東方変幻録   作:大神 龍

29 / 67
第二十九話

 放たれた砲弾の様な拳。だが、幻魔はその一撃を、側面から撫でるように逸らし、即座に足をかけ、転ばせようとする。

 

 だが、彼女は足に引っかかった途端、瞬時に体勢を整えると、反撃として殴り掛かる。

 

 幻魔はその対応速度に驚くが、すぐさま腕を交差させて防御する。しかし、威力は恐ろしく、勢いを殺し切れずに吹き飛ぶ。

 

「ッ!!」

 

 防御をした時、直に受けた左腕は殴られた所で折れ、だらりと垂れさがる。

 

「中々…威力がある…一発でもまともに喰らったら即死か…なら集中して短期決戦するだけだ」

 

 幻魔はカードを取り出して折れた左腕を瞬時に治療すると、両手に一本ずつナイフを持ち、それと同時に出現する黒のオーバーコートとシルクハット。

 

「狂乱舞『殺意の虚影(きょえい)』」

 

 瞬間、幻魔は突撃する。

 

 彼女は即座に拳を振るい幻魔を迎撃する。

 

 が、拳が当たると同時に幻魔の姿は霧散し、その後ろからもう一人の幻魔が現れる。

 

 だが、彼女は驚くものの、瞬時に対応し、不安定ながらも威力の高い一撃を振るう。

 

 そして、その一撃は今度こそ直撃し、幻魔を吹き飛ばす――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――直後、全身に走る激痛。

 

「ッ!?」

 

 気付いた時には全身に切り傷が出来ており、そこから大量に出血していた。

 

「殺意の投影。疑似再現だが、相当勘の鋭い奴か、幻覚自体が効かない奴意外には大体効く。お前はどちらにも当てはまらないみたいだな」

 

「ッ!!舐める、な!!」

 

 背後の声に誘われ、振るった蹴りは、しかし虚空を裂く。

 

 そして、やはりこちらへと突撃してくる幻魔。彼女は逡巡する。が、即座に決断を下し、結果、能力を発動させる。

 

 

 * * *

 

 

「消えた?何所に行ったんでしょうか」

 

 紫は思った疑問を漏らす。が、その答えはすぐに出た。

 

 

 * * *

 

 

 対象の消滅。それは幻魔にとって想定外。正確には、()()()()()()()()()()()()事が想定外なのだが、それは置いておこう。

 

 彼女は幻魔の一撃を受ける直前、姿をかき消した。その現象の原因を幻魔は知っていた。

 

「(姿的に、あいつは『伊吹萃香』。ってことは能力は『密と疎を操る程度の能力』。自分自身を疎にして霧になる…だったか。さて、どうするか)」

 

 考える幻魔。だが、それは数瞬の事で、すぐさまカードを取り出すと、

 

「大気よ。凍てつけ」

 

 言葉と共に、いつの間にか幻魔の周りに集まっていた霧が凍結し、直後爆散する。

 

 氷が破壊されると同時に萃香は出現し、地面に倒れていた。

 

「まだ、やるか?」

 

「……………」

 

 萃香は返事をしない。だが、ゆっくりと立ち上がり、目にかかっていいた血を払うと、強い意志の籠った目を幻魔に向ける。

 

「…そうか。続行か…なら、せめて苦しまない様にしてやる。かかって来い」

 

 幻魔の言葉と共に萃香の姿がブレ、気付いた時にはすでに懐に潜られていた。

 

 だが、幻魔は瞬時に転移し、寸での所で凶撃を回避する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 否、回避したはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻魔が転移するはずだったのは萃香の背後。だが、実際に転移したのは、拳の威力が最大限になる位置。

 

「ッ!!」

 

 ゴゥッ!!と風を砕きながら振るわれた一撃は幻魔を吹き飛ばし、地面と木に激突して全身を貫く激痛。

 

 意識が薄れ、幻魔は咄嗟にカードを取り出そうとするが、腕が動かない事に気付く。

 

「(いや、それ以前に、感覚が無い!!)」

 

 胸部を全力で殴り飛ばされたがための呼吸困難。しかも、飛ばされた際に地面や木にぶつかったせいで身体の節々が悲鳴を上げ、両腕は特に強く打ちつけたために折れたのだろう。

 

「…………………………」

 

 ゆらり、ゆらりと近づいてくる萃香。幻魔は鈍痛と出血によって朦朧とする意識の中、考える。

 

「(………許可は…過去に下りてる。だが、使っても良いだろうか…ただの私欲。それでも、使わなくては死ぬ、か。はてさて。どうしようかね)」

 

 考えている間にも、萃香は近づいてくる。もう数歩、といった所だ。

 

「(……使うと、かなり疲れる…だが、使わないで勝てる様な相手じゃない…さて。何段階まで解放するかが問題だ…真剣勝負に出し惜しみなど無粋な気がするが、しないと身体能力は最低限になるし、能力は使用不可になるからな…さて。決断を下すか)」

 

 萃香はすでに眼前。そして、止めと言わんばかりに振るわれた一撃は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――幻魔の消滅により空振る。

 

「なっ!どこに!?」

 

 萃香は驚きを隠せず、咄嗟にその場を離れる。

 

 直後、地獄の底から這い出て来た怨念の様にねっとりとした恐怖と共に、心を震わせる声が響く。

 

「貴様をランクA以上とする。『現想(げんそう)』を限定解放。さぁ狩りの時間だ。鎌持つ悪魔は舞い降りた。絶望をその胸に抱きながら、涙を流して許しを請いながら、その身を呪って朽ち果てるがいい」

 

 幻魔の姿は萃香の背後。だが、萃香にだけは、見つけられない。

 

 彼女が見ているのは黒いローブに身を包んだ無数の悪魔。一人一本、大鎌を持ち、魂を振るわせるほどの恐怖を浴びせる。

 

「あ、あぁ…ぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!??!?!?!」

 

 恐怖に震えながらも、必死で押し殺しながら全力で拳を振り回す萃香。

 

 しかし、その覚悟すらも打ち砕く威圧感を持って、彼は言った。

 

「おやすみだ。良い夢を」

 

 直後、無数の大鎌が振り下ろされた――――


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。