪の異様に伸びている右手を振り上げる。

 

 幻魔は箒を使い軌道を反らし、返す刀で右から左へと振りぬく。

 

 しかし、その一撃はプレジールの服を浅く裂いて終わる。寸での所でプレジールが身を引いていたからだ。

 

 幻魔は箒の攻撃が外れた瞬間、半歩前に出て蹴り上げる。プレジールは防ごうとし、左手をかざしかけた途端、嫌な予感がして大きく回避する。そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴォゥッッ!!と、一瞬盛大な炎が出現し、消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む。まさか躱されるとは思いませんでした。ならもう少し大丈夫でしょうか…?」

 

 幻魔はすぐさま体制を立て直し反転して回し蹴りを放つ。プレジールは全力で体を反らす。そして、プレジールの眼前に幻魔の足が来た瞬間、ヒュッ!という音と共に見えない斬撃が飛んだ。

 

 プレジールは即座にバク転をして距離を取り、

 

「(不可視の刃だと!?先ほどの炎や前に見たカードを考えると、属性魔法が使えるのか!?だが、それだと転移や箒の硬化などはどう説明する?可能性としては魔法は技術、転移と硬化は能力……いや、硬化系の魔法もあったはず……だが、もし転移以外が魔法だとして、詠唱の一つも無いのは不自然……なら、やはりどちらも能力ということか?)」

 

「……ご主人?私の能力の考察は終わりましたか?」

 

「……いや、まだだ」

 

「そうですか……では、もう少し戦うという事でよろしいですね?」

 

「あぁ、次の一撃で終わらせよう」

 

 プレジールはそう言うと右手に槍を創り出す。

 

「(槍?でも、今即席で創り出した能力と考えるべき……いや、気配的に気のようなモノか。なら対策はある)」

 

 幻魔がそう考えた直後、プレジールは逆さに槍を構え、投擲の体勢になり、

 

「『ロード・オブ・グングニル』」

 

 直後、赤い雷光を纏った深紅の槍が音を置き去りにして飛来する。

 

 幻魔はその槍を前にして、左手をかざすと、バチィッッ!!!という音と共に、槍が幻魔に当たる。

 

 が、しかし、槍が幻魔に刺さったわけではない。その音は、『幻魔が飛来する槍を掴んだ』ために発生した音だからだ。

 

 幻魔は槍を掴んだことにより、槍の速度で振り回されかける。だが、幻魔は槍を掴んだまま体を回し、一回転すると同時にプレジール目掛けて投げ返す。

 

 プレジールは、まさか投げ返させるとは思っておらず、一瞬対応が遅れた。

 

 その一瞬が致命的だった。体が動いた時にはもうすでに遅く、いくら頑張っても必中する距離と速度。それを認識したプレジールは、内心舌打ちをし、相手の強さを見誤っていたことを後悔し、回避を諦め槍に穿(うが)たれそうになったその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 槍は霧散して消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

「『は?』じゃないですよ。ご主人。あの程度の速度で諦めないでくださいって。まだ頑張ればいくらでも切り抜けられたでしょう?」

 

「いや、それは、君だけだと思うが?」

 

「そんな訳無いでしょう。あの程度なら目を瞑っても回避できますよ。私の友人達なら」

 

「……君の友人は、人間なのか?」

 

「えぇ、人間ですよ。ただ、私を含め能力持ちしかいなかっただけで」

 

「そ、そうか……」

 

 プレジールは、幻魔の発言で何とも言えない気分になり、ため息をつく。

 

「それで、ご主人。さっきの一撃で終わりですか?それとも続けます?」

 

「……いや、もういい。今日はこれで終わろう」

 

「え、『今日』は?ってことは、またいつかやるのですか?」

 

 プレジールの言葉に幻魔はすかさず聞き返す。

 

「あぁ、そのつもりだが?もちろん、戦うのは私と限らんがな」

 

「そ、そうですか……えぇ良いでしょう。いくらでもお申し付けください。やり切って見せますとも!」

 

 幻魔はやけくそ気味にそう宣言するのだった。


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