ペルソナカグラ FESTIVAL VERSUS -少年少女達の真実-   作:ゆめうつつ

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VS斑鳩シャドウ戦です。

※追記 『斑鳩の影』の画像UP


15話 狂気の境界線

 2009年 4月15日 午前零時――――

 

「ッ、影結界!?」

 

 時計の針が午前零時を示したその瞬間、理は誰よりも早く影結界、即ちシャドウの存在を感知した。

 同じ部屋に居た葛城達がなんだどうしたばかりに理に視線を向けるが、説明する暇すらも煩わしい。何故ならば――――

 

「近すぎる! 場所は、この校舎――」

 

 理がその言葉を言い終える前に、彼らは影結界へと取り込まれる。視界は黒一色に覆われ、粘性を感じるほどにドス黒い闇が全てを包む。

 そして、その影の闇は、彼が今まで感じたことが無い程に昏く、冷たく、そして哀しかった。

 結城理は識っている。この闇は人の負の心そのもの。凍てつく冷気は誰もが抱え、そして心の奥底に潜ませている夜の帳なのだ。

 結城理は知っている。彼はその闇を、ついさっきまで感じていたことを。――――その答えは、自然と口から零れていた。

 

「……斑鳩先輩?」

 

 視界が明ける。闇は晴れる。それでもなお、全身に纏わりつく不快感は解消されることはなく、ますます強くなっていた。

 そして、彼らの目に初めに飛び込んできたのは、()()()()()であった。

 

「「「……は?」」」

「ッ、飛鳥っ!」

「ぅ……、結城くん……?」

 

 その光景を観て、葛城、柳生、雲雀の三人は呆けてしまっていたが、理はその傍に飛鳥がへたり込んでいるのを発見する。

 すぐさま近寄って助け起こすが、目立った外傷は無く、彼女もまた二人の斑鳩を見て腰を抜かしただけの様であった。

 

「一体何が……?」

「わ、わかんない……。私、斑鳩さんに見せたい物が有って来たんだけど、部屋には斑鳩さんが二人いて……」

 

 葛城達も漸く正気に戻ると、飛鳥の傍に駆け寄って、改めてもう一人の斑鳩を観察する。

 姿形は、殆ど斑鳩と変わりない。ただ違う箇所が有るとすれば、黄金に染まった眼の色と、身に纏うその雰囲気――――彼らは、その雰囲気を発する物を識っている。

 

「――――()()()()! あれは、斑鳩先輩の(シャドウ)だ……!」

 

 飛鳥達は初め、理が何を言っているのかが理解できなかった。彼女達にとってシャドウとは、人類を脅かす異形であり、それを示すかのように醜悪な容姿の化け物であるからだ。

 だが、理は――否、飛鳥達も、シャドウが人間から産まれることを知っている筈だ。シャドウが人間を襲撃・捕食することで繁殖する光景を彼女達は忘れた訳ではない。

 しかしそれでも、今目の前に居るシャドウ『斑鳩の影』は、その前提条件を容易く覆して見せた。

 それは結城理のこれまで十年に及び対峙したシャドウの中にも存在せず、■■■の記憶の中にも存在しないシャドウだ。

 だからこそ、彼らは迂闊に手が出せないでいた。何より彼らは全員、斑鳩の姿をしたモノを攻撃できる気概が無かった。

 

 本物の斑鳩も、『斑鳩の影』も、理達の接近には気付いている様だが、殆ど意に介していない様だった。いや、互いが互いに注目している為に、他に気を向ける余裕が無いというべきか。

 それも理達からすれば、斑鳩が『斑鳩の影』に向かって、一方的に突っ掛っているようにも見える。彼女にしてはらしくもなく、酷く焦った様子で、今にも掴みかからんとしていた。

 しかし、それが出来ないでいるのは――――、彼女が担うべき長刀『飛燕(ひえん)』が、『斑鳩の影』の手の中にあるからだろう。

 抜身のそれを手の中で弄びながら、ニヤニヤとした表情で斑鳩と相対するその姿は、どう見ても斑鳩という少女では有り得ないのだった。

 

『……いい加減、認めたらどうなのです? ()()()()

 

 不意に、『斑鳩の影』は口を開く。眼前の斑鳩をまるで見下すかのようなその言い方は、彼女をさらに激昂させる。だが『斑鳩の影』は、何を認めさせようというのだろう?

