ペルソナカグラ FESTIVAL VERSUS -少年少女達の真実-   作:ゆめうつつ

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 ペルソナ5をクリアしたので、展開に合わせてイブに投稿しようかなー? と思ったけどネタバレになりそうなのでボツに。そもそもやっぱり時間掛かってるんだから……

 そして今回の内容は『シャドウ飛鳥』との決着――、ではなくその合間の説明回&覚醒回。こんな内容で大丈夫か? 大丈夫じゃない、問題だ。


27話 覚醒

 ――――ペルソナは、心の力だ。

 

 そしてシャドウとは、ペルソナと表裏一体の存在。両者の違いは、ただその力が制御出来ているか出来ていないか、その程度の差でしかない。

 故に、今ペルソナ/シャドウの力を露出させている飛鳥は、理からの膨大な力を浴びたことにより、彼の(ペルソナ)へと触れる。

 結城理の想いを受けた飛鳥はその奔流に呑まれ、彼の過去の記憶を覗き見る。……覗き見てしまう――――

 

(……此処は――――?)

 

 ()()が居たのは、何処かの橋の上。ふと視線を向ければその先に、大破した乗用車から出火した紅蓮の炎に照らされ、アスファルトの地べたに座り込んだ結城理が居る。

 まだほんの幼く、6~7歳程度であろう少年の姿をした結城理――飛鳥はそこで、この光景が過去の記憶であると気付いた――は、しかしその身体は血に塗れ、眼には現在の彼と変わらぬ絶望を宿し、生きる意志を失ってしまっている。

 それは何故か? 飛鳥は思う、この光景こそが、結城理の精神性を決定付けた瞬間、彼の人生を変えてしまった『十年前の事故』の場面であるのだろうと。

 

(……なら、()()()は?)

 

 そして、この場にはもう一人の存在が有る。地面にへたり込んでいる理の目の前には、一人の女性の姿があった。

 炎に照らされ浮かび上がる容姿は、まるで精巧に出来た人形のように美しく、人間離れしている。銀髪のボブカットに青い帽子をかぶせ、青いノースリーブのワンピースを着込み、腕には青い手袋を嵌め、その手で一冊の大きな本を抱えている。

 そんな青一色の女性は、闇の中でも一層輝く黄金の双眸を持ち、ゾッとするような妖艶さを備えていた。

 そして何よりも特徴的なのが、彼女の背後に浮かぶ『死神』。黒衣を纏い、手には鋭い直刀を携え、鎖で繋がれた九つの棺桶を背負っている。

 それは一見してペルソナともシャドウとも付かぬ不気味さと破滅さを湛え、直視した物に容易く『死』のイメージを浮かばせるだろう。事実、この『死神』を眼にした()()は、完全に体が硬直してしまっていた。

 

「――――ようやく、見つけました……」

 

 青の女性は口を開く。その声に含まれる感情は、喜悦であり、歓喜であり、心底待ち望んでいたという悦楽の色。しかしその眼は、目の前に居る筈の結城理を捉えていない。少年の彼を通して、此処に居ない誰かを見据えている。

 

「幾星霜の時を超え、数多の次元を渡り、無数のあなたと出会い――――、遂に見つけ出しました。『彼』の復活に相応しき依代、()()()()()()()()を」

 

 女性が呟いた言葉の意味など、飛鳥には分からない。ただ解るのは、何か途轍もなく不味い事が起ころうとしているという事だけだった。

 

「同じ身体、同じ精神、同じ魂、……そして、同じ『経験』。この依代こそまさに、『彼』を馴染ませるに相応しいでしょう」

 

 そうして女性が差し出した右掌の上に、彼女が召喚していた『死神』のペルソナが青い炎となって集まっていく。その今にも消えてしまいそうな小さな揺らぎこそが、彼女の言う『彼』の魂なのだろうか。

 女性はその魂を持って、幼い結城理へと近づいていく。おそらくその『魂』を、理の中へと封じる為に。だが、今の彼の中にはれっきとした彼自身の魂が有る筈だ。そうなってしまえば、果たして結城理の魂は――――

 

(そんなの駄目ッ、結城くん! 動け、動け、動け――――!)

