東方変幻録   作:大神 龍

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第十八話

 少女に『雪花』という名前を付けた後、それを屋敷の全員に報告すると、全員から雪花に祝福の言葉を貰い、それが原因か、その後からずっと雪花はだらしなく頬を緩ませて仕事をしていた。

 

 別に仕事自体に支障はないのでどうという事は無いのだが、なんというか、こういう時に限って変な事が起こりそうな気がする幻魔なのだった。

 

 もちろん、それが予感だけで終わることなどある訳も無く、『ソレ』はやってくる。

 

 

 * * *

 

 

 『ソレ』が来たのは真夜中。幻魔が美鈴の様子を見に行った時の事だった。

 

 幻魔が門から出て美鈴の様子を見ると、彼女は寝ていた。

 

「美鈴、起きてください」

 

「んぇ…?あ、幻魔さん。おはようございます」

 

「おはようございます。後、寝るなら自室でお願いします」

 

「す、すいません」

 

 しっかりしてくださいよ?と幻魔が言ったあたりで、二人はほぼ同時に屋敷とは反対の方向を向く。

 

 そこには人影が二人分。

 

 一人は赤色の長髪で、赤い(ふち)のメガネをかけており、服装は赤い上着とその下に執事服。

 

 もう一人は七三分けされた黒髪に黒い縁のメガネ。服装は執事服。

 

 赤髪の方は手にチェーンソーを。黒髪の方は高枝伐りバサミを持っていた。

 

 その二人の気配は尋常ではなく、美鈴では手も足も出そうにない。

 

「…美鈴。急いで中へと入り彼らの事を知らせて来てください。もしかするとすでに知っているかもしれませんがね」

 

「わ、分かりました。幻魔さん。お気をつけて」

 

 美鈴はそれだけ言うと屋敷の中へと入って行く。

 

 その間に幻魔は武器の量を確認する。

 

「(さて、カードだけで撃退出来るだろうか…一応ナイフも持ってはいるが、圧倒的に本数不足。でもやるしかないか)」

 

 臨戦態勢を取りつつ幻魔は彼らが来るのを待つ。

 

「あなた方は何者でしょうか?」

 

 声が届く範囲に入ると同時に幻魔は聞く。が、彼らは答えない。それが余計に不安を煽る。

 

 と、そこで幻魔は気付いた。

 

 彼らの瞳に光が無い事に。

 

 直後の事だった。赤髪がチェーンソーを振りかざし幻魔に切りかかる。

 

 幻魔は咄嗟にカードを地面に投げつけ磁力を発生させる。

 

 だが、彼の動きは一瞬たりとも止まる事無く幻魔の元へと届く。

 

 が、もちろん容易くやられる幻魔ではない。

 

 即座に懐のナイフを手元に転移させチェーンソーを側面から叩き横へと逸らすと、カウンターの様に左拳を握り彼の腹部に叩き込む。

 

 ズドッ!と音がして赤髪の動きが止まり、幻魔が追撃を仕掛けようとした瞬間背後に現れた殺気に反応し急いでその場に伏せる。

 

 すると、頭上スレスレの所を高枝バサミが通る。

 

 直後幻魔は背後に足払いをかけるが、読まれていたのか回避され、上から突き刺すように高枝バサミが振るわれる。

 

 このままでは不利だと悟ると、幻魔は赤髪の背後に転移し左手に三枚のカードを持ち一枚を上空へ、二枚を彼らに一枚ずつ投げつける。

 

 彼らに投げつけた二枚のカードはブワッ!と突風を発生させ、大量の粉を生み出す。そして、直後上空から落ちてくる雷。

 

 ズダァンッ!という音と共に爆発が起こり、彼らを飲み込む。

 

 幻魔は寸前でその場からカードを二枚投げた後に逃げ出したため飲み込まれることは無く、傷一つ負っていない。

 

 直後、爆発の煙を巻き上げるように竜巻が発生し、数瞬の間にその竜巻は紅蓮に染まり熱風で辺りの気温を急激に上げて行き、皮膚をチリチリと焼く。

 

「(これでどれほどダメージを与えられるか…無傷なら少し不味いな)」

 

 幻魔は考えるが、煙が晴れるまで答えは出ない。

 

 瞬間キラリと光るモノを見たと思った時には眼前に迫る高速で回転する鎖の刃。

 

 ほぼ反射で幻魔は上体を反り、認識すると同時に赤髪の上空に転移するとナイフを赤髪の足元に突き刺す。

 

 直後ナイフの柄から生み出される鎖。それは赤髪を行動不能にさせるほど強大な力で抑えつける。

 

 幻魔は地面に着地すると同時に彼からチェーンソーを奪い取り背後に切りかかる。

 

 飛び散る火花。チェーンソーで高枝バサミを弾いたのだ。

 

 瞬時に幻魔はチェーンソーを投げ捨て手元にナイフを転移させ黒髪の懐に潜り込むと、心臓目掛けて感知する隙すら与えずナイフを突き立てる。

 

 ズドッ!という鈍い音と共に彼の身体を貫くと、ナイフは茨に姿を変え黒髪を完全に拘束する。

 

「see you next time」

 

 幻魔がそう言うと同時に鎖と茨はそれぞれが飛び出したナイフへととてつもない力と勢いで戻り、それに縛られていた二人はバラバラに解体される。

 

「……誰がこんな『肉人形』を作ったんだ…?」

 

 だが、幻魔の疑問に答える者はおらず、幻魔が倒した『彼ら』は灰に変わり風に吹かれて消えていく。

 

「――――幻魔さーん!大丈夫ですかー!」

 

 城の中から美鈴が叫びながら走ってくる。それを見て、幻魔は取りあえず考えるのをやめる。

 

「美鈴。大丈夫ですよ。もう終わりましたので」

 

「うぇ!?もうですか!?」

 

「えぇ。では、城内へ戻りましょうか。美鈴もですよ。今日はもう来ないでしょうから。それに、もし来たとしても問題ないように仕掛けはしておきますので」

 

「わ、分かりました…?」

 

 美鈴に反論させる隙を見せずに城の中に入って行く。

 

 そして、扉が完全に閉まる寸前、幻魔は鋭い目つきで『彼ら』がいた場所を睨むのだった。


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