ペルソナカグラ FESTIVAL VERSUS -少年少女達の真実- 作:ゆめうつつ
本格的な戦闘描写は初なので、こんな感じで良いのか不安です。
感想や評価は常時受け付けておりますので、ご意見宜しくお願いいたします。
「前よりも人が増えてる……」
忍メンバー全員で行動していた彼女とその仲間を見て『彼』の口から零れたのは、戦場には似つかわしくない純粋な疑問だった。以前の飛鳥との出会いで、自身以外に異形に対抗できる忍という存在を、彼女しか眼にしなかった故である。
緊張に包まれていた空気が弛緩してしまう程に気の抜けたその言動は、彼女らにいつもの調子を取り戻させた。
「……飛鳥さん、彼は確か、貴女を助けてくれたという例の?」
「はい! ……どうして此処にいるのかは知りませんけど」
「なら、救援に期待していいのかよ? こっちはアイツのことなんざ何も知らねーぞ」
飛鳥は兎も角、斑鳩や葛城はまさかの人物の登場により、動揺を隠せないでいた。
それは、柳生と雲雀の二人も同じくだ。柳生は彼の持つ暗い雰囲気を、雲雀は探知能力によって、彼が得体のしれない存在であることを既に把握している。
「あの人、なんだかよく解らないけど……怖い」
「くっ、雲雀を怯えさせるなど……。だが、救援だとしても、この数相手をどうやって――――!」
柳生の懸念は尤もであった。飛鳥らの反応を見る限りでは、彼が異形に対し何らかの対抗手段を有しているのは理解できる。
しかし、それでも多勢に無勢だ。おまけに、忍メンバー側は既に限界が近付いている。いくら彼が何らかの能力を持つと言っても、柳生はそれを信用できないでいた。
だが――――
「■■■――――……!」
異形どもの様子が明らかにおかしい。彼を取り囲むようにして様子を窺ってはいるが、それだけだ。
決して襲うようなことはせず、さりとて逃げ出すこともせず、ただ遠巻きにして観察しているだけだった。
それはまるで、彼という存在を畏れ、その場に縛り付けられてしまったかの様ではないか。
「何者だ? 一体、アイツは――――」
その異様な雰囲気に呑まれ、一瞬気を緩めたのが不味かった。
彼を包囲していたものとは別の、新たな異形が彼女らに向けて飛び出してくる。
柳生は咄嗟に仕込み傘を構えるが、その引き金を引くよりも異形が達する方が圧倒的に早い。
「(しまっ、間に合わな――――)」
せめて雲雀だけでもと思い、柳生は彼女の身体を庇うようにして覆いかぶさる。
柳生ちゃん、という雲雀の驚愕の声が聞こえるが、彼女には其れが心地よい。
恐らくこれが最後の聞き納めになるだろうと思いつつ、柳生はゆっくりとその瞬間を待った。
しかし、何時まで経ってもその瞬間は訪れない。
訝しげに思いつつ異形の方へ顔を向けると、其処には先程と同じく、融ける様に消え去っていく異形の死骸があった。
顔を背けていた柳生や、彼女に覆い被さられていた雲雀は気付かなかったが、飛鳥らにはハッキリと目に映っていた。異形が彼女らに飛び掛かるまさにその瞬間、彼がその異形に手を翳すことで爆炎が発生し、焼き尽くしたことを。
彼女たち忍が使う忍法とは根本的に違い、そして異形らが使うモノに近い、摩訶不思議な異能力。それはまさしく、この状況を打破するのにこの上ないモノではないか。そう判断した斑鳩は、恥も外見もかなぐり捨て、彼に向かって叫んだ。
「そこの人! 申し訳ありませんが、失礼を承知でお願いします! この化け物どもを、如何にかして下さい!」
「……分かりました」
「って、早い?!」
一瞬逡巡する様子を見せたものの、あっさりと懇願を受け入れてしまった彼に斑鳩は驚愕する。
最低でも拒否、良くて対価などを求められるのを予想していた彼女にとって、その言葉は想像外にも程であったが、それは忍メンバー全員に共通した思考でもあった。
