ペルソナカグラ FESTIVAL VERSUS -少年少女達の真実-   作:ゆめうつつ

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『葛城の影』戦、決着です。

雪の為P3M4章が見に行けない……(泣
無いとは思いますが、感想欄にてのネタバレは控えるようお願いします。


19話 父のため母のため

「……う」

「気が付いたか?」

 

 微睡みから目覚めた葛城は、妙に気だるげな身体を起こし、柳生から声を掛けられた。

 頭に鈍痛が走り、意識がハッキリとしない。一体どうしてこの様な事になっているのか、彼女は暫くの間把握できないでいた。

 

「えっと、アタイは、どうして……何が…………?」

「余り無茶をするな、動かないでいた方がいくらか守りやすい」

「守るって、一体何から――――」

 

 彼女の疑問は、すぐさま明かされることになる。

 

『ガアアアアアアァァァァァァッッッ!!!』

「っ?! 今のは――――、そんな!?」

 

 葛城を庇うようにして立っている柳生の向こう側、盾として使っている番傘の先には、絶叫を上げる『葛城の影』の姿があった。

 その姿を見ただけで、一瞬にして葛城の喪失していた記憶が蘇り、どうしてこのような状況となっているのかを彼女に知らしめたのだ。 

 

「そうだ……、アタイは自分のシャドウを制御出来なくて――――いやそれよりも、今の状況はどうなってんだ!?」

「……状況か。そうだな、一言で言えば――――」

 

 柳生はそこで、躊躇するように僅かに口を噤んだのだが、どうせ数秒もしないうちに知ることになるのだ。意を決して、柳生は今の状況をたった一言で表すのだった。

 

「『最悪』だ――――!」

 

 

     ◆

 

 

「《オルフェウス》ッ、《火炎魔法(アギ)》!」

「秘伝忍法ッ、《凰火炎閃(おうかえんせん)》!」

 

 理の《アギ》と斑鳩による秘伝忍法《凰火炎閃》、共に強大な炎の力を宿した攻撃は、『葛城の影』に対して有効な筈であった。

 だが――――

 

『――――見切ったァッ!』

 

 『葛城の影』は歓喜の声を上げると、その巨大な体躯をくねらせて、あろうことか二人の同時攻撃を回避して見せたのだ。

 直線的な軌道で飛来する《アギ》を躱すのはまだ分かる。元より、理が放った《アギ》は牽制に過ぎず、斑鳩の《凰火炎閃》が本命であり、今日これまでのシャドウ討伐を通して得た連携攻撃である。

 しかし、『葛城の影』はそれを回避した。彼らとてこの攻撃が決定打となるとは思っていないが、手札の一つを潰されたことに変わりは無い。そして同時に、それを悔やむ暇すら与えられないのだ。

 

『ハハハッ! 今度はアタイのターンだ! 行くぞォッ!!!』

「ッ、また――――!」

 

 それは、戦闘が始まってから幾度となく味わった、(おぞ)ましい感覚。『葛城の影』の両眼が妖しく煌めき、二人は勿論、戦況を見守っている葛城達ですら身体が竦みあがるほどの重圧を感じる程だ。そして目に見えて二人の攻撃の手が鈍り始める。

 肉体、精神に作用し、彼らの行動の手を鈍らせる程の重圧――否、《全能力弱化(ランダマイザ)》を施したのだ。そして同時に自身の高速化、《二回行動》を獲得する。

 その結果は単純にして明快。『相手を遅くし、自分を速くする』。言葉にすればそれだけだが、戦闘中においてこれほど強力なスキルは二つとして無いだろう。

 能力の違いこそ有れど、それは何処かの世界、何時かの時代、近くて遠い場所にてこう呼ばれていたのだ。《(りゅう)眼光(がんこう)》と――――!

