ペルソナカグラ FESTIVAL VERSUS -少年少女達の真実-   作:ゆめうつつ

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 コミュキャラ回にして、理の引っ越しと掘り下げ、現陣営の状態を一挙に詰め込んだ説明回となりました。


13話 そうだ、忍部屋に行こう

 2009年 4月11日 放課後――――

 

「ここが、半蔵学院忍学科の寮か……」

 

 放課後、理は飛鳥達に連れられ、彼女達の住居である寮に案内されていた。

 学院からさほど離れた位置ではなく、十分に学院まで歩いて通える場所にあるその寮は、傍目には少し古ぼけた程度の何の変哲もない住宅である。

 

「……なんかショボイ?」

「「「ぶッ?!」」」

 

 率直な感想を理は述べるが、この寮に住む当の本人である彼女達はその言葉を聞いて、大きく咽込む。

 

「い、いや……何でいきなりショボイなんて言うんだよ?」

「忍の住む寮だっていうから、そのまま忍者屋敷みたいなのを想像してた」

「……この都会のど真ん中に、そんなモノが有るものか」

 

 葛城と柳生が、そんな風にボケる理にツッコむ。

 一応、見た目は古くとも、忍の住む寮なのでセキュリティはしっかりしているし、侵入者用のトラップも少なからずあるのだが。

 其処を丁寧に説明すると、理は改めて寮を見やる。その眼に僅かながらの羨望が混じったことに、彼女達は苦笑した。やはり彼も男の子なのか、そういった仕掛けには心惹かれるのだろう。

 そして、飛鳥が玄関の前に立って、理の方に振り向く。

 

「あはは……じゃあ、改めて――――ようこそ! ここが私たち半蔵学院忍学科の寮で、結城くんの新しい家でもあるね」

 

 花開くような笑顔を魅せて、彼女は宣言する。

 

「今後とも宜しく! 結城くんっ♪」

 

 

     ◆

 

 

 先日の大型シャドウの襲撃で自室を破壊された――自らの手で破壊したとも言う――理は、新たな住居として忍学科の寮の一室を提供されていた。

 そもそも、半蔵学院側の本来の男子寮から彼が引き払われたのも、シャドウの襲撃そのものが原因だ。

 半蔵学院の上層部は勿論、忍側の手のものであり、シャドウ襲撃の件も伝えられている。いつまたシャドウの襲撃に会うかもわからない彼を、普通の人間が住む寮に置いておくことなど出来ないからだ。

 

 もしもあの時、マジシャンが彼になりふり構わず男子寮を破壊する行動を取っていたならば――――

 故に、理は被害を最小限にかつ、迅速にシャドウを討伐できる手段を取った。それこそが、自室を犠牲に使ったトラップ戦法であったのだった。

 結果として、男子寮の被害状況は屋上と理の部屋の全壊のみであり、あのような化け物が襲撃してきたのにかかわらず最小限で済んだと言えよう。

 

 居住の提供は、彼にとっても渡りに船の話である。居住の問題となっては、流石の理もどうでもいいと割り切ることなど出来ない。男子寮を追い出された以上、彼とて金のかかるホテル暮らしや野宿は御免だからだ。

 そして、街中に悪戯に被害を増やすような真似が許される筈も無いと、忍学科側は判断する。

 そう、言わずもがな、これには忍学科の思惑や監視、報酬を含めた、歯に衣着せずに言えば下心満載の誘引でもあるのだ。直接的な原因が理に無いとはいえ、不憫な話である。

 昨日の病室で、それらの説明――下心云々を除いて――をした斑鳩へ二つ返事で了承し、彼は今ここに至るのだった。

 

「では、此処がキミの部屋となる。一通りの物資は揃えているが、もし必要な物が有れば言ってくれ、全て此方で手配しよう」

「ええ、ありがとうございます」

 

