東方変幻録   作:大神 龍

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第十七話

「幻魔さん!そろそろ私に名前を付けてください!!」

 

 そう少女に言われたのはイーラを地下から引きずり出した翌日の事。

 

 戦闘訓練が終わり、休憩している最中に言われ、幻魔は少し考える。

 

「そう言われても……思いつかないんですよ」

 

「うぅ……何時になったら私に名前が出来るんですかぁ…?」

 

 少女は涙目でそう言うが、思いつかないのは仕方ない。

 

「…今日中に考えておきます。夜に暇があったら私の部屋に来なさい。たぶんその頃には思いついてますから。ほら、休憩は終わりにして掃除に行きますよ」

 

「はい!分かりました!」

 

 幻魔の一言で先ほどまで落ち込んでいたのが嘘の様にパァッ!と輝くような笑みを浮かべ、彼女はパタパタと屋敷の中へと入って行く。

 

 それを見送りながら幻魔は考える。

 

「(誰かに助けを頼みましょうか…)」

 

 思いついたら取りあえずやってみる。そう決めると幻魔は能力を使いまずはクレアの所へと向かうのだった。

 

 

 * * *

 

 

「ふぅん?それで私の所に来たのね」

 

 クレアに言われ、「はい」と答える幻魔。

 

「なるほどねぇ…でも、それって確かプレジール様があなたに命令してたものよね?それに私が助言するのはねぇ…?」

 

「それはそうなんですが……やはり自分で考えないとダメですよね……」

 

「そりゃそうでしょう?命令されたのは幻魔なんだから」

 

「だとしても助言くらいは良いと思うんですけどね」

 

 目に見えて落ち込んでいると分かる幻魔を見て、クレアは笑いながら、

 

「ま、頑張りなさい。別に捻る必要なんてないわ。貴方が付けるだけでプレジール様も彼女も喜ぶわよ」

 

「そんなものでしょうか」

 

「えぇ、そんなものよ。ほら、ここで休んでないでばれない内に掃除してらっしゃい」

 

「…そうですね。行ってきます」

 

 幻魔はそう言うと能力を使い出て行く。

 

「全く。名前を付ける苦労は分かるけど、人の意見を聞いてそれにするのは何か違うでしょうに」

 

 

 * * *

 

 

 掃除場所に行くと、少女が妙に気合いの入った表情で掃除用具を用意して幻魔を待っていた。

 

「すいません。遅れてしまいましたね」

 

「あ!幻魔さん!用事は終わったんですか?」

 

「えぇ、終わりました。さて、今日は少し遊びながら掃除をしましょうか。と言っても、修行と言った方が良いかもしれませんが」

 

「なにをするんです?」

 

 少女の疑問に、幻魔は右手を広げ、その上に可視化させた風を生み出す。

 

「コレを貴方の能力で威力を抑えて軌道も操って埃を集めてもらいます」

 

 かなり高度な技術を必要とすることをさらりと言う幻魔。それに対し少女は笑顔のまま固まり、

 

「そ、それはいくらなんでも難しくないですか…?というか、やった事ありませんよ…?」

 

「大丈夫です。貴方ならできますよ。それに、もしミスをしても私がどうにかしますので問題ありません」

 

「げ、幻魔さんがそう言うならやってみます」

 

 少女は不安そうな表情をし、だがやる気の籠った目をして幻魔が生み出した風を操る。

 

 最初は操作が上手くいかず壁などに当たり霧散しかけるが、しばらくすると慣れて来たのか壁に正面からぶつかる事は減り、逆に壁に沿うように風を動かし埃を一か所に集める。

 

「ふむ。良く出来ました。おめでとうございます」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 笑顔でそう言う少女。それを見て幻魔も笑みを浮かべ、

 

「さぁ、この調子で手早く掃除をしていきましょうか」

 

「はい!」

 

 二人はそう言って屋敷内を掃除し始める。

 

 

 * * *

 

 

 掃除が終わり、次は能力操作の訓練。

 

「さて。今日は温度を操ってみましょうか。おそらく出来るはずです」

 

「はい!」

 

 今更ながら、拾った時とは雰囲気がほぼ真逆になったな。と思う幻魔。

 

「では、このバケツに水が入っていますので、これを氷にしてください」

 

「頑張ります!」

 

 元気の良い返事を聞き、今日は何時にも増して元気なように感じる。

 

 そして、少女は右手の人差し指を水に付け、凍るように念じる。

 

 すると、バケツの外側にじんわりと水が付いていき、バケツの中の水の水温が徐々に下がって行っているのが分かる。

 

 そのまま数分が経ち、今度は水がバケツに接している部分から凍り始める。ただ、あまりにもゆっくりと凍るため、幻魔は見ていて、今の所実用性は無いと判断する。

 

 結局、全て凍るまで、始めてから20分掛かった。現代の普通の冷蔵庫を使い作るよりは遥かに速いが、その間彼女が動けなくなるのは意味が無いので先ほど言った様に実用性は無い。というよりも、自分がやった方が遥かに早かった。

 

「で、出来ました!」

 

「良く出来ました。お疲れ様です」

 

「それで、水を凍らせてる最中に思ったことがあるので、試してみても良いですか?」

 

「―――えぇ、もちろんいいですよ」

 

 目を輝かせながら聞いて来る彼女に驚きながら、幻魔は許可を出す。

 

 すると、彼女は両手を前にかざし、目を閉じて強く念じる。

 

 最初は何も起きなかったが、だんだんと彼女の手の前に白い何かが生まれ始める。それは柔らかそうな雰囲気で、気のせいか、気温が先ほどより少し下がったように感じる。

 

「(と、言う事は、アレはたぶん――――)」

 

 幻魔は正体に気付くが、声には出さず、黙って見続ける。

 

 しばらくし、白い何かがその両手に収まり切らなくなった時、彼女はソレを上空へと投げる。

 

 ソレはある程度の高さへと登ると、パンッ!と弾けて辺りにフワフワと落ちてくる白いモノ。それは幻魔の身体に当たり、スッ…と溶ける。

 

「…雪ですか」

 

「そうです!それで、どうですか?」

 

 少女に問われるが、幻魔はそれを聞いておらず、雪と彼女に見とれており、ふと、名前を思い付く。

 

「雪花…」

 

「え?」

 

 思わず彼女は聞き返す。

 

 それを聞き、幻魔はもう一度、だが先ほどと違いハッキリと。

 

雪花(せっか)。貴方の名前はこれでも良いですか?」

 

 彼女はその言葉を聞き、そして、理解すると同時に涙を流し、

 

「やったぁぁぁあ!幻魔さんが名前をくれたああぁぁぁぁ!!」

 

 狂喜乱舞する少女を見て、幻魔は思わず頬が緩んでしまうのだった。


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