 

『喰らえッ!』

「斑鳩先輩、俺の後ろに! 踏ん張れぇっ!」

 

 『葛城の影』がその巨大な双翼を振り翳し、羽ばたかせることによって極大の烈風が発生する。《忘却(ぼうきゃく)(かぜ)》とでも名付けるべきその攻撃は、全体攻撃として彼ら全員に襲い掛かった。

 

「ぐ、うッ!?」

「結城さ――――」

「動くな! じっとしてろ!」

 

 理は敬語も忘れ、背後に庇う斑鳩に向けて警告する。それは彼女が『疾風属性』に弱いからだ。ここ数日の雑魚シャドウとの戦闘を通じ、彼らは己の弱点についても把握している。

 理は『電撃属性』に、斑鳩は『疾風属性』に弱く、この《忘却の風》はその『疾風属性』の魔法攻撃に他ならない。まともに受ければ間違いなくダウンし、あまつさえステータスの低い彼女では、そのまま致命的となる恐れがあったのだ。

 無論、盾となった理にはこの攻撃が直撃する訳だが、それでも斑鳩が受けるより遥かにマシであり、消費する体力以外には問題は無かった。

 しかし、烈風による攻撃である《忘却の風》は弱点属性ではない理でさえ、踏ん張っていなければやはり体勢を崩してしまい、結果として足を止めざるを得ない。

 そして、その足を止めた隙を狙って、『葛城の影』は攻撃を仕掛けてくるのだった。

 

『ガアアアァァァッッッ!!!』

「しまっ――――!?」

 

 彼らを襲ったのは、『葛城の影』の長大な尾。人間の胴体ほどの太さを持つそれは、鞭のように撓り、地面を這うようにして向かってくる。

 瞬時に、理の《心眼》は警鐘を鳴らす。その意図を理解した彼は次の瞬間、信じられない行動に出たのだった。

 

「斑鳩先輩、失礼しますっ!」

「は? げふぅッ!?」

 

 理は背に庇っていた筈の斑鳩を、あろうことか思い切り蹴飛ばしたのだ。その場に居る全員が何を、と思う暇も有ればこそ、その暴挙の意味をすぐさま理解する。

 理へと迫る『葛城の影』の尾は、彼一人を狙ったものではなかったのだ。弧を描くようにして振るわれる尾は、理のみならず斑鳩すらも捉えていただろう。

 吹き飛ばされる斑鳩のほんの鼻先を高速で尾が掠め、彼女の前髪を揺らす。撃たれ弱い斑鳩がまともに喰らっていたならば、どうなっていたかなど考えたくもない。ならば、理は――――?

 

「が……、はッ――――?!」

「結城さんッ!?」

 

 無論、斑鳩を離脱させるまでが精一杯であった彼は、『葛城の影』の尾に打ち据えられていた。

 脇腹の辺りに太い尾がめり込むようにし、その衝撃で理の身体はくの字に折れ曲がっている。みしり、などという筆舌に尽くし難い音まで聞こえる始末だ。そして理は、そのまま吹き飛ばされてしまう。

 驚愕に彩られた表情を見せる斑鳩は、すぐさま体勢を立て直し、吹き飛ばされた理の救出へと向かおうとする。だが――――

 

「駄目っ、斑鳩さん! 横に跳んでっ!」

「ッ?!」

 

 後方から発せられた指示のままに、斑鳩は理を追うことを中断し、右方へと身を投げ出す。次の瞬間、彼女が居た個所に《疾風魔法(ガル)》が奔り抜けた。

 言うまでも無くその魔法を扱う者は、この場において奴しかいない。

 

『チ、惜しいなァ?』

「……く、邪魔を!」

 

 《ガル》を放ったのは、勿論『葛城の影』だ。風の属性を持つ葛城のシャドウであるからこそ、『葛城の影』も疾風魔法を発現させている。理が離脱した今、斑鳩一人で相手取るには最悪の相性だった。

 だがしかし、相性の有無こそが戦闘での優劣を決める訳ではないのだ。

 

「斑鳩さんっ!」

「っ、ええ!」

『おお?』

 

 再び聞こえてきた声に斑鳩は突き動かされる。誰であろうその声は、雲雀のモノだ。この時すでに雲雀は斑鳩の横に並び立ち、二人組(ツーマンセル)で行動することとしていた。

 一人で居れば間違いなく『葛城の影』は自身の排除を優先するであろうし、下手をすれば柳生や葛城が巻き添えを喰う羽目となる。

 それと比べたら、ペルソナ能力を持つ斑鳩の傍に立ち前線に出る方が幾分かマシなのだと、雲雀は判断したのだった。斑鳩もまた、感知能力に秀でた彼女の感覚を信じて、己の操縦を委ねることにする。

 