 

 飛鳥は、動かぬ体に動けと叱責する。無意味だとは分かっている。現代で理が無事な以上この蛮行は失敗したのかもしれない。それでも飛鳥は、あの青い女性を止めようとする。

 

「始めましょう――――祭儀、《英雄合体(えいゆうがったい)》を!」

 

 差し出された魂が、理の胸に吸い込まれ――――

 

「(駄目ーーーーーーっ!!!)」

「ッ!?」

 

 その時、()()の身体が動き、叫ぶ。死への恐怖を、未知への畏怖を押さえつけ、ただ、己が愛した人の為に身体を動かしたのだ。

 その声に反応したのか、女性は此方へ視線を投げ掛ける。その瞬間、彼女の手に合った『彼』の魂は、〝十三個〟のカケラへと分裂する。そのうち一つのカケラだけが理の胸の中に吸い込まれ、ショックからか彼はぱったりと倒れてしまった。残りの十二個のカケラは、女性の周りで漂っている――――

 

「……これは、それに貴女は……?」

 

 青き女性は呆然と此方を見つめ、何が起こったのか分からないといった風であった。尤もそれは、飛鳥も同じであるのだが。――――何故、過去の光景の中で、己の身体が動いたのか?

 兎に角、最悪の事態だけは避けられたようだ。()()は、ぐったりと倒れ伏している理の傍へと近寄っていく。その合間にも、女性は何かしら言葉をぶつぶつと呟き、此方を気にしてさえいない。

 

「……失敗? ――――いえ、これこそが『運命』……? 確かにこの事象は、『彼』の歩みを『再現』している……!」

 

 其処で漸く女性は何かを納得した様であり、改めて此方に向き直る。その顔に浮かぶのは、先程まで悍ましい祭儀を執り行おうとしていた等と思えぬ程に晴れ晴れとした表情を浮かべていた。

 

「ふ、ふふ……! そういう事なのですね■■■様! あなたに再び会い見えるには、嘗てのあなたと同じ道を歩まねばならないのだと!」

 

 女性は興奮した様子で、『彼』の名前を叫ぶ。しかし飛鳥には、その名前の部分だけにノイズが掛かり聞き取ることが出来なかった。そうして女性は、此方に向けて恭しく(こうべ)を垂れる。

 

「分かりました、■■■様。この依代(ドリー・カドモン)にあなたと同じ『試練』を与える事で、■■■様の復活を執り行いましょう」

 

 そうして、周囲に浮遊する十二のカケラは青い女性の意思に従い、その形を変えていく。そして出来上がったその形を、飛鳥が見間違える筈も無い。

 そこあったのは、シャドウの『仮面』。【魔術師(まじゅつし)】から【刑死者(けいししゃ)】までの十二の仮面が発する雰囲気はまさしく、あの大型シャドウのモノに他ならないではないか。

 つまり、現代において理を襲ってきた大型シャドウの正体とは、この女性の手によって差し向けられた■■■の魂の片鱗『オワリノカケラ』であったのだ。

 

「残り十二の『オワリノカケラ』を全て取り込んだとき、■■■様はこの依代(ドリー・カドモン)を新たな肉体として蘇る。今はその時を待つ事にしましょう」

 

 その物言いから、恐らくこの女性は理の事を只の生贄程度にしか考えていない。結城理の事を見据えてはいても、その眼は理を通して『彼』に注がれているのが飛鳥にはありありと分かる。

 ()()はその視線から守る様に理の身体に覆いかぶさり、目線は女性を睨みつける。大した意味は無いだろうが、それが ()()に出来る唯一の抵抗だった。其処で女性は彼女に興味を移したのか、その黄金の瞳で此方を見据えてくる。

 