 

「黙りなさい! わたくしの姿で、わたくしの声で……ッ! それ以上何かを言おうものなら――――」

『どうするというのです? 飛燕は此方に有るというのに』

「いいえ! 飛燕は――――、っ……」

『ふふ……』

 

 二人の斑鳩は、殺気を滲ませながら睨みつけ合っている。見ているだけの理達ですら総毛立たせるそれは、未だ殺し合いにまで発展していないのが不思議な程だ。

 だがこれで、一つだけハッキリしたことが有る。斑鳩とシャドウ、彼女達を繋ぐのは『飛燕』であることを、理達は判断した。……()()()が、理解できてしまった。

 

「お、おい? 斑鳩のヤツ、いや本物の方だけどよ、一体どうしたんだ? 飛燕が何だってんだ?」

「飛燕は確か、鳳凰財閥を継承した証だと聞いているが……。あのシャドウはそれに固執している……?」

「っていうかっ、あのシャドウってどうやって出できたのっ? そもそもシャドウって何っ?!」

 

 葛城、柳生、雲雀の三人は、思い思いの考察を口にしていた。

 対して理は先の村雨との邂逅で、飛燕が彼女にとってどれほどの意味を持つのかを知ってしまっている。そしてそれが、決して吹聴できるような話でないことも彼は理解し、口を噤んでいた。

 そんな風に黙っている理を、飛鳥は怪訝な顔で見ていたが、それに口出しする前に状況が変化する。『斑鳩の影』は何かに気付いたように、蠱惑的な表情で理達を見回したのだ。

 

『ああ……、そういえばそうでしたね。わたくしの知られたくない秘密でも吹聴すれば、少しは認めるのでしょうか?』

「なっ?! 待ちなさ――――」

『いいえ、待つのはそちらの方ですよ、わたくし』

 

 『斑鳩の影』は飛燕の切っ先を斑鳩の喉元に突き付け、彼女を制する。その蛮行を流石に見逃せず、葛城達は跳びだそうとしたが、その身体は不意に停止する。

 ()だ。地面から伸びた鉄鎖が、彼女達の足に絡みついていた。理はその鎖に見覚えが有る。彼女の義兄、村雨が担った鎖鎌のそれと同一であったからだ。

 そうして『斑鳩の影』は語りだした。斑鳩と鳳凰財閥の関係。義兄との関係。飛燕が持つ意味。それら彼女が秘めていた想いを暴露したのだった。

 

「わたくしは余所者、兄の立場を奪った存在です」

『それが如何したというのでしょう。忍の世界は実力主義、力の無い者が悪いのです』

 

「飛燕は鳳凰財閥継承の証、わたくしが持つべきモノではありません」

『いいえ、両親からそれを託されたとき、わたくしは(よろこ)んだ筈です』

 

「お兄様には、本当に申し訳ないと思っています」

『ですが、飛燕を渡す渡さないは別の話』

 

 理からすれば二度目の話だが、飛鳥達にとって初めて聞く内容であり、斑鳩が隠し通してきた痴話でもある。

 

『そう、わたくしにとっては、兄も、鳳凰財閥も、何もかもが枷だった。その束縛から、解き放たれたかった! わたくしの力を唯一示す、この飛燕と共にッ!!!』

 

 飛鳥達は斑鳩の秘密に言葉を失くしていたが、当の斑鳩自身は更に酷い状態だ。自身の影に対する殺気が膨れ上がり、刺し違えてでも討伐せんとする気概が見て取れる。……良く無い兆候だ。

 

「ッ、いい加減にして下さい! アナタの言う戯言は、もう聞きたくも有りませんッ!」

『アハハ、何を言ってるの、わたくし? わたくしの言葉は、アナタ自身のものでしてよ?』

 

 『斑鳩の影』はそこで再び、黄金の双眸で斑鳩を睨みつける。生気が微塵も感じられない、冷たい雰囲気を湛えたそれに射抜かれ、斑鳩は僅かに身を委縮させる。

 そしてそれ以上の絶対零度の温度を以て、彼女の言葉が紡がれる。高らかに、『斑鳩の影』は叫ぶようにして唱えたのだ。

 

『アナタはわたくし、わたくしはアナタなのですから――――!』

 

 その言葉を聞いて、ついに斑鳩は逆上したようだった。燃えるような憤怒の雰囲気を滲ませ、己の影を睨み返したのだ。

 ……だが、その状況に、理の危機察知能力が警鐘を鳴らしている。『斑鳩の影』はワザと斑鳩(ほんたい)を煽るような言動を繰り返していることに、彼は疑問を持ったのだ。一体何のために?

