東方変幻録   作:大神 龍

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第二十二話

「さて、どうしたものか……」

 

 呟くプレジールの前には粉々になった紅魔城が広がっていた。

 

 『神の裁き』によって破壊されたのだ。中にいたプレジール達は、寸前で気付いた雪花が白い炎を逸らし全員に当たらない様にしたのだ。それによってプレジール達の居た部屋だけは破壊されずに済んだのだった。

 

 そのせいで雪花は倒れてしまったが、駆け付けた幻魔が回復させ、現在は美鈴と一緒に即席で作った小屋で休んでいる。

 

「どうしましょうか…元の形で良いのならすぐにでも直せますが……」

 

「ふむ。そうだな…いや、少し変えようか。そうだな……城ではなく、館、なんてどうだ?」

 

「なるほど。それは中々良いかと」

 

 そうやってやり取りをしていると、後ろから、

 

「……幻魔?貴方、ちょっと機嫌悪い?」

 

 そう言ったのはクレア。

 

「なぜ、そう思うのですか?」

 

「…いや、いいわ。別に、そこまで深い意味は無いからね」

 

「?」

 

 …何の事か分からないかのように彼はそう言うが、心の底で思っている事はまさにクレアの言う通りだった。

 

 彼はただひたすら、この城を破壊したサーヴェに止めを刺せずイライラしていたのだ。

 

「さて、幻魔。大まかに命令するからそれをお前の中で適当に組み立てて造ってくれ」

 

「分かりました」

 

「なら、まずは――――

 

 

 * * *

 

 

 プレジールの言っていた通りに造ってみると、それは幻魔にとって見た事があるような屋敷となった。

 

「(―――と、いうよりも……コレ、紅魔館そのもの、だよな…)」

 

 目の前に広がるのは、真っ赤な屋敷。時計台があり、屋敷の前には庭があり、それらを囲む様に塀があり、屋敷の前には大きな門がある。屋敷自体も大きく、というか、城が基の敷地なのだから広いのは当たり前なのだが。

 

「(にしても、この屋敷を造る事になるなんて思わなかったな…いや、昔一度だけ造ろうぜ!ってあいつらが言ってたけど…まぁ、造らなかったしな。ノーカンだノーカン)」

 

 途中から何を言っているのか分からなくなってきたが、とにかくこれが初めてなのだ。

 

「これで、よろしいでしょうか?」

 

「ふむ。中々いい出来だな」

 

「ありがとうございます」

 

 お礼を言いながらも、コレ、完全にコピーなんだよなぁ…と思っていた。

 

「さて。では、屋敷の中へと入るか」

 

 そう言ってプレジールは意気揚々と入って行く。幻魔もそれに続こうとし、気付く。

 

「そう言えば、イーラ様は何処へ?」

 

「あぁ、あの人ならたぶん地下で寝てるんじゃない?」

 

 言われて、納得する。確かにありえそうだな。と。ただ、それと一緒に思い出したのは、建てる時に地下を確認しなかった事。おそらく出入り口は塞がれているはずである。

 

 それを思い出し、幻魔は冷や汗を流し始めるが、すぐに、気付かれる前に繋げておこう。と密かに決めるのだった。

 

 

 * * *

 

 

 屋敷を造った翌日。昼の内に大急ぎで地下と屋敷の中を繋ぎ、そのついでに図書館も作る。

 

 そして、プレジールが起きて全員がいる中で、幻魔は言う。

 

「ご主人。少し長期休暇をいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 幻魔の発言の直後、一瞬で空気が張り詰める。

 

「ほぅ?なぜ?」

 

「世界を見て回りたいのです。なので、そのための休暇をと思いまして」

 

 世界を見て回る。これは半分あっていて、しかし半分間違っている。正確には極東。日本へと行くのだ。『スカーレット』に『紅 美鈴』。そして今回の『紅魔館』。ほとんど判断材料は無いに等しいが、見に行ってみるぶんには損は無いだろう。

 

「なるほど……一人で、か?」

 

「そのつもりですが、ダメでしょうか?」

 

「私は構わないが……私以外にも聞いてみるのはどうだ?」

 

 そう言い、プレジールは幻魔以外の――――クレア、美鈴、雪花を見る。

 

「私は特にはありません。別に幻魔一人がいなくなったとしてもこのメンバーなら何とか管理していけるかと」

 

 そう言うのはクレア。確かに現状なら余裕だろう。というより、この屋敷は城の時と比べて明らかに狭い。だからクレア一人でも十分に管理しきれる広さだ。

 

「私も行くことに異論はありません。ですが、行く前に一度、手合せをしていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「あ、その、私も一度、本気で戦いたいです」

 

「――――とのことだが、どうする?」

 

 プレジールは聞くが、その表情は『受けろ』と言っている。もとより受けるつもりだが。

 

「分かりました。受けましょう。何時から始めますか?」

 

「ふむ、そうだな。今から30分後。門の前でやろう。異論はあるか?」

 

「「「いえ、ありません」」」

 

 三人は同時に言い、30分後に門の前に集合、という形で解散となった。

 

 

 * * *

 

 

 30分後。門の前には全員が揃っていた。

 

 幻魔の前には美鈴と雪花がおり、二人とも緊張しているのが見て取れる。

 

「さて、時間になったな。三人とも、準備は良いか?」

 

「私は問題ありません」

 

 幻魔は答え、二人を見据える。

 

「美鈴と雪花は?」

 

「大丈夫ですが…どちらからやりましょうか?」

 

 美鈴が疑問を口にすると、

 

「二人が良いのなら同時でも構いませんよ?」

 

 と幻魔は答える。

 

「そうですか…どうします?」

 

「えっと、私は一対一でやりたいです」

 

「じゃあ、雪花さんからやります?」

 

「あ、いえ、私は後でも良いですよ?」

 

「じゃあ私からで」

 

 そう言って美鈴は前へ出る。

 

「では、始めましょうか」

 

 幻魔がそういうと、美鈴は構えるのだった。


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