ペルソナカグラ FESTIVAL VERSUS -少年少女達の真実- 作:ゆめうつつ
後とうとうサブタイがペルソナでもカグラでもなくなったけど、歌ってるのは飛鳥(の中の人)だし多少はね?
「……タナトス」
理は短く、己の半身に命令を下す。その意を受けたタナトスは瞬時に攻勢へと移る。その獣の頭蓋の口蓋に、破滅の光を蓄え、放つ。
一点収束されビーム状となった《メギドラオン》は、『シャドウ飛鳥』――その
『フフ……!』
対してエリザベスは、心底嬉しそうに笑い、その攻撃を避けようともしない。それを血迷ったなどと思う輩はこの場に存在せず、しかし次の瞬間その行動に誰もが度肝を抜かれた。
「……あ、あの攻撃を……切った!?」
なんとエリザベスは、その手の《ムラマサコピー》によって、放たれた《メギドラオン》を切り払ったのだ。
《ムラマサコピー》には元よりシャドウやペルソナに対して絶大の特攻能力を誇っているが、そのあまりの絶技は、同じ刀剣使いの斑鳩が恐れをなす程に馬鹿げている。
とはいえ、嘗て〝向こう側〟で絆を育み、その在り方を知っている
「なら……、《ブレイブザッパー》ッ!」
その為、理はさして気にすることも無く次の行動へ移る。今度は物理スキルの指示を出すと、次の瞬間タナトスは眼にも止まらぬ速度でエリザベスに接近し、その手に持った直刀で切り掛かる。
当然、振るわれた直刀をエリザベスは《ムラマサコピー》で迎撃する。激しい轟音と火花が散り、《ブレイブザッパー》は受け止められたのだが、間髪入れず理は畳みかける。
「全て切り裂けッ! 《空間殺法》ォ!!!」
再びタナトスが剣を振るうと、彼らを取り巻くように無数の剣閃が奔り、エリザベスを切り裂く。単純な剣の攻撃ではなく、周囲の空間ごと切り裂く範囲攻撃ならば流石に受け止めることは出来ない。尤も、大したダメージにはなっていない様だが。
理の攻撃は続く。タナトスを引っ込め、今度は彼自身が打って出る事にしたようだ。
既に両手剣という武器を失ってはいたが、懐から予備武器である苦無を二本取り出すと、地面を圧倒的なスピードで駆けてエリザベスに肉薄する。その動きは、忍である斑鳩達が一瞬見失う程洗練されていた。
「ふッ! はァッ! せいやぁっ!」
『フフッ! アハハハハハハ!!!』
苦無二刀流による連続攻撃。地を掛け足を斬り、目や腹を突き、飛び上がって切り掃う。巨大な体格差など有ってない様に切り結ぶその技量は、今までの理とは比べ物にならない。
あまつさえ、『万能属性』と『封印』の効果を持つ《ムラマサコピー》とさえ打ち合えるその剣技は一体どういうことなのだろう?
そして、今の理の能力はそれだけに留まらない。
『背後ががら空きですよ!』
「ッ!」
その巨体に見合わない速度により、一瞬にして理の背後を取ったエリザベスは、その背に向けて《ムラマサコピー》を振るう。「危ない!」と少女達が叫ぶが、彼はそれに構う事無く召喚器を取り出し、その銃爪を引いた。
ガギン! と鉄を打ち鳴らす音が響く。《ムラマサコピー》は、理が召喚したそのペルソナが担う刀剣によって受け止められていた。
『ほぅ、これは……』
「……《ヨシツネ見参》、ってね」
召喚されたのは、【塔】アルカナ『ヨシツネ』。またの名を源義経、或いは牛若丸。端麗な容姿をした、二本の刀を携えた平安時代末期の武将。
その刀の銘は『
そして、このペルソナ召喚もまた《
そうして召喚されたヨシツネは、この状況を打破するに相応しい能力を持っている!