 だがそれでも、このまま放置すれば絶対に不味いことになる事を理は本能的に予想出来ていた。

 彼女を制する言葉など、とっくの昔に誰もが紡いでいる。その言葉の全てが、斑鳩に届かなかっただけなのだ。……なのに、彼女を止めることが出来ない――――!

 

『フフ……、違うというのならば、否定してみては?』

「――――馬鹿にッ! ええ、アナタなど、わたくしでは有りませんッ!!!」

 

 斑鳩は否定する。『斑鳩の影』を否定する。己の虚像を、否定したのだ!

 瞬間、空気が変わった。理も、飛鳥達も、『斑鳩の影』でさえも、それを知覚する。感知できていないのは、斑鳩だけの様であった。

 そうして、『斑鳩の影』が纏う負の雰囲気が更に濃くなりはじめ、闇色のオーラとなって溢れ出す。『斑鳩の影』は狂ったように嗤い、その身に飛燕を抱きしめた。

 

『フフフ♪ そう、わたくしはわたくし! アナタではない! もう、わたくしを誰にも縛ることは出来ない!!!』

「っ、逃げ――――」

 

 理が叫ぶよりも早く、『斑鳩の影』を中心として、闇が爆ぜた。

 彼らの鎖の拘束ごと弾き飛ばすほどの衝撃を持った力の奔流は、やがて一纏まりとなり、異形の姿を織り上げる。

 『斑鳩の影』は、斑鳩からの完全なる拒絶により、その身を本当のシャドウへと変貌させた――――!

 

『我は影、真なる我……。さあ、まずはアナタ達()()を殺して、わたくしは自由の身となるのです!』

 

 その姿を一言で表すのならば、『ハーピィ』と呼称するのが正しいのか。斑鳩の面影を残した容姿と、彼女の裸体をそのまま拡大したような巨躯。その両腕は大空へと羽ばたく為の翼となり、彼女の“解放願望”を表していた。

 だが、結局彼女は鳳凰財閥という括りから抜け出せないでいるのだろう。一糸纏わぬ灰色の身体は、元々は飛燕であっただろう長刀にその胸を貫かれ、あまつさえその刀は鎖で雁字搦めに縛られている。

 そしてその刀と鉄鎖は、完全なシャドウとなった『斑鳩の影』をなお、人の(むくろ)で編まれた鳥の巣――彼女を党首とした、鳳凰財閥の暗喩か――へと縛り付けるための楔となっているのだ。

 

『燃えろォ! 《アギラオ》ッ!』

 

 『斑鳩の影』が翼を振るい、《中級火炎魔法(アギラオ)》が奔る。まず標的となったのは、元々の本体である斑鳩自身だ。彼女はシャドウが暴走した影響か、倒れ伏したまま動く気配が無い。

 このままでは炎が斑鳩を焼き尽くすだろう。無論それを、理が黙って見ている筈が無かった。

 

「ペルソナ、《オルフェウス》ッ!」

 

 ガラスの砕けるような音を響かせて、理は盾役としてオルフェウスを召喚する。斑鳩を庇うように前に立ち、腹部のスピーカーから音響波を轟かせ、炎を掻き消す。

 その理を『斑鳩の影』は、つまらなそうに見下ろしていた。

 

『また貴方ですか……。まったく、他人の厄介事に首を突っ込むのが好きな方ですね』

 

 しかし理は、そんな『斑鳩の影』の呟きなど耳を傾けることもなく、後方の飛鳥達に指示を出していた。

 

「飛鳥、斑鳩先輩と皆を頼む。……アイツは、俺一人でやる」

「えっ?! ちょ、ちょっと待って本気なの!? あんなシャドウ、結城くん一人で如何にかなるなんて――――」

「なるよ。……少なくとも、マジシャンよりはマシな筈だ」

 