「ああ……そういえば貴女も居ましたね。嘗ての世界では存在しなかったイレギュラー。とは言え、未来において貴女もまた、この依代(ドリー・カドモン)の力となるだろう存在。運命に導かれたのなら、貴女とも再び会い見える事になるでしょう」

 

 青き女性は、謳う様にして言葉を紡いでいく。その様はまるで高尚な演劇の様に美しく、同時に人々を絶望へと貶める呪詛の様でもあった。

 

「では、十年後の約束の日まで、御機嫌よう――――」

 

 そう言って青き女性は踵を返し、闇の中に消えていく。()()は、その後ろ姿を呆然と見つめることしか出来ない。

 これが、結城理の運命を決定付けた『十年前の事故』の真実。その片鱗を知った飛鳥は打ちのめされていた。

 

(……こんなの、酷過ぎる。結城くんが、誰かの為の生贄だなんて――――)

 

 そうして、絶望に沈みそうになる飛鳥の心を反映するかのように、周囲の景色が薄れていく。どうやら此処で記憶が途切れ、飛鳥は現実へと回帰する様だ。

 浮上するような感覚の中で、飛鳥は無理やりに意識を切り替え、迎えるであろう決戦に向けて覚悟を決める。

 

(……兎に角今は、私のシャドウを速く――――)

 

 しかし、その覚悟すらも無為にする存在が居るのだ――――

 

『――――なるほど、ペルソナ能力のぶつかり合いによって発生する記憶の共有、大変興味深い事例です』

(えッ?!)

 

 突如として聞こえてきた声に、飛鳥が狼狽えるのも無理はない。此処は正に飛鳥という少女の『意識と無意識の狭間』、其処に彼女以外の何物かが存在できるなど、想像出来る筈が無い。

 

(……いや、違う! この人は、私に干渉してきた事件の犯人! だったら、私の意識の中に入り込むなんて――――)

『そう、この私にとっては造作も無い事』

 

 同時に、自身の心が掌握されるという悍ましい感覚を感じながら、飛鳥の意識は再び闇の中へと落ちていく。言うまでも無くこの存在の仕業だろう。飛鳥へと再び干渉を施す心算の様だ。

 

(どうして……こんな!?)

 

 喪失しそうな意識を必死で手繰り寄せながら、飛鳥はこの存在――おそらく、『十年前の事故』にて理へと干渉した『彼女』なのだろう――へと問いかける。

 

 何故、飛鳥という少女へと干渉したのか。

 

 結城理を贄として、■■■という存在を復活させるという事に飛鳥は納得も賛同も出来ないが――理解は出来る。他の何者をも犠牲にしてまで誰かへと捧げるその『想い』を、彼女は決して否定出来ない。否定させない。

 その想いは、飛鳥自身もまた結城理へと抱いた想いと同一であるのだから。

 

『――――だからこそ、なのですよ。その想いこそが、私達を繋いだのですから』

 

 しかし、真実は残酷だった。彼女が言うには、飛鳥が理へと抱いた想いが、彼女が■■■に抱いた想いと共感し、干渉の隙を創り出したのだという。

 確かにそれは繋がりとはいえど『(コミュニティ)』と呼べるモノではなく、『共犯(コープレーション)』と呼ぶべきモノであり、飛鳥に許容できる筈が無い。

 尤も、そんな違いなど彼女にとっては些末事だ。所詮飛鳥は■■■復活の為の手駒に過ぎず、今こうして語り掛けているのも、その働きに対しての応答という気紛れから来る要らぬ御節介に過ぎないのだから。

 

『さて、無駄話はここまです。このまま貴女の眼を、貴方の心を通して、彼の行く末を見定めるとしましょう』

(ッ! や、め――――!?)

 

 彼女の宣言と共に、飛鳥への干渉の強さが一層増す。精神が侵食される、心が侵される、魂が掌握される。それこそ、飛鳥には抗えない程に。飛鳥の意識など、一欠けらも残さないとばかりに。

 

(う、ぁ……! 嫌、だァっ?!)