 新たな自室へと霧夜に案内された理は、一歩中に入って全体を見回す。忍という者が利用する寮である為か、内装は襖に畳の純和室だ。

 半蔵学院男子寮ではフローリングにベッドの洋室で有った為、もしかしたらその方が良かっただろうかと霧夜は危惧するが、その心配は無いと理は言う。

 数多くの転校を繰り返し、様々な寮室を渡り歩いた彼が、この程度で文句を言う筈が無かったのだ。寧ろ、この部屋はその中でも中々に上位らしい。

 「外観が古かったので、内装はちょっと心配でしたけどね」とのたまい、霧夜を苦笑させる一幕すらあった。

 

 入居前とはいえ、一応は男の部屋である為、飛鳥達は部屋への案内を遠慮して辞退していた。よもや、婦女子に見せられない様なシロモノを持ち込んでいるなどと思われたのかと理は邪推する。

 尤も、彼の持ち込んだ手荷物は殆ど無い。いっそ体一つと言ってもいい程だ。元々彼は私物が少なく、その僅かな私物すらもマジシャンの巨体に押し潰されてしまっていた。

 部屋に残していた家具や教材は勿論、衣服や所持金も一緒くたにペシャンコになり、シャドウを倒しても、全てを失って明日からどうするつもりだったというのだろう。

 

 彼は言う、「…………忘れてた」と。

 

 ……後に、もしやと思った斑鳩が理の財産を調べさせた際、唯一残されたであろう彼の貯金残高さえも、人間一人が生きていくには余りにも心許無い金額だったという。

 予想以上の貧乏暮らしをしていた彼に、飛鳥達は涙を流して同情するのだった。

 

「結城くんっ! 私が毎日ご飯作ってあげるから!」

「上に掛け合って、報酬金を増やして貰うようにします……」

「メシ食いに行こうぜ、メシ! 美味いラーメン屋を知ってるんだ、奢ってやるぜ!」

「……スルメ食うか?」

「ひばりが持ってるパソコンやゲーム、結城さんに上げるよっ! 一緒にあそぼっ♪」

 

 理が忍学科の寮に入居して、最初に難儀することになるのがこれらのプレゼント攻勢になることを、この時点の彼はまだ知る由もない。

 

「それと、一つキミに言っておかなければならないことが有る」

「……何でしょう?」

 

 部屋の中へと入り、男二人きりとなった室内で、霧夜は理に向けて話しかける。彼は深刻そうな表情で目を伏せ、悲壮な雰囲気を漂わせていた。

 そして、一呼吸置いた霧夜は理へと、深く深く頭を上げるのだった。

 

「本当に申し訳ない。我々は今回の件で、この程度のことでしか君のサポートが出来ないことを許して欲しい」

「……別に、構いません。仕方のないことだと、解っていますから」

 

 理はこの展開に、ある程度予想をつけていた。というよりも、病室で既に斑鳩からこの件は報告され済みである。

 

 ――――霧夜は、そして善忍陣営の忍は、その殆どが()()()()()()()()()()()()()()という事を。

 

 正確には、善忍の中で二十代頃からの年齢の者は、全員が適性を持っていなかったらしい。

 大型シャドウ『魔術師(マジシャン)』との出現と同時に全世界へと展開された影時間の中において、彼らは非適性者の証である『象徴化』を起こしていたのだ。

 言うまでも無くこれは、由々しき事態である。当初彼らは、理への支援として優秀な忍を派遣させるつもりでいたからだ。そして、その殆どが長い経験を重ねた者、つまり成人した年齢であったのだ。

 だがしかし、その彼らでさえ影結界・影時間の中で象徴化してしまう。思えば、今まで忍側がシャドウの存在を感知できなかったのも、この象徴化にあるのだろう。象徴化した者にとって、影結界・影時間の世界は無いも同然であるからだ。

 逆に、経験の浅い若い忍では、シャドウの餌食となる。実際に、先日の影時間の中でシャドウに襲われた忍学生――半蔵学院以外に所属する善忍だ――が少なからず居た。未だに影人間になったままの者も居るらしい。

