ペルソナカグラ FESTIVAL VERSUS -少年少女達の真実-   作:ゆめうつつ

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前回のあとがき通り、VS葛城戦です。もしくは、葛城コミュ回です。
バトルマニアな彼女なら、理とのコミュはド突き愛になるのではないでしょうか(適当)。
まあ、それだけではつまらないので、そのうちちゃんと普通の交流も書きます。意外と乙女チックらしいですし。


9話 求む!強い奴!

最早何合目になるのだろう――――

 

二人の少年少女の身体と身体、技と技。

打ち合わされる肉体が鳴らす轟音は、訓練場である体育館内に響き渡る。

肉を裂き、骨が軋み、全身を痛みによって支配される。

しかしそれこそが、少女――葛城の血を湧かせ、魂を震わせる――――

 

(そうだ、此れこそがアタイが求めてやまないモノだ)

 

対峙する少年――理は一瞬だけ身を屈めると、まるで爆発したかのような瞬発で葛城に肉薄する。

無論、技量で勝る彼女に真正面から突っ込む愚を犯したわけではない。カウンターで振るわれた旋風脚を、当たる寸前で突っ込んだ速度と同じままに後退し、回避する。

すぐさまサイドステップによって葛城の振るわれた脚の側――今の彼女の死角だ――に回り、攻撃を行う。

対人戦の経験がほぼない理ではあるが、人体の構造などは理解しており、それによって導き出される急所部位なども把握している。

今回彼が狙ったのは、内臓へとダメージを通しやすい脇腹であった。そして、彼の足が的確に、彼女へと振るわれる。

だが――――

 

「疾ッ!」

「――っ」

 

信じられない速度で引き戻された彼女の脚が、彼の蹴りを受け止め、そのまま拮抗状態に入る。

此れでまたしても、何合目かの打ち合いだ。それがまた彼女を悦にさせる。

 

単なる訓練では得られない達成感。

格下を打ち倒しただけでは得られない満足感。

自分が確かに強くなっているという充実感。

 

強者との手合せの、何と甘美なることか。

 

(ああ、堪らない――――)

 

そして、拮抗はいつまでも続かない。先に音を上げたのは、理の方であった。

 

「オラァッ!」

「くっ!」

 

打ち合わされたままであった脚に気合一閃、理はそのまま強く弾き飛ばされる。

――――否、彼は葛城の脚力が自身に伝わる寸前で軸足の力を緩め、彼女の力でワザと弾き飛ばされたのだ。

あのまま力を入れ続けていれば、自分の脚が折れていた故の判断であり、同時に葛城から距離を取るための回避行動であった。

しかし、葛城も馬鹿ではない。忍として理以上に戦いの年数を重ねているため、今、理が行った行動の真意を正しく理解しているのだ。

 

忍――――、そう、忍である。

忍として生まれ、忍として育ち、忍として生きる覚悟を持つ葛城は、当然その肉体や技量を鍛え上げている。

そのレベルは勿論理の上を行き、本来ならば彼が敵う道理も無いモノであった筈だ。

だが、其れが今、葛城と渡り合えているモノとなっているのは――――

 

(――――はッ! 良い勘をしている!)

 

例え筋力が低くとも、例え技術が叶わなくとも、例え戦いの年数が少なくとも。理の中に在る、十年もの間ほぼ毎日行ってきたシャドウとの戦闘――――、殺し合いの経験。

その経験は、忍という闇に生きる彼女たちのソレを、遥かに上回る。

彼の戦場では、常に『死』と隣り合わせにあった。それ故に、『死』に対する直感や脅威を感じ取る力は、この場の誰よりも優れていたのだ。

他者の敵意や殺意を感知し、攻撃を見抜く《心眼(しんがん)》。それこそが彼が持つスキルの一つなのであった。

 

故に、葛城は攻めあぐねていた。純粋な戦闘能力では、自身を10の値とすれば、理は3か4程度にしかならないと葛城は予測を立てている。

これは仮に彼が武器を持ったとしても、そうそうは縮まることの無い数値だ。なにより、彼は『能力』を使わずに戦っているのもある。

如何に俊敏な動きが出来る葛城であっても、ほぼノータイムで発動する炎の魔法を躱すことは難しい。其れを使われれば、恐らく負けるのは葛城であろう。

しかし、理は初めからこの手合せで『能力』を使わないと宣言している。理由は「アレを人間相手に使う気は無い」とのことであった。

 

