東方変幻録   作:大神 龍

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第三十八話

 朝食後、唐突に骸鬼からこう言われた。

 

「今日の昼、鬼の四天王――――つまり俺達全員との乱戦をする。もちろん対戦相手はお前だ。参加するよな?」

 

「あぁ、分かった」

 

 逆らえなかった。何というか、笑顔が怖かったのだ。正確には骸鬼の隣にいたルーミアの顔が。

 

「じゃ、昼までは自由にしてて構わないから。時間になったら呼びに来るよ」

 

「分かった。おとなしくしてるよ」

 

 骸鬼が行った後もルーミアはなぜか残り、ずっと私を見ている。

 

「……な、なぁルーミアさん?なぜあなたは私を見張ってるので?」

 

「暇だからよ」

 

「そ、それなら鳳花さんの所でも十分では?」

 

「却下。今鳳花は私の指示――――じゃなくて、ちょっとした仕事をしてるから」

 

 今私の指示って言いかけた!!絶対言いかけた!!何!?何が始まるの!?

 

 内心冷や汗ダラダラで幻魔は何とか平静を保って見せる。

 

「そうか……だ、だけど、私は特に何もしないぞ?それでもいいのか?」

 

「ん~…まぁ、別に構わないわよ~?…いつもは迅真の隣で遊んでただけだからね~」

 

「そ、そうなのか…まぁ、それで構わないのなら良いんだが…」

 

 幻魔はそういうと、ナイフを取り出し、磨いて行く。

 

「そう言えば、気になってたんだけどさぁ。そのナイフはどこにしまってるの?」

 

 ルーミアは言いながら幻魔に近づく。

 

「ん?あぁ、これか?」

 

 幻魔がナイフを投げると同時にナイフは消失し、パチンッ!と指を鳴らすと同時に幻魔の手の中に再度出現する。

 

「これはまず、私の能力、ありとあらゆるものを変幻自在に操る程度の能力って言うのが関係している。ちなみに、迅真のバッグを作ったのは私だ」

 

「え、これを!?」

 

「あぁ、そうだ。種は変幻自在に操る能力の効果の一つである、『幻想化』。これはあらゆる物質を『幻想化』できる。では『幻想化』したものはどこへ行くのか。それがお前の疑問への答えだ。分かるか?」

 

「ふむ。つまり、『幻想化』した物はこのバッグのようにほぼ無限の異空間に飛ばされる…という事?」

 

「正解。さすがはルーミアだ。正直お前には知恵でも勝てる気がしないよ」

 

「貴方達の世界の話は知らないけどね」

 

「知ってたら怖いよ」

 

 口角を上げて言うルーミアに苦笑いで答える幻魔。

 

「じゃあもう一つ質問。そのナイフ、使い捨てだよね?何所で補充してるの?」

 

「何所と言われても…作ってるとしか言えないな」

 

「作ってる?」

 

 まさか、鉱石を掘ったりするのだろうか…そんな考えがルーミアの頭をよぎるが、

 

「別に、鉱石とって製錬して、なんてしてないからな?」

 

「なんだ、残念」

 

「私は一体なんだと思われてるんだ…」

 

「ん~…精神的疲労によって胃に穴をあけて血を吐きだす人…?」

 

「妙に具体的な返答どうもありがとうふざけんな。私はそんなに脆くない」

 

「でも血は吐くんでしょう?」

 

「まぁな……って、何言わせんだ!!」

 

「何か、迅真に似て来たわね…」

 

「そんな…嘘だろ…?私とあいつが似てる…?そ、そんなの認められるかぁ!!」

 

 なぜか怒る幻魔。何故だろう、より迅真に似てきたように見えるルーミアだった。

 

「それで、どうやって作ってるの?」

 

「ん?あぁ、もちろんそれも能力だ。変幻自在、の変。つまり変化する能力で大気をナイフへ変換している。そのため、作った後、私の周りの気圧は下がるんだ。しかも、どんな精度か、というのは完成するまでわからないからこうやって磨いたり研磨する必要があるんだ」

 

「ん~…つまり面倒な能力って事だけは分かったわ」

 

「…まぁ、それだけ分かれば良いよ。私自身もそこまで把握できているわけでもないし」

 

「そうなのか~。ま、面白そうだったら良いなって思っただけだから別にいいや」

 

 興味が無くなったのか、定位置である迅真の作ったという椅子に座る。

 

「本当にそこが好きだな…その椅子を持って歩けば良いのに」

 

「嫌よ。ここにあるから意味があるに決まってるじゃない」

 

「そんなものか?」

 

「そんなものよ。だって、出ないと迅真の遺した物を巡って旅が出来ないじゃない」

 

「…しなくていいだろ、そんなこと」

 

「むぅ、分からない奴ねぇ…まぁ、別にわかってくれなくても良いけどね」

 

 頬を膨らませながら言うルーミアは背もたれに寄り掛かる。

 

「まぁ、人の趣味に関してとやかく言うつもりはないよ」

 

「じゃあ最初っから言わないでよ」

 

「思った事は言った方が良いと思ってるからな」

 

「それ、今適当に思い付いたの言ってみただけでしょ」

 

「おぉ、ばれるとは」

 

「少しも隠そうとしないのね」

 

「まぁな」

 

 そんな会話をしていると、骸鬼が帰って来る。

 

「うわっ!まだいた!」

 

「なによ骸鬼。まるで私がいちゃ悪いみたいな言い方ね?」

 

「え、いや、その…げ、幻魔。そろそろ時間だから広場に行け。いいな?早く行けよ!」

 

 言いながら幻魔を追い出し、その後ルーミアに首根っこを掴まれ骸鬼の姿は見えなくなった。

 

 

 * * *

 

 

「んで、戦うんだっけか?別に私は良いが…」

 

 勇儀と戦ったあの広場で幻魔は言い放つ。その前には、鳳花、勇儀、萃香、骸鬼がいた。

 

 骸鬼は何時の間に来ていたのだろうか。確か家を出た時はルーミアに家の中に引きずり込まれていたはずだが…

 

 なんと思う事も無く、その後ろにいるルーミアを見て幻魔は全てを察する。

 

「もう怯えは抜けたよ!!全然大丈夫だ!!」

 

「私も問題ない!!」

 

「こいつらもこう言ってる。だから、本気で戦おうじゃないか」

 

「四対一…ハッ!余裕だね。ルーミアという怪物を見た後なら他の奴なんて取るに足らない」

 

「フン。幻魔。そんな事言ってると足元掬われるぞ…?」

 

「かかって来な。全員まとめて叩き伏せてやる」

 

 幻魔の挑発的な態度に鬼たちは笑みを浮かべ――――

 

「んじゃ、始め」

 

 ルーミアの言葉と共に両者は動き出す。


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