 

 消えていく、堕ちていく、死んでいく。『飛鳥』という存在が、消失していく――――

 

(たす、け……、みんな……)

 

 最後に思うのは、心から焦がれる、その人だった。

 

(……結城、くん――――)

 

 

     ◆

 

 

「――――ぐっ……!?」

 

 理は、少女達は、必死に呼びかけていた。飛鳥を取り戻す、ただそれだけの為に。

 しかし、オルフェウスの旋律によって確かに繋がれていた筈の彼女との繋がりが、突如として断ち切られる。

 召喚されていたオルフェウスは掻き消え、強制的な断絶による精神ダメージを受け、理は堪らず膝を付く。その傍に慌てて駆け寄ろうとする斑鳩達だが、彼はそれを手で押し留める。

 

「何か……変だ、多分……また、干渉が……」

 

 途切れ途切れに紡がれる理の言葉を受け取り、斑鳩達は『シャドウ飛鳥』の方へと向き直った。そこには、先程までオルフェウスの旋律を聞き、悶えていた姿は無い。だらりと両腕を下げながらも、超然とした様子で佇む『シャドウ飛鳥』が――いや、アレは本当に飛鳥の(シャドウ)なのだろうか?

 そういった疑問を抱いた少女達だが、理は違う。彼は正しく、アレが飛鳥ではないという事に気が付いている。最早何度目になるのかもわからない、何者かによる飛鳥への干渉。今回またそれが行われ、彼との繋がりを断ち切ったのだろう。

 やがて、『シャドウ飛鳥』が――否、その暴走を促した『彼女』が、理達に語り掛けてくる。

 

『ああ……素晴らしいですわ!』

「……何?」

 

 それが先ず告げたのは、罵倒でも、恨み辛みでもなく、称賛だった。まるで場違いなその言葉に、理達は困惑する。

 

『まだ4つとは言え、私の力に抗ってくるその力――――それこそが、待ち望んだ『彼』の復活の兆し!』

「っ、馬鹿を言うな!  ()は――――ッ?!」

 

 発した言葉の真意は斑鳩達には分からなかったが、理には理解できた――否、彼自身がその言葉を発した事に驚愕し、自分の口を押えている。

 

『フフ……大分馴染んできた御様子。それでこそ、貴方に試練(ヴィジョンクエスト)を施した甲斐が有ったというモノ』

 

 その言葉の意味はやはり斑鳩達には理解出来ないが、理には通じたようだ。飛鳥との繋がりを感じた際、彼もまた『十年前の事故』の詳細を思い出しており、目の前の存在が何者であるのかを彼はハッキリと認識していた。

 それと同時に理は、飛鳥と同じ様にペルソナ・シャドウの接触を通じて、彼女の過去、暴走までの経緯、そしてその感情の正体を掴み取っている。

 城理という少年への、助けてくれた事による一目惚れの様な『愛情』、結落ちこぼれという劣等感から来る『憎悪』。そうした相反する二つの感情は『愛憎』として、『シャドウ飛鳥』となって暴走した。

 ……それら全ての原因は、今眼の前に在る――――

 

「……飛鳥を、どうしたんだ?」

 

 絞り出すようにして漏らされた理の吐露は、その場に居る全員の疑問を代弁していた。先程まで存在していた『シャドウ飛鳥』の意識は、暴走こそしていたものの飛鳥の側面であることは変わりない。

 だからこそ、今こうして『彼女』が此方へと語りかけている以上、飛鳥へと何かしらの干渉が行われたと彼ら全員が考えるのは、当然の事だった。

 

『ええ、彼女はまだ此処に居ますよ』

 

 『彼女』はそう言って、右手で胸を――刃に変化した腕である為、傍目にはかなり危ない――示した。だが、彼らが安堵したのはほんの一瞬の事。今『彼女』は、()()と答えたのだから。

 