『ッハ、そんな急拵えのコンビなんかで、アタイに勝てるとでも――――』

「そっちこそ、私達に勝てるだなんて過信しないでねっ!」

『……あん?』

 

 『葛城の影』は正面の斑鳩・雲雀コンビに顔を向けていた為、不意に背後から聞こえてきた声に訝しむ。それは、他ならぬ油断そのものだ。

 

「ペルソナ、《紅蓮刀(ぐれんとう)》!」

「秘伝忍法、《半蔵流(はんぞうりゅう)(みだ)()き》!」

 

 背後からの声――飛鳥は両手の脇差・柳緑花紅(りゅうりょくかこう)に、理の《紅蓮刀》の火炎を宿し、『葛城の影』へと切り掛かる。

 そして、秘伝忍法とペルソナ能力という二つの異能が合わさり、強力な『合体スキル』として昇華する!

 

「「――――《狂焔乱舞(きょうえんらんぶ)》!」」

『ぐおおおおおおぉぉぉっっっ!!!???』

 

 さしもの『葛城の影』もこれには堪らず、苦痛の声を漏らす。

 『葛城の影』が背後からの強襲に反応できなかったのは、吹き飛ばした理を完全に戦闘不能にしたのだという思い込みから来る油断だった。

 実際には、理が吹き飛ばされた際にすぐさま飛鳥が飛び出して彼を受け止めていたのだ。尤も、飛鳥に受け止められなければ、どうなっていたのかは分からないが。

 しかし、そういった不確定要素があろうとも、戦闘中に敵から意識を逸らす等烏滸がましい行為である。恐らくこのシャドウは『破壊衝動』から産まれた故に、『破壊する』という過程にしか興味が無いのではないか。

 だが――――

 

(((――――浅い!)))

 

 ダメージこそ与えられたようだが、『葛城の影』そのものの体躯には目立った外傷が無く、飛鳥の斬撃はその堅牢な竜鱗に弾かれていたようだ。

 しかし、それでもダメージを受けたという事は、このシャドウが『火炎属性』を弱点とすることなのだった。そうと分かれば、理の行動は早い。

 

「斑鳩先輩はそのまま雲雀と組んで、《アギ》で遠距離攻撃! 雲雀は探知で攻撃を受けない様に彼女を誘導して! 飛鳥は俺と来て、アイツを引き付けるんだ!」

「「「了解!」」」

『おおおっ! 舐めるなあああアアアァァァッ!!!』

 

 事態は進展していく。雲雀と飛鳥、戦線へと新たに二人の仲間を組み込み、『葛城の影』と相対する。

 戦いはまだ、始まったばかりだ――――

 

 

     ◆

 

 

「は、はは……。やるじゃねぇか、結城も、皆も……。なんだよ、別に『最悪』って程でもないんじゃ――――」

「そうかな?」

 

 己のシャドウと対峙する仲間たちの姿を見て、葛城は呆れたように声を漏らす。だが、対する柳生の言葉は辛辣だった。

 理達の『葛城の影』との戦闘において、それを柳生に最悪と評されたのはたった一つの要因に尽きる。

 

「おのれ結城め……、雲雀を戦線に出すなど……!」

「そこかよ?!」

 

 が、相変わらず雲雀を最優先とする柳生の思考に、葛城は思わずツッコミを入れた。

 尤も、あのメンバーの中で雲雀は唯一ペルソナに相当する能力を持たない以上、仕方の無いことなのだが。

 

「まあ、それもあるが……。お前のシャドウの能力は厄介すぎる。正直、何時引っくり返されても可笑しくないぞ」

「……ぐっ」

 

 しかし、雲雀以外に関することならば柳生は冷静であった。この二人は戦線から一歩引いてその戦況を見渡すことが出来ている。彼女達から見れば、今の状況は決して好転しているとは言い難い。

 柳生の言う通り、『葛城の影』の固有スキル《龍の眼光》は破格の能力だ。たった一度使われただけで、理が戦闘不能になる恐れさえあったのだ。次に使われて、無傷で済む保証など何処にも無い。

 理の類稀なる指揮能力によって戦況を維持出来てはいるものの、それも果たして何時まで持つものか。その理でさえ、もう限界に等しい。先の『葛城の影』の一撃が、ノーダメージだったなど有り得ないのだから。

 

