東方変幻録   作:大神 龍

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第三十五話

 疾風の如く流れる様な突き。

 

 しかし、幻魔はそれを紙一重で躱し、カウンターの拳を放つ。

 

 完璧なタイミングで放たれた一撃は、しかし恂覇にギリギリ届かずに通り過ぎる。

 

 一瞬の静寂の後、幻魔は腕を引き戻しながらなんとか恂覇の服に触れようとする。

 

 ところが、不自然なまでに恂覇に触れる事は出来ず、そのまま腕は引かれ、距離を取る。

 

「ギリギリ届かない…あの距離でそうなるなんて、そうそう無い事なんだが…もう少し探ってみるか」

 

 そう呟き、幻魔は瞬時に懐から取り出したカードを投げつけるが、そのカードは恂覇に当たらずに、しかしスレスレの所を通り過ぎて行く。

 

「(少し足りないというより、ずれる様な感じ…逸らされているかのような…)」

 

 考えながら今度は走って近づいてくる恂覇にナイフを投げつける。

 

 それはやはり恂覇のスレスレを飛んで行き――――

 

 

 ズバチッ!!

 

 

 青白い雷光が走ると同時に恂覇が動きを止める。

 

「ほぅ?電撃か…彼は火球だったな…まぁ、どの道これで私の能力は分かってしまったようだ」

 

「大体は、な。効果範囲までは分からんさ」

 

「そうか…ならば、気付かれる前に終わらせるとしよう」

 

 すると、恂覇は先ほどより数段速く動き、幻魔の懐へ潜り込むと、一瞬のうちに拳を振り上げる。

 

「ッァ!!」

 

 反射的に半歩下がっていたことが幸いし、鼻先スレスレを拳が掠めて行く。

 

 しかし、幻魔が息を吐く暇すら無く、追撃の足払いが放たれる。

 

 幻魔はそれに対し力を入れる隙すらなく、瞬時に宙に浮く。

 

 続けて振り下ろされる肘。それは正確に鳩尾を穿つ――――

 

 

 

――――はずだった。

 

 

 

 ドッ!!

 

 短い爆音と共に恂覇だけを襲う爆破の衝撃。

 

「つぅッ!!爆破くらい、考えておくべきだったか…!!」

 

 心の底から悔しそうに恂覇は呟くが、次の瞬間、姿の掻き消えた幻魔に驚くが、直後、後頭部に走る鈍い痛み。

 

「そこかぁ!!」

 

 咄嗟に腕を振るうが、しかし、そこに彼はいない。

 

 ヒュッ!と短く風を切る音。

 

 右から聞こえたその音に敏感に反応し、恂覇は振り向く前に全力でその場を離れる。

 

 

 ドゴァッ!!

 

 

 強烈な轟音に加え、体を貫く衝撃。

 

 しかし、それで彼の攻撃は止まらない。

 

 恂覇の周囲を囲む様にナイフが突き立てられ、白い雷撃となって恂覇を襲う。

 

「うぐぅぅぅぅ!!!」

 

 全身を突き抜ける激痛と焼かれる感覚に恂覇は意識を手放しそうになる。が、

 

「私も……あれから鍛えた…この程度で倒れはしない」

 

 一瞬、恂覇が一回り大きく見えた。

 

 直後、上空から更にナイフを投げつけようとしていた幻魔の前に恂覇が出現する。

 

 避ける暇は無かった。

 

 腕を掴まれると共に地面に向かって投げつけられ、更に落下速度に追いつかれて膝蹴りまで追加されて地面に突き刺さる。

 

 周囲の地面は割れ、赤い色に一部が染まる。

 

「ケホッ!ケホッ!!つぅ…まさかあの威力で反撃されるとは…」

 

 口から流れた血を拭い、彼はゆっくりと立ち上がり、

 

「切り刻む…!!」

 

 黒を纏い、右手にナイフ、左手にワイヤーを持ち、彼は闇を渡る。

 

 

 * * *

 

 

 どこに行った…?

 

 そんな疑問は一瞬のうちに吹き飛ぶ。

 

 姿も気配も無いまま、だが恂覇の左腕に痛みは走る。

 

「ッ!!」

 

 咄嗟に腕を引き、振り向くが、誰も居ない。

 

 次に右足に痛み。

 

 そして、やはり誰も居ない。

 

 痛みが走った所は切られており、血が流れ出ていた。

 

「……視認できないモノには効果が無い…それが私の能力の弱点。だからこそ、夜闇に紛れての奇襲、というわけか」

 

 ならば。そう思い、恂覇は風を纏う。

 

 直後、恂覇の周囲に恂覇のモノとは別の鮮血が舞う。

 

「私に力は無い。が、技ならあるぞ?」

 

 そういって笑みをこぼす恂覇。鮮血の散る方向から幻魔の位置を割り出し、そこへ風の刃を撃ちだす。

 

「ハァッ!!」

 

 瞬間、幻魔の声と共に風の刃を打ち砕き、一本のナイフが迫る。

 

「何のこれしき!!」

 

 恂覇がそう声を上げ、ナイフを弾き落とす。そして、微かに遮られた星の光で理解した。

 

「(すでに目の前!!)」

 

 恂覇は反射的に拳を放つが、幻魔は体全身を使って受け流し、横薙ぎの一撃を放つ。

 

 咄嗟に発動させた能力は、眼前に迫るナイフを数センチ逸らし、どうにか当たらなくした。が、続く膝蹴りは予想しておらず、まともに受けてよろめく。

 

「餓狼は獲物を永遠に追い続ける。さぁ、食い尽くされる感覚に溺れるが良い」

 

 月明かりに照らされて光る銀色のナイフ。

 

 そのナイフの一つ一つにワイヤーが付いており、更にそのワイヤーも複雑に絡み合い、まるで狼の頭部の如き形を作り、恂覇に大きな口を開け、銀のナイフの牙で喰らい尽くそうと迫りくる。

 

「(これほど大きなものは逸らせな―――――ッ!!!)」

 

 飛ぶ隙すら与えられず、迫りくる銀狼に喰われる。

 

 銀のナイフの牙に切り裂かれ、無数のワイヤーに押しつぶされ、恂覇は飲み込まれるのだった。

 

 

 * * *

 

 

「はぁ……生かさず殺さず。全く、面倒な物だ。これを狙って出来るのは、本当に戦闘のプロだろうよ」

 

 風によって切り刻まれた傷と気絶している恂覇を癒しながら、空を見上げるのだった。




 さぁ、コラボを募集いたします!もう一つの方も募集しておりますが、区別が付き易い様にしておきます!詳しくは活動報告にて!

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