ペルソナカグラ FESTIVAL VERSUS -少年少女達の真実- 作:ゆめうつつ
ストーリーが進んで、理の周りの状況が変わったら、またこんなふうに監視される回を書くの良いかもしれない。
……え、ストーカー? 愛ですよ愛(真顔)。
2009年4月8日 朝――――
朝、飛鳥が忍学科へと登校し、真っ先に眼についたものは、何らかの書類に目を通したまま唸り続けている斑鳩の姿であった。
一瞬、邪魔をするべきではないだろうかという考えが頭をよぎるが、斑鳩が見ている書類の中身に心当たりが有った為、そちらに近づく。
「斑鳩さん、おはようございます。あの、その書類ってもしかして……?」
「あら、おはようございます飛鳥さん。ええ、この書類は全て、結城さんの資料ですよ」
机の上にぶちまけられた書類の山は相当数に上り、これまでの彼の人生に関するあらゆる情報が集められたのだろうと想像がつく。
ほんの数時間でよくこれだけの情報が集められたものだと感心すると同時に、プライバシーも何もあったものじゃないと、理に同情するのだった。
今、斑鳩が主に眼に通しているのは、彼が能力に覚醒したという十年ほど前の記録であるようだ。
飛鳥もそちらが気にはなるが、取りあえずは最近の記録を確認することにし、半蔵学院に入学してからの資料を手に取る。因みに、この膨大な書類は入学からの資料が最も集められているようでもあった。
「げっ!?」
しかし、ほんの一ページ目から凄まじい情報が記されているのを眼にし、思わず声が漏れる。
斑鳩が声に驚いて目を向けるが、「ああ、やっぱり」と納得された顔をされたので、この驚きようは想定内であったらしい。
其処に記されていたのは、こんな情報であった。
・結城理。半蔵学院高等科二年。特待生制度により奨学金を受け取っており、編入試験において全教科満点という成績を収めている。
進学校である半蔵学院では、優秀だが金銭的な事象によって入学することの出来ない生徒などに対する、特待生制度が存在する。
ただし、その見返りに対する成績は当然の如く最優秀の物を必要としている。理は半蔵学院高等科において、その最優秀の生徒の一人であり、この奨学金を受け取っているのであった。
忍である彼女たちは一般的な学業にあまり縁が無いが、この進学校において最優秀の成績がどれほどのものであるかは勿論理解できる。
「お蔭で、結城さんの資料はあっさりと見つかりましたよ」という呆れるような言葉は、斑鳩の弁であった。
そんな理の一端に触れつつも、飛鳥は資料を読み進めていく。ある程度の資料を読み進め、獲得できた情報は以下のようなものだ。
・家族構成は無し。十年ほど前に事故で家族が死亡し、天涯孤独の身となった。その後、親戚中を盥回しにされ、数多くの転校を繰り返している。
・しかし、中学生の半ば頃から親戚との折り合いが悪くなり、学生寮の付属する学校を選んで入学。それ以降、一人暮らしを行っている模様。
・成績面、運動面、芸術面において秀でた生徒だが、一方で生活態度、コミュニケーション能力に難有り。
特筆すべきは、この様な情報であろうか。そのあまりにも数奇な人生の歩み方に、飛鳥は眩暈を覚えるほどであった。
そしてこの中で、最も重要な項はやはり、彼が家族を失ったという十年前の事故だろう。丁度、彼が能力に目覚めた期間とも合致している。
しかし今だに十年前に関する資料は斑鳩の手の中に在り、飛鳥はそれを見ることが出来ないでいた。
「そういえば、かつ姉は?」
「葛城さんなら、結城さんの資料を確認した後、彼の監視に行きましたよ」
飛鳥は理の半蔵学院に来てからの資料を一通り確認し終えた後、葛城の姿が無いことを斑鳩に問いかけた。
対して斑鳩は、やはり資料から目を離さないまま淡々とした口調で述べる。因みに、葛城もまた、理の成績を見て絶句した一人である。
「そういえば、結城くんの監視をすることにしたんですよね……」
「気になりますか?」
「……まあ、気にならないと言えば嘘になりますけど」
そんな風にむくれる飛鳥を、斑鳩は微笑ましい目つきで見つめる。
彼女は今、自分の後輩がどのような思いを抱いているのかをある程度は理解しているつもりだ。
忍である少女と、命の恩人にして監査対象である少年――――、それが許されるものであるのかは、今は分からない。
というかそもそも、そういった感情が未経験である自分が、いくら考えても理解できるものではない筈なのだが。