「――――っ!」
そうして彼女たちが気を抜かしている間に、彼は異形へと向けて突撃する。
彼が異形の集団に突撃したことによる、異形どもの反応は大きく二つに分けられる。即ち、迎撃か撤退だ。
一体の異形が彼へと向けて迎撃する。人間を容易く引き裂く爪は、粘性の体躯によって不規則な軌道を描き、彼を翻弄する。しかし彼はそれを完全に見切っており、皮膚から僅か数センチを通り過ぎる爪に動じる事すら無い。
やがて異形が大振りな攻撃を行うが、彼はそれを当然の如く回避する。そうして生じた盛大な隙を、彼が見逃すはずも無かった。
「よっと」
「?! ■■■――――……」
手に握られたナイフを異形の身体に突き立て、一閃。寸断された異形は闇に溶ける様にして霧散する。その武器は相変わらず平凡なナイフであり、どう贔屓目に見ても異形相手には心許無い。
しかし、その平凡である筈のナイフで異形の泥の様な身体を易々と切り裂いてしまう為、彼女たちは目の前にある光景が果たして現実であるのかと疑ってしまう。
戦闘時間は、異形が攻撃を行ってからほんの十秒も経っていなかった。
「■■■――――ッ!」
次いで、新たな異形が彼に攻撃を行う。かつて飛鳥も体験した、氷の異能だ。鋭利な氷塊を交えた吹雪が彼を襲う。
しかしその吹雪もまた、彼を傷つけることは叶わない。彼が腕を振るうと爆炎が巻き起こり、その熱によって吹雪を相殺する。異能の炎と氷の接触は水蒸気爆発を引き起こし、発生した噴煙によって飛鳥たちは彼の姿を見失った。それは異形の方も同じである。
だが、彼の方は違った。立ち込める噴煙の向こう側の異形の姿をしっかりと見据えており、それに向けて再び腕を振るい、発生した爆炎が異形を焼き尽くす。
噴煙が晴れ、飛鳥たちが彼を発見した時には、彼に攻撃した異形は既に消え失せていた。
「な、なんだよアレ……」
葛城がどこか呆れたように呟く。彼女らを苦しめた異形が僅か三十秒足らずで二体も倒されれば、無理も無いことであるのだが。
しかし彼女は、彼のその戦い方にふと違和感を覚える。苦も無く異形を倒す強さを誇る彼は、強者との戦いを求める葛城にとって願っても無い人物だ。
だが、彼の強さと葛城の求める強さとはどこか違うような印象を感じてしまう。
葛城がそんな感慨を抱いている間にも、彼は異形の一、二体を殴り倒し、蹴り砕いていた。
飛鳥たちの見解では、撤退を選んだ異形こそが賢い行動をとったと言える。それ程までに、彼の持つ戦闘能力は圧倒的だ。
当初は二十体以上もいた異形どもは既に半数が逃走し、残っていた内五体も彼によって討伐されている。残る異形はあと六体だ。
しかし、異形どもも決して馬鹿ではない様だ。次第に統率のとれた行動をとるようになり、一撃離脱を行うことで彼の反撃を極力喰らわない様にしている。
さらには輪になって彼を取り囲むことで、彼の逃走を防ぐ。それらの作戦行動を取れる知能を持つということは、この異形どもが決して侮れない存在であることを証明していた。
そしてついに――――
「――――く……!」
異形の攻撃を受け止めたことによって、彼のナイフが根元から砕け折れる。顔を顰めつつ、残った柄を投げつけることでナイフはその役目を終えた。
彼は徒手空拳での戦い方も心得ているようだが、武器を失ったことによる攻撃力の低下は免れないようであり、眼に見えて押され始めていく。
遂には手痛い反撃を喰らい、腹部に強烈な体当たりを受けて吹き飛ばされる。そのまま彼は、先の氷の魔法によって発生していた氷塊に背中を強かに打ち付け、苦悶の声を漏らした。
「危ないッ!」
六体の異形が一斉に飛び掛かるのを見て、飛鳥が叫ぶ。背中側に氷塊が存在する為、逃げ場が無い――――!
