ペルソナカグラ FESTIVAL VERSUS -少年少女達の真実-   作:ゆめうつつ

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24話、『柳生と雲雀の影』戦、決着です。

PC版閃乱カグラSVが発売されましたね。自分も速攻で購乳しました。まぁ、スペックが足りなくてグラボとかメモリなど増設したんですがHAHAHA! ……出費がぁぁぁ……。お蔭でおっぱいがぬるぬるなので良しとします(歪曲的表現


24話 己が必要とされる為に

『誰にも負けない忍になってね、お姉ちゃん』

 

 何の事は無い。それこそが妹の、望の願いだったはずだ。

 たったこれだけの短い言葉を思い出せないなど、果たして自身はどれ程愚かだったのかと自己嫌悪する。

 来る日も来る日も修行に明け暮れ、挫けそうになった時でも、望が居たから、この言葉が有ったからこそ、目標に向かって歩めたというのに。

 学校帰りの望が修行に差し入れ――泥団子だったが――を持ってきて、その手を引いて帰路に就く。

 そんな日常が、何時までも続いていくのだと思っていた――――

 

 ……悲劇は、何時だって突然に訪れる――――

 

 一瞬だった。間に合わなかった。鍛えた忍の技など役に立たなかった。

 道路を挟んだ横断歩道の向こう側で、望は突然スリップした乗用車に撥ねられて押し潰されて轢き殺されて。

 オレの目の前で望の赤い紅いアカイ血がちがチガ流れて溢れて零れてとまらない止まらないトマラナイ――――!!!!!

 

 ……結城の言う通り、望を失った事でオレの心は、半分死んでしまった――――

 

 しかし、妹が死んで2年ほども経てば、荒んでいた心も、望の為に泣く事も、やがてはその辛い過去を慣れて(忘れて)しまう。

 父は言った、「それは悪い事ではない」、「妹の為に流す涙が減ったとしてもそれでいいのだ」と。

 勿論オレは納得できなかった。望の事を忘れるなんて。望が消えていくんだなんて。……この眼帯は、その為に造り上げたというのに。

 

 そんな折の中で、オレは雲雀と出会ったのだ――――

 

 

     ◆

 

 

『こんな運命は理不尽すぎる』

 

 幾度となくそう思った事だろう。

 

 ひばりの家は由緒正しい忍の一家であり、戦国時代から歴史の裏にはご先祖様の活躍が有ったらしい。

 そんな家系に居ながら、ひばりは一度だって忍になりたいと思う事は無かった。沢山のお兄ちゃんやお姉ちゃんが居るのだから、その内の誰かが家を継ぎ、ひばりは将来はケーキ屋さんになろうかな、なんて思っていた。

 

 ……だけど、継承者を示す《華眼》が現れたのは、お兄ちゃんでもお姉ちゃんでもなく、ひばりだった――――

 

 でも、出来の悪いひばりが《華眼》を手にしても、家族の皆は素直に喜んでくれた。ひばりが失敗しても、同じ訓練を続けても、文句ひとつ言われない。

 どんなにドジをしても、迷惑をかけても、皆優しく雲雀を受け止めてくれる。

 

 ……違う、違う、違う! ひばりにはそれが耐えられない!!!

 

 ひばりは所詮大したことのない人間なのだから、失敗したら怒って欲しいし、駄目な所は駄目だと叱って欲しいのだ。

 そうでなければ、ひばりは本当に《華眼》の能力にしか価値が無いという事になってしまう。

 やがて、ひばりが入学する事となった半蔵学院でも、それは変わりないんだと思っていた。

 

 そんな折の中で、ひばりは柳生ちゃんと出会ったの――――

 

 

     ◆

 

 

「オルフェウス、《紅蓮刀(ぐれんとう)》!」

「秘伝忍法、《飛燕鵬閃(ひえんほうせん)壱式(いちしき)》!」

「「《大紅蓮忠儀斬(だいぐれんちゅうぎざん)》!」」

 

 斑鳩は、飛燕に理が発動した《紅蓮刀》の炎を宿し、《飛燕鵬閃・壱式》を放つ。そうして、彼との絆を昇華させ更なる威力を増した合体スキル《大紅蓮忠儀斬》により、迫り来る触手の群れを切り飛ばす!

 その神速の炎閃により、数多の触手が切り払われた事で開かれた活路を、間を開ける事無く彼らの追撃が襲い掛かる。理はすかさずペルソナを付け替え、続く葛城との合体スキルを発動させた。

 

「ジャックフロスト、《ソニックパンチ》だッ!」

「追い風は任せろ! ティアマト、《ガルーラ》!」

「「《天馬流星烈拳(てんまりゅうせいれっけん)》!」」

 

 召喚された『ジャックフロスト』は、その短い腕をぶんぶんと回し、突き出した勢いのままに、葛城の《ティアマト》が発動する《ガルーラ》という追い風を受け、一筋の流星となる。

 『柳生と雲雀の影』が持つ数々の厄介なスキルを封じるために、狙いはその肥大した醜悪な《華眼》だ。二人が発動した《天馬流星烈拳》は狙い違わずその《華眼》を打ち据える筈であった。

 だが――――

 

『ッハ、甘い! 《霧雨昇天撃(きりさめしょうてんげき)》!』

 

 迫り来る『ジャックフロスト』を迎撃する為、『柳生と雲雀の影』もまた強大な攻撃スキルを発動する。その触手の髪がうねり集まり、槍状となって、降りしきる雨を吹き飛ばすほどの勢いで飛来する。

 理はそのスキルが特大の威力を持っていることを察するが、此処で引く訳にはいかない。真正面から、迎撃する!