「まだ、ですって? ならば、飛鳥さんは――――」

『無論、このまま私をこのシャドウの器に宿したままならば、彼女の意識は掻き消える事になるでしょう』

「なッ?! テメェ何言ってやがる! さっさと飛鳥から離れやがれ!」

「……同感だな。様は、コイツを叩きのめせばいいのだろう!」

「飛鳥ちゃんを返してっ!」

「っ、止せッ!」

 

 つらつらと、まるで何でもない様にとんでもない事をのたまう『彼女』に対し、少女達は激昂する。

 まずは率先して葛城が飛び出し、それに追随するように柳生、雲雀、斑鳩が飛び出す。対して理は動かず、彼女達を制しようとした。

 ……だが、もう遅い。少女達は気付かず、目を背けていたのだ。この『彼女』が、『シャドウ飛鳥』とは比べ物にならない程のバケモノであることを――――

 

『――――貴女達に、私と戦う資格はございません』

 

 冷たく、『彼女』は宣言する。そして『彼女』の意に従い、白色に輝く三つの光球となって、彼女達の上空で膨大な力が収束していく。

 

「……これはッ?!」

 

 それは、神の炎たる万能なる魔法。最終戦争(ハルマゲドン)にも匹敵する火力で以て敵を一掃し終焉(グランドフィナーレ)を告げる、『彼女』の最大最強のスキル。

 激情から飛び出した斑鳩達もその圧倒的なまでの威力に一気に顔色を青くさせ、一斉に反転して逃走態勢に入るが、最早間に合いはしない。『彼女』が宣言したとおり、この攻撃は少女達が己に立ち向かう資格が無い事を示す為の攻撃であるのだから。

 

『いざ――――、《メギドラオン》でございます――――!』

 

 三つの光球が混じり合い、膨張し、地面に落下する。その内に蓄えられたエネルギーは周囲へと拡散し、その一切合財を焼き尽くす。

 それは勿論、少女達も例外ではない。塵すら残さず消滅する事になるだろう。そんなことが理に許容出来る筈が無い。だが、今の彼にこれを防ぐだけの力は無いのだ。

 

 ――――そう、()()()には。

 

『……遅かったね、長い間キミを待っていたよ――――』

「ッ?!」

 

 目の前の光景がスローモーションの様に流れていく中、突如として理の脳裏に謎の声が響き渡る。

 いや、それは謎などではない。激しい頭痛と共に語り掛けてくるその声は、理の声と同一の声色で有り、自分自身の内に在る〝もう一人の自分〟の声であるのだ。

 声は再び語り掛けてくる。『諦めるのか?』と。

 

「……っ、諦めるワケ、……ないだろう――――!」

 

 理は吼える。そう、諦められるワケが無い。今此処で諦めれば、彼女達は死ぬ。

 即ちそれは、彼女達と築いた絆は無意味となる。彼女達と得た戦果は無駄となる。彼女達が歩んできた人生は無価値となる。

 そうすれば、これまでしてきた事は、一体何だったというのだ。

 

『だったら、抗うんだ。ここから先に進むなら、此処に契約を――――』

「ぐっ、……そんなの、言われるまでも――ァ、ぐぁッ?!」

 

 内なる声に従い、反逆の意思を高めれば高めるほど頭痛は酷くなる。こんな状況でなければ、地面でのたうち回っていただろう。

 

『尤も、キミは既に契約をしていたよね。〝我、自ら選び取りし、いかなる結末も受け入れん〟って』

「それは……あの時の、契約書……っ! キミが……!」

『確かに、時は全ての物に結末を運んでくる。たとえ目と耳を塞いでいても――――』

「……だけど――――」

 

 それでも、理は膝を屈しない。己の二本足で立ち、目の前の光景を見据え、砕けぬ意志を持ってこそ、この逆境に抗う資格が与えられるのだから!