「《
『くッ!?』
理とヨシツネは、共に地面を跳躍して各々の獲物でエリザベスを斬り付ける。物理攻撃に特化したスキル構成を持ち、『力』のステータスも高いヨシツネの攻撃によって多大なダメージを与えられたようだ。
たまらず飛び退き、距離を取ったエリザベスだが、その隙を見逃す理ではない。だが今は攻勢に出るのではなく、その前段階だ。
「……《
ぽつりとスキル名を呟く理の周囲に、三色の光が立ち上る。《ヒートライザ》は全ての能力を一度に強化する最高峰の
『フフ……良いですよ! 私も段々と昂ってまいりました!』
相も変わらずエリザベスは、そんな理を見て歓喜の声を上げている。戦闘狂の気も同時に在るのだろう。その『シャドウ飛鳥』の身体からも、並ならぬ闘気を立ち昇らせている。
尤も、常人はおろか忍ですら尻込みしかねないその敵意を受けても、理が怯む事は無い。寧ろそんな敵意を受けて、更に自身の闘志を上げている。
「……チェンジ、ジークフリード」
再びペルソナを変更し、新たに降魔したペルソナは【剛毅】アルカナ『ジークフリード』。ドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』の主人公たる勇者であり、バルムンクの剣を手に悪龍ファフニルを討ち、その血を浴びて半不死となる。
その逸話を反映して高い『物理耐性』と強力な『物理スキル』持つが、今回使用するのはそれらではない。
「《チャージ》!」
使用したスキルは《チャージ》。力を溜める事によって、次に使用する物理スキルの威力を倍以上に高めるスキルだ。そして――――
『《ヒートライザ》に《チャージ》、そして『ジークフリード』ですか……。なるほど、貴方が使用するのは――――』
「そうだ、
そう言った理は再び召喚器を構える。新たにペルソナを召喚するのだろうが、しかしその内に秘められたエネルギーは、《転生》の際と同じく膨大なモノだ。
「来いッ! ジークフリード、アレス!」
そして召喚されたのは、今降魔している『ジークフリード』、そして【戦車】アルカナ『アレス』だ。ギリシャ神話に登場するトラキアの守護神で、オリュンポス十二柱神の一に数えられる。狼か猪を聖獣として従え、「城壁の破壊者」の二つ名を持つ軍神だ。
理はこの二体のペルソナを同時に召喚した。そうして発動するスキルこそ、有里湊が宿した究極の技巧、その一つなのだ。
「《
『ミックスレイド』、二体のペルソナを同時に召喚し、その能力を掛けあわせる事で発動するスキル。
それは古今東西、あらゆる平行世界のペルソナ使い、力の管理者達でさえ至る事の無かった、『彼』を究極のペルソナ使い足らしめる、その絶技。
今回発動した《紅蓮華斬殺》は、『ジークフリード』と『アレス』という共に武芸に通じた英雄二人が、八大地獄の1つ
《ヒートライザ》と《チャージ》によりさらに高められた威力で以て、エリザベスを攻撃する。それでも、エリザベスは倒れない――――
『思った通りのその強さ……! 私、大変嬉しく思います。どうぞそのまま、御遠慮なさらず、殺すつもりでお出で下さいませ』
「……っ」
そのエリザベスの物言いに、理は小さな舌打ちを一つする。彼女がこの状況を心から楽しんでいるのだと伝わり、彼にはそれが面白くないのだから。
今、理と共に在る、有里湊にとってエリザベスとは、特別な関係にあった大切な存在であった。
大型シャドウ、湊の記憶と魂の片鱗である『オワリノカケラ』。そのいくつかを取り込んだ理も湊の記憶を共有できている。尤も、取り込んでいるのが『愚者』から『皇帝』までの5つである為、未だ穴だらけであるのだが。
その中に居るエリザベスという女性は、まぁ何と言うか、変な女性だった。絶世の美貌を持ちながらも、それに反して行動は奇想天外、支離滅裂、傍若無人。彼女にせがまれ、共に街中を巡った中で、それは遺憾なく発揮されていた。
しかし、そんな奇天烈な交流であっても、彼らは心を重ね合わせていく。
……だからこそ、『有里湊』は――――
「く……、おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
『さぁ! 参ります!』
◆
「……これが、結城さんの《忍転身》の能力なんでしょうか?」
ぽつりと漏らされた斑鳩の疑問は、ある意味では正解だった。
結城理が覚醒した変身術《