「く、どうすりゃいいんだよ、チクショウ……」

「……葛城、お前がそれを言うのか?」

「は? 何を――――」

「お前は――――あのシャドウもまた()()()()だと考えて、結城を倒したいと考えたんじゃないのか?」

「…………あ」

 

 柳生は弱音を吐く葛城に非難の目線を向けて、こう言うのだった。

 きっかけは、ほんの数瞬前の会話。『葛城の影』と互角に戦う理達を見て――否、互角にしか戦えない『葛城(もう一人)(じぶん)』を見て、失望の色を表したからだった。

 今更『葛城の影』がもう一人の自分であることなど否定しようが無い。なればこそ、アレもまた自分の力なのだと、葛城は心の何処かで考えていたのかもしれない。それを、柳生の言葉で気付かされたのだ。

 

「あ、アタイは……」

「ペルソナだろうがシャドウだろうが、力が貰えるならオレだって欲しい! オレ自身、雲雀を前線に出すしかない自分に腹が立っているんだぞ!」

 

 柳生の言葉は酷く辛辣だ。だが、こうも発破を掛けなければ、葛城は立ち直ることなど出来ない。今この場は、彼女の分岐点であるのだ。

 たとえ彼女がペルソナ能力を得たとしても、力の意味を履き違えたままならば、容易く悪へと転じてしまうだろう。そうさせない為にこそ、柳生はその言葉に想いを乗せる。

 

「力を求めるのは勝手だが、その意味を履き違えるな、葛城! お前は何の為に戦っている!」

「ッ!」

 

 その言葉に、葛城は頭を殴られた様な衝撃を感じた。

 そうして気付き、思い出す。自分がこれまで、どうして戦って来れたのか。どうして力を欲したのか。その意味を――――

 

「アタイは……、もう一度父さんと母さんに会う為に――――!」

 

 葛城の両親はかつて、任務遂行中に掟を破り、善忍の陣営を追放されたのだという。彼女の両親は、そうして行方知らずとなった。

 忍の組織を追放された『抜け忍』が元に戻るのは並大抵の事ではない。だからこそ葛城は、己を高め、善忍陣営での地位を得ることで両親の信用を取り戻そうとした。

 それこそが、葛城の戦う理由だったのだ。

 

「……そう。それこそが貴女の戦う理由ですか、葛城先輩」

「っ、結城!?」

 

 葛城の言葉は、理にも届いていた。『葛城の影』を引き付けているうちに、柳生と葛城の陣地に侵入したらしい。勿論その合間に飛鳥が前線を引き受けている為、あまり時間は残されていない。援護の為にも、直ぐにでも舞い戻る必要があった。

 

「すいません、聞くつもりは有りませんでしたけど――――」

「良いぜ別に。寧ろ、お前には聞いてもらいたいね。……その代わりって訳じゃねぇけど、一つ訊きたいことが有る」

「……?」

 

 しかしそれでも、葛城には一つだけ彼に問い質したいことが有る。

 葛城は漸く、自身が戦うに足る理由を見付けることが出来た。ならば彼は何の為に戦うことが出来るというのか。彼が霧夜に話した、彼女達を護るという意思は戦闘行為の付加価値でしかない。

 結城理が自己の希薄な人間であることは瞭然である。その彼が何の為に戦い、その能力(ペルソナ)を使うのかを、葛城は今一度知りたかった。

 彼女の問いに手間をかけていられるような状況ではないが、此処は真剣に答えるべきなのだと彼は判断する。理は一瞬だけ目を閉じ、開く。その刹那にも満たない様な逡巡の後、理は応えるのだった。

 

「……俺には葛城先輩みたいに両親は居ませんし、斑鳩先輩みたいに家柄の問題が有る訳でもない」

「……っ」

 

 葛城は僅かに顔を顰めるが、それは理の言葉に憤った訳ではない。寧ろ逆に、自分に腹を立てている。それは彼女が『葛城の影』との戦闘が始まる前に、理に対し理不尽な嫉妬と怒りをぶつけていたのを自覚したからだ。

 彼女が両親の為に力を欲したのに対し、彼には既にその両親が居ないことを、彼の言葉で思い起こされた。理に対する嫉妬など、初めからお門違いであったことを葛城は改めて思い知らされ、己の浅慮を恥じた。

 