 

「――――このまま、終われないッ! それが俺の『選択』だ!」

『……そうだね』

 

 そんな理の宣言と共に、彼を苦しめていた頭痛が消え去る。そうして彼の内に、新たな力が宿る。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ……自分の中の、何かがハジけた――――

 

「『――――《インフィニティ》』」

「え?」

 

 もはやこれまでと諦めかけていた少女達の前に、不可視の障壁が展開される。それは、全てを焼き尽くす筈の神の炎ですら阻み、斑鳩達の命を救った。あまりの事に命が助かった事よりも、困惑の方が勝る斑鳩達であるが、振り返って理の方へと眼を向けた時、その困惑はさらに加速するのだった。

 

「……結城、さん?」

「いや……、誰だ?」

 

 其処に居たのは、結城理であって結城理ではなかった。

 姿形は同一だが、纏う雰囲気が圧倒的に違う。雲雀の《華眼》に頼るまでも無く、誰もが目の前の存在を〝異質〟であると断じる。

 圧倒的に、根本的に、絶対的なまでに、『彼』はそういう存在であるのだと、彼女達は理解したのだった。

 

「『……()()()()()――――』」

 

 『彼』は唐突に、その名を呼ぶ。結城理の身体を用いて紡がれたその言葉に込められた感情を、彼女達は窺い知る事は出来ない。

 対して名を呼ばれた『彼女』、エリザベスは猛烈な歓喜を隠そうともせず『彼』の言葉を迎え入れる。そんな歪な彼らのやり取りを、少女達はただ見ているしか出来ないでいた。

 

『フフ、お久しぶりですね。私はこの時を、ずっと待ち望んでいました』

「『……()は待ち望んでなんていなかったよ。それどころか、こんな時が来るなんて思いもしなかった』」

 

 理は――否、『彼』は目の前の光景を否定するかのように、片手で頭を押さえている。歓喜の雰囲気を見せるエリザベスとは対照的に、この状況に悲観し、絶望している様であった。

 

「オイ、お前は何物だ? お前もあのシャドウの様に結城を乗っ取ったというのなら、容赦はしないぞ」

 

 その剣呑な雰囲気に呑まれぬよう、柳生は一歩踏み出て己の獲物を突き付ける。

 

「や、柳生ちゃん、駄目だよぉ……。この人は多分、そんなに悪い人じゃ……」

 

 雲雀はそんな柳生を諌めようとするが、その顔には怯えが張り付いている。彼女の《華眼》には、果たして何が見えているのだろうか。

 ……しかし――――

 

「『……大丈夫だ』」

 

 『彼』は、そんな彼女達を安心させるように、ゆっくりと吐露する。

 

()は、ちゃんとここに居る。だから、心配しなくていい」

 

 そう言って『彼』は、薄く、本当に薄く、()()。ほんの少し口角を上げるだけという、凡そ笑顔とは言えない僅かな表情の変化を見て、――――ああ、この『彼』は確かに結城理であるのだと、彼女達に気付かせるには十分だった。

 まるで慣れていない、少女達への不器用な気遣いの仕方。その性格こそ、ここ数か月の付き合いを通して知り得た、結城理という人間の心の在り方であるのだから。

 始めて見る、普段の理であればとてもとても魅力的になっただろうその笑顔は、少女達の胸を僅かに高鳴らせその場に縫い止める。

 そして此処から先は少女達の手出しが出来ない、『彼』の領域だ。そうして『彼』は、エリザベスと対峙する――――

 

「『……エリザベス、キミらしくも無いな、こんなやり方は。……()が知るキミは、決してこんなことをしなかったろうに』」

『…………』

 

 『彼』は何処か失望感を滲ませながら、エリザベスを貶す。『彼』とエリザベスにどのような関係があったのかは定かではないが、少なくとも『彼』の知るエリザベスは、この様な方法などを好んで行うような性格ではないのは確からしい。

 対してエリザベスも、『彼』のその言葉に返答することが出来ない様で、口を噤んでいる。そんな彼女を見て、『彼』は、ぽつりと呟く。

 

「『……一体、()()()()()()()()()()?』」

 

 その射抜く様な言葉と視線を受け、エリザベスは僅かにたじろぐ雰囲気を見せる。

 エリザベスのそんな様子を見た『彼』は合点がいったとばかりに嘆息し、再び言葉を紡いだ。

 