 

「『おおおおおおオオオォォォッッッ!!!』」

 

 だが、『柳生と雲雀の影』の《霧雨昇天撃》と、『ジャックフロスト』の《天馬流星烈拳》は一瞬だけ拮抗するが、それは『ジャックフロスト』が弾き飛ばされるという結果に終わるのだった。

 ペルソナを攻撃され、そのダメージフィードバックによって理は堪らず膝を付くが、そんな隙を逃す事無く、『柳生と雲雀の影』は彼を攻撃する。《華眼》に力が収束し、放たれる。

 

『喰らえッ!』

「させるかぁ!」

 

 しかし、葛城が理を突き飛ばすことで、その力の奔流を身を挺して庇う。だが、それは悪手だ。

 《華眼》からの閃光に呑まれた葛城は、その身体を一瞬びくりと撥ねさせると、虚ろな目で此方を睨みつけてくる――――

 

「……うへへ、おっぱい揉ませろ~い❤」

「oh……」

 

 どうやら『柳生と雲雀の影』が放ったのは、《魅了の魔眼(セクシーアイ)》であるらしい。それにより、葛城は【魅了(みりょう)】状態に陥ったのだ。

 ……陥った筈なのだが、どうにも何時もと余り変わり無い様なのは、きっと気のせいだと思いたい。

 

「ウガアアアアアアァァァ!!!」

「うおっと?!」

 

 しかし、その戦闘能力は本物だ。その身体能力で獣のように飛び掛かってこられては、さしもの理も対処に手間取る。……というか、何故男である理の方へと向かう!?

 

「くっ、結城さん、今――――」

『フン、《麻痺の魔眼(パララアイ)》』

 

 何とか二人がかりで葛城の【魅了】を解呪しようとするが、それを許す『柳生と雲雀の影』ではない。理と葛城へと気を向けた斑鳩の隙を見て、再び《パララアイ》を発動した。

 その閃光に呑まれた斑鳩は【麻痺(まひ)】状態となり、身体が動かなくなる。これでは彼女に援護の期待が出来ないばかりか、自身の身も守れない危険な状態だった。

 

「シャアアアアアアァァァ!!!」

「ああ、もう! ちょっと手荒くいくよ、葛城!」

 

 このままでは埒が明かないと、理は意を決し、強引にでも葛城を正気に戻すことを決める。

 彼女達の【魅了】や【麻痺】を解除するには、『ハイピクシー』が持つ《メパトラ》を使えばいいのだが、こうも葛城に飛び掛かられているようでは上手く狙いが定まらない。斑鳩の為にも、手段を選んでいる余裕は無かった。

 

「ハイピクシー、《逃走転移(トラフーリ)》!」

 

 この状況を打開する為、理が唱えたのは《トラフーリ》だった。本来は戦闘時の逃走用に使う単距離転移のスキルなのだが、彼にはここで逃げる気などさらさら無い。彼はある地点へと移動する為に、このスキルを使ったのだった。

 

「ゆ、結城さん? 何故、わたくしの傍に」

「斑鳩先輩、失礼します」

「あれ、そのセリフ何かデジャヴ!?」

 

 《トラフーリ》を使い、【麻痺】状態となっていた斑鳩の傍に一瞬で転移した理は、彼女の身体をひょいと抱え上げる。動けない彼女を『柳生と雲雀の影』から離すという目的が有るのだが、理の真の狙いは別にあった。

 なお、斑鳩の言うセリフのデジャヴは、以前の『葛城の影』戦のモノであり、その時は碌な結果に終わっていない。その為、斑鳩はこれから起こるであろう惨事に、【麻痺】している筈の身体が震える気がするのだった。

 

「ガルルルルル!!!」

「ちょ、結城さん!? 葛城さんがこっちに――――」

 

 そうして、理を狙って【魅了】状態のままの葛城が突っ込んでくるのだが、彼は冷めた目で斑鳩を見据え、宣言する。

 

「……囮役をお願いします、斑鳩先輩」

「そういう事ですかアァーーーッ!? あッ、ちょ、葛城さ、止めッ! あひぃっ?!」

 

 美少女二人がくんずほぐれつ。その見麗しい姿は、戦闘中という状況でなければ眼を惹いただろうが――いや、この男が興味を示すかどうかはかなり怪しい。

 事実、今でさえ理は彼女達の姿を見ているものの、その体制は召喚器を構え《メパトラ》を掛けるタイミングを見計らっているものだ。姦しい二人の情事そのものには目もくれていない。

 程なくして理は二人に《メパトラ》を掛け、彼女達の状態異常を解除するのだが、そのあまりにも鬼畜な囮作戦に二人や飛鳥は勿論、『柳生と雲雀の影』ですら引いていた。

 

『……ええい! 此処で一網打尽にしてやる! 《アイオンの雨》!』

 

 『柳生と雲雀の影』の宣言と共に、『影結界』で降りしきる雨が硬質化し、理達を襲う範囲攻撃となって襲い掛かってくる。斑鳩と葛城はその攻撃を見て、避けられないと判断し防御態勢を取った。

 だが、理は新たにペルソナを付け替え、召喚する。呼び出すのは――――

 