「だから俺は、この能力(ペルソナ)に目覚めた意義と意味を探したい。そうじゃないと――――」

 

 理は一瞬だけ、その言葉に凄まじいまでの激情を乗せる。先の問答でも見せた、結城理の心の闇。一体彼に、何があったというのだろう。

 

「……『戦う理由を探すために戦う』、納得は出来ないかもしれませんけど、今はそれが俺の戦う理由です」

「いや……十分さ。アタイに比べりゃ、ずっと健全だろうさ」

 

 掌に拳を叩き、打ち鳴らす。その音こそが、葛城が吹っ切れた合図だった。今の彼女は、己の影を、己の弱さとして受け入れる事が出来ていた。

 そしてその心境の変化こそが、『葛城の影』を打ち倒す剣となる――――!

 

『ガッ?! な、何ィ!? 貴様――――』

「さぁ、ここからが本番だぜ、()()()? 今度こそオマエをぶっ飛ばして、アタイの力になって貰うからな!」

 

 葛城の心境の変化は、シャドウたる『葛城の影』にへと及び、その存在を揺らがせる。眼に見えて動きが鈍くなり、今ならばその動きを捉えることも出来るかもしれない。

 好機と見た葛城は大地を踏みしめ、突撃のポーズをとる。彼女自身が突っ込むつもりのようだが、それを制する気持ちは誰にだって無かった。

 

「援護します! 行って下さい、葛城先輩!」

「おう! あと結城、前から言おうと思ってたけど、その丁寧口調はなんかムズ痒いからやめてくれ。名前も葛城呼びでいいからよ」

「……ああ、分かった。行け、葛城!」

「よっしゃ任せろぉ!!!」

『ぐ、オオ! 舐め、ルなァッ!!!』

 

 葛城が飛び出すと同時に、再び発動する《龍の眼光》。ドラゴンの両眼が妖しく輝き、葛城は全身が重くなるような重圧を確かに感じる。だがそれでも、彼女はその足を止めることは無い。

 『葛城の影』もまた勝負の決め所であると察したのか、更なる決め手を使うのだった。

 

『オオ……! 《攻撃強化(タルカジャ)》ァッ!!! まだだ、《チャージ》ィッ!!!』

 

 それらはともに、自身の攻撃力を上げるスキル。二つのスキルの重ね掛けにより、『葛城の影』の次なる攻撃は、正真正銘必殺の一撃となるであろう。

 当然、使わせるわけにはいかない。その為に、理達が居るのだから――――!

 

「柳生! 眼を狙え!」

「っ、ああ!」

 

 理が召喚器を構え、柳生に向けて指示を出す。彼女はそれだけで何をするのか察したのか、己の獲物である番傘、それに仕込まれた銃口を『葛城の影』に向ける。

 彼が行うのは、《オルフェウス》の《紅蓮刀》を彼女の番傘に付与すること。本来、斬撃武器に対し使用するそのスキルが、柳生の射撃武器に対し付与されたならば、どうなるのか。

 その答えは――――

 

「「打ち抜け! 《火炎弾(かえんだん)》ッ!」」

『何ッ?! ギャアアアアァァァッッッ!?』

 

 柳生の本来の武器、氷の弾丸が飛び出す筈であったそれは、火炎を纏って『葛城の影』の片目を打ち抜く。弱点たる『火炎属性』だけでなく、鱗に覆われていない眼球を狙われたことにより、多大なダメージを受けたようだ。

 理のみの力、弾速の遅い《アギ》ではこうはいかなかっただろう。音速を超える銃弾と、柳生の射撃スキルが合わさってこその戦果であった。

 

『グオオッ! アタイに近寄るんじゃネエェェエッ!』

 

 不利と見た『葛城の影』は、またしてもその両翼を羽ばたかせる。《忘却の風》は、この場に居る全ての人間に襲い掛かるだろう。それでも、彼らはその歩みを止めない。

 

「《オルフェウス》ッ! 葛城を守れ!」

「飛鳥ちゃん、斑鳩さんっ! 来るよ、踏ん張って!」

 

 その発動を察知した二人、理と雲雀はそれぞれ仲間を守るべく行動する。理は《オルフェウス》を召喚し、葛城の盾となるよう飛ばす。その合間に無防備となる彼の身体は、柳生が支えているのだった。

