最初の衝突は萃香と。
「最初で良いのか？」
「問題ないね！！」
放たれた右拳に迷いは無く、正確に幻魔の顔に吸い込まれ――――
素早くナイフで弾き、その腹に蹴りを入れる。
が、すぐさま挟まれた左腕に威力を打ち消され、更に地面に着地すると同時に足を踏まれ、動きを止められる。
追撃とばかりに振り下ろされた剛腕を、幻魔は触れ合うほど至近距離に移動することで行動に制限をかけて阻止。更に全力で頭突きを放ち、双方よろめく。それにより足の拘束が外れ、幻魔はその場を離れる。
「ってて…頭が割れるかと思った」
「くぅ…案外効いたねぇ…まさか頭突きをしてくるなん…て！！」
萃香が追撃してくる。
幻魔は咄嗟に横へ飛び、回避。しかし、一瞬影がかかったと感じた瞬間、反射的に頭上にナイフを投げる。
ボゥッ！！と突如吹き荒れた暴風により、襲撃者の軌道が少しずれ、幻魔の顔面スレスレに足が突き刺さる。
「おっと。まさか避けられるとはねぇ」
むしろなんで飛ばされなかったんだ。と幻魔は思うが、答えが決まっているような問答をするつもりは毛頭ない。
すぐさま後ろに飛びながらナイフを投げ放ち、いつの間にか懐に潜り込みアッパーを放とうとしている萃香にカウンターの肘鉄を打ち込む。
肘鉄は見事に脳天に突き刺さり、跳んでいた萃香は自分の跳躍力の分も返って来て数歩よろめくと頭を押さえて幻魔を睨む。
幻魔自身も肘鉄を放った右腕にカードを当てて治療をしていた。さすがに萃香の石頭に放ったのは不味かったか。と後悔するがすでに遅い。
そういえば、と思い投げたナイフの先を見ると、勇儀の居た場所は煙に包まれていた。
原因はナイフ。アレは爆発するように設定していた。その為、煙が発生しているのだ。
しかし、その煙は一瞬にして払われる。
他ならぬ勇儀の手によって。
「これくらいなら何とかなるね。まぁ、さすがにこれ以上は無傷じゃ無理だ」
どう見ても余裕な様子の勇儀。その体には汚れこそついているものの、怪我は見当たらない。
「（さすが、戦闘部族なだけはある…タフすぎるだろ）」
心の中で悪態を吐くも、それによって何かが変わるわけではない。
幻魔はどこからともなく一本のナイフを取り出す。
そのナイフはいつもの食事用のナイフではなく、狩猟用などの戦闘向きのナイフ。
言葉は無い。
幻魔は駆け出すと、萃香の元へ迫り、凶刃を振るい――――
バシッ！と掴まれ、阻止される。
「だらっしゃぁぁぁぁ！！」
ドゴォッ！！と音を立てて吹き飛ばされる幻魔。
蹴り飛ばされた所を抑えながら幻魔は立ち上がり――――
「おら、来いよ。全部『止めて』やる」
蹴り飛ばして来た骸鬼を睨む。
「なら、遠慮なく」
瞬間的に骸鬼の懐に潜り込むと、幻魔はナイフを振り上げる。
しかし、ガッ！と見えない壁にぶつかったようにそれ以上ナイフは進まない。
「残念。まぁ、吹っ飛べ！！」
ズドンッ！と放たれた強撃は、見事に幻魔の鳩尾に入り――――幻魔の姿が丸太に変わる。
「ッ！？」
骸鬼は驚きによって一瞬動きが止まる。
「変わり身の術。忍者って言ったら大体浮かぶ技の一つだな」
姿の見えぬまま振るわれた凶刃は、骸鬼の皮膚を易々と切り裂く。
「ガァッ！！」
痛みに耐えながら背後に蹴りを放つ骸鬼。
幻魔は転移するのではなく、骸鬼の蹴りを掻い潜り更に近づくと、いつものナイフを地面に突き立て、その場から離れる。
「んのやろ！」
追撃しようと骸鬼が飛び出ると同時にナイフから電流が流れ、骸鬼を足止めする。
「ぐぅぅ！？」
全身を駆け抜ける電流に力が抜け、骸鬼はその場にうずくまる。
「よっと」
しかし、その麻痺はそんな声と共に砕かれる。
「鳳花姐さん？」
「はぁ、全く。今回は正面からじゃなくて罠とかを使うのか…こりゃ少し面倒だね。ほら骸鬼。立てるか？」
鳳花は手を差し伸べるが、骸鬼はそれを掴まずに立ち上がる。
「これくらい、問題ないですよ」
「そうかい。じゃあ行くよ」
その声を皮切りに二人は駆け出す。
＊ ＊ ＊
「『罪の茨よ。幼子喰らいし悪に痛みと苦しみを与え給へ』」
萃香の足元のナイフは茨となって萃香を縛る。
ルーミアに仕掛けた物とは少し違うが、ほとんど同じ茨だ。ルーミアはまるでかかってないかのようにしていたが、ほぼありえないというか、幻魔との実力差がアリと象ほどの差が無い限りまず起きえない状況だ。
それをしていたルーミアはそれほどの実力があったわけで――――っと、この話はここまでとしよう。
幻魔が追撃を仕掛けようと前に出ると、横から入り込んできた勇儀が強烈な右ストレートを放つ。
幻魔はそれを紙一重で回避し、すり抜け様に勇儀の顔の前にカードを投げる。
それは勇儀の正面まで来ると、突如として光り出し、彼女の視覚を一時的に失わせる。
先に萃香を片づけるつもりなのだろう。迷いなく萃香の前へ移動し、一撃、大きく振りかぶる。
萃香に当たる一撃。それは――――
キンッ！という音と共に弾かれる。
「生憎、私の身体はちょいと特殊でね。基本的に攻撃を受けないんだ」
「能力の間違いだろ…！！」
不敵に笑う鳳花に冷や汗を流しながら苦笑いをし、幻魔は体勢を瞬時に立て直すと、再度刃を振るう――――。