「来い、ユニコーン!」

 

 召喚されたのは、【女教皇】のペルソナ『ユニコーン』だ。旧約聖書やヨーロッパ伝承に登場する伝説上の生き物であり、額に万病の解毒薬となる角を持つ白馬の姿をしている。

 そして理は、召喚された『ユニコーン』に飛び乗ると、降りしきる《アイオンの雨》に向かって突っ込んでいくのだった。その姿はさながら、旧き戦乱の時代に生きた、歴戦の騎乗兵の様だ。

 

『馬鹿め、血迷ったか――――何ッ?!』

 

 そんな理を嘲笑おうとした『柳生と雲雀の影』だったが、すぐさまその表情は驚愕に取って代わる。理と『ユニコーン』は、《アイオンの雨》の中を最小限のダメージで突っ切ってくるからだ。

 降り注ぐ硬質化した雨粒を、理の矢が打ち払い、『ユニコーン』の角が弾き飛ばし、その曇る事のない視線は回避系スキル《貫通見切り》で以てして、己が進むべき道を見据えている。彼らを止める者は、この場には存在しないのだった。

 

「――――捉えた!」

 

 『ユニコーン』は跳ねる。《アイオンの雨》を突っ切り、主の攻撃を敵へと届かせる為に。

 そうして、理は弓に矢を番え、放つ――――!

 

 

     ◆

 

 

「ひばりはね、この“眼”が嫌いだったの」

 

 雲雀は語りだす。長年心に秘めてきた昏き想いを。その言葉を、柳生は黙って聴いている。

 

「人の心を操る魔眼、この力で皆をコントロールしているとしたら、ひばりは誰とも対等に付き合えないって思っていたから」

 

 《華眼》という能力を以てして彼女の家系は、先祖代々から歴史の裏で活躍してきた。だがそれは、望まずしてこの能力に覚醒した雲雀には不要なモノなのだ。彼女が常日頃からその力に怯えて過ごしていても何ら不思議ではなく、その重圧は凄まじいモノであったのだろう。その重圧に気付けないでいた柳生は、己を恥じるのだった。

 

「だからひばりは、例えシャドウの言葉でも、柳生ちゃんの本心が聞けてちょっとだけホッとしたの。この“眼”で皆を操っている訳じゃないって分かったから」

「雲雀……」

 

 柳生は彼女の安心したような言葉を聞き、しかしすぐさまその表情は沈んだものへと変わる。

 

「だが、オレの本心は聞いていた通り、お前を妹の代替品として見ていたモノだ。そんな情けない想いだったというんだぞ?」

 

 それは柳生の懺悔だ。本人自身ですら気付いていなかった――――否、気付こうとしなかった彼女の弱さであり、シャドウとなった心の一部分だった。それは勿論、受け入れられる筈が無い物だ。

 

「ううん、情けなくなんかない。それだけ望ちゃんが、柳生ちゃんにとって大切な家族だったっていう事でしょ? ……柳生ちゃんの気持ちは分かるよ、ひばりも、お兄ちゃんやお姉ちゃんの事が大好きだから」

 

 しかし雲雀は、そんな懺悔を告白する柳生の身体をそっと抱きしめ、彼女の想いに応える。

 

「……それをひばりは、結城さんの言葉で気付けたよ。結城さんは、この“眼”はひばりの力になる筈だ、って言ってくれたから。

 今なら解るよ、ひばりは《華眼》そのものが嫌いだったんじゃない。その力を使いこなせなくて、大好きな家族に応えられない弱い自分自身が嫌いだったのっ!」

 

 柳生を抱きしめる雲雀の眼から涙が溢れ出す。その涙の意味は、己への自責か、家族への謝罪か、或いは――――

 

「柳生ちゃんは、そんな弱いひばりを見捨てないで、ずっと傍に居てくれた人だった――――!

 一緒に修行してくれて、叱ったり怒ったりしてくれる厳しさや、お菓子を買ってくれたり慰めてくれる優しさを、柳生ちゃんから貰ったんだよ!

 そんな柳生ちゃんが、ひばりを望ちゃんの代替品とだけしか見ていない筈が無いよっ! ……柳生ちゃんだって、気付いてるでしょ?」

「……ああ、そうだな――――」

 

 柳生はそこで初めて、雲雀を抱きしめ返す。彼女の流す涙は、柳生への感謝を示す感涙であったのだ。涙でくしゃくしゃになった顔は、望にそっくりで――――似ても似つかないと、柳生は思う。その事実を、柳生は受け入れる――――いや、雲雀の言う通り、初めから気付いていたのだ。

 忍である雲雀とは違い、望は何の力も持たない一般人であった。確かに始めの内は、雲雀を望の生き写しとして見ており、接していたのかもしれない。あのシャドウは、其処から産まれたのだ。

 しかし、忍の修行や学業を通じていく内に、雲雀を切磋琢磨し合う仲間として、親友として認めるようになった。

 その理由は、実に単純な事だ。望と雲雀は、別人であるのだから――――

 

「……馬鹿みたいだな、オレは。雲雀は雲雀だ、そんな風に自分の弱さを認め、精進を続けるのが雲雀なんだ。

 それを高々シャドウの言葉だけで揺さぶられるとは、オレもまだまだ弱い忍の様だ」

「大丈夫だよっ♪ 一緒に強くなろう、柳生ちゃんっ♪」

「ははっ、それでこそオレの大好きな雲雀だ」

「えへへっ♪」

 

 二人は再び、互いを抱きしめ合う。そこには先程まで存在した悲壮感など何処にも存在せず、まるで仲の良い姉妹の様に――――しかし決して違う二人の少女の姿があった。その微笑ましい光景を、護衛を任されている飛鳥は顔を綻ばせて見守っているのだった。

 

 ……だが、忘れるなかれ。此処はまだ、戦場であることを――――!

