あとがき
皆様こんにちは、ファルクラムでございます。
この度は長きにわたり、拙作「蒼海のRequiem」にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
太平洋戦争を扱った作品を書いてみたい、と言う想いはだいぶ昔からあったのですが、なかなか思った通りのものが書けず、今日までズルズルと引き延ばしにしてきたのですが、このほどようやく、書き終える事が出来ました。
これもひとえに、応援してくださった皆様のおかげと考えております。本当に、ありがとうございました。
今だから言いますが、実のところ私、「艦隊これくしょん」と言うジャンルに、初めから興味があった訳ではありません。
過去に存在した帝国海軍の軍艦を擬人化、美少女化する、と言うのがちょっと受け入れがたい物があったからです。
そう言うジャンルが嫌いな訳ではないのですが、船好きの私の中では「船は船の形をしていてもらいたい」と言う思いがあった為です。そう言う意味では、船に魂が宿っていると言う設定の「艦魂」物の方にむしろ興味がありました。
しかし、このハーメルンで色々な「艦これ」二次を読み進めていくうちに、幾人かの方が、艦娘を艦魂(メンタルモデル)として扱っている作品を書かれている事を知り、「なるほど、これなら良いかも」と思い、書き始めるに至りました。
それに伴い、提督側の方も低年齢化させ、釣り合いが取れるようにしました。第二次大戦物の小説を書こうと思い立った際、提督と言う存在はどうしても、50代くらいの人間になってしまう事が、私の中でどうしてもネックとなっていたので。
年齢差のあるカップル、と言うのも割と良いかも、とは思っているのですが、そればかりになってしまうのは、どう考えても面白くなかったので。
では、若干ながら、この場を借りて作品の解説をしていきたいと思います。
1 ストーリー
バットエンドを書きたい、と言うのは前々から考えていた事です。
内容的には戦争に味方が敗れ、主人公は何もかもを失う、と言う形に最終的に持って行く、と言う物です。
判官贔屓、と言う言葉が日本にはありますが、負けている方、不利な方、虐げられている方に肩入れしたくなる、と言うあれですが、私も実は、判官贔屓的な話が好きだったりします。
勝者よりも敗者の方にこそドラマは多い、と言うのは個人的な考えでありますが、負けている側はそれこそ、減る一方の味方陣営の中で、どうにか体勢を立て直そうと躍起になり、当然ながら主人公の果たさなくてはならない役割や責任は増えていくわけですから、そこに多くのドラマが生まれる事になります。
とは言え、主人公たちがグダグダな失敗を続け、阿呆みたいに敗北を重ねて負ける、と言うのでは、正直、話にならない。と言うか、そんな物はそもそも書きたくない(苦笑
主人公たちは頑張る。強敵相手に戦い、打ち破り、何とか勝利を得る。
しかし、相手の方が基礎体力と回復力の面で勝っているから、気が付いたら逆転されている。
おまけに主人公以外の味方は盛大に足を引っ張ってくれる。
結果的に主人公たちの活躍も差し引きでマイナスになり、局地的には勝てても、全体的には追い詰められていく、と言った感じです。
「勝っている筈なのに、いつの間にか負けている」「勝てば勝つ程、状況は苦しくなっていく」と言うのが、本作品のテーマの1つでした。
ヒロインを巡洋戦艦にして、主人公は彼女の提督であり艦長でもある。と言う風にしたのは、個人的にドイツ海軍の「シャルンホルスト」が好きだからだったりします。
帝国海軍にシャルンホルストと同様な使われ方をする艦があったらどうなっていたか、と言うのを考えた結果、こんな感じになりました。
「太平洋戦線で、水上艦艇が通商破壊戦を行うのは難しい」と言うのはよく聞きますが、そこら辺はバッサリと無視しましたが(爆
原爆については、当初は落とさない方針でした。その場合、北海道戦で話は終了、エンディングに持って行く予定でした。