極限にまで鍛え上げられた『身体』。それは例えるならば、レベル、
さらなる高みへと至った『武芸』。元よりあらゆる武器格闘を心得ている彼だが、その技術はさらに洗練されている。
聡明な頭脳からなる『戦術論』。あらゆる戦況を見通し、如何なる状況からも勝利を掴みとる。
そして『ペルソナ』。数多の
そうして得た戦闘能力は、〝こちら側〟の忍にも比肩、或いは凌駕するのだ。
「理屈はよく分かんねぇけど……、コイツが結城の全力って事か? これなら……!」
戦況を見守っている葛城からは、思わず期待する声が漏れる。確かに彼女の言う通り、今の理ならばエリザベスを斃す事も出来るかもしれない。だが――――
「……駄目っ!」
その予想を、雲雀が覆す。
雲雀は頭を抱え、首を振り、しきりに「駄目、駄目」と繰り返している。顔色は真っ青になり、冷や汗が絶え間なく流れているという尋常でない様子だ。
「雲雀、どうしたんだ? あの結城が、このまま負けるというのか?」
柳生など駆け寄って介抱しつつも、その言葉を思わず否定する。彼女自身、理が負ける等微塵も考えていないという、信頼の表れが有るのだ。
だからこそ、その言葉を発したのが雲雀であっても信じられなかった。果たして、雲雀の『華眼』は、何を
「……アレは、結城さんのあの力は、結城さんのモノじゃないの……」
雲雀はゆっくりと語り始める。理が覚醒したスキル《転生》、その危険性について。
「ひばりにもよく分からないけど……、アレは忍転身でもペルソナでもない、もっと別の『力』だよ」
彼女に発現した、瞳術『華眼』。人を操る眼にして、心を見抜く瞳、《
『結城理』という人間に降魔した『有里湊』の魂。二人は平行世界の同位体なれど、しかし決して同じ存在ではない。
今でこそ理は湊の力を上手く扱えている様に見えるが、このままではいずれ破綻してしまうのが雲雀には理解できたのだった。
「そんな……!」
「け、けどどうすんだよ!? 今の結城の力じゃなきゃ、あの化け物を斃せねーんだぞ!」
破綻とはすなわち、結城理の人格の消滅。元より理の肉体は、湊の復活の為の依代としてエリザベスが選んだのだ。そんな展開は彼女の望むところだろう。
尤も幸いにして、エリザベス自身は彼との戦闘に夢中になっており、時間稼ぎと言った戦法を取っていない様ではある。だからと言って、事態が好転する訳でもないが。
だが、それでも――――
「……信じるしか、ないだろう」
柳生は、絞り出すようにして告げる。
「元よりオレ達は、もうあの戦いに加わる事は出来ない。力も、ペルソナも、あの二人に及ばないからだ」
彼女は本当に悔しそうに語る。それだけではなく、既に余力を使い果たしている少女達では、戦闘に参加できないのだ。
理の助けになれないことが、飛鳥を助けるのに手を貸せないことが、堪らなく悔しい。それは彼女だけでなく、その場に居る全員の共通認識だ。
そして何より――――
「あの二人にはきっと、譲れない『信念』が有る、だから戦っている。……それに横槍を入れるなど、オレには出来ない」
「「「…………!」」」
斑鳩が、兄の為に飛燕に相応しき忍で有ろうとするように。
葛城が、両親の為に絶対なる強さを追い求めるように。
柳生が、亡くなった妹の為に約束を果たそうとするように。
雲雀が、家族の為にその眼を使いこなそうとするように。
信念、すなわち『心』の強さとは、大切な誰かという『絆』の為にこそ発揮される。
理とエリザベス、あの二人の強さも、その『絆』の為に有るのだろう事が、少女達には痛いほど理解できる。
「……だから、勝つんだ結城!」
「っ、ああ! そうだぜ、負けたら承知しねえぞ!!」
「勝って、結城さんっ!」
「結城さん、勝って下さい! 飛鳥さんの為にも、貴方の為にも!」
だから少女達は、既に何ヶ月もの交流を通じて知り得た『結城理』という少年に全てを託した。
二人の信念がぶつかり合う、この決闘を。
少女達の大切な仲間である、飛鳥の命を。
勝負の行方は、まだ分からない――――
◆
「《
エリザベスが見せた一瞬の隙を付き、理は再びミックスレイドを発動する。
彼の傍らには二体のペルソナ『タケミカヅチ』と『トール』が召喚されており、共に雷を司る神である彼ら二柱によって、強力な電撃属性魔法の行使を可能とした。
天へと向けて掲げられた理の手の先には雷太鼓が浮かび上がり、其処から幾重もの雷撃が迸る!
