「さて。そろそろ俺も動こうかな。見てるだけなんて暇すぎてたまったもんじゃない」
* * *
突然の強襲があってから2週間ほどが経過した。
今まで季節感があまりなかったのだが、最近は雪が降り始めて来たので冬になったのだろう。
さて。雪が降ってきたという事は、雪かきをしなくてはいけない。なので幻魔は雪花を引きつれ外で見張りをしている美鈴も使いやっていた。
「幻魔さん……あの、本当に私もここで雪かきをしていて良いんですか?」
「大丈夫ですよ。一応ご主人からも許可は貰ってますし、それに、しっかり罠は張っていますよ」
「罠ですか…」
「えぇ。罠です」
一体何が仕掛けられているのだろう…と若干不安になる美鈴だが、幻魔が美鈴達にも被害が出る様な罠を張るような人ではないと信じているので気にしない事にする。
そして、こんなに雪が積もっている中、一番元気であろう雪花は、
「はぁ……」
「…どうしたんですか?」
何やら元気が無く、仕事もそんなに進んでいない様に思える。
「幻魔さん…いえ、別に大したことじゃないんですけど…」
「そうですか。でも、大した事でなくても人に言うと少し楽になりますよ」
「……いえ、大丈夫です」
そう言うと、雪花は仕事を再開する。
その姿を見て何とも言えない顔をするが、次の瞬間。
ズガァァァァァァンッッ!!という轟音と共に門が破壊される。
反射的に振り返ると、そこには一人の少年がいた。
「ヤッホー。お邪魔しますよーっと」
その言葉に誰も動けなかった。だが、彼が動くと同時に幻魔は我に返り、美鈴と雪花に命令を飛ばす。
「こいつの対処は私がします!二人とも城内へ入ってプレジール様の護衛を!」
幻魔の伝令に二人は即座に反応し、紅魔城の中へと向かおうとした瞬間、
「行かせないよ?」
という言葉と共に美鈴の背後へと視認できないほどの速度で迫る少年。
彼の必殺の一撃が美鈴に振り下ろされ――――
カァンッ!!という音と共に腕が弾かれる。
「ッ!」
「急げ!」
突然の事に少年が驚きその場に止まると同時に二人を急かす幻魔。
そして、二人がいなくなると、少年はへらへらとした締まらない表情で、
「やぁ。初めましてかな。俺の名前はサーヴェ。今はただの暇人だよ」
「ではこちらも名乗りましょう。黒焔幻魔。ここ紅魔城のしがない執事です」
「アハハハハ!!ケンカを売った俺にも名を名乗るんだね君は!」
「えぇ、もちろん。もう生きる事の出来ぬ存在に知られた所でどうという事はありませんので」
「へぇ…?俺を殺すつもりなんだぁ…?」
「当然。私の前に現れ、尚且つこの紅魔城へ宣戦布告をしたのです。許すとでも思っているのですか?」
「あっそ。良いよ。やってみなよ虫けら」
その言葉と同時にサーヴェの周囲に大量のナイフが出現し、一斉にサーヴェに襲い掛かる。
キュガッッッッ!!という空気が圧縮されるような音の一瞬後に爆風が発生し、更にその爆風は燃え盛る竜巻へと姿を変えると、その周囲にいつの間にかまかれていたカードが雷の龍へと姿を変え竜巻の根元へ襲い掛かる。
更に幻魔はナイフを一本手にするとサーヴェの体内へと転移させ、転移と同時に轟音が発生し太陽のごとき極光が全てを焼き尽くす。
幻魔はそこまでして攻撃の手を止め、全てが消え去るのを待つ。
そして、極光が消え、竜巻も霧散すると、中から奴が出てくる。
「ゲホッゲホッ!!ったく、なんだよ。体内にも送るとかひっどいなぁ……危うく焼き殺されるところだったじゃんか。もし死んじゃったらどうしてくれるんだよ?」
「人を虫けらと呼びやってもいいと言った愚者に送る慈悲などありませんので」
「……気に入らないな」
「…………」
「あぁ、気に入らねぇ。その喋り方が特に気に入らねぇな。本当の自分をどこに捨てた?さっさと取って来いよ。それに、お前の戦い方も気に入らねぇ。俺に本気を出さずに勝てると思うなよ?」
「…………」
言われて幻魔は考える。が、結論を即座に出すと、幻魔は肩の力を抜き、どこからかシルクハットを取り出すと、こういう。
「あぁ、分かった。貴様の挑発に乗る事にする」
雰囲気が変わる。執事である幻魔は今は居ない。ここに居るのは――――
「さぁさぁ
狂気的な笑みを浮かべながら夥しいほどのナイフとカードを取り出してばら撒く幻魔。
「アハハハハハッッ!!そうだよ、それだ!!それこそがお前の本性なんだな!!良いね良いね!!俺好みの壊れ具合だ!アハハハハッ!!最っ高だ!!最高だよ黒焔幻魔!!俺はそんなお前を『ぶっ壊す』!!」
こちらも口が裂けそうなほどに恐ろしい笑みを浮かべて幻魔へと走り出すのだった。
「全く。急に襲撃してくるんじゃないわよ。馬鹿が」
城の中で誰かがそう呟き、今この場で自分がしなくてはいけない事を考え始めるのだった。