そこで彼は、まさかの行動を起こす。背にした氷塊に手を添えると、そこで炎の魔法を使い、氷塊を爆発させたのだ。
辺りには一気に噴煙が舞い、何も見えなくなる。だが、異形どもが彼を取り囲むようにして攻撃を行った以上、逃げ場が存在しないのは覆しようの無い事実だ。
無論異形どもはその攻撃を止めることなく、彼に飛び掛かっていく。飛鳥たちには、その光景だけは見えてしまっていた。
飛鳥は今になって、あの凄まじい戦闘風景に介入出来ないでいることを悔やんでいた。
解ってはいる。自分があの場に飛び込んだ所で、足手纏いにしかならないであろうことは。
飛鳥の心中はかつてない程に無力感に苛まれていた。先程奮い立った心など、とうに消え失せている。
尤も、例え誰が飛び込んだ所であっても、あの異形を倒すことなど出来なかったであろう。
だが――――、だがせめて、一矢報いなければ、彼に合わせる顔が無い――――!
「飛鳥さんッ!?」
突如として駆け出した飛鳥に、斑鳩は困惑の声を上げる。その声が飛鳥に届くことなど無い。
早くはやくハヤク――――、彼の下へ!
使い慣れた脇差は無い、先程取り落としてしまった。手に構えたのは、粗末な苦無一本だけだ。
その程度で何が出来るというのだろう。飛鳥の行動は愚かな蛮勇に過ぎない。そんなことは、彼女自身が一番理解している。
だがそれでも、この脚が止まることはない。全身全霊を以て、前へ進めと心が叫んでいる。その感情を、果たして何と呼べばいいのだろう。
ただ一つ言えるのは、今の飛鳥は己の命を投げ出してでも、彼を助けたいのだった。
「今度は、私が貴方を助ける――――!」
だが、噴煙が晴れて其処にあった光景に、飛鳥たちには今日何度目になるのかも分からない沈黙が流れた。
其処には、彼が異形どもに取り囲まれた光景が有る。其処までは当然だ。ただ一つ違うとすれば、異形の一体が脇差に刺し貫かれていることだろう。
彼はそのまま脇差を薙ぎ払い、その場で美しい真円を描く。その竜巻の様な斬撃によって、取り囲むようにしていた異形どもを纏めて両断してしまったのだ。
斬撃によって屠られた異形は五体、残り一体となってしまった異形は其処で漸く撤退を行い、無様に逃走しようとした。そして、それこそが最大の悪手であった。
戦闘中に背を向けるという行為が、どれ程愚かしいのかを異形は理解しているのだろう。だが、そうせざるを得ない程に異形は恐怖という感情を植え付けられてしまった。
彼は脇差を改めて握りなおすと、最後の異形に向けて跳躍する。大上段に振りかざした脇差に、重力を上乗せして振り下ろすという、今の彼が持てる最大限の攻撃力を以て異形を両断する。
哀れにも左右真っ二つに絶たれた異形は、断末魔の声すらなく夜の闇に霧散してく。こうして、異形と異能者の戦闘は呆気無く終了したのだった。
「……あ、私の脇差――――」
其処で飛鳥は、彼の手に握られた脇差の正体に気が付いた。
何のことはない、それは先程彼女が取り落した二刀一対の脇差、その片割れであったのだ。
思い返せば彼が背にしていた氷塊は、先の戦闘で自身が脇差を取り落した際に氷の魔法攻撃を受け、葛城と共に撤退した地点だった。
氷塊に喰らわせたあの炎の魔法も目くらましなどでなく、氷塊の下敷きになっていた脇差を拾うためであったのだと察しがついた。
だがその場合、脇差を拾ったのは偶然では無いということになってしまう。それが意味することは――――
(――――あの化け物を誘い込んで、一網打尽にした?)