 雲雀は攻撃に備えるよう二人を促す。彼女らは全員が『葛城の影』の《忘却の風》に対し耐性を持っていないのだが、三人で身を寄せ合って何とか突風に耐えた。何よりも、『疾風属性』を弱点とする斑鳩がこの攻撃を耐えたことが、次の行動へと繋がるのだ。

 

「《ヴィゾヴニル》、葛城さんを護る力を貸して下さい!」

 

 この戦闘において守られるばかりであった斑鳩は、《ヴィゾヴニル(もう一人の自分)》に新たなる力を望む。その想い、その心の願いこそが、ペルソナ能力の糧となる。

 召喚された《ヴィゾヴニル》は『葛城の影』と同じく両翼を羽ばたかせるが、それは破壊の力ではなく、守護の力として振るわれる!

 

「不浄なる力より、我らを守護せよ! 《凶鳥(きょうちょう)ガーヂアン》!」

 

 斑鳩はその覚醒した新たなるスキルを発動する。途端に、彼女達を蝕んでいた身体の重さ――《ランダマイザ》が消え去り、正常なステータスに帰還する。どうやら《凶鳥ガーヂアン》は、《弱化(ンダ)魔法》を解呪する能力を持つらしい。

 これらの連携により、《龍の眼光》による枷から解き放たれた彼女達、特に葛城と理は、『葛城の影』を倒すためにとどめの一撃を放とうとする。理は召喚され、盾となっていた《オルフェウス》に新たな指示を出した。

 発動するスキルは《突撃(とつげき)》。だが、これは『葛城の影』を攻撃する為ではなく、彼ら全員がとどめの手を委ねた葛城への補助となるのだ。

 

「葛城! 乗れ!」

「よしきた!」

 

 葛城は理に促されるままに、《オルフェウス》の振り上げられた竪琴に飛び乗る。そして、ありったけの力を込めて《オルフェウス》は竪琴を、その上に乗った葛城ごと吹き飛ばす。

 勿論葛城はその勢いを利用して全力で跳躍し、彼女は一筋の流星となった。着弾地点は言わずもがな、『葛城の影』、その本体たる少女形態そのもの!

 

「「「いっけええええええぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」」」

『バカな……! このアタイが……!!!???』

 

 吹き飛ばされた葛城は狙い違わず、その自慢の脚と具足を己の影へと向けている。能力低下による不利も解除され、片目を失っている『葛城の影』はその攻撃を避ける術を持たない。

 何より、葛城の心境の変化により『葛城の影』はその存在自体が揺らいでいた。……或いはそれは、シャドウたる己の存在を受け入れた葛城に対するケジメの様なものであったのかもしれない。

 

「ッッッ、どーーーん!!!」

 

 そんな大雑把な掛け声と共に、葛城は己の影を、貫くのだった――――

 

 

     ◆

 

 

「……悪かったな」

『……』

 

 醜悪なドラゴンの姿を打ち倒し、元の少女の姿へと戻った『葛城の影』に、葛城は相対する。

 恥じ入る様に頭を掻き、バツの悪そうな表情で、しかし視線を己の影から逸らさないままの葛城は、普段の豪胆な態度からはとても思えない程に弱々しく見えた。

 

「アタイは何にも分かっちゃいなかった。力が欲しいだの寄越せだの言って、その力を扱うのに必要な、本当に大事な事を忘れちまっていた」

『……』

 

 葛城は一度深呼吸をしてから、懺悔をするようにその言葉を紡ぐ。それは『葛城の影』だけでなく、この場に居る理達にも伝えるためであろう。

 暴走した『葛城の影』との戦闘で命の危機に晒された仲間達にも、聞いて貰わなければならない為であり、彼女自身聞いて貰いたくも有る為だ。

 

「父さんと母さんの事だけじゃない。アタイが求めた力は、独り善がりなんかで得られるようなモノじゃなかったんだ。……お前の力が、必要だったんだ」

『……!』

「認めるよ。お前はアタイで、アタイはお前。二つで一つの力なんだ。……やっと気付けたよ」

『……』

「だから……あー、その……だ」

 

 そこまで言葉を紡いで、葛城は羞恥が限界に達した様であり、半ばヤケクソ気味に宣言する。

 