「――――っと」

 

弾き飛ばされた理が、漸く地面に降り立つ。十数メートルも吹き飛んだ筈だが、その様子ではダメージも無い様だ。

理は今度は自分から動くようなことはせず、ファイティングポーズをとったままその場に鎮座している。その構えから、どうやら、葛城へのカウンターを狙っているようであった。

彼の素手での戦闘スタイルは、両手両足を使うキックボクシングを元に我流でアレンジしたものであり、やはりこれもシャドウとの戦闘経験で培われたものである。

 

「ははは! 上等だ、いくぜぇっ!」

 

喜色満面の笑みを浮かべた葛城は、その理に対抗する為、あえて正面から突っ込んでいく。

この試合を観戦していた飛鳥たちから見ても、葛城がわざと楽しむためにその行動をとったのだと理解できた。

理もそれは理解はしているのだろう。しかし、眉一つ動かさず、表情を変えることの無い彼は、努めて冷静に葛城への迎撃態勢をとっていた。

 

「オラァッ!」

「ふっ!」

 

突撃の勢いのままに繰り出された葛城の右足による踵落としと、迎撃した理の右拳が交錯する。

それはまるで柳に風を受けるかの如く、葛城の圧倒的な力を技術によって抑え込んでいた。

彼の身体は忍程に頑丈ではない為、正面から決して打ち合うことはなく、必ず往なすような動きで迎撃するのだ。

 

「だったら、これでどうだぁッ!」

 

葛城の右足に更なる力が籠められる。もしここで先程の様に、力を抜いて拮抗を緩めようものならば、次の瞬間には理は地面に叩き付けられるだろう。

文字通りの力技によって、下手な小技などで逃げられない様にしたのだ。それこそが、理の『技』すらも押さえつける、葛城の『力』であった。

だが、力押しというだけならば理にとっては想定内である。

葛城たちも後に知ることになるが、彼が闘ってきたシャドウの中には人間型かつ葛城以上のパワータイプの存在もあり、こうした場面も一度や二度ではない。

一方向、かつ地面へと向かうという力の受け流し方も、彼は心得ていた。

 

「ッ!」

「っ、があっ!?」

 

次の瞬間、葛城は突如として側頭部に激しい衝撃を感じると、先程の理を再現するかのように吹き飛ばされた。

脳震盪と身体を叩きつけられた痛みで意識を朦朧とさせるが、すぐさま回復すると、何が起こったのかを把握しようとする。

しかし、さっきまで自身と彼が立っていた位置には理が立っているだけであり、それだけでは推察が出来ない。

だが、観客である飛鳥たちからは何が起こったのかはハッキリと見えていた。

 

葛城が脚に力を籠め、理を押しつぶさんとしたまさにその瞬間、その力を受け流す様に、理はその場でくるりと一回転したのだ。

突如として理の腕という支えを失った葛城は、その場でたたらを踏み――実際に体育館の床を踏み抜いた――、一瞬彼の姿を見失う。

そして理は、回避の為の回転行動をそのままに、葛城の側頭部に上段回し蹴りを叩き込んだのだ。その様は、まさしく『柔よく剛を制す』という言葉に相応しいモノであった。

 

暫くは頭を抱え、自身に何が起こったのかを考察していた葛城であったが、いい加減頭を切り替え、攻勢に転じることにする。

これは彼女が現実逃避や考えるのをやめたという訳では無く、自身の感覚を信じ、それによって理の戦術を見抜こうという考えが有った。

元より葛城は理論派では無く、頭よりも身体を先に動かすタイプである。そして幸いにして、それこそがこの状況を打破する最適の策となっていたのだ。

 

「オラオラオラオラァッ!!!」

「――ぐッ、う!?」

 

改めて説明するまでも無いが、戦闘面での技術や経験、根本的な基礎能力などは葛城――否、忍メンバー全員が理に勝るのだ。

理が唯一優れているのは、シャドウとの戦闘による正真正銘の死地での戦闘経験であり、それによる気配察知のみなのである。

葛城の己の身体能力に任せたラッシュ攻撃は、技術に劣る理を封殺してしまっていた。

しかし理は、それでも冷静にこの状況を観察している。寧ろ、状況が悪化すればするほど逆に頭が冷えていく。

 

(そろそろ潮時か……?)