「『……キミは気が付いているのか? その『選択』こそが、キミを自滅へと導く事に――――』」

『……それでも私は、貴方を取り戻すのだと『選択』したのですから』

 

 二人は僅かな言葉を交わしただけで、互いの心の中を読み取った様だ。『彼』と『彼女』の心には確かな繋がり、『永劫(えいごう)』にも続く(コミュニティ)が存在するというのに、決して分かりあう事は無い。それは果たして、どれ程の悲しみであるのだろう。

 

「『……そうか。なら()は、キミを止めるという『選択』をしよう。それが()と交わした『契約』でもあるしね』」

 

 『彼』はそう呟いて、遂に戦闘態勢を取る。右手に召喚器を構え、ゆっくりと米神に押し付け、銃爪(ひきがね)に指を掛ける。

 今の理の中で荒れ狂う感覚は、かつて初めてペルソナを召喚した時とは比べ物にならない程に強い。普通にペルソナを召喚するのに必要な、迫り来る『死』を想い、受け入れ、抗うという意志だけでは、決してエリザベスに届く事はないだろう。

 しかし、今此処に居る結城理には、共に在る『彼』が居る。飛鳥を助けたい理と、エリザベスを止めたい『彼』という想い。それら調和する2つは、完全なる1つに優るのだから。

 そして、ゆっくりと銃爪が引かれる。その頭蓋を打ち抜く衝撃と共に『彼』の身体は大きくよろめき、その身体から膨大な力が放たれる!

 

「……う、おおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

 

 『彼』のその身体から放たれた力は、荒れ狂う青白い閃光となって美しく輝く。普段ペルソナを召喚する時とは比べ物にならない程の力が放出されているのだ。

 そして、その経緯を見守っている少女達からは、この力の奔流がとある現象に酷似している事に気が付いた。

 

「この感覚は……、もしや《忍転身》? ……いえ、この力はあまりに強すぎる……!」

 

 斑鳩の口からは畏れる様な声が漏れ、しかしすぐさま目の前の現象を否定する。今『彼』が行おうとしているモノは《忍転身》のような変身術に近いモノと推察できるが、その力があまりにも強すぎるのだ。

 それこそ、己の身体に莫大な負担を掛けるために禁術指定されたという禁伝忍法、《深淵血壊(しんえんけっかい)》にすら匹敵、ともすれば凌駕しかねない程に。

 

 結城理は〝向こう側〟のもう一人の自分、『彼』という根源(アートマ)に通じ、飛鳥を救う/エリザベスと戦う為の力をその身に宿す。

 無論、その身に掛かる負担など度外視の上だ。彼女を救う為ならば、いくらでもこの身を捧げよう。

 そんな、まるで神か悪魔に捧げられる贄の様に、己が身を転じるという理だけの変身スキル。

 

 その名を、《転生(アバタール・チューナー)》――――

 今の結城理は正に、〝向こう側〟に居たもう一人の自分、『有里湊(ありさとみなと)』の化身(アバター)なのだ。

 

 光が晴れたその場には、姿を一変させた結城理が立っている。身に纏うのは、先程まで身に付けていた半蔵学院の制服ではなく、別の学校の制服だ。あれこそが、今の彼の忍装束なのだろうか。

 

「あれは……たしか『月光館学院』の制服……? なぜあの制服を……」

 

 斑鳩のふと湧いた疑問に答える者はいない。その装束は〝向こう側〟に居た有里湊が着ていた衣装を再現・構築しただけだ。斑鳩は鳳凰財閥を通じて、〝こちら側〟の桐条グループ傘下に在る『月光館学院』についての知識を持っていた。

 そうして『結城理』は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。その背に新たに召喚したペルソナ、『死神(タナトス)』を従えながら。

 

()()()()――――。……約束の時だ、エリザベス――――」

『ええ! この『最強なる者』である私を、見事討伐せしめて御覧なさい! それが、嘗ての貴方と交わし、果たされなかった約束なのですから!』

 

 真夜中(マヨナカ)の月の下、今此処は彼らの闘技場(アリーナ)と化す。

 

 ……さぁ、はじまるよ――――

 




 なんやかんやで飛鳥は結局元に戻らないまま!
 遂に登場した黒幕! その名は『エリザベス』!
 彼女を前に、遂に理の真の力が覚醒する!