「だぁーっ! こういうのはアタイのキャラじゃないんだよ!」

『……』

「兎に角来い、もう一人のアタイ! 今度こそお前を否定したりなんかしねぇ! 一緒に戦ってもらうぜ!」

『……!』

 

 真っ赤な顔で拳を向けて突き出し、『葛城の影』もまたそれに倣って、互いの拳を打ち合わせる。女の子同士とは思えない程にワイルドな確かめ合いであり、斑鳩や飛鳥など思わず吹き出していた。

 しかし、それこそがきっと葛城に、彼女達に最も似合う『絆』の動作であるのだろう。『葛城の影』は拳を打ち合わせ、小さく頷いて、その身は葛城の新たなる力となるのだ。

 

 自分自身と向き合える強い心が、“力”へと変わる――――!

 

『我は汝、汝は我――――、我は汝の心の海より出でし者――――。地天の竜姫、《ティアマト》なり――――!』

 

 その姿を一言で形容するならば、“竜人”というのが正しいのだろう。葛城によく似た容姿とプロポーションに、竜鱗に覆われ堅牢となった体躯と、しなやかな尾。

 半人半竜のその姿は、力の象徴たる竜の己を受け入れた葛城に相応しい物であった。

 

「《ティアマト》……、これがアタイの力……」

 

 《ティアマト》は溶ける様にして消えると、葛城の心の中へと還っていく。同時に《真影結界》も解除され、理達は普段の街並みの中に帰還したのだった。

 そして、緊張が解けたのか彼女は何処かふらついており、程度の差は有れど誰もが疲弊していた。早く忍学科に戻って休息を取ろうというのが全員の意見だったが、その前に葛城が理に話しかけてきた。

 

「……何?」

「その……、さっきは悪かったよ。掴みかかったり、怒鳴ったりしてさ……」

「それはどうでもいいよ。俺の方にも問題はあったし、もう葛城はペルソナ能力を手に入れた。それなら、蒸し返す必要は無いだろう?」

「それでも! ケジメは付けたいんだよ!」

 

 葛城は理の正面に立って、両腕を広げてみせる。なお、今の彼女は忍装束であるので、前全開のブラウスから覗く肌色が非常に目に宜しく無い。尤も、理はそこらへんを「どうでもいい」と割り切っている節が有るのだが。

 

「ほら! 今ならお前の言う事を、一つぐらいならなんだって聞いてやるぜ! ほらほら、このおっぱいを触るとかどうだ?」

「…………」

 

 用はありがちな、「言う事をなんでも一つ聞く」というのが葛城なりのケジメの付け方の様だったが、その例えは如何なものか。

 彼女を除く、理を含め五人の目線が「何言ってんだコイツ」と語っているのを彼女は察したが、最早後には引けない。どうも単純に、ノリと勢いだけだったらしい。

 まあそれでも、葛城のケジメは受け取っておこうと思う理である。彼女に向けて手を伸ばし、人差し指を立てた。

 

「な、なんだよ? 触るのか?」

「触らないって。……もう一回」

「へ?」

「もう一回ラーメン奢ってくれたら、それでいいよ」

「……あ」

 

 以前の休日に、二人でラーメンを食べに行ったことを思い出す。あの時は何だかんだあったが、それでも楽しいと思える一時であったのを彼らは覚えている。理はそれを、また行おうという事だった。

 この言葉で葛城の緊張、そして理への確執は完全に解き崩されたらしい。強張っていた表情を破顔させると、理をその豊満な胸元に思い切り抱き寄せるのだった。

 

「ぶお?!」

「はははっ! 嬉しいこと言ってくれるな、結城ぃ! このこの~」

「あーっ! ちょっとかつ姉何やってるの!」

 

 バスト95センチの見事な双丘の中に、理の頭が埋め込まれる。傍から見れば不純異性交遊なやり取りだが、一瞬にして飛鳥の反感を買い、当の理自身は窒息死寸前だ。どうあがいても修羅場である。

 

「何やってるんですか貴方達は……」

 

 斑鳩はそんな彼らを見て溜息を吐く。彼女が一応落ち着いていられるのは、以前同じような状況に陥った経験からだった。それでも、何となくもやっとする物は有り、何故そう思うのかを斑鳩は必死に振り払っていた。

 なお、その時と同じく、柳生は雲雀の目を塞いでこの光景を見せない様にしていた。

 

(……本当に、人たらしですね)