 故に、高い実力を持ち尚且つ若い忍は、その実力不足の忍学生の護衛へと回されるという。既に影時間が毎夜訪れる訳ではないのは把握済みであるが、それこそ逆に影時間がいつ訪れるのか分からないという事である為、戦力を分散させる訳にはいかないのである。

 つまり理は、今いる戦力―――自身を含め、飛鳥、斑鳩、葛城、柳生、雲雀の計六名――のみで、このシャドウ事件の解決を任せられたのだった。

 

「……情けないことだ。君たちの様な若者を助けるのが、大人の役目だというのに、な」

 

 霧夜は本当に苦しそうにその言葉を口にする。彼にとってみれば、一昨日のマジシャンと生徒達との戦闘は、自分が一切知らないままに行われ、終わっていたからだ。

 彼は立場上その戦闘に、一切係わることが出来なかったのを後悔している。尤も、この時点では大型シャドウと影時間の存在が認知されていないので、仕方のないことなのだが。

 だが最早、霧夜はシャドウとの戦闘に立場上はおろか物理的にすら干渉できないのだ。それは責任感が強く、生徒を愛する彼にとって、身を裂かんばかりの傷心である。

 今の霧夜に出来るのは、こうして理に頭を下げて、誠心誠意彼への謝罪を送ることであった。だが理は、そんな霧夜の謝罪を受けると溜息を一つ吐き、彼へと向けて言葉をかける。

 

「……顔を上げてください、霧夜先生。そんな風に頭を下げられても、正直迷惑です」

「結城くん……、だが!」

()()()()()()()()()()()?」

「――――っ!」

「……いや、付き合いの浅い俺を信じてくれと言っても無駄ですよね。ならせめて、霧夜先生の生徒は――――、飛鳥達の事は信じてあげて下さい」

 

 理のその言葉に、霧夜は頭を殴られた様な衝撃を受ける。

 彼の言う通り、霧夜は結城理を、自分の生徒達の事を、信じ切れていなかったのだろう。だからこそ、こんなにも不安を抱いたのだ。

 シャドウという未知の存在を相手にする未熟な生徒達。それに干渉できない自分。歯痒い思いは、実を結ぶことは無い。

 

「俺は、彼女達を死なせない様に、全力を尽くしますから」

 

 淡々とした口調のまま、理は自身の覚悟を口にする。霧夜は其処で漸く頭を上げ、理へと視線を合わせた。彼は相も変わらずの無表情であるが、その眼には確かな覚悟の表れが有った。

 

「……一つ、いいだろうか?」

 

 霧夜は理へ問い掛ける。彼の覚悟は確かめられた。ならばあと一つだけ、訊ねなければならないことが有る。

 

「キミは何故、そこまでして我々を――――彼女達を、助けてくれるのだ?」

「……それは――――」

 

 ほんの数日前まで、結城理という人間は自身を含めた全ての人間に無関心だという印象を、霧夜は抱いていた。

 理自身、それを否定する気は無い。寧ろ、自身の命を軽視する価値観は、未だに残ったままだ。だがそれでも、理が彼女達の為に命を賭けると断じれるのは――――

 

「…………あれ、何でだ?」

「は?」

 

 思わず素に戻った口調の理のその言葉に、霧夜は思いっきり脱力する。胡乱な眼で見詰めだした霧夜に構うことなく、理はあーでもないこーでもない、なんだかんだと自問自答を繰り返していた。

 駄目だこりゃ、と霧夜は天を仰ぐ。いっそ、惚れた腫れたという話であるならば、あっさり納得できただろう。

 念のために其処を理に確認すると、「それは無いですね。俺、そういうのまだよく分かりませんから」とバッサリである。霧夜は、それを飛鳥達には絶対に言うなよと念押しするのだった。

 実際には、飛鳥達に感じ始めた仲間意識を理が自覚していないというのが真相なのだが。

 