 三行で表せば、そんな27話でした。

 覚醒シーンがまんまペルソナ5のそれでしたね。全員のシーンがカッコいいんで、それらはこのゲーム随一のお気に入りシーンです。
 途中で出てきた『ブチッ!』画像は自分で用意しました。漫画の一コマからトレス加筆着色加工なんで大したものではないですけど。

 ~今回登場したコミュ~

死神(しにがみ)】:■■■→有里湊(ありさとみなと)
 備考:今話より隠されていた《デジャヴュの少年》の名前を解禁。平行世界の別存在と言う事で名前は漫画版より拝借。しかしあくまでも名前が同じなだけで、漫画版の彼とも別存在である。
 理と性格の差異は左程無いが、その『選択』の結末故にやや悲観的である。一人称は『僕』。エリザベスとは只ならぬ関係の様だが……?

永劫(えいごう)】:エリザベス
 備考:青一色の衣装を纏った、妖艶な美女。一連の忍学科襲撃事件の真犯人。飛鳥に洗脳を施し、更にはそのシャドウ態に憑依することで理達と接触してきた。また、飛鳥が見た理の過去の中では、幼い彼に何かしらの処置を施している。なお、〝向こう側〟の存在である湊と只ならぬ関係の様である為、彼女もまた〝向こう側〟に連なるものと思われる。

 ~登場したスキル~

転生(アバタール・チューナー)
 備考:結城理が覚醒した変身術。〝向こう側〟のもう一人の自分である『有里湊』を降魔させ、その力を身に纏うスキルである。
 いや、最早その力は『纏う』のではなく、文字通りの『転生』と言っても過言ではない。この状態の理は、元々は湊の才であるペルソナ能力を十全に扱う事が出来るようになる。具体的には、

・全アルカナ、全ペルソナ(一部例外有り)の解放
・ミックスレイドの解禁
・HPとSPの増加&全回復
・服装は『月光館学院制服』に変化
・性格は統合されており、どちらかと言えば湊寄り

 等といった感じです。

 《アバタール・チューナー》の名の通り、元ネタは『デジタル・デビル・サーガ』より拝借。アトラスシリーズの変身能力だとこれがいいかな、と。この状態の理はラスボス宜しく《ミナト・アバター》ともいうべき状態。しかし字面がなんかダサいので本文には出しませんでしたが。
 『転生』という字面はまんま『女神転生』より拝借しました。漢字の方はしっくりくる名前が見つからなかったので……。因みに、《女神転生》というスキルは既に構想に在ったり。

 当然と言えば当然ですが、勿論デメリットはあります。ぶっちゃけると、使いすぎると『強制バッドエンド』系のアレなスキルです。詳細は次回にて。

 その他諸々説明が必要そうな用語が有りそうですが、長くなりそうなんでカット。そのうち用語集を活動報告にアップする心算なので、しばし待たれよ。

 次回はこの理とエリザベスの戦闘。左程長くするつもりは有りません。派手にはしますケド。では、良いクリスマスと年末と新年を。

 あ、ペルソナ5はマジで神ゲーでした。特にカロリーヌとジュスティーヌが最高に可愛かったです。完全版が発売されたら双子&ラヴ■■■■とイチャイチャして長い夜を過ごすイベントを追加してくださいお願いします! 両方青いけどシンメトリカルドッキング(意味深なネタバレ)が出来たんだから可能な筈ッ!

 そして、ペルソナ3のコミカライズ10巻。ニュクス・アバター戦がどう見てもウルト○マンか戦隊ヒーローな件について。あんなの見せられたら、ネタに取り込む以外ないじゃないですか……!

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