 

初めから理には、この試合に勝とうなどという意思は無い。そもそも、この手合せ自体が命の危険など無い単なる試合である。

葛城がこの手合わせを楽しめば楽しむほど、次第に試合という面が浮き彫りになっていき、理の死に対する察知能力も鈍り、押され始めていくのだ。

彼は相対した時点で、自身と葛城の戦闘力を見切っており、絶対に勝てないだろうということを淡々と受け止めている。

適当に試合をし、適当に終わらせるという幕引きを、理は勝負が始まった時点で決めていたのだった。

 

――――だからこそ葛城は、表に出すことはないものの、内心で理に苛立ちを感じていた。

 

「だあッ!」

「うおっ?!」

 

葛城の足払いによって理は地面へと倒れ込む。誤解無いように伝えれば、これはワザと彼女の攻撃を喰らったのではなく、単純に反応できなかったのだ。

足蹴によるラッシュ攻撃から一転、足払いによる攻撃のため突如として身を屈めた彼女を、理は見失ったのだ。

不意を突かれたというよりも、それは理の油断が生んだ隙であり、葛城もそれを理解していた。

 

――――故に、彼女の次の攻撃に僅かばかりの殺気が入り混じるのは、必然であった。

 

倒れ込んだ理の頭部に向けての踏み付け。言うまでも無くそれは、彼の頭蓋を砕くのに十分な威力が籠められている。

しかし、その殺気を含む攻撃にこそ、彼の危機察知能力は発動するのだ。

理が映す視界は、スローモーションのように流れ、迫りくる彼女の足裏を含めた全ての光景が見えていた。

 

……地面に倒れ込んでいる以上仕方ないのだが、葛城のすらりと伸びる眩しい太ももと、その先にある水色ストライプは、ハッキリ言って眼に毒どころではない。

男勝りな性格とはいえ、彼女もまた麗しい美少女である以上、ある程度の慎みを持って欲しいと理は切に思う。

よもやこの殺気は、それを見てしまった自分を抹消する為に放たれているのではあるまいかなどと、理は勘ぐってしまう。

 

そんな間の抜けたことを考えているからであろう。

初撃の踏み付けこそ首を横に傾け、躱すことは出来たが、その後が続かない。

葛城は攻撃を躱されたことを気にするまでも無く、その勢いのまま、足を床へと叩き付ける――――!

 

「うおりゃあッ!」

「!?」

 

踏鳴(ふみなり)、或いは震脚(しんきゃく)。日本や中国の武道・武術において、単に地面を強く踏みつけるだけの技であるが、この場におけるその技を放ったものは、生憎と普通ではない。

体育館の床を踏み抜かんばかりに打ち付けられたはずの彼女の足は、何故か木製の床を傷つけることなく、壮大な轟音と衝撃波を生み出すだけに留まる。

無論それは、彼女の長年磨き上げられた技術によって行われたものであり、これを怠れば先程理によって攻撃を受け流された際の様に、床を踏み抜くという結果に終わったであろう。

体育館の床――正確には、攻撃対象であった理の頭――を破壊する筈であったエネルギーは、葛城の絶妙な技術と力加減によって、ある一点へと向かう衝撃へと変換されたのだ。

するとどうなるか。元より、理が攻撃を躱すことを織り込み済みであった葛城のその一撃は――――

 

「これで、逃げられねぇなあッ!」

 

――――理の身体を、宙へと跳ね上げた。

 

如何に理が攻撃を察知出来ようと、それを活かすことの出来ない状況に追い込まれれば宝の持ち腐れである。今、身動きの取れない空中に居るのがまさにそれだ。

そして既に葛城は、その理を迎撃しようと力を籠めている。理と違い、彼女の攻撃はわざわざ急所という部位を狙う必要は無い。何処を攻撃しようと、その圧倒的な筋力を以て粉砕するからだ。