しかし、ここまで書いてきた結果、ラスボスが弱小のソ連海軍では、いかにも味気ないと感じ、急遽、変更した次第です。
原爆と言う、ある意味「究極の敵」を用意し、これを打ち破る為、最後の戦いに赴く、と言う形にしてみました。
とは言え当時、原爆の威力について知っているのは、開発に携わった人間等、本当に僅かだった筈。
そこに来て、「原爆を阻止する」などと言う大義名分を掲げたところで、現実味が皆無なのは目に見えていました。
そこでまず原爆を落として見せ、作品内のキャラ達に原爆の危険性を認識させたうえで、最終決戦に持って行く、と言う形にした次第です。
2 主人公・ヒロイン
○彰人・姫神組
言うまでも無く、メインの主人公コンビです。
彰人に求めた役割は当初、「参謀型主人公」だったのですが、参謀と言うのは作戦立案には携われる反面、戦闘中は意外とやる事が無い。
これではメインの主人公としては聊か以上に力不足は否めなかったので、「司令官兼艦長」で、参謀としての能力も高い、と言う、ある意味、作中で最も訳の分からないキャラになってしまいました。まあ、そのおかげで、どんなシーンにでも隙無く出せたのですが。
姫神の方は史実には無い架空の艦ですが、存在的にはドイツのシャルンホルスト、シルエット的にはフランスのダンケルク、立ち位置的には日本の超甲巡をモチーフにして作りました。
初めは兄妹みたいだった2人が、やがて惹かれあい、そして結ばれる、と言う過程を書いてみました。
○宇垣・大和組
当初から「提督としての主人公」として考えていたのが宇垣です。
大和は昔から好きな船だったので、第2のヒロインにするなら絶対彼女にする、と言うう風に決めておりました。
その上で、主人公を誰にするかと考えた場合、史実において最も大和に関わりがあった提督が良いと思い、宇垣に白羽の矢が立ちました。
宇垣護のモチーフにした宇垣纏海軍中将は、ある意味、大和型戦艦に最も関係が深かった将官であると言えます。連合艦隊参謀長として山本五十六に付き従い、当時の連合艦隊旗艦だった大和や武蔵に乗り込み、戦争後半は第1戦隊司令官として、彼女達を指揮下に収めていました。
特に宇垣提督は、大和に思い入れがあったのでは、と思っています。その理由としては、第1戦隊司令官時代、旗艦能力に優れている武蔵では無く、一貫して大和に将旗を置き続けたからです。
宇垣自身、日記の中で「大和に比べ、武蔵の方が色々と改善されている」と書いているが、それでも大和を旗艦にしている所を見ると、大和に対して強い愛着があったのでは、と想像する事ができる。
軍人としての賛否を見た場合、否定的評価の多い宇垣(賛成的意見もあるにはある)ですが、大和をヒロインにする場合、彼以外に相手役はいないと考え起用に至りました。
○直哉・飛龍/蒼龍組
どうしても1人は「パイロットとしての主人公」が欲しかったので、直哉と言うキャラを作りました。
ミッドウェーで飛龍を失い、失意に沈んでいる直哉を、蒼龍が献身的に支え、やがて互いに惹かれていく、と言う形にしてみました。ちょっと、背徳的な感じを出してみたかったので。
しかしおかげで直哉は、大切な人を守れず、失い続けると言う、ある意味、主人公3人の中で最も不幸なキャラになってしまいました。
当初の予定では、蒼龍が沈むと同時に直哉も死ぬ、と言う形にしようかと思っていたのですが、ラストは原爆と言う巨大な敵を打ち破り、力尽きたところで、飛龍と蒼龍の魂が迎えに来る、と言う形にしたかったので変更しました。
3 アンチキャラ
私はよく、作品に「アンチキャラ」と言う物を投入します。所謂「アンチヘイト物」は嫌いなのですが、アンチキャラは、物語を盛り上げる一要因として、非常に重宝しています。
敢えて主人公とは逆の行動をさせ、主人公の行動を妨害し、あるいは敵対するキャラとして書く事で、より主人公たちの行動を際立たせ、両者の対決まで至るプロセスを楽しむと同時に、最終的な対決において主人公に勝たせる事で大きなカタルシスを得られるから、と考えています。