 理はそれ専門の能力に特化している訳ではないが、今『斑鳩の影』が放った《アギラオ》により、ある程度の力量を測ることが出来た。

 『斑鳩の影』は、先日戦った大型シャドウ『魔術師(マジシャン)』よりは格下の存在だと分かる。尤も、比較対象が悪いだけであり、其処らの雑魚シャドウとは比較にもならない強さなのだが。

 そもそも、今いるメンバーの中でまともにシャドウを相手に出来るのは理のみだ。飛鳥こそ原因が分からないシャドウへの攻撃能力を得ているものの、それ以外の面子は未だ戦う事すらままならない。

 そして、放心状態となっている斑鳩を連れて逃走するなど、輪を掛けて無理だ。このシャドウは、それを絶対に許さないだろう。……そして理も、この戦いから斑鳩を遠ざける気が無かった。

 

「……斑鳩先輩」

「……何を。わたくしは……、もう……」

「『もう』、なんだって言うんです? 目を背けないでください。あのシャドウを生み出したのは、間違いなく貴女です」

「……あれが、わたくし?」

 

 理は静かに、そして強い口調で宣言する。だが、斑鳩とてそれは分かっている筈なのだ。彼女がそれを、認められずにいるだけで。

 

「ふふ……、そうでしょうね……。あんな醜いシャドウこそが、わたくしの本質。実に相応しいですわ」

「ちょっ、斑鳩さん!? 私は別にそこまで――――」

「待て、飛鳥」

「かつ姉、でもっ!」

 

 ネガティブな意見を出す斑鳩に、飛鳥は必至で取り繕うとするが、葛城がそれを制した。しかし彼女にしては珍しく達観した表情を見せており、飛鳥もその表情を見て、葛城の心中を察した。

 この中で最も斑鳩との付き合いが長い葛城は、理に次いで理解してしまったのだ。斑鳩が抱えていた、その闇を。それが、彼女自身が乗り越えなくてはならない類だという事を。

 理は紡ぐ。斑鳩の心を再び立ち上がらせるよう、言葉を綴る。不思議とこの時だけは、普段のコミュ力不足は成りを潜めるのだった。

 

「そう、あれこそが貴女が抱える心の影(シャドウ)――――ですが、それがどうしたっていうんです?」

「……なんですって?」

「飛燕を渡されて、鳳凰財閥の党首になったのは強制であっても――――、貴女は孤独なんかじゃ無い筈だ。

 少なくとも忍学科(ここ)に居るのは、貴女自身の“選択”が有ったからじゃないのか! あのシャドウに、この忍学科すらも否定される気なのかッ!」

「っ!」

 

 理のその言葉に、斑鳩は目を見開く。

 そう、そうなのだ――――。忍学科(ここ)には、鳳凰財閥の党首などではない『斑鳩』としての彼女を、認めてくれた仲間が居る。

 『斑鳩の影』をこのまま放置するという事は、その彼女達の命と場所を散らし、斑鳩には本当に何も残らなくなってしまう。

 

 ……今の斑鳩には、それだけで十分だ。後は、彼女本来の仲間たちに任せることにしよう――――

 

 理は既に斑鳩の傍へと駆けよっている飛鳥の姿を傍目に捉えながら、改めて『斑鳩の影』と相対する。

 

『茶番は終わりましたか? 空気を読んで待ってあげましたが、わたくしにも我慢の限界が有りましてよ?』

「ああ、もういいよ。話の続きは、お前をぶっ飛ばしてからだね」

『大言を……。……ええ、やはり貴方こそがわたくしが自由となるに、最も障害となる存在ッ!』

 

 『斑鳩の影』は今、結城理を完全に敵として認識したようだった。再び両翼を大きく広げ、彼に向けて振るうと、シャドウを拘束していた鎖の一部が飛来する!