 

『ガアアアアアアァァァッッッ!!!』

「「「ッ!?」」」

 

 突如として響き渡る『柳生と雲雀の影』の絶叫に、三人は即座に意識を切り替え、声の方へと身体を向ける。

 其処に有ったのは、攻撃を仕掛けていた理を多数の触手にて迎撃する『柳生と雲雀の影』の姿であり、その光景に飛鳥は息を呑む。

 

「そんなッ?! 結城くん!?」

 

 先程までの攻勢を飛鳥は見ており、『ユニコーン』に乗った理の一撃は確かに『柳生と雲雀の影』に届くのだと、彼女を含む誰もが確信していた。

 しかし――――

 

(……ぐ、まさかあのタイミングで、奴に掛けていた《スクンダ》が切れるなんて―――――!)

 

 理が矢を放つ直前、少し前に『柳生と雲雀の影』に掛けていた《スクンダ》が解除されたのだ。《スクンダ》が解除され、元の速さと正確さを取り戻した『柳生と雲雀の影』は、すぐさま触手を生成し、理の攻撃と『ユニコーン』を迎撃したのだった。

 そして、今彼が持ち得るペルソナの中では『ユニコーン』はステータスが低い方であり、致命傷にこそならずとも、多大なダメージを受け直ぐには戦線復帰は出来そうにない。斑鳩と葛城も《アイオンの雨》に耐える為動きを止めていた故に、彼女達も行動出来ないでいる。

 つまりは、今の飛鳥達は『柳生と雲雀の影』の格好の獲物であるのだ。……彼らの誤算、というより作戦ミスは、やはり後方支援のペルソナ使いが居ないということに限られるのだろう。

 

『ついに捉えたぞ! さぁ、今度こそ殺してやるッ! 《死魔(しま)触手(しょくしゅ)》ッッッ!!!』

 

 『柳生と雲雀の影』の宣言と共に、これまでとは比べ物にならない程の触手が立ち上り、一斉に向かってくる。今だペルソナ能力を宿していない彼女達では、到底受けきれない数だ。

 斑鳩や葛城は勿論、理も激痛の走る体に鞭打って、飛鳥達を救う為に駆けていく。だが、間に合わない――――!

 

「――――させないッ! 柳生ちゃんも雲雀ちゃんも、傷付けさせはしないッ!」

 

 しかし、飛鳥は吼える。迫り来る数多の《死魔の触手》を、その眼に絶望を宿す事無く見据えている。無茶だ、と誰かが叫んだ。或いは全員か。ペルソナを宿していない今の飛鳥では、あの触手の群れを迎撃出来る筈が無い。

 だが、その飛鳥の気合に呼応するように、彼女の周囲の空間が揺らめき、一つのカタチを織り上げていく。その光景に誰もが眼を疑う。何故ならば、それは――――

 

「来てッ! 私の――――」

『ッ、馬鹿なッ!?』

 

 ペルソナ、なのだろうか? ボヤけてその全貌を把握することが出来ない程にあやふやなカタチをしたそれは、確かな力を発動する――――

 

「――――《地変魔法(マグナ)》!」

 

 飛鳥の掛け声と共に、彼女の前方の大地が隆起し、立ち昇った鋭岩が迫り来る《死魔の触手》を迎撃し、打ち払ってみせる。

 『土』の属性を持つ飛鳥であるからこそ発現した彼女自身のスキルだと思われるが、その魔法は今まで理や斑鳩達が扱ってきたペルソナ能力とは一線を賀す、未知のスキルだった。

 その信じがたい光景を見て、理の脳裏にある考察が思い浮かぶ。

 

(……まさか飛鳥は、【A潜在】なのか?)

 

 実は忍学科の上層部は、迫り来るシャドウの驚異に対抗する為、理の様な先天的なペルソナ使いを捜索していた。その為に提唱されたのが、【A潜在】から【C潜在】まで区別された、ペルソナ使いとしての才能を表した階級なのだった。

 唯一の先天的覚醒者である結城理は【A潜在】、『影抜き』による後天的覚醒者である斑鳩と葛城は【B潜在】と区分され、『影結界』『影時間』のみの適応を持つペルソナを持たない普通の忍達は【C潜在】とされていた。

 なお、この呼称を聞いた際、葛城は「結城はもうAとかBとかそういうレベルじゃねーよ。コイツは【特A潜在】って呼ぼーぜ!」とツッコんでいたりする。

 しかし忍学科は、未だ理や斑鳩達といった面々を除き、ペルソナ使いを発見できていない。その為、この世界には【A潜在】は結城理しか存在しないのではないかと疑問視すらされていたのだ。

 故に今、目の前に在る光景はその疑問を覆す光景であったのだ。だがしかし、飛鳥のソレは何かがオカシイ――――

 

『おのれェ! そのふざけた力、見極めてやるッ! 《マハアナライズ》――――ぁァ?』

 