尤も今回の場合は、彼女の目線や体の動かし方から、どうやら鳩尾のあたりを狙うのだと理は察しがついた。せめてもの抵抗として腕で防御の姿勢をとるが、そんなものに意味が無いことなど彼は解りきっている。

 

最早葛城の眼には、当初あった理への期待や戦闘の悦楽といった色は無い。今では、失望や侮蔑といった物が入り混じり、濁った色と化している。

人の機微に疎い理はそれを理解した訳ではなく、どちらかと言えば共感と表すのが正しい。その眼は、もう十七年もの付き合いになる自身の眼に、よく似ていたのだから。

葛城の攻撃はもう放たれようとしている。それを止める術は理には無い。しかし彼は恐怖などを微塵も感じることなく、それを受け入れていた。

そして、それを察した葛城は怒気をさらに強め、違うことなく理へと足蹴りを放とうとして――――

 

「そこまでです! 攻撃を止めなさい、葛城さん!」

 

斑鳩によって、止められるのであった。

 

 

     ◆

 

 

斑鳩の制止により、葛城は不服そうにしながらも攻撃を中断する。そのすぐ傍で地面へと無様に落下した理が居るが、葛城は気にも留めようとしなかった。

なお、理は脳震盪でも起こしたのか、床に伏せたまま動く様子が無い。

恐らくは落下の際に頭を打ち付けたか、或いはその前段階である葛城の攻撃の際、発生した衝撃波と轟音でダメージを受けたのだろう。

そんな風になりながらも放っておかれる理を不憫に思いながらも、流石にあのような態度で手合せに臨まれては、仕方のないことだと斑鳩は思う。

だがしかし、いくらなんでも今の葛城の攻撃は見過ごせないほど危険であった。もしも攻撃を止めなかったのならば、……想像したくもない。

 

「……葛城さん、少々やり過ぎです。頭を冷やしてください」

「ッ、解ってるよ……。アタイも少し、ムキになり過ぎた……」

 

斑鳩に諌められたことによってクールダウンしたのか、葛城はバツの悪そうな顔をして謝罪の言葉を口にする。

勿論、その言葉を向けるべき相手である理に対してもだ。葛城は腰を屈めて、今だ寝そべっている理に顔を近づけると、同じ様に謝罪を述べた。

 

「その……、悪かったよ。大丈夫か?」

「……たんこぶ出来た」

「はは、平気そうだな」

 

理は意趣返しのつもりなのか、僅かに憮然としながら抗議を唱えた。

尤も、声色に怒りといったものは感じられないので、葛城も軽口で応答する。

しかし、すぐさま顔を引き締めると、理に問いかける。

 

「……なぁ、何でお前はそんなに淡々としてられるんだよ。――――正直、薄気味悪いぜ」

 

歯に衣着せぬ言い方ではあるが、それは葛城の偽らざる本心であった。

自身の様に力を振るうことに悦楽を見せないのはまだいい。だが同時に、彼は他人を傷付けるという行為、或いはそれを自身にされることに何の感情も見せていなかった。

苦も楽も、一切の反応を示さない。彼のそれは明らかに、異常とも言っていい精神性だ。

別段、葛城はそういう扱いをされないことに異論は無いが、仮にこれが飛鳥相手だった場合など、ショックを受けるのではあるまいか。

そんな風に場違いな心配をしてしまう程、彼という存在はズレている。その一線が枷となって、葛城はこの手合わせを心底からは楽しむことが出来ないでいたのだ。

 

「……どうでもいい」

 

だが、それに対する返答もまた、彼への不信感を助長させるものでしかなかった。

死んだような虚ろな瞳で、宙を見上げながら呟く理に、葛城はぞっとしたモノを感じられずにはいられない。

彼は先程、葛城の昏い瞳を自身に似ていると評したが、彼女が聞いたなら全力で否定しただろう。

 