今回のアンチキャラは「黒鳥陽介」。タイプは、敢えて言えば、そのまま「参謀型」でしょうか。
彰人とは別の作戦を常に常に提示し続ける存在。
たとえ自分の作戦が破たんしても、また別の作戦を提示し、主人公たちの邪魔をして、危険な前線に送り込み続ける男として描きました。
かなり息の長いキャラになりましたが、ラストまで思った通りに書けて満足でした。
4 最後に
さて、これで長年の夢であった、第二次大戦物を書き上げる事が出来ました。
正直、私の中では、ネタはもう、一欠けらも残っていない状態です。たいていの場合、書いている内に「あれもやりたい、これもやりたい」とアイデアが湧き続け、結局全てを入れる事ができず、残ったネタは次回作以降に持ち越し、と言うパターンが常なのですが、この「蒼海のRequiem」に限って言えば、本当に、書きたかったことを書き尽くした、と言う作品です。そう言う意味では、大変満足のいく作品にできました。
もし、また海軍ネタで書くとしたら、今度は深海棲艦も出して本当の艦これ物(ただし、やっぱりメンタルモデル方式)にするかもしれません。あるいは、「姫神」の設定だけ持って、「アルペジオ」や「鋼鉄の咆哮」に移植する、と言うのも面白いかもしれません。
まあ、いずれにしても、今すぐに書き始める事は無理なのですが。
さて、
名残は惜しいですが、そろそろ終わりが近付いてまいりました。
最後に、ここまでお付き合いいただいた、全ての読者の方々に、最大限の感謝をお送りいたします。
本当に、ありがとうございました。
またどこか別のジャンルでお会いする機会がありましたなら、その時は宜しくお願い致します。
では。
最終話「終わり無きレクイエムの果てに」
「それでは、行ってまいります」
少女は静かな声で家族にそう告げると、家の玄関を潜る。
門をくぐると、春の穏やかな風が、少女の髪とスカートを揺らしていく。
温かく降り注ぐ日差しの心地よさに、少女は思わず、クーッと目を細めた。
20XX年。
徐々に上がり続ける海面が国際的な問題として取り立たされる中、世界はいくつかの小規模な紛争を抱えつつも、一応は平穏の中にあり続けていた。
あの哀しい戦争は、既に遠く過去の物となり、歴史の1ページを飾る存在となっていた。
その間、歴史を揺るがす大きな事件がいくつかあった。
特に大きなものと言えば、やはりソ連の崩壊だろう。
かつては共産主義国の代表であり、自由主義陣営代表であるアメリカ合衆国と共に世界を二分し覇権を争った大国は、相次ぐ経済破綻により崩壊、かつての旧国名である「ロシア」に戻っていた。
帝国は未だに、存続を続けていた。
もっとも、天皇制度こそ残っているものの、華族制度の廃止や財閥の自主的な解体が行われ、「帝国」と言う名前は、既に形骸化しつつあるのだが。
しかしそれでも、帝国は自由主義陣営の有力な一角として、尚も極東を虎視眈々と狙う朝鮮や中国との対峙を続けていた。
だが、
そんな中にあっても、日々の生活の中で安らぎを感じている者達は存在していた。
とある家では、妻が出勤する夫を、玄関先まで見送りに来ていた。
長い髪をポニーテールに結った妻の清楚な出で立ちは気品すら感じさせ、どこか両家のお嬢様と言った印象を、見る者に与える。
「はいどうぞ、鞄ですよ。忘れ物はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ」
問いかける妻に、男は短く答える。どうやら、余計な事は、あまり言わないタイプの人間であるようだ。
それにしても、
夫の方は、妻よりも一回りは年上に見える。結構な歳の差カップルのようだった。
そんな美しい妻に、夫は視線を向ける。
「どうしました?」
「いや・・・・・・・・・・・・」
不思議そうに尋ねる妻に対し、夫はややバツが悪そうに視線を逸らす。
「君と結婚してから、会社の奴等に絡まれる事が多くてな。どうも奴等、俺の結婚相手が、君のような若い娘だった事をやっかんでいるみたいでな」