 そして発動する『柳生と雲雀の影』の新たなスキル。理、飛鳥、斑鳩、葛城はまるで体の中を弄られる様な不快な感覚を味わい、そのスキルが解析系のモノであることを察する。

 だが、そのスキルで以てしても飛鳥の能力は把握出来ない様だ。不穏な声を漏らし、悍ましいモノを見るようなに飛鳥を睨みつけた。

 

『……貴様ッ、その能力は――――!』

「私だって、戦えるんだから! 《マハマグナ》!」

 

 飛鳥の攻撃はさらに続く。その宣言と共に、先程の《マグナ》よりもさらに広範囲に鋭岩が立ち上る。それらは『柳生と雲雀の影』を取り囲むように発生し、その動きを阻むのだった。

 

「《大山涯(たいざんがい)》っ!」

『ッ!? 何処へ――――』

 

 飛鳥は大きく振り上げた刀を地面に突き刺すと、地面へと潜る。彼女が持つ忍法・遁術が一つ《大山涯》。その能力は、『土』属性を司る彼女に相応しく、地中を自在に移動するというモノだ。

 地中へ潜んだことにより、飛鳥の姿を見失った『柳生と雲雀の影』は狼狽し、決定的な隙を晒した。飛鳥は、其処をすかさず畳みかける!

 

「《地昇竜(ちしょうりゅう)》っ!」

『何ッ!? ぐあッ!?』

 

 《大山涯》に続く飛鳥の忍法《地昇竜》は、地面から這い出して奇襲を仕掛ける技だ。その攻撃を、彼女は何と《マハマグナ》によって作り出され、『柳生と雲雀の影』を囲っていた鋭岩から行ったのだ。

 『柳生と雲雀の影』の頭部のすぐ傍にあった鋭岩から飛び出してきた飛鳥は、柳緑花紅の一撃で以てして攻撃する。厄介な《華眼》にこそダメージは与えられなかったが、その一撃は深いダメージを与えるのだった。

 

「……凄いな」

 

 その一連の動作を見ていた理は、心の底から感嘆の声を漏らす。ペルソナと思しき未知のスキルを覚醒させた飛鳥だが、何よりも理が驚嘆したのは、そのスキルと既存の忍法との組み合わせによる、即興での戦闘利用だった。忍法を殆ど使えない理では辿り着けない境地。伝説の忍・半蔵の血を引くという飛鳥の才は彼をも上回り、今芽吹きかけているのだ。

 ……尤も、流石にその才能にも限界があるようだったが。

 

「――――ぁぅ……」

 

 《地昇竜》によって『柳生と雲雀の影』を切り裂いた飛鳥だったが、着地と同時に倒れ込んでしまう。覚醒のショックか、慣れない戦法をとった疲弊か。いずれにせよ、危険な状態であることは変わりなかった。

 

『クソオオオォォォッ! このアマがッ! 殺シテヤルッ!』

 

 そして、飛鳥の思いもよらぬ攻撃を受けた『柳生と雲雀の影』は完全に逆上し、攻撃対象を彼女に定めたようだ。今までとは比べ物にならない程の力を収束させる《華眼》は、最大の攻撃を彼女に向けて放つのであろう。

 

『《ガルガリンアイズ》ッッッ!!!』

 

 それは本来、座天使(ガルガリン)しか持ち得ぬ魔眼の閃光。そのスキルに秘められた殺意やエネルギーは、《パララアイ》や《セクシーアイ》等とは比べ物にならない。まず間違いなく必殺の一撃か、それに比肩する威力を持つのだろう。倒れ込んだ飛鳥では、回避など出来ない――――

 

「そうはさせませんっ! 守って下さい、ヴィゾヴニル!」

「飛鳥を殺させてなんかたまるかよ! 来い、ティアマト!」

 

 だが、『ヴィゾヴニル』、そして『ティアマト』。二体のペルソナが飛鳥を庇うようにして前に立ち、《ガルガリンアイズ》の閃光から守護する。そうして光が収まった所には、膝を付く斑鳩と葛城の姿があるのだった。

 二人のお蔭で飛鳥は助かったのだが、理の感覚は彼女達の生命力(HP)が枯渇し掛けているのを感じ取る。やはり《ガルガリンアイズ》は並ならぬ威力を宿していた様であり、理は二人の傍に駆け寄ろうとするが、彼女達はそれを圧し留めるのだった。

 

「っ、二人とも、無茶を――――」

「結城さんが……けほっ、それを言いますか? わし……わたくし達の事は構わず、決着を付けて下さい!」

「……ゴホゴホ、回復アイテムはあるから心配すんな、さっさとケリ付けて来い! ……というか、こっち見んな! あっち向いてろッ!!!」

「……うん?」

 

 何だか、斑鳩と葛城は妙に焦っているような雰囲気が感じられる。二人の声には覇気が感じられず、老人の様なしわがれ声だ。恐らくは《ガルガリンアイズ》による状態異常だろう。

 ……理は、それ以上の考察を止める事にした。どう考えたって碌な事になっていない。そして、視線は向けないのだからせめて声を抑える努力をして欲しい、と理は思う。彼は「皴が」とか「白髪が」とか「垂れてるッ!?」等という極めて居た堪れなくなる二人の声を努めて無視するのだった。

 兎に角理は、《ガルガリンアイズ》を発動しその反動で動きを止めている『柳生と雲雀の影』に、止めを差すために向き直る。そして、その傍には柳生と雲雀が寄り添うのだった。

 

「柳生、雲雀。覚悟は決まったのか?」

「ああ、待たせたな」

「雲雀だってっ!」

 

 二人のその瞳に、絶望は無い。彼女達はシャドウという己の心の闇を、ハッキリと見据えていた。

 

『ぐ……、何故だ!? 何故お前達はそうやって絶望せずに、希望を抱くことが出来る!?