「はぁ……。お前は、楽しいとか嬉しいとか、…………死ぬのが怖いとか無いのか?」

 

故に葛城は確認する。結城理という人間が、何を見て、何を感じているのかを。

そのあまりに歪な精神性を持つ彼を、彼に足らしめるものが、果たして何物であるのかを。

そして――――

 

「……………………『死ぬ』って、そんなに怖いこと?」

 

ああ、と葛城は、その場に居る五人の少女たちは、理のその言葉を聞いて理解してしまった。彼と自分たちが、違う存在であることの証を。

 

――――『死生観』が違うのだ。

 

忍である自分たちは、いつ訪れるとも分からない『死』の中に居る。危険な任務であったり、敵勢力との戦闘や暗殺、命に係わるほどの修行を行うことだってある。

だが、その中であっても自分たちは命を諦めることなど決して無い。たとえどんな危機にあっても、それを乗り越え、生き残ることにこそ彼女たちは重きを置いていた。

 

対して理は、彼もまた『死』の渦中に居る者だ。

シャドウと文字通りの意味で生死を賭けた戦いの中に居る以上、ある意味では、『死』に直面する度合いは彼女たちよりも上かもしれない。

そしてそれ故に、『死』というものを身近に感じすぎてしまっている。『死』というものが、不意に迫り来る狩人に非ず、元より隣に存在する物であることを彼は識っている。

だからこそ『死』に直面した際、躊躇うことなくそれを受け入れてしまう。言い換えれば、諦めが早いということであった。

 

「『memento(メメント) mori(モリ)』――――、でしたっけ……」

 

傍に歩み寄って、その様子を見ていた斑鳩の口から思わず呟きが漏れる。

memento(メメント) mori(モリ)、死を思え、自分がいつか死ぬことを忘れるな。そのような意味を持つラテン語こそ、今の彼を表すのに最も相応しい言葉だろう。

 

「……俺たちは、明日(いつか)必ず死ぬのだから」

 

だからこそ、理は生きる。

誰にも聞こえない程小さく呟かれた筈のその言葉は、しかしはっきりと彼女たちへと届き、その胸の中に刻み込まれた。

脳震盪からようやく回復し、上体を起こす理は、周囲を見回して宣言する。

 

「さあ、試合を続けよう――――」

 

何時か(おわり)が来るその日まで、生き続けるために――――

 

 

     ◆

 

その後、理は残り四人の忍メンバー全員と試合を行った。元よりこれらの試合は、理の実力を図るために催されたものである。

幸いであったのが、彼が炎の魔術を使わないという制限を掛けていた為に、その分を治癒の魔術へと回すことが出来たことであった。

彼の精神力を糧として発動するそれは、この場に居る六人全員を回復させてもまだ余りある。

理は最初の葛城との試合で互いに負った怪我をすぐさま回復させると、矢継ぎ早に次の試合へと臨んだのだった。

以下、その試合内容と結果だけを簡素に表示する。

 

・VS斑鳩。互いに竹刀一本を獲物とし、試合開始後すぐさま高速の剣閃が打ち合わされる。

 その後、七十二合目にして理の竹刀が弾き飛ばされたことにより、理の負けで試合終了。

 

・VS飛鳥。二刀使いである彼女に対し、理は変わらず一刀で挑む。そして、先の斑鳩戦と同じように剣閃が打ち合わされた。

 ただし、斑鳩と比べ戦闘技能の差が縮まった為か、彼女の場合よりも長く剣閃は続いていた。

 しかしやはりそれでも敵わないのか、九十二合目にて竹刀を弾き飛ばされ、三度彼の負けで試合終了。

 

・VS雲雀。互いに素手で試合に挑んだのだが、試合が始まってすぐさま彼女を心配する柳生の途中乱入が発生し、無効試合に。

 なお、理は彼女と試合をする際に、「雲雀とは一番相性が悪い」といった発言をしている。

 

・VS柳生。雲雀を傷つけられそうになった為か、殺気を交えながら銃撃を行う。

 だがしかし、持ち前の察知能力も相まって、飛来する銃弾を回避するという驚異的な体捌きを見せる。

 その回避行動は彼女の銃弾が尽きるまで行われた為に試合終了。引き分けという結果に終わった。

 