『く、あああアアアアアアァァァッッッ!!!』
『トール』が持つ《電撃ハイブースタ》により強化された《雷神演舞》は、『シャドウ飛鳥』の強力な魔法耐性をも貫いてエリザベスに多大なダメージを与える。
それだけにとどまらず、この攻撃は相手を確実に【感電】状態にする特性も有り、それによってエリザベスの動きを封じようとしたのだが――――
『アア……ァ、あ、アハハハハハハッ!』
「っ?!」
エリザベスは、笑う、哂う、嗤う――――
『ハハ、ハァッ……、ハァッ……! 素晴らしい、素晴らしいですわ! この強さ……、それこそが私が求めた貴方の証ッ!
もうすぐ、もうすぐ貴方を取り戻すことが出来る!
ですが……まだ、まだ足りない……! 貴方の強さはまだまだ上が在る! 4つの試練を乗り越えた貴方ならば、残りの試練をも達成し、さらなる高みへと至れる筈なのですから!』
「あの大型シャドウの襲撃は、そういう意味も……!」
そのエリザベスの言葉により、理は理解する。かねてよりの疑問であった、定期的に襲来する大型シャドウ『オワリノカケラ』、その存在意義を。
結城理を
そして『
しかし、何故それが大型シャドウというカタチを持って、理達と戦わせる事になるのかが分からなかったのだ。
だがそれは、彼の成長を促すモノでしかなかったという無常。その程度の『試練』さえ打倒できなければ、自身の下へと至る資格は無いというエリザベスの傲慢。
これまでの大型シャドウ襲撃の真実とは、ただそれだけであったのだ。
狂気――――ただ、そうとしか言い表せない。エリザベスのその言葉には、完全な狂気が含まれていた。理はそれに恐怖する。そう言った感情を忘れかけて久しい彼がだ。
そうして恐怖して、戦慄して、畏れて、その後に彼が抱いた感情は――――『怒り』だった。
「『……ふざけるなよ、エリザベス』」
そう憤りの声を上げるのは理ではなく、彼の中に居る『有里湊』。
「『未だ記憶が揃っていない僕でも解る。……僕はあの選択を、あの結末を――――
湊はその手に『召喚器』を、かつての『契約者の鍵』であり、〝こちら側〟で唯一無二の〝向こう側〟の物品となるそれを握りしめながら、血を吐き出す様に吐露する。
「『死んだ人間は生き返らない、それが当たり前なんだ。……そうでなければ、僕と仲間達が辿った軌跡は、本当に無意味になってしまう』」
紡がれる言葉には果たして、如何なる程の激情が籠められているのか。
昏く濁るその銀灰色の瞳は、一体どれ程の絶望を観てきたというのか。
異なる世界の身体に宿るその魂は、どのような死を迎えたというのか。
「『なのにキミは、どうあっても僕を蘇らせようとしている。……そんなこと、僕は望んでなんかいない。キミにそんな愚かな事をして欲しくもない!』」
湊は大声でエリザベスを怒鳴りつけ、彼女の思想を否定し、拒絶し、そして断罪する。
「『目を覚ませエリザベス! 僕と共にいたキミは――――、其処まで弱かったのかッ!』」
『っ!』
有里湊は、目の前に居る『シャドウ飛鳥』、引いてはエリザベス自身を、
その言葉こそが、エリザベスを動揺させて動きを封じた。そうして、彼の次なる一手へと繋げる事になる。理は二体のペルソナを引き連れ天へと跳躍し、新たなミックスレイドを発動させる!