 

 それこそが彼の魅力でもあると、当のたらされた一人である斑鳩は思う。そしてそれは同時に、人を繋ぐ力でもあるのだ。

 尤も天然である為、やや性質が悪くもあるのだが。今現在の理が、今度は飛鳥のバスト90センチの胸に埋まっている辺りなど、特に。

 

 そして、相変わらずぎゃあぎゃあと喚く葛城を見て、斑鳩はとある物語を思い出していた。それは、葛城が覚醒したペルソナ《ティアマト》。そのモチーフとなる『ドラゴン』に関する様々な伝承だ。

 その世界各地の神話・伝承に連なる、『ドラゴンメイド』と呼ばれる少女達。呪いによって醜い竜へと姿を変えられた彼女達は大概にして、愛する者のキスによって呪いを解かれるのだという。

 ならばこそ、醜き竜たる『葛城の影』を、元の葛城の心に還した理もまた、呪いを解いた者であるのか。……当たり前だが、理は葛城の想い人ではないし、キスもしていない。

 

 いずれにせよ、結城理に惹かれる少女がまた一人増えたのだろうと、斑鳩は結論付ける。葛城自身はまだその思いに気付いていなさそうであるが、それもまた葛城らしさであろう。

 斑鳩は、そんな風に葛城を取り戻してくれた理に、この上ない感謝を捧げるのだった。

 

 なお、葛城がまたしても理を昼食に誘おうとして、「ん? あれってもしかしてデートの誘いじゃね?」と気付いて悶絶し始めるのは、これから約十二時間後の事である。

 




葛城は多分男子相手なら、肉体的な接触より、精神的な接触に赤面するタイプ。フラグは建ちましたが、回収はまだまだ先となります。悪しからず。

登場スキル、ペルソナ解説

・《龍の眼光》
 メガテン3においては、自分の行動回数を最大4回分増やすという極悪チートスキル。自分の行動回数を増やしてカジャ系統で自己強化した後に、メギドラオンを叩きこむ。更には重ね掛け可能というぶっ壊れ。数多くの人修羅がこのスキルを持つ悪魔たちの餌食になったのだとか。
 この作品内ではメガテン3の戦闘システムであるプレスターンバトルでは無いので(格ゲーみたいなリアルタイムバトル?)仕様変更し、『一ターンのみ速度強化《二回行動》、同時に《ランダマイザ》』という性能に。……十分チートじゃねえか!(バンッ

・《狂焔乱舞》
・《火炎弾》
 共に、ペルソナシリーズ及びライドウシリーズに登場する合体スキル。理の《紅蓮刀》を起点として発動し、現時点ではペルソナ能力を持たない飛鳥と柳生にシャドウを攻撃できるようにした。

・《凶鳥ガーヂアン》
 原典は、メガテン3(マニクロ)に登場する葛葉ライドウが使用するスキル。効果は味方全員の弱化状態の解除。ぶっちゃけ、只の《デクンダ》の名前替えスキルである。原典ではスキルを使用した際、モー・ショボーが召喚されるため、同じく翼人の姿を持つ《ヴィゾヴニル》に習得させることとなった。まあ、ノリです(作者談

・《ティアマト》
アルカナ:剛毅
耐性:疾風に強い、火炎に弱い
スキル:打撃物理、疾風魔法、カジャ魔法
備考:ティアマトとは、古代バビロニア神話でアッカド語で全ての神々を生み出した「生命の母」の意である。伴侶である神アプスーとの間に様々な子神を儲けるも、彼らが起こす騒動に巻き込まれていき、子殺しを決行しようとしたアプスーは逆に殺されてしまう。
 その後、新たな伴侶として定めた神キングーに天明の書板と11の合成獣をはじめとする軍勢を与え、それらを引き連れ自らも怪物と化して我が子たちと激しい戦いを繰り広げた。最終的には、神マルドゥクによって心臓を射抜かれて倒され、彼女の体は世界創造の材料として使われたという。

 ……容姿は大体、『もん○す・く○すと ぱら○っくす』のライオットを思い浮かべていただければ宜しいかと。エロゲーなんで画像検索する際は注意。

 次回以降は、次の○○の影戦の前に、日常回、修行回、そして五月の大型シャドウ『プリーステス』挟む事になると思います。どうぞお楽しみに。







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