成績は0勝1分3敗1無効という、結果だけ見れば散々たるものだった。

しかし試合を行った当人である彼女たちからしてみれば、理は忍である自分たちにこうして喰らい付いてくるという、決して侮れぬ存在である。

例え異能力を使わずとも、その状況判断能力、武器の扱い、培われた技量、そしてその精神性は、全てが高水準で纏まっているのだ。そうした人材は忍の世界でも多くはない。

その中でも特に高評価であったのが、状況判断能力である。

彼の一挙一動が絶えず戦況を動かし、忍の技に肉体が反応出来なくとも、その眼が最適な行動を見据えていたのを、彼女たちは見抜いていた。

そしてそれは、今の彼女たちには無く、これからの彼女たちに必要であった能力だ。

 

結城理が、対シャドウ戦での後方支援兼、現場指揮官としての役目が決定した瞬間であった。

 

この決定で本日の活動は終了とし、明日から本格的にシャドウ討伐を開始するという決定を斑鳩が宣言して、一同は解散する。

なお、理は明日の深夜零時前に、半蔵学院学生寮――忍学科側ではなく、普通の男子寮だ――の屋上で飛鳥たちを待つように指示された。

わざわざ『表側』である場所を集合場所としたのは、進学校故に厳しい門限が有る理に配慮した、斑鳩の判断であった。

半蔵学院最優秀生徒である彼であっても、生活態度が悪ければ内申へと響いてしまうからだ。これからのシャドウ討伐も、日によって行うか否かを彼の判断に委ねている。

あくまでも理は協力者という立場である以上、必要以上に此方から干渉せず、此方側と係わらせない様にするというのが、忍学科で一致した意見であった。

 

こうして、漸く彼女たちは初めの一歩を踏み出したと言えるだろう。

シャドウという化け物に対峙することに、今だ不安を覚えずにはいられないが、それでも大きな一歩だと確信を持って言える。

結城理という新たな仲間と共に、この道を進むのだと彼女たちは希望を胸に抱いていた。

 

――――それこそが、他ならぬ油断そのものだということに、彼女たちはまだ気付かない。

 

時は、待たない。全てを等しく、終わりへと運んでゆく。

2009年4月9日、『全ての始まり』と『全ての終わり』は着実に近づいているのだった――――




理、普通に負けました。まあ忍は身体能力チートですからね。
ですが、理もかなり身体能力は高いのです。参考にしたのはFES後日談のOPアニメの真田先輩。アイギスのガトリングを見てから避け、あまつさえそれに突っ込んでいくレベルの身体能力ですよ、この人……。

そして、途中で判明したペルソナのスキルではない、理自身のスキルを解説。前回でも少し登場してましたね。出典は、『真・女神転生Ⅲ』より。能力は違いますけど。

心眼(しんがん)》:十年にも及ぶシャドウとの戦闘経験によって獲得した、気配察知のスキル。相手の視線や敵意を察知し、バックアタックや不意打ちを防ぐ。理の感性では、殺意には特に敏感に反応する模様。
ゲーム的には、相手の攻撃力に比例して回避率に補正、といった所か。常時発動(パッシブ)型。

しかしそれでも、理と忍では某世紀末格ゲーのジャ○とト○以上の差が有る模様。
まさに死調整。セプテントリオンの皆さんがお怒りですわ。
なお、この例えだとペルソナ及びシャドウは、バグ技かリアルファイトに当たります。ゲーム内キャラ=忍では、対抗できないという意味で。
(……ところで、このような例えって本文で書いた方が良いでしょうか? ニャ○子さんみたいな文章になりますけど)

よって、この小説での力関係は、

ペルソナ使い>シャドウ>忍>ペルソナ使い>…

という三竦みになります。
尤もこの力関係が適用されるのは、主にモブの忍であり、主役格の理や飛鳥たちは今後、忍術やペルソナ能力を獲得するので、この不等号には当てはまりません。おっと、後々の展開のネタバレが……(すっとぼけ)

そして次回は、満月シャドウ戦です。漸く話が進む……。

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