「シヴァ、パールヴァティ! 《アルダナ》!」
戦況を見守る少女達は次の瞬間、まるで太陽が出現したかのように錯覚した。それは理を中心にして現れた、燃え盛る巨大な炎。真夜中の影時間・影結界の中さえも明るく照らす、生命の権現だ。
結城理によって召喚された二体のペルソナ、インド神話の破壊神『シヴァ』、その正妃神『パールヴァティ』。理の背後に浮かぶ彼らは重なり合う様にして融合し、その姿を新たなるペルソナ『アルダー』として昇華させる。
神話において完全なる神『アルダナーリーシュヴァラ』ともされる『アルダー』は、その力で以て世界や万象の創造をもたらすとされる。 今現出させた
「――――行け」
太陽の中心で理が指示すると共に、炎はまるで龍、或いはプロミネンスの様にカタチを変貌させ、エリザベスに喰らい付こうとする。
対してエリザベスは【感電】、そして自失状態から立ち直ったのか、臆することなく《アルダナ》に立ち向かうのだった。
『……違う、私は――――ッ!?』
そんな悲しげな声と共に、迫り来る炎の龍を《ムラマサコピー》で切り払う。しかし同時に、困惑の声も漏らした。
『はあっ!』
無理もないだろう、《ムラマサコピー》によって切り払われた炎の先に、
その武器の向かう先は『シャドウ飛鳥』の胸部。
元より、エリザベスの干渉により飛鳥とシャドウとの結合は緩まっている。後はそれを、物理的にも切り離せばいい。
無論、それを容易く通す彼女ではないだろう。これまでの戦闘で、《ムラマサコピー》による驚異的な近接戦闘能力を理は思い知っている筈だ。それ故に、急な突貫攻撃に転じた
案の定、迫る
『っ、そんな単調な攻撃など――――ぁ……』
……しかし、その光景に誰もが眼を疑う。エリザベスは
今の今まで苛烈な攻撃を繰り返していたからこそ、目撃者である少女達はエリザベスの行動を信じられない。一体、何が彼女の動きを制したというのか。
「……あれ」
最早呼吸までもが億劫になるほどの異常な空間の中で、最も初めに声を出せたのは雲雀だった。震える指で指し示すのは、
そうして
何故なら其処には、
「……あれは、さっきまで結城さんが使っていた『力』そのもの。それを結城さんは、ペルソナとして召喚した――――」
やはり彼女の『華眼』は、的確に状況を捉えていた。震える声でエリザベスを貫いた
雲雀の解説通り、今エリザベスを貫いた
『ふっ!』
『ぐッ!』
そして、ペルソナ『有里湊』はその手に携えた苦無二刀を滑らせるように奔らせ、今度は『シャドウ飛鳥』の両腕を切断し《ムラマサコピー》を封じた。
エリザベスは呻き声を上げながらも、何とか『有里湊』を突き飛ばす。しかし、もう既に遅い。甚大なダメージを受け、武器さえも失ったエリザベスは最早成す術がない。
そうして最後の止めの一撃は、理へと委ねられる――――否、湊が委ねたのだ。
『……エリザベス、キミを止めるのが僕の役目だけど、
ペルソナと化した湊は、ダメージを受けたことによりその身体を霧散させ、理の心の海へと還っていく。その中で彼は、エリザベスにゆっくりと語り掛けた。
彼女は既に満身創痍で両腕を失いながら、それでも彼を求めようとする。最早みっともなく見えてしまうそれは、それでも譲れない『信念』がある事の証である。
だがここまでだ。伸ばした手が届く事は無く、彼女の願いは叶わない。
『……後は任せたよ、理』
「……ああ」
理は
そしてエリザベスへと向けて、湊は最後の言葉を告げる。
『……エリザベス、キミはきっと、ここで負ける事になっても僕の事を諦めないだろう。キミはそういうヒトだったのを、僕は覚えている』
そんな中で、理はふと考える。彼自身、湊がエリザベスに何を見出したのかはそれ程理解した訳ではない。
『有里湊』はペルソナというもう一人の自分と云えど、人格も記憶も別である以上、それはもう一人の自分ではないのだから。
あくまでも湊の想いは湊だけの想いであり、理はそれに干渉する事を良しとしないでいた。
それでも、ただ一つだけハッキリとわかる事がある。
『……だけど、キミがどんな手段で以て来ようと、僕がそれを止める。僕が此処に居るという『奇跡』は生き返る為じゃなく、きっとその為に有る』
これから先、どんなことがあろうとも有里湊は、エリザベスを止めるために結城理に力を貸すだろう。何故なら彼は――――
『僕は、キミの
『
そうして、湊は再び理の方を見上げ、小さく呟く。
『……そう、理にもきっと――――』
そんな言葉を残して、彼は理の心の海へと還っていった。
視点は理の方へと戻る。エリザベスを攻撃し、中に取り込まれた飛鳥を救う為、今だ慣れない《チャクラの具足》を駆使し、彼は翔ける。
しかしながら、飛鳥を救うには少々手古摺りそうだ。今の理は武器を喪失し、《転生》の補助も消え、余力も左程残っていない。そのくせ、エリザベスはまだ足掻こうとする様だ。何処までも彼を想う故だろう。
それでも理は止まれない。エリザベスの湊への譲れない想いが相手ならば、此方とて飛鳥への譲れない想いが存在する。湊にさえ託せない飛鳥の救出という大事な役目を、此処で失敗する訳にはいかない!