つい、愚痴めいた言葉を口にしてしまう。
実際のところ会社の同僚たちは、若い妻を娶った男をからかいつつも祝福しているのだが、そこにやっかみが全く無いとは、流石に言えるはずも無かった。
そんな夫の言葉に対し、妻は少し不安そうになり、オズオズと尋ねる。
「もしかして、後悔しています? 私と結婚した事・・・・・・・・・・・・」
そんな妻の様子に、
夫はフッと笑みを浮かべる。
「まさか、そんな筈ないだろ。君を会社に連れて行って、連中に自慢してやりたいくらいだよ」
そう言って、妻の体をそっと抱き寄せる。
「じゃあ、行ってくるよ。それと、あまり無茶はしないように。もう、君1人の体ではないんだから」
「はい。判っています」
そう言うと妻は、微笑みながら夫を見送る。
そのお腹の中には今、新たなる命が宿っていた。
随分と羨ましい光景だった。
何しろ、その男子生徒は、両手にそれぞれ、可愛らしい少女達を抱えているのだから。
少年と同じ学校のセーラー服に身を包んだ少女達。
2人の少女の胸が少年の腕に押し付けられ、何とも好ましい感触が伝わってきていた。
「ちょっと、今日はあたしとデートに行く約束でしょ」
「だって、この前の時は、急に雨が降って途中で中止になっちゃったし」
髪の短い少女の方は活発的な調子で言い募る一方、長い髪をツインテールに纏めた少女は控えめながら、しかし断固として譲る気は無いとばかりに、少年の腕をしっかりと握ってくる。
そんな状況に、嘆息する少年。
まったく。
普段はとても仲がいい2人なのに、どうして少年自身の事になると、こうも言い争いになるのか。
「あたしよね!?」
「私ですよね!?」
尚も言い募る2人。
そんな少女達に対し、
「あのさ・・・・・・・・・・・・」
少年は、オズオズと言った感じに提案した。
「いっそ、3人で行くってのは?」
少年のその言葉に、少女達は一瞬、ポカンとする。
そして次の瞬間、
「「うんッ!!」」
少女達は嬉しそうに同時に頷くと、揃って少年に抱きついた。
少女は、廊下を歩いていた。
この時間、学校にはまだ、殆ど人がいない。
ここは帝国海軍が経営する学校施設。
将来の国防を担う若き有志たちが、日夜訓練に励み、いずれは海に出る日を待ち望む、夢の揺り籠である。
少女は、ここの学生だった。
この学校は士官候補生のみでなく、艦娘も入学する事ができる。
かつての戦争で哀しい事を経験した海軍は、士官候補生だけでは無く、艦娘にも思想教育は必要と考え、竣工したての艦娘は、必ずこの学校で士官候補生たちと机を並べて教育を受ける事が義務化されていた。
ここでは、皆が平等である。
候補生も艦娘も皆等しく、同じ授業を受け、共に学んでいた。
廊下を歩く少女。
この時間、あの場所に行けば、あの人がいる事は判っている。
歩く足は、急ぎ足になり、いつしか走りだしていた。
こんなところを教官に見られでもしたら、罰走をさせられる事になりかねない。
だが、そんな事は関係無いと思える程に、少女の気は逸っていた。
やがて、目的の場所に着く。
深呼吸を繰り返して上がった息を整えると、静かに扉を開ける。
ずらりと棚に並んだ本の数々。
図書室の中は、静寂に包まれていた。
その図書室の奥。
閲覧コーナーの机に、
彼はいた。
借りてきた本を、読みふける少年。彼がいつも毎朝、授業開始前にここにきて読書にふけっている事は判っていた。
少女はそっと、足音を殺して近付く。
対して、少年の方でも気配に気づいたのだろう。本から顔を上げてこちらを見る。
少女の姿を見た少年は、ニッコリと微笑む。
対して、少女もまた、つられるように笑顔を浮かべる。
「おはようございます、先輩」
囁くように告げられる、少女の挨拶。
それに対し、少年も嬉しそうに笑顔で答えた。
「うん、おはよう。ヒメカミ」
温かい、春の日差しが降り注ぐ、平和なひと時の風景だった。
最終話「終わり無きレクイエムの果てに」 終わり
蒼海のRequiem 完
ご愛読、ありがとうございました。
2016年5月21日 ファルクラム