 お前達は自分自身の過去を忘れるとでもいうのか!? 妹の死を、下らない期待を――――』

「「それは違う」」

 

 柳生と雲雀は、『柳生と雲雀の影(もう一人の自分)』の言葉を否定する。

 

「オレは、望の死を忘れたい訳じゃない。……いや、少し前まではそうだったろうが――――

 何時までも望の死を見ているばかりでは、オレは永遠に進むことが出来ないという事に気付けただけだ。……望も、そんな事は望んでいないさ。

 ……そうだ、オレがすべき事は、望の死を忘れる事じゃない。()()()()()()()()を忘れない事なんだ!」

「ひばりも気付けたよ。この《華眼》は、一生ひばりに付いて回って、逃れることは出来ない――――

 それでも、この“眼”だってひばりの力で、ひばりそのものなのっ! ひばりは何時かちゃんとこの“眼”を使いこなして、大好きな家族の期待に応えるんだからっ!」

『……っ!』

 

 しかし、否定すると同時に、彼女達はシャドウを受け入れてもいた。

 その気迫を受けた『柳生と雲雀の影』は、たじろいだ様に見え――――そして、纏う雰囲気を一変させ、告げる。

 

『――――ならば、それを証明して見せろッ! 我らの、柳生と雲雀(もう一人の自分)よッ!』

「言われなくてもだッ!」

「だけどそれは――――」

「「結城(さん)も、一緒にだ(だよっ)!!!」」

「……ああ! 行くぞ、柳生、雲雀!」

 

 共に覚悟を決めた両名は、駆ける。先手を打ったのは『柳生と雲雀の影』だ。

 

『この一撃、乗り越えてみせろッ! 《刹那五月雨撃(せつなさみだれうち)》ッ!!!』

 

 『柳生と雲雀の影』はその触手により、刹那の間に五月雨の如き連撃を放つ。先の《霧雨昇天撃》や《アイオンの雨》と同じく、『雨』の属性を持つ柳生のシャドウらしい攻撃だ。

 対する理達は、この攻撃を前に柳生が立ちはだかり、その力を以て迎撃する。彼女が行ったのは――――

 

「秘伝忍法! 《()(はら)(あし)》っ!」

 

 秘伝動物を召喚し、真正面から張り合う事だった。召喚された柳生の烏賊の触手が、『柳生と雲雀の影』の触手とぶつかり合い、弾き飛ばしていく。

 だが、攻撃力及び手数はあちらが圧倒的に上回り、このままでは押され返すのも時間の問題だった。しかし、柳生の顔に絶望など無い。それは彼女の傍に立つ、二人への信頼あってこそだった。

 

「柳生、合わせろ! ジャックフロスト!」

 

 理が召喚するのは『ジャックフロスト』。このペルソナが持つスキルで、彼女の支援を行うつもりだ。

 

 ――――そして、理は其処に新たな光明を見出していた。

 

 この数日で読み漁った忍に関連するする書物。特に理は、『自然の力』という超常的なエネルギーによって発動する秘伝忍法に多大なる関心を寄せていた。これまで幾度となく発動させた、秘伝忍法とペルソナのスキルの融合。その新たな境地を、彼らは今此処に成そうとしていた。

 そう、結城理は、自然の力――――またの名を【MAG(マグネタイト)】とも呼ばれるそれにによって構成される秘伝動物を所謂『精霊』と見做すことで、その力をペルソナの魔法スキルによって補い合い、再構築して放つ事を可能にしたのだ。

 《精霊召喚(せいれいしょうかん)》、魔法スキルと組み合わせる事により、増大させる特性を持つスキル。その結果が、此処に在る――――!

 

「「《アトミックブフーラ》!!!」」

『ぐ……、うッ!?』

 

 理のジャックフロストと、柳生の烏賊から放たれる《氷結魔法(ブフ)》が融合し、増大し、共鳴し合い、極大の吹雪となって『柳生と雲雀の影』に襲い掛かる!

 上級(ダイン)魔法にも匹敵、或いは凌駕しかねない威力を持ったそれは、『柳生と雲雀の影』の体躯を万遍なく【凍結(とうけつ)】させていった。

 間髪入れず、彼らの攻撃は続く。次は、雲雀の番であった。

 

「結城さん、忍兎雲に乗ってっ!」

「ああ!」

「じゃあ行くよっ――――《忍兎でブーン》っ!」

 

 雲雀の秘伝忍法によって召喚された忍兎、そして彼が担う忍兎雲という飛行物体に、理と雲雀は乗り込む。

 ……尤も、乗り込むとは言うが、少々サイズの小さい忍兎雲に人間二人が乗るのは土台無理な話であり、理は忍兎雲に跨って座っている雲雀の肩に手を掛け、残り少ない足場で何とかバランスを保っている状態なのだが。

 それでも何とか、理と雲雀は崩れ落ちそうな身体を支え合い、姿勢を保つことで、忍兎雲を操作し『柳生と雲雀の影』の上空に陣取るのだった。

 