……取り敢えず斑鳩は、そうやって忍の責務と自身の感情に振り回されて頭を抱える後輩を眺めつつ、この辟易とする資料の確認を行うのであった。
◆
結城理は学生寮から一歩踏み出したその瞬間から、自身を見定めるような視線に気が付いてしまった。
それはいわば《心眼》とでも呼ぶべき、彼の十年にも及ぶシャドウとの戦闘で培われた気配察知の能力だ。
本来はバックアタックを防ぐためのスキルであるが、こういった風に自身への視線なども察知できるスキルでもある。
「それも当然か」と、理は思う。彼とて、自身が信用に値する存在ではないことを理解しており、彼もまた『忍』という存在を信用しきれていないのだから。
そしてそれをおくびにも出す様子も無く、平静を取り繕っている。だからこそ今、理を監視している葛城は、己の尾行が気付かれたなどと思いもしなかったのだ。
「朝六時半起床、その後朝メシと弁当を並列して作って、学校の支度。んで、七時半に登校……か。なんつーか、この上ないほど、健康的だねぇ……」
そう言って理の行動を逐一観察し、メモしていく葛城の姿までは流石に気付けないが、理にはおおよその予想はついている。
尤も、それを咎める気など理にはさらさらない。経緯はどうあれ、忍学科と共闘することになった以上、こうなることはあらかじめ想像できていたからだ。
これが互いの信頼の為に必要とあらば、好きなだけ監視すればいいというのが、理の感想である。……別段、自身の生活が監視されようと、どうでもいいというのも理由にあるのだが。
理が半蔵学院に登校すると、葛城はより一層気を引き締める羽目となる。
この監視は理の人間性を見極めるというだけでなく、不可思議な能力を持つ理が悪忍に接触されないかという護衛の意味もあるからだ。
その為葛城は、今日一日の理に近づく人間などの見極めも必要となっている。理に近づく人間を一人一人観察するのは骨だろうが、気合を入れ直し、監視を続けるのだった。
2009年4月8日 昼休み――――
「…………暇だ」
正直、舐めていたかもしれない。それが結城理の監視という任務を請け負った、葛城の感想であった。
その理由はたった一つに尽きる。――――変化が無さ過ぎるのだ。半蔵学院の最優秀生徒というだけあって、理の行動は真面目が過ぎるほどに真面目だった。
朝のホームルーム前に着席した理は、質疑応答や離席などの場合を除き、殆ど微動だにしていない。動きらしい動きは、教科書やノートを捲り、シャープペンを走らせるだけだ。
しかしそれらは、勉学一辺倒の進学校だからという理由でまあ通るモノだ。それだけであるならば、葛城も納得できる。
だがしかし、理に近づく人間というのが皆無であったのが解せなかったのだ。
授業と授業の合間の小休憩の時間帯、彼は常に一人きりというのを貫いている。彼に近づくのも、彼から近づくというのも、どちらも存在しなかった。
「あいつまさか、ぼっちキャラか?」
中々に酷い言い分の葛城の言葉は、ある意味では正鵠を射ていた。
単純に編入したての理に知人友人がいないだけなのだが、彼のコミュ能力不足もそれを助長しているのだ。
何より、普段から陰鬱な雰囲気を発する理に近づこうとする人間自体、そうそういないだろう。
こんな只の監視以下の任務では、武闘派かつアクティブな葛城が飽きを感じてしまっても仕方のないことであった。
「――――っと、やべーやべー。また見失う所だったぜ」
そんな監視体制ではあるが、気を緩めることなどは出来ない。
昨夜の八面六臂な活躍ぶりからは到底想像しにくいが、どうも彼は有事だろうと平時だろうと常にローテンションを保っている様だ。
少しでも気を抜けば、その存在感の薄さから見失ってしまうことすら有った。おかげで葛城は、こうして一時も気を抜くことの出来ない緊張状態に晒されている。
これはこれで鍛錬にはなったりするが、流石にその程度では彼女の退屈は紛らわせない。こういう場合は趣味のセクハラで気を紛らわせるのだが、その相手も居ない。
よって葛城は、その溜まった鬱憤を晴らさせる相手として、理を見据えていた。
「そうだな……、今日の鍛錬相手は、アイツにしてもらうか。うっしっし♪」
尤も、強者との戦いを望む彼女である為、それは理の強さを期待したモノでもある。単なる憂さ晴らしとどっちが性質が悪いのかは判断が難しい。
故に理は、遠くから此方を睨む視線に殺気とも好感とも付かぬ、言い知れぬ感情が混ざり始めたのを察し、背筋に冷たい何かが流れるのを感じるのだった。
◆
