東方変幻録   作:大神 龍

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第二十三話

 先に動いたのは美鈴。

 

 彼女は前へ出る勢いを利用し、滑りながら腰を深く落とし幻魔に向かい全力の正拳突きを放つ。

 

 だが、寸前で幻魔はその拳を左手で優しくなでるように押す。

 

 それだけで美鈴の拳は大きく逸れ、幻魔にかする事も無く通り過ぎる。

 

 しかし、美鈴は逸らされると感じた瞬間に前に出ていた足を強く踏み込み、ダンッ!と体を捻りながら力強く回転し、その勢いで回し蹴りを放つ。

 

 幻魔はその回し蹴りに対し、前進し不完全な一撃にし、且つ不安定な状態にし、崩れる瞬間に打ち上げる様な拳を美鈴に振るう。

 

 その一撃は咄嗟にクロスさせた腕に当たり、ミシッ!と音を立て、数cm美鈴が浮き、幻魔は即座にその場を離れ、美鈴はその場に落ちる。

 

「こんなものじゃないだろ?ほら、早く立ち上がりなさい」

 

 幻魔の言葉に、返事こそしないが美鈴は起き上がり戦闘の意思を見せると、一気に距離を詰め、腹部に左腕での一撃。それに対処しようと幻魔が動いた瞬間、急に腕を引き、本命の右拳が振るわれた。

 

 引いたことに即座に対処しきれなかった幻魔はその一撃を避ける事を諦め、受ける。

 

 ドッ!と音を立てて胸部に刺さる重い一撃。だが間髪入れずに拳を引きながらの膝蹴り。放った足を逆方向へと動かしながら後ろ蹴り。それで幻魔がよろけた所に左手で顔を、右手で鳩尾を狙い一撃。すぐさま拳を引き右手を添えて左肘で心臓部への一撃。

 

 ドゴォッ!!と音を立てて見事に入る強撃。

 

 さすがの幻魔もこの連撃は響いたのか、顔をしかめる。

 

 だが、攻撃が一瞬止まったと同時に美鈴を捕まえ、跳躍しながらの膝蹴りを顔面に放ち、大きくよろけた所を足払いで宙へと浮かせ、幻魔が上空へ石を投げると同時に美鈴が地面へ落ちる。更に追撃の踵落としを放つが、寸前で横へと転がられ攻撃を避けられる。

 

 美鈴は立ち上がると、幻魔へ走り込みその顔に掌底を打ち込む。

 

 しかし、幻魔は寸前で後ろへ下がっていたためダメージを軽減。更に体勢を立て直すのも早く、美鈴の腕を掴むと引き寄せ、その勢いで頭突きを放つ。

 

 ゴガァッ!!と強烈な音がし、美鈴の額から血が流れる。

 

 美鈴は蹴りを連続で放つが、頭突きの勢いをあえて消さなかった幻魔に当たらず、失敗したと気付くよりも早く幻魔が足刀蹴りを放ち、受けた美鈴はよろける。

 

 直後幻魔は前進し美鈴の喉を掴むと地面に叩きつけ、その腹部に膝を落とす。

 

 ピキッ!とヒビの入るような乾いた音がし、美鈴は顔をしかめるが、すぐに腹部を押す足を肘で突くと幻魔が揺らぎ、重心がずれ拘束が緩むと同時に脱出し、横になった状態で幻魔の腕に足を絡め、捕らえた腕を力強く引っ張り、腕挫十字固(うでひしぎじゅうじがため)を決める。

 

 関節技であるそれは簡単に崩せはしないが、幻魔は手の方向を美鈴に向け、掴むと同時に掴んだ部分が爆発する。

 

 その威力に全身の力が一瞬抜け、その隙を逃さず幻魔は腕力任せで美鈴を投げ飛ばす。

 

 あまりにも簡単に飛ばされ、周りから歓声が沸くが、二人にはその声を聞いているだけの余裕はない。いや、もしかしたらその余裕が無いのは美鈴だけかも知れないが。

 

 幻魔は乱れた服を直す。美鈴は自分の服装など気にしている暇など無く、体勢を立て直すと同時に幻魔に突撃し、素早く双手付きを放つ。

 

 だが、当たる寸前で幻魔は両手とも掴み、動きを止める。

 

「ッ!!」

 

 驚きに行動が一瞬止まった瞬間、美鈴の左腕を上に弾き、両手を離すと体を瞬時に反転し右手で美鈴の右腕をしっかりと掴み、左手で美鈴の左胸部分の服を掴むと全力で投げ飛ばす。背負い投げだ。

 

 ドッ!!と鈍い音を立てて美鈴の中の空気は全て出て行き、そのせいで意識が遠くなるが、それを気力で留まらせ、美鈴は掴んでいる右手を払うと、即座に起き上がり幻魔に上げ突きを繰り出す。

 

 幻魔は寸前で軽く下がり攻撃を回避すると、掌底を美鈴の顔に放つ。

 

 ゴッ!!と重い音がし、美鈴が揺らぐ。

 

 その隙を逃さず即座に追撃。貫手突きを鳩尾に打ち、その重みに美鈴が前かがみになると同時に今度は打ち上げるように底掌突きを顎へ放ち、前に出る勢いもあったため通常の二倍以上の威力が美鈴を襲い、威力に耐えきれなかった美鈴はそのまま地面に倒れ込む。

 

 

 * * *

 

 

 気絶した美鈴はクレアが運んでいく。その間に幻魔はカードを取り出し内出血などを完治させる。ただ、体力だけは回復させない。あくまでも連戦なのだ。美鈴で消費した傷だけでなく体力まで回復させるのはさすがに実戦では出来ない。

 

「さて、じゃあ次は雪花ですね。ほら、何時でも大丈夫ですよ」

 

「…幻魔さん。武器、使いますね」

 

「もちろん構いませんよ。それが貴女の戦い方なのでしょう?なら拒否する理由はありませんから。むしろ、本気でやらないで勝てると思わないでいただきたい」

 

「分かりました。では、私、雪花は貴方、黒焔幻魔を全力で倒します」

 

「よろしい。ならば私は、貴方の知と技と力の全てを覆し、勝利を手にしましょう」

 

 雪花はスカートの中から一本のナイフを、幻魔はカードを日本刀へと変え、両者は構えた。


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