その結論に至った飛鳥の背中に、冷たいものが流れる。それは戦術というモノではなく、自分の命をベットにした博打であるからだ。
今回は偶々全ての歯車が上手く噛み合い、異形を殲滅することが出来た。だが、何かしらの不具合があったならば、倒れていたのは彼であった筈だ。
飛鳥は勿論、他の忍メンバーもその様な戦術を取ることはないだろう。ならば、その戦術をとった彼は、一体何者であるというのか。
異形を殲滅し、散り散りになったことにより、影の世界はその存在を保てずに瓦解する。
月は本来の安らかな明るさを取り戻し、世界に色が戻る。飛鳥たちは、其処で漸く一息を付けることができ、気疲れからか誰もがへたり込んでしまった。
そればかりではなく、飛鳥たちの身体は異常なまでに衰弱している。どうやら、あの世界は取り込まれた人間を弱らせるという効果もあった様だ。
尤も、彼は顔色一つ変えず、平然としたままであった。しかし、やはり先の戦闘でのダメージが多少残っているようであり、足取りが何処か危なっかしい。
「ふぁ……」
(あっ、違う。アレは只の眠気だ)
そんな能天気さを見せる彼の様子に、飛鳥は緊張を解かれてしまい、完全に気が抜けてしまった。
やがて彼は、治癒の魔法を使って自身の怪我を回復し、飛鳥の傍へと歩み寄る。様々な差異こそあれど、それは彼女にとって一ヶ月前と全く変わらない光景だ。
しかし、今はあの時とは違う。仲間が居り、覚悟が有り、そして何よりも、彼自身に此方への興味があった。
一ヶ月前には何も映していなかった筈のその銀灰色の瞳は、明らかに此方を見据えている。果たしてそれは、どういった心境の変化であるのだろう。
だが飛鳥には、今そんなことよりも重大な使命が有る。一ヶ月前には果たせなかった、彼女にとって大切な行為だ。
「あ、ありがとうございます!」
『ありがとう』、かつてその一言が言えなかったことが、彼女にとって心残りとなっていたのだ。
丁度、飛鳥を引き起こそうとしていた彼はその言葉を聞いて身を硬直させる。それは彼にとって、余りに予想外の言葉であったのかもしれない。
「っ、どう、いたしまして……」
相も変わらず表情を変えない彼の瞳の奥に、あの時とは違い、確かに自分へと興味が注がれているのを飛鳥は見逃していない。
間髪入れず、飛鳥は次の言葉を紡ぐ。
「私は飛鳥。あなたの名前も、教えてくれる?」
「…………
そして飛鳥は、あの時知ることが出来なかった彼の名前を、この時初めて知るのだった。
今回で初めて主人公の名前が明かされるというのに、二話のあとがきでネタバレをかました奴が居るらしい。
そう、僕だ!(ババーン ……もう修正しましたが、以後気を付けますorz
それは兎も角、雑魚シャドウ相手ならば、理はほぼ無双出来ます。そして、ペルソナ能力を持たなければ忍であっても雑魚シャドウにすら太刀打ちできません(大道寺先輩とか小百合様を除く)。きっとそのうち、春花様あたりがハーモナイザー(シャドウ用)でも作ってくれるので気長に待ちましょう(適当)。
以下、ネタ
~NGシーン~
理「あ」
飛鳥「えっ、何で手を引っ込めて――」
斑鳩「…………飛鳥さん、……その、……………………下」
葛城「……あー」
飛鳥「へ? そういえば何か湿っ、……て、…………」
雲雀「あれ、飛鳥ちゃん水溜まりに座っちゃったの?」
柳生「言ってやるな、雲雀」
飛鳥「……いっ、いやあああぁぁぁっっっ!!!」
バシーン
理「おう゛っ?!」
本編に組みこもうと思ったけど、そもそも飛鳥がそんなキャラじゃ無いのでボツ。続かない。