「雲雀、忍兎。今度はキミ達の番だ。制御はこっちでやるから、キミは思いっきりぶっ放せばいい」

「うんっ! 任せるよ、結城さんっ!」

 

 やり取りは先の柳生との合体スキルと同じであり、彼女の秘伝忍法の力を理のペルソナ能力によって制御するのだ。

 雲雀は己を無能とは評するが、実際はその有り余る才能により力の制御が甘くなっているだけに過ぎない。そして、彼女が操る『雷』の属性の忍法を制御する為には、それ相応の力が理にも要求された。

 

「来いッ! パールヴァティ!」

 

 その為に理が召喚するのは、【女教皇】のアルカナに属する美しい女神のペルソナ。今の彼が召喚出来る最も高位のペルソナであり、インド神話の破壊神シヴァの正妃神たる『パールヴァティ』だ。

 

「忍兎っ、行くよっ!」

 

 そして同時に、雲雀の掛け声と共に忍兎雲から電撃が迸る。最早暴走にも等しい程に溢れ出るそれは、しかし理の『パールヴァティ』によって掌握され、後は放たれるのを待つのみであった。

 彼らの眼下に存在する『柳生と雲雀の影』は抵抗することも無いまま、それを見届けるしか出来ないでいる。そうして、そのシャドウは何処か達観した声色で、彼女達を称えるのだった。

 

『……そうだ、それでこそお前達は、我らの柳生と雲雀(もう一人の自分)だ! この我を打ち倒して、己が進みべき道を行くが良い!』

 

 しかし理は、その『柳生と雲雀の影』の言葉に反論する。

 

「……いいや違うさ。打ち倒すんじゃなく、受け入れるんだ。柳生と雲雀は、もう既にシャドウ(キミ)という存在を否定したりはしない。

 柳生と雲雀がどれだけ強い人間か、っていう事を、彼女達の『もう一人の自分』であるキミが知らない筈も無いだろう?」

『……ああ』

「なら、もう幕引きとしよう――――」

 

 穏やかな『柳生と雲雀の影』の言葉に満足した理は、『パールヴァティ』によって制御される雲雀の《電撃魔法》を彼女への手向けとする。

 理と雲雀、二人の力が組み合わさることによって発動する合体スキル。

 

「「《ハイパージオンガ》!!!」」

 

 その雷鳴の一撃が、『柳生と雲雀の影』を貫くのだった――――

 

 

     ◆

 

 

 柳生と雲雀には、最早言葉など不要だった。既に彼女達は、己が答えを、シャドウを受け止めるべき心を持っている。

 理と雲雀の《ハイパージオンガ》を受け、消滅した『柳生と雲雀の影』は二つに別たれ、それぞれの在るべきところへと還っていく。『柳生の影』は柳生の前に、『雲雀の影』は上空に居た雲雀――ついでに理――の前へと。

 シャドウ達は、少女達の前でこくりと僅かに頷き、その身をペルソナにへと変えていった。

 

 自分自身と向き合える強い心が、“力”へと変わる――――!

 

『我は汝、汝は我――――、我は汝の心の海より出でし者――――』

 

 『柳生の影』が転身するのは、黒いリボンを全身に纏う、白銀の長髪の少女。やはり妹を喪ったというトラウマは拭えないのか、その下半身は欠落したままである。それでも、その個所は黒いリボンが束ね合うことで触手の脚を、まるで人魚の様に形作っていたのだ。

 『雲雀の影』が転身するのは、黒留袖を纏い、(がま)の穂を持った兎耳の少女。垂らされた兎耳はその目を覆い隠し、窺い知ることは出来ない。

 

『深淵の愛、オトヒメなり――――』

 

 『オトヒメ』、それこそが柳生のペルソナ。竜宮伝説・御伽噺『浦島太郎』に登場する、深海の楽園竜宮城に住む姫である。

 全身を纏うそのリボンは、想い人を束縛するほどに深い愛を持つ彼女の一面を表し、望や雲雀に深い愛情を注いだ柳生の心情を表しているのかもしれない。

 

『愛の導き手、イナバシロウサギなり――――』

 

 『イナバシロウサギ』、それこそが雲雀のペルソナ。日本神話『古事記』に登場する、兎神・稻羽之素菟であり、縁結びや医療の神として知られている。

 神話において、ワニザメを欺いた報いとして全身の毛を剥かれてしまい、それを憐れんだ大穴牟遲神(おおなむぢのかみ)によって治療された恩として、彼と八上比賣(やがみひめ)を結び付けたという。

 その身に纏う黒留袖は彼らの仲人としての立場を表し、忍学科における雲雀が皆の仲を取り持つムードメーカーとしての立場を表しているのかもしれない。

 

「これが……」

「ひばり達の、ペルソナ――――」

 

 当時に、《真影結界》も解除され元の訓練場へと帰還する。再び満ち始めている月が、彼らを優しく照らし出していた。

 

「……終わったー……」

「ひゃうっ?!」

 

 そこで気が抜けたのか、理は忍兎雲の上で身体を弛緩させ、だらりと雲雀の背に寄りかかる。当の雲雀は吃驚とした声を上げ、下方の柳生は此方を睨みつけており、気絶した飛鳥を背負った葛城や斑鳩は、やはり呆れた様な眼付きで理を見ていた。シリアスな雰囲気は何処へやら。

 まぁ、この戦闘でも大立ち回りな働きをした理である為、その疲弊は計り知れない。毎度の事ではあるが、やはり結城理が居なければ、シャドウとの戦闘は成り立たないのである。

