衝突の際の暴風。それは幻魔が投げつけたカードの効果。それにより相手は反射的に目をかばうが、それが命取り。
幻魔は瞬時にナイフを投擲し、背後へとテレポートをする。
「ハッ!!その程度ぉ!!」
ズドンッ!!と彼が大きく足を踏み鳴らすと同時に発生する強い突風。そのせいでナイフは軌道を逸らされ、彼を通り過ぎて行く。
だが、それを予想していた幻魔は更にナイフを投げつける。
しかし、彼もただやられるだけなわけが無く、瞬時にナイフの風切り音に反応し回し蹴りを放つ。が、その蹴りは空を切る。
「なっ!!」
幻魔が狙ったのは戦っている鬼――――の影。ドッ!!と鈍い音を立てて刺さるナイフ。そして、刺さると同時に鬼は動きを止め、ナイフからは無数の鎖が伸びる。
「『グレイプニル』。神すらも喰らう狼を封じた鎖。それに加え影縫いで身動き一つとれないはずだ」
「…………………………………」
完全に束縛された鬼。だが、それにも拘わらず彼は口角を上げる。
「………この…鎖くらい……力任せに引き千切る!!!!」
バキィンッ!!と音を立てて砕け散る鎖。
「……へぇ?それを砕くのか…」
「ハハハッ!!鬼を止めるなんて無駄さ。力の代名詞。拘束程度砕き伏せるさ。それで、もう終わりなのか?なのだとしたら随分と拍子抜けだな」
「ふん。なら、こういうのはどうだ」
そう言い、幻魔が投げつけたのはいつもの様にカード。しかし、鬼の前に来ると同時に強い光を発し、目を潰す。
更に幻魔は発光している間にもナイフを正面から二本、真上に一本、地面に一本投げ、瞬時に背後に回ると、ワイヤーを柄に巻き付けたナイフをばら撒く。
「しゃらくせぇ!!」
ドバンッ!!と空気が爆ぜる音と共に二本のナイフが再び風により飛ばされかけるが、直後大気が急激に冷え、全身に軽い痛みが走る。
そして、更に上空から飛来したナイフが鬼の正面に落ちてきて、
ゴゥァ!!と獄炎へと変化し、先ほどとは逆に急激に温め、更に冷えた時に発生した水分が急激に水蒸気へと変化し――――
キュゴァ!!と空気を揺らす轟音と共に衝撃波が走り抜ける。
「水蒸気爆発。さすがの鬼も耐えられんだろう?」
「クハハッ!!無駄無駄ぁ!!この程度の爆発、かすり傷だ!!」
水蒸気爆発による白煙の中から幻魔に飛び掛かる鬼。
幻魔はそれに一瞬驚くが、瞬時に体を捻りながら全力の蹴りを放つ。
鬼の拳と幻魔の蹴りは衝突し、衝撃波が走る。
「中々力もあるじゃないか」
「鬼に言われるとは光栄だな」
「思っても居ないだろうが」
「さぁな?」
幻魔はすぐさま足を引き、地面に着くと同時に両掌を鬼の腹部へと当て、
ズドムッ!!と音を立てて伝わる衝撃。筋肉の鎧をすり抜け体の芯を揺らすその一撃は、鬼の体力をごっそりと削る。
「カハッ…!!」
肺の中の空気は全て吐き出され、意識が刈り取られそうになる。
が、
「やられるわけには、いかねぇんだよぉ!!」
風切り音と共に全身全霊の拳を振り下ろし――――
パキンッ!という乾いた音と共に目を覚ます。
先ほどの戦いの跡どころか体中の痛みすらも消え、不可解極まりない現状。
「楽しい
そして、状況を掴むことすら許さず瞬間的に振るわれた一撃を躱すことはおろか、感知する事すら出来ず意識を刈り取られる。
* * *
「えっと、何が起こったんですか?」
「幻覚だ。発動は最初のカード。風に触れた者を私の思い描いた幻覚の中に連れて行く。だが、カードの一番近くにいた人物のイメージも反映されるから幻覚の中で私が負ける可能性もある。まぁ、結局良い所で切って一撃叩き込んで眠らせるから関係ないんだが」
「なんか、サラリととんでもないことしているような…?」
「ただの考えるだけ頭が痛くなるだけの能力さ。まぁ、想像力が10割の能力なんだがな」
「そうなんですか…で、その人、どうするんですか?私、鬼の知り合いなんて、数えるほどしかいませんよ?」
「…一応聞いておこう。何人だ?」
「3人ですね!!」
「……片手で足りてしまった…」
「そ、そんな憐みの目を向けないで!悲しくなります!!」
どこか優しげな表情で幻魔が言うと、首を左右に振りながらしゃがみ込む紫。
「まぁ、とりあえず、今ので村の中から誰か出て来るだろ。ほら、今俺の後ろにいる奴みたいに」
「ありゃ?気付いていたのかい?」
いつの間にかその人物は後ろに立っていた。
薄茶色ロングヘアーを先の方で一つにまとめており、真紅の瞳をしており、頭の左右からは長い二本の捻じれた角が生えていた。服装は白のノースリーブに紫のロングスカート。頭には大きな赤いリボンを付けており、左の角には青いリボンが巻いてあった。腰には三角錐、球、立方体の重りの様なモノを付けていた。
「それにしても、まさか骸鬼があっさりやられちゃうとはねぇ…こりゃ勝てるかな?」
「おや?まさか戦うおつもりで?」
「当たり前さ。仲間が負けたんだ。仇討ちってのもありだろう?」
「……それもそう、ですね。なら、受けるとしましょうか。さぁ、どこからでもどうぞ」
「そうかい?それなら行かせてもらうよ!!」
幻魔はほとんど間をおかず、戦いを始める。
「なんか、前に聞いたことがあったような気がします…連戦ですよ。コレ。あの人もやってた奴ですよ。なんか、幻魔さんからも同じ匂いがし始めました。どうしましょ」
紫はもはや関わる事を諦め、被害に遭わない様に離れて観戦するのだった。
私の作品の紫が優遇された覚えがない。紫に救いは無いんですかっ!?