東方変幻録   作:大神 龍

11 / 67
第十一話

 ふと、目を覚ます。

 

 目の前に広がっているのは赤い天井。此処はどこだろうか。私は確かいつものように地下牢で倒れるように眠ったはず。

 

 しかし、その記憶とは裏腹に今自分は柔らかいベッドの上に暖かい毛布を掛けられていた。

 

 今までのは夢だったのだろうか。首を左に動かすと、壁も紅かった。右に動かした時、男性が椅子に座っていることが分かった。右手に持っている本を読んで自分の近くに椅子を持ってきて読んでいる。私を介抱してくれていたのだろうか。

 

 そして、やっと気付く。ここは自分の知っている場所じゃないという事に。

 

 そもそも彼女に家なんて無い。孤児だったのを運悪く吸血鬼に捕まえられただけ。そして、教育なども受けて無いに等しいから分かる事も少なかった。

 

「ん。起きましたか。言葉は分かります?」

 

 彼は少女に気付くと本を閉じ立ち上がる。立ち上がった時に本が消えたように見えたのは気のせいだろうか?

 

「……少し、だけなら」

 

「そうですか。じゃあそれも含めてこれから教えて行かないとですね……名前はありますか?」

 

「名前……無い。私は、誰?」

 

「そうですか……名無しという事は親を早々に殺されたか捨てられた所を奴らに捕まえられえたか……いえ、今考えるのはやめた方が良いですね。動けますか?」

 

「……たぶん、歩けると思うけど……」

 

「じゃあ立ってみましょうか。無理はしないでくださいね」

 

 彼は笑顔で彼女の手を取る。少女はベッドから床に足を付けて立ち上がる。が、すぐによろけて再びベッドに座り込んでしまう。

 

「あらら。これは無理そうですね……」

 

「……ごめんなさい」

 

 彼が呟くと少女が俯いてそう言う。

 

「どうして謝るんです?別にあなたは何も悪い事をしてないでしょう?」

 

「叩かれると、思ったから…」

 

 あぁ、と彼は呟き納得する。おそらくあの吸血鬼達はこの少女に暴行をし続けていたのだ。いや、それは分かっていた事だな。と彼は自分の思考を完結させると、少女の頭を撫でてから、

 

「私達は貴方に暴力は振るわないので安心してください。大丈夫。ゆっくりでいいんです。自分で立てますか?」

 

「……頑張ってみる」

 

 少女はもう一度足に力を入れて立ち上がる。が、やはり力が足りないのかプルプルと震えていた。

 

 そして、結局力が足りず彼に倒れ込む。彼は倒れてきた少女を優しく抱き留め、

 

「やっぱりもう少し歩くのには時間がかかりそうですね。まぁまずは主に会う方が先でしょうか。私的には食事を先にしたいのですが……そうはいきませんよね」

 

 彼がそう言った時、部屋の扉が開き、

 

「幻魔~。あの子起きた~?そろそろプレジールさんが暇を持てあ――――あれ?もう起きてるじゃない。どうしてもっと早く来ないのよ」

 

 女性が入って来て彼に聞く。彼は苦笑いをしながら、

 

「今さっき起きたばかりですよ?それに、状況を理解出来てないのにいきなり連れて行く訳にもいかないでしょう?もう少し待っていて下さいって」

 

「それを私に言われてもねぇ……とにかく、出来るだけ早く来てね。そろそろプレジール様が威厳を無くしそうだから」

 

「え、もうですか?」

 

「貴方が来てからここまでずっと気張ってたんだから仕方ないわよ。じゃあ先に行ってるからね」

 

「分かりました」

 

 それだけ言うと女性は出て行ってしまった。

 

「さて、私達も行きましょうか。少し失礼しますね」

 

 そういうと、彼は少女の事を抱え上げる。お姫様抱っこと言われる格好で。

 

「若干酔いますが頑張ってくださいね」

 

 笑顔で彼がそう言うと、一瞬にして景色が変わる。その瞬間、体中をかき回されるような不快感が少女を襲う。

 

「う…っ!?」

 

「あ、やっぱり駄目でしたか…!?すいません。もう少し配慮するべきでしたね」

 

 少女は数秒間口を押えるが、急に吐き気が消えた。

 

「あ、れ?治った?」

 

「え?」

 

 そう言う彼の右手にはカードが一枚あった。

 

「あぁ、治ったんですか?ならこれは無用でしたね」

 

 彼がそう言って右手を軽く振ると、カードが消える。

 

 そして、彼はいつの間にか目の前に在った扉をノックすると、

 

「ご主人様。入ってもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、入っていいぞ」

 

 声が聞こえると彼は扉を開ける。

 

 その先には一人の男が広大な部屋にポツンと置かれた豪華な椅子に座っていた。

 

「どうやら、あの少女は起きたようだな」

 

「はい。それで、彼女の現状ですが、歩くこともままなりません。おそらく長年歩いてなかったのが原因でしょう。それと、言葉も拙いので教育もそこまで受けていなかったものと思えます。ただ、それでもある程度は他の人物から読み取れるとは思うのですが……それもあまりなかったようで、おそらく幽閉されていたのでしょう」

 

「なるほど……なら、幻魔。お前に教育を任せても良いか?代わりにその少女の世話以外の仕事を全て免除するが」

 

「主の命令とあらば。ですが、よろしいのですか?それだとメイド長に多くの負担が掛かると予想されますが」

 

「大丈夫だ。それくらいあいつならこなせる。なんせいつも仕事を終わらせてすぐに部屋に戻って手芸をしてるくらいだからな」

 

「そうですか……では、私は彼女の教育に専念させていただきますね」

 

「あぁ、頑張ってくれ。下がって良いぞ」

 

「はい」

 

 彼がそう言うと再び瞬時に景色が変わる。今度は先ほどの様に吐き気はしなかった。

 

 周りを見渡すと、たくさんの本があった。図書館なのだろう。

 

「さて。これから貴方にはここで働くために色々と覚えていただきます。よろしいですか?」

 

 その言葉を拒否する事は出来ないと分かっていて彼は聞く。顔に満面の笑みを浮かべて。

 

 なので、私はこう答える。

 

 

 

 

 

「よろしくお願いします」




 今回人名が会話文以外で出て来ないんだぜ?信じられないだろう?(`・ω・´)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。