 

「――――はッ!」

 

 だが、理とてこの程度の攻撃は想定内だ。何時の間にか両手に握られていた()()を縦横無尽に振るい、飛来してきた幾本の鉄鎖を全て叩き落す。

 彼が担うそれは――――忍具・苦無の二刀流であった。

 

「あれ? 結城くん、そんなの何時の間に?」

「……さっき飛鳥を助け起こした時、懐からくすねておいた」

「え゛っ」

 

 ……苦無というモノは、本来隠し武器の一つであり、服の下などに携帯するのが彼女達の常である。それを取るために飛鳥の懐を探ったという事は即ち――――この男、割とデリカシーが無い。

 それは兎も角、理が苦無二刀流という武器を選択したのには、幾つかの理由が有る。

 前提として、“速さ”が必要なのだ。『斑鳩の影』の戦い方は、見る限りでは火炎魔法と鎖の拘束攻撃の二種。特に、後者が厄介である。戦闘において足を止めるという行為は、そのまま死へと直結するのだから。

 また、再び飛鳥の柳緑花紅を使うことも考えなかった訳ではないが、今の彼女には斑鳩達の護衛という役目が有る。彼女の戦力低下は愚策であった。

 

「……うしろは任せた」

「結城くん、それ使い方が違うよ……」

 

 だが、そんなボケをかますあたり、意外と余裕なのかもしれないと飛鳥は思った。

 

『チッ、ふざけないでッ! 何なんですアナタは!? わたくしの邪魔をするなあああぁぁぁァァァッッッ!!!』

 

 『斑鳩の影』は叫ぶ。再び鉄鎖が飛来し、理は二刀でそれを弾く。

 既に気が付いていたことだが、斑鳩のシャドウはどうも本体の能力・トラウマを踏襲した戦い方を取るようだ。

 火炎魔法は彼女の炎の属性から、鎖の攻撃は兄・村雨へのトラウマから。故に、理はシャドウがどういった存在であるのか、ある程度想像がついていた。

 

『目障りです! 何故わたくしを阻むの!? わたくしはただ、自由になりたいだけなのに!!!』

 

 『斑鳩の影』は叫ぶ。眼前の理を見据え、哀願するように問いかけた。

 理は思う。それは間違いなく、斑鳩という少女がひた隠して来た心の内なのだ。シャドウが代弁する、彼女の心からの絶叫だった。

 

 そう、シャドウとは――――、斑鳩の“もう一人の自分”なのだ。

 

「……気持ちは分からないでもない。俺達の世界は、何時だってしがらみだらけだ」

 

 理は誰ともなく呟く。自分へと言い聞かせるように。『斑鳩の影』へと言い聞かせるように。……或いは、彼の後ろに居る斑鳩へだろうか。

 

『ならば何故、わたくしの邪魔を――――』

()()()()()()からだ」

『…………な』

「そんな考え、誰だって抱えているモノだ。……俺の様に」

 

 最後の呟きこそ聞こえなかったが、理はハッキリと断言する。彼は『斑鳩の影』の主張を当たり前のものだと切って捨てたのだ。その言葉に、流石に『斑鳩の影』も絶句していた。

 

「だからどうでもいい。……お前の暴走(ねがい)は、今ここで止める」

 

 理は左手の苦無を『斑鳩の影』へと突き付け、右手には召喚器を握り、自身のこめかみへと押し当てた。それは飛鳥達が幾度となく見た、彼の最大最強の能力(ちから)を顕現させる儀式。

 引き金に指を掛け、心を落ち着かせる。頭蓋を打ち抜く弾丸は、己の覚悟そのもの。死を想い、死を乗り越え、死に抗う覚悟こそが、結城理の“もう一人の自分(ペルソナ)”を呼び覚まさせるのだ。

 そして理は召喚器の引き金を引く。撒き散らされた心の紙片が、彼のペルソナを織り上げ、彼らを守護するように降臨したのだった。

 

「俺と、俺の《オルフェウス》と、忍学科の皆でだ――――!」

 

 今ここに、ペルソナ使いとシャドウの決戦が、幕を開けた――――!

 




戦闘前のやり取りが長くなり、キリの良いところで分けました。本格的な戦闘と決着は次回にて。なお、今回の武器が苦無二刀流なのは、陽介のオマージュ。今作の理はあらゆる武器を使っていく所存です。

斑鳩シャドウの暴走の原因は、P4の雪子と大体同じですね。よってシャドウも鳥型に。彼女の秘伝動物も鳥(鳳凰)なので丁度良いかと。シャドウのデザインは文章で説明してますけど、画像など用意した方が良いですかねぇ……?(作者は絵は下手ですけど)

理が説得する様子が凄い違和感あるけど、これでいいんだろうか……

※追記 『斑鳩の影』の画像UP


【挿絵表示】


雰囲気だけ伝われば……

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