東方変幻録   作:大神 龍

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第二十四話

 先に動いたのは幻魔。だが、前進したのではない。ただ、眼前に落ちて来た石を日本刀で弾き飛ばしたのだ。

 

 いつ飛ばしたのか分からないその(ダンガン)に一瞬驚くものの、雪花はすぐさまナイフを持っていない腕をかざす。

 

 すると、音に近い速度で飛来していた石は突如として速度を失い、その場に落ちる。

 

 が、次の瞬間雪花が見たのはすでに上段に構えている幻魔の姿。

 

 反射的に雪花は構え、幻魔の袈裟切りをナイフを滑らせるようにして()()()と、瞬時に逆手に持ち変え背後に周りうなじを狙い、振るう。

 

 幻魔はナイフが当たる寸前でダメージ覚悟で自身の襟首の一部を爆破させ、その威力でナイフの軌道は少し上にずれる。そして、そのまま頭を低くし、ナイフを躱すと、当てられなかったことで前へ出て来た雪花の腹部に低い姿勢のまま拳を放つ。

 

 しかし、触れると同時に幻魔の拳に激痛が走る。それはまるで、極寒の中、石を殴ったかのような鋭い痛み。

 

 その痛みに反射的に手を引き見てみると、若干凍っており、ひび割れていた。だが、雪花もダメージを受けているようで、腹部を抑えている。

 

 手が凍っている。だが、幻魔にとってそれは些末な事。すぐさま溶かすと、刀で指を切り、血を出してそれを刀に塗ると構える。すると、一瞬にして刀が発火し、火を纏った刀となる。

 

 合図は無く、幻魔はカードを上空へ五枚ばら撒く。それは白い軌跡を残し、五芒星を円で囲んだような形を作り、更にその円を囲む様にもう一つ円が描かれ、そこに無数の文字が書かれる。

 

「『Shooting Star』」

 

 声と共に幻魔はさきほどの二倍近くの速度で白銀の軌跡を残しながら燃え盛る刀で突きを放つ。

 

 朱い軌跡を直線的に描くその一撃は、しかし、雪花のナイフにより逸らされ、炎を霧散させられる。

 

 だが、先ほどとは違い、幻魔は背後に回られると考えた上でその場に踏みとどまり刀を棒へと変化させ、やはり首筋を狙っていた一撃を防ぐと、勢いがなくなる前に棒を回転させ、雪花の腕を絡め取ると、足払いをして転ばせると、そのまま振り下ろし――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴガッ!!と音を立てて雪花の頭の手前に突き刺さる。

 

 そのミスに驚きながらも瞬時に棒を引き抜くと再度振り下ろす。

 

 だが、さすがに二度目をおとなしく受けるまで雪花が待ってくれるわけが無く、転がりながら射程範囲内から飛び出すと、転がった勢いをそのまま起き上がると、スカートの下から別のナイフを取り出し幻魔に投げつける。

 

 振り下ろした勢いをもう止められない幻魔は、止める事を諦め、逆に全力で地面を叩き大地を割って破片を周囲に飛ばす。

 

 その破片にナイフが当たると同時に爆発し、ナイフの軌道は逸れて行く。

 

 苦い顔をしながらも大体予想していた雪花は、もう一本ナイフを取り出し幻魔へと走り出す。

 

 幻魔から少し離れた所で雪花は強く跳ねると、前宙のように回転し、その勢いを利用して両手に逆手持ちしたナイフを幻魔に振り下ろす。

 

 ガキィンッ!!と大きい金属音がし、二本のナイフは幻魔の棒に突き立てられる。

 

「フッ!!」

 

 軽く息を吐くような声と共に雪花ごと吹き飛ばされ、空中で一回転して雪花は着地する。

 

「(私一人を腕力だけで飛ばすとか…ほんと、すごい力持ってるなぁ…)」

 

 今は(仮だとしても)敵なのだが、やはり少し尊敬してしまう。だが、そんな事を一々思っていては彼には届かない。今はまだ届かないと思っても負けだ。だから雪花は、幻魔を殺すつもりで戦っている。

 

「(行きますよ、幻魔さん)」

 

 その声は届かないと分かっていても、思わずにはいられない。この声が届かないと分かっているから、彼女はその刃に思いを込めてナイフを振るう。ただ幻魔に思いを伝える。その一心で。

 

 雪花は左手に持つナイフを投げ、その後ろに続くように走り出す。

 

 だが、ナイフは白銀の軌跡を描きながら高速移動する幻魔に掴まれる。が、それは雪花にとって好都合。すぐさま能力を使用し、ナイフは急に熱を発し始め、幻魔は思わずナイフを取り落す。

 

 その瞬間を狙い、雪花はナイフを突き刺すように一直線に跳ぶ。

 

 しかし、寸前で幻魔は棒を日本刀へと変化させると、ナイフを迎え撃とうとし――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寸前で雪花は地面に足を着いて力強く踏みしめると、体を捻り後ろ回し蹴りを放つ。

 

 踵が蟀谷(こめかみ)を打つ音と共に幻魔の身体は大きく揺れる。そして、畳み掛けるように雪花はナイフを振るう。

 

 だが、幻魔に当たる寸前で腕を掴まれる。

 

「中々、強くなったね。これはもう教える事なんてないかな?」

 

「そんな、私はまだまだですよ」

 

「そうだね。じゃ、おやすみの時間だ」

 

 瞬間、雪花の視界が大きく廻り、暗転して意識が途絶えるのだった。

 

 

 * * *

 

 

「はぁ、大事な服ですのに。まぁ、修繕すればまだ使えるので問題ないですが…まさかここまで追い詰められるとは思いませんでしたよ」

 

「大技使わなかったのに?」

 

「使ってる暇が無かっただけです」

 

「嘘おっしゃい。能力自体ほとんど使ってなかったじゃないの」

 

「それは…そうですが、私自身も焦ってたんですよ?それこそ、咄嗟に服を爆破させるくらいには」

 

「確かに、貴方にダメージを与えたのってあの二人が初めてよね。服は雪花が初めてか」

 

「そうですよ?それに、あの距離で大技出したら自分事巻き込む羽目になりかねませんって」

 

「まぁ、それもそうか。じゃあ私はこの子達を運んでくるわね」

 

 クレアはそう言うと美鈴と同じように雪花を運んでいく。

 

「さて、ご主人。これで全員と戦いましたが、もうよろしいでしょうか?それとも――――まだ、誰かと戦いますか?」

 

 幻魔が問いかけると、プレジールは幻魔の前まで出てくると、

 

「あぁ、もちろん。最後は私だ。さすがに一撃も与えられないまま負けたのは悔しかったのでな。良いだろう?」

 

「えぇ、問題ありません。何時でもよろしいですよ」

 

「では、行かせてもらう」

 

 そう言い、プレジールは瞬時に創り出した妖力の槍を投げ放つ。


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