2009年4月8日 放課後――――
「つーわけで、アタシとの組手を頼むぜ!」
「分かりました」
「……相変わらず悩まないねぇ、お前」
放課後、忍学科へと案内された理へ葛城は、早速組手の相手を要求する。しかし、理のその即断に驚かされるのは何度目になるのだろう。
彼がそれを当然の様に受け入れるため、初めから受け入れるつもりだったのではと葛城は勘ぐってしまう。理自身も、ある程度は何かしらの要求はされるだろうと予想は付けていたのだが。
なお、既に理は斑鳩との対談により、今後自分がどのように忍学科へと係わっていくのかをある程度話し終えている。
尤も、彼にとっては今まで行っていたシャドウ討伐にスポンサーが付いたようなものであり、本質的に変わるものなど何もない。
理に言わせれば、精々が今まで難儀していたという、武器の調達をすることが出来るのが変わった点であるらしい。
今まではナイフや素手に限らず、包丁や拾った鉄パイプ、果てはデッキブラシやグラブ代わりのパペット人形で戦っていたという彼の言葉に、誰もが呆れかえる他なかった。
「何で色々な武器を使うの? 一つに絞った方が闘いやすくない?」
「別に拘りとか無いし、拾ったらタダだ」
「……ああ、そういう」
飛鳥の素朴な疑問は、何時もの如く感情を感じさせない声で答えられる。理は武器を選ばないという性質では無く、彼の懐事情によるモノが原因だったようだ。
恐らく以前、武器を砕かれた際に顔を顰めたのも、そういった事情が有るのだと飛鳥はそっと察するのであった。
「ま、それなら体術勝負でいい試合が出来そうだな!」
そう言って笑顔を浮かべる葛城は、既に思考が理との手合せに逸らされている。
対して理は何時もの様に無表情であり、これから行われる試合に対する不安や高揚といった、一切合財の感情を見せることが無い。
葛城の様にバトルジャンキーになれとまではいかないが、飛鳥がそれに怪訝を感じてしまうのは仕方のないことであった。
「結城くん、別にかつ姉の組手を断っても良かったんだよ? アレはかつ姉の我儘なんだから、キミが付き合う必要なんて無いんだし……」
飛鳥は理にこそこそと耳打ちし、彼の真意を確かめようとする。これが単純に、仲間内での親睦を深めようとする行為であるなら理解はできる。
しかし、飛鳥から見て彼にはそう言った思惑が見て取れず、何を考えているのかが全く理解できないのだ。
「……教えて。結城くんは、どうしてそこまで――――」
「おーい! さっさと行くぞー!」
だが、その心の内を探る前に、葛城によって中断させられてしまう。
後ろ髪を引かれつつも、飛鳥と理は会話を終え、葛城に従った。しかし、組手を行う訓練場へと歩みを進める葛城に追従しつつ、理は口を開くのだった。
「……理由なんて無いよ」
「え? ちょっ、待っ――――」
下手をすれば、聞き取ることが出来ない程のか細い声を、飛鳥は確かに耳にした。
その真意を語ることなく、理は訓練場へと歩みを進める。飛鳥はその背に問いかけようとして、それが出来なかった。
纏う雰囲気が変わった訳では無い。相も変わらず、超然とした雰囲気を湛えるままであった。
言葉に重みが有った訳でも無い。何時もの如く、無味乾燥な物言いのままであった。
何一つ変わらない、只の一言。飛鳥には、それが堪らなく恐怖を感じさせた。
飛鳥はその理の背に何一つ問いかけることなく、彼に追従するまま、訓練場へと向かうのであった。
現在の理のステータスは、
ペルソナ3風ならば、
勇気:命知らず
魅力:知る人ぞ知る
学力:天才(努力型)
ペルソナ4風なら、
勇気:命知らず
寛容さ:ブン投げ
知識:百科事典
根気:諦観的
伝達力:口を開けば……
こんな感じ。
学校での友人も作りたいですね、コミュキャラではないモブ扱いでしょうけど。
そして次回はVS葛城回です。
~NGシーン~
飛鳥「結城くんヘンな武器使いすぎじゃない?」
理「……『真紅』で俺以上にヘンな武器を使うキミらが言うの、それ?」
飛鳥「メタい!? そして言い返せない!?」←太巻き、団子
斑鳩「私の武器飛鳥さんのセリフの所為ですよ……」←焼き鳥
葛城「アタイのはまだマシ……?」←岡持ち
柳生「そもそも私の武器自体が『傘』という変武器枠だからな……」←イカ
雲雀「うさちゃんケーキ美味しいし可愛いよ?」←ケーキ、だけど気にしてない
資料用で買った『真紅』の攻略本で一番驚いた面白武器集。
一番変なのは、詠の『もやし炒め』だと思う。