 

「……うん、お疲れ様だよ、結城さんっ♪」

 

 今にも崩れ落ちそうな理の身体をそっと支えながら、雲雀は決意を改める。ペルソナという得た力の使い方を、《華眼》という力との付き合い方を。

 ……そして――――

 

「……結城さん、落ち着いて聞いて欲しい事が有るの」

「……ああ」

 

 深刻な雰囲気を漂わせて、背後の理に語り掛ける雲雀。上空に居るために、その言葉は地上の斑鳩達に届く事は無い。勿論、後で聞かせるつもりだが。

 そして理は、これから雲雀が語る内容が何であるのか、ある程度は目算が付いている。それは先の戦闘で、彼らが覚えた違和感――――そう、飛鳥が見せた謎の能力についてだ。

 

「飛鳥ちゃんのアレは、間違いなく()()()()()()()だったよ」

「……分かっているさ」

 

 感知能力に長けた二人だからこそ感じとることが出来た、何者かによる飛鳥への干渉。それによって発現した――――発現させられた、彼女のペルソナ能力。その存在の目的は不明だが、問題なのは、ペルソナを発現させることが出来る程に強力な干渉能力である。

 今回それに助けられたのは紛れも無い事実なのだが、正直薄気味悪い。そしてそれ以上に懸念すべき事は、その干渉による飛鳥への影響なのだ。

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――」

「……そうか」

 

 だからこそ理は、続く雲雀の言葉をあっさりと受け入れる事が出来たのだった――――

 

 

     ◆

 

 

『約束■り、ま■■いに来た■。調■はどう?』

 

 そして再び、《デジャヴュの少年》は未来を知らせる。見慣れぬ部屋の中で、ベッドに横たわる■■■は、とある少年の言葉を聞いていた。

 

『■て……、あ■一週間で、■■月が■ちる』

 

 ノイズ交じりで全てを窺い知る事の出来ない警告も、決して聞き逃せるモノでは無い。それは結城理にとっても、■■■にとっても、有益な情報なのだ。

 

『そ■■ら次の試練が■ってく■よ……、気■付け■』

 

 警告は受け取った。およそ一週間後、次なる『試練』が訪れるという情報を。この警告が有れば結城理は、負けず、間違わず、失わなずにいられるのだろう。

 

(……だけど、■■■、キミは――――)

 

 理は《デジャヴュの少年》から警告を受け取るたび、■■■の記憶や感情をも受け取る事が有る。それは余り気持ちの良い感情ではない。

 しかし、その後悔が、その無念が、その絶望が、結城理という存在を救う事になる筈なのだ。

 

(……“僕”はもう、二度と――――)

 

 時は2009年6月1日、次の『満月』まで、残り一週間――――

 





登場ペルソナ解説

・オトヒメ
アルカナ:【女教皇】
耐性:氷結、バステに強い、電撃に弱い
スキル:氷結魔法、バステ魔法、ンダ魔法
備考:御伽噺『浦島太郎』に登場する、竜宮城に住む姫。柳生のイメージである、『海』『烏賊』等を満たす女性を選んだつもりです。御伽噺だと『束縛』のイメージも有るのでなんかヤンデレっぽく感じます。柳生にはそんな印象は無いですけど……(汗
 デザインイメージは【刑死者】のペルソナ『アティス』や、Fateの『黒桜』、亜人の『黒い幽霊』みたいな感じで。……烏賊の女性だからって、カルマーラモンとか絶対想像すんなよ!?

・イナバシロウサギ
アルカナ:【恋愛】
耐性:電撃に強い、氷結、バステに弱い
スキル:電撃魔法、回復魔法、解析魔法
備考:日本神話『古事記』に登場する兎神・因幡の白兎。雲雀の秘伝動物が兎なので。ついでに、カグラキャラの中では一番初めに決まったペルソナですね。作者が山陰出身なので。
デザインイメージは、遊戯王ARC-Vの『月光白兎(ムーンライト・ホワイト・ラビット)』で。衣装は黒くなっていますけど。

・???
アルカナ:???
耐性:???
スキル:地変魔法
備考:飛鳥が召喚したペルソナ。姿形はあやふやであり、窺い知る事は出来ない。未知のスキルである《地変魔法》を操り、『土』属性である飛鳥の忍法とは相性抜群である。このスキルを以てして、『柳生と雲雀の影』を翻弄した。しかし、このペルソナ能力は、外部からの干渉であると理と雲雀は気付いており――――

今話で柳生や雲雀のみならず、飛鳥もペルソナ能力を発動しました。しかし見ての通り滅茶苦茶不穏な状態です。3には存在しなかった《地変魔法》を使います。しかも何やら操られて?おり、果ては襲撃事件の犯人でもありました。この件の詳細は、シャドウ飛鳥戦までお待ち下さい。

そして飛鳥のみならず、各校のメインヒロイン(飛鳥、焔、雪泉、雅緋)は、全員ペルソナ、シャドウ、スキル、覚醒イベントが特別扱いになる予定です。今回の飛鳥は、その先行登場という訳で。劇場版に登場する中間フォームや2号ライダーみたいなものですね。

次回以降は事後処理回を挟み、未登場キャラとの日常回、理の修行イベントその2、満月シャドウ戦を挟んで、一章のトリであるシャドウ飛鳥戦の予定です。どうぞ、期待しないでお待ちくださいませ。

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