「……エリザベス、これだけは言っておくよ。俺は俺だ。『結城理』で、『有里湊』じゃない」
放たれる魔法の乱れ撃ちを躱しながら、今度は理がエリザベスに語り掛ける。それは彼女を知る湊の言葉ではなく、此処に生きる結城理としての言葉だ。
「……俺はこの力を、この命を、彼女達の為に使うと誓ったから、此処で
淡々とした口調ながらも、その言葉には強い想いが含まれている。
それは嘗て『
今この時までに、少女達と紡いだ心の在り方。
「飛鳥、斑鳩、葛城、雲雀、柳生――――『忍』という在り方から、俺はそれを教わった。それこそがきっと、俺の『正義』なんだ。……だから――――」
少女達『忍』が掲げる『正義』というモノを、高々己如きが言うべきではないのかもしれない。
それでも、この想いは間違いなく、少女達との出会いによって得たのだから。
理は、高らかに告げる。
「――――結城理! この胸の『正義』を、舞い謳う!」
その前口上は、少女達にあやかって紡がれた、結城理の正義の宣誓だ。
今此処に『結城理』という一人の人間が、己の正義というその想いのまま、飛鳥という少女を救うという宣言だったのだ。
……だからこそ彼■は、
「『■ュージョ■■ランス、リブ■■トアー■』」
それは果たして、如何なる力であるのだろう。少女達の見ている中で、理の纏う雰囲気はまたしても変わる。それも、忍でもペルソナでもない、全く異質な物。
しかしその能力は、彼の手の中へと得体の知れぬ力が収束し、新たなカタチを織り上げるという、嘗て葛城が理へと提案した『ペルソナの武器化』の筈だ。
理の手には、そうして
「あれは……、『
事の次第を見守っていた斑鳩から疑問の声が漏れる。彼女の言う通り、理は器用さと長年の経験を駆使し、様々な武器を使いこなすことが出来る。刀剣や徒手に始まり、槍、斧、弓、等々だ。
だが、少女達は理との訓練の際、薙刀という武器を使ったのは見たことが無かった。強いて言えば槍に近いが、それでも使い方は違う筈だ。何故彼は、あのような武器を使うのだろう?
そして、その薙刀の形状も特異だ。虹色の羽根飾りという煌びやかな装飾が施されている。その銘を『
「『《
弁座上、彼■が獲得したこのスキルの名を、《
ペルソナがその身に
ただ一つ確かな事は、この能力によって彼■は、『シャドウ飛鳥』を貫く武器を手に入れたという事だった。
「『やあッ!』」
気合一閃、彼■はそんな掛け声と共に孔雀御前を『シャドウ飛鳥』の胸に突き立て、振り抜く。切り開かれて中身を曝け出し、その中に躊躇う事無く身体を突っ込んで、彼■は背部から飛鳥を抱えて飛び出す。
「『うん、バッチリ♪』」
そんな、理らしくない、
※決着ではありません、もう一話続きます。長げぇ……(ゲンナリ
今話でまたしても新たなスキルを獲得する理ですが、そろそろご都合主義感が強くなってきたと思う。なので、これ以上強化される事は無いです(多分)。
それと、理も前口上を言う様になりました。今回は半蔵学院バージョンで、
「結城理! この胸の『正義』を、舞い謳う!」
こんな感じになりました。そして、前口上は蛇女と月閃、それぞれの学校バージョンも作る予定です。忍としての偽名も必要かな?
今回は『
~スキル解説~
・《
備考:結城理が覚醒した謎のスキル。ペルソナがアイテムを産み落とす《
尚、発動の際に理の人格が変わり、瞳の色も紅くなるという現象が起きているが、詳細不明。果たして、このスキルの正体とは――――
まぁ、同会社の某作品のアレな能力なんですケド。何故この能力が理に使えるのかというと、ヒントだけ出すならば、『神郷結祈』で。……ほぼ答えだコレ!
《
その次回も何時になるかねぇ……