東方変幻録   作:大神 龍

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第三十一話

 日が暮れ始めた辺りで、やっと骸鬼が帰ってきた。

 

「……何やってんだ?」

 

 開口一番、満足そうな表情をしている紫の頭を撫でている幻魔の姿を見てそう言う。

 

「あぁ、帰って来たのか」

 

「おかえりなさいです」

 

 幻魔はぼけーっとした様子で。紫は表情の様に明るい声で言った。

 

「あ、あぁ、ただいま。って、そうじゃなくて、なんでこんなほんわか空間が俺の家に発生してるんだよ」

 

「ん~……紫が原因じゃないか?」

 

「なんで私なんですか!?幻魔さんは!?」

 

「なるほど。その子供っぽい仕草と口調がこのほんわか感を(かも)し出していたのか…恐ろしいな…」

 

「え!?本当に私のせいですか!?何で!?」

 

 二人はなぜか納得し、紫は納得できずにブーブーと文句を言う。

 

「もう少し大人になれって事だ」

 

「これでも大人になってる筈なんですけど……足りないんですか…?」

 

「感情を表に出し過ぎって事だ。もう少し感情を抑えろ」

 

「感情を抑える…ですか…むむぅ。難しいです」

 

「はぁ……これ使え」

 

 そう言うと、幻魔は虚空から一本の扇子を取り出す。

 

「コレは?」

 

「ただの扇子。それで口部分を隠して騒ぎすぎない様にすれば大人っぽくは見えると思うぞ」

 

「は、はい……じゃ、じゃあ、ありがたく使わせていただきます」

 

 そう言い、紫は幻魔から扇子を受け取る。

 

「あぁ、そう言えば幻魔。お前、姐さんに呼ばれてたから一緒に来てくれ」

 

「…分かった」

 

「私もついて行っても良いですか?」

 

「紫は…まぁ、大丈夫か」

 

「なんです?その間。すごい気になるんですけど」

 

「さぁな」

 

 骸鬼はそう言って出て行き、その後ろを幻魔は歩き、数瞬悩んだ後、紫もその後ろについて行く。

 

 

 * * *

 

 

 三人はしばらく歩いたところで止まる。そこは広場のようなところ。

 

 おそらくこの村にいる鬼のほとんどが周りを囲んでおり、その円の中心付近に幻魔達を除いて三人いた。

 

 一人は萃香。だが、それは後二人の後ろに隠れるようにいる。

 

 そして、その二人の内の、左側にいるのは長い金髪に赤い目。額からは大きな赤い角が生えており、その角には黄色い星の様な模様が入っている。

 

 服装は体操服の様な服に赤い線の入ったロングスカートを着ており、両腕には手枷の様なものが付いていた。

 

 もう一人は、栗色の髪に頭の横から二本の朱色の角が生えており、目は鮮血の様な赤色。

 

 服装は橙色をベースにして下の方には紅い椛が描かれている着物を着ていた。

 

「あんたが幻魔かい?萃香から話は聞いてるよ。いやぁ、それにしても、まさか萃香がここまで怯えるとはねぇ」

 

 そう言ったのは、栗色の髪の方。

 

 確かに彼女の言う通り萃香はガタガタと震えて二人の間から辛うじて見えるくらいだ。しかも、目が合うと瞬時に隠れてしまうオマケ付きだ。

 

「あぁ、自己紹介がまだだったね。私は鳳花(ほうか)。よろしく頼むよ」

 

「…黒焔幻魔。ただの旅人だ。今はな」

 

「へぇ?今は、か。という事は、()()があるのかい?」

 

「さぁね。そのつもりはあるが、受け入れてくれるかは分からないからな。それはその時の状況で決まるさ」

 

「そうかい。まぁ、それは良いとしてだ。萃香がここまで怯えるほどの相手。中々面白そうだから戦ってみたいんだが……戦ってくれないかい?」

 

 幻魔は数瞬考え、

 

「……分かった。やろうじゃないか。で、どうする?一斉か?個別か?」

 

「多対一はまだしないさ。まぁ、いつぞやのあいつみたいな事になったらどうか分からないけどね。ほれ。勇儀。行ってきな」

 

「え、行くの?」

 

 突然の指名に思わず変な声が出る勇儀と呼ばれたもう一人の女性。

 

「当たり前だろう。むしろ逃げるつもりだったのかい?」

 

「うぐぐ…やりますよ。やりゃあ良いんでしょう!?」

 

「そうそう。その意気だよ」

 

 ケラケラと笑いながら鳳花は勇儀の背中を押す。

 

「はぁ…私は鬼の四天王、力の星熊勇儀!!黒焔幻魔。いざ尋常に勝負!!」

 

 先ほどの嫌そうな気配が嘘のように一瞬にして覇気の籠った強い気を発する勇儀。

 

「『変幻自在の死神』黒焔幻魔。我が前に立ったことを後悔するが良い」

 

 勇儀の力と張り合うかのように、だが、勇儀のまっすぐな気とは真逆の、ドロドロとした黒い霧の様なモノを生み出す。

 

 勇儀はゆっくりと重心を低くして構え、攻撃のタイミングを(うかが)う。

 

 幻魔は両手にナイフを持ち、肩の力を抜き、ゆったりとした気持ちで勇儀を見つめる。

 

 

 * * *

 

 

 誰も居ない家の前に彼女は降り立つと、中へと入る。

 

「ただいま~……って、あれ?誰も居ないの?鳳花~?……いない……ったく。どこに行ったのかな」

 

 言葉の内容的に、彼女の今いる所は鳳花の家なのだろう。

 

 彼女は家の中をしばらく歩いた後、本当に鳳花がいない事を理解し、はぁ、と短くため息を吐いて考える。

 

「何かあったのかな……あいつが家を離れるなんて月面戦争以来だけど……ここ最近は紫も静かだし。特に何もないはず…やっぱり誰か来たのかな。ちょっと村の中を探し回った見ようかしら」

 

 そう言うと、彼女は金色の髪をなびかせながら飛び立つのだった。


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