 そうして霧夜は、嗚呼と納得する。要するに結城理は、未だ子供であるのだ、と。

 その育ち故に必要以上に大人にならざるを得なかった理は、友人を得て、仲間を得て、閉ざされていた筈のその心は、本当の意味での成長を体験しているのだろう。

 成熟した精神と身体に、未熟なままでいた心。そのギャップが生み出したのが、今眼の前で混乱している少年であるのだ。

 

「くく……、まあいいさ。キミの本心は、よく分かった」

「……そうですか?」

「オレ達の協力者が、結城くん、キミで良かったよ」

「はぁ……、ありがとうございます?」

 

 未だ自分自身で答えを見つけられずにいる理に、霧夜は最高の賛辞を贈る。今は届かずとも、きっとこの少年は、その答えを掴むはずだ。

 果たして理は、その答えをどうやって見つけるのだろう? 自分自身で掴むのか、飛鳥達と共に見つけるのか、はたまた別の道か――――霧夜は今、結城理の行く末を見届けたいと感じていた。

 いくらペルソナという強力な能力を持とうとも、忍学生と同じく理もまた子供。霧夜達、大人達が愛で、庇護し、導くべき存在なのだ。

 そして、自身に出来るのは――――

 

「彼女達を宜しく頼むぞ、結城くん」

「……ええ。こちらこそ、宜しくお願いします」

 

結城理という少年を信じて、生徒達を託す事だ――――

 

 

     ◆

 

 

「ところで結城くん、キミは飛鳥達の中で、誰が一番好みなんだ?」

「……はい?」

「いや、なに。仕方の無いこととはいえ、これからキミは女所帯の中で生活することになるんだ。そういった浮ついた話も、無くは無いだろうと思ってな」

「……ハニートラップ推進?」

「いや、そういう意味ではないのだが……」

「今さっき、まだよく分からないと仰ったはずですが……」

「今は“まだ”だろう? そうでなくとも、容姿や性格的に好みの娘が居なくはないのか?」

「そういう意味なら……、全員とも魅力的だと思いますけど……」

「チッ、つまらん」

「……意外と口悪いですね」

「おっと、これは失敬。だがオレが求めている答えは、そんな煙に巻くような一般論ではないのだよ。大事な生徒達を任せる男だ。こういったことは速めにハッキリさせておかなければ――――」

「(お父さん? いや、オヤジか……)」

 

 




【悲報】主人公、ポンコツだった。

 この作品では、理は完璧超人なキャラではありません。過去に色々あった所為で、成長せざるを得なかった戦闘面や学術面以外では、割と幼さを残したままです。劇場版の理より仲間と早く打ち解けているように見えるのは、この子供っぽさが原因だと思ってくれれば。……それでも一応、まだデレてはいないので悪しからず。

 今回は霧夜先生のコミュ回でもあります。(コミュランク増えてもあんまり恩恵が無いなどと言ってはいけない……!)
 アルカナは『皇帝』、意味は『父性、決断、統率』など、忍学科の教師としての彼にピッタリな意味ではないでしょうか? なお、コミュアルカナ一つで複数人担当の場合もあるため、彼以外の父性キャラも登場する可能性も……?

 しかし、文中で説明されている通り、大人勢があまり手を出せない状況です。『死』に近い忍は総じて影時間への適応を持ちますが、成熟して完成した精神では影時間を認識できないのです。ペルソナ3の設定では、不安定な精神を持つ十代のみが影時間を認識できるとか。……昏睡状態にあった雅緋さんと忌夢さんはセーフです、セーフ!
 因みにこれは『トリニティ・ソウル』の『大人はペルソナを使えない』設定の流用でもあります。

 なお、この世界ではシャドウ研究、実験、そして事故が起きなかった為、影時間が存在していません。しかし、ペルソナ3で言うイレギュラーシャドウが複数集まった場合のみ『影結界』が発生し、満月シャドウが現れれば『影時間』が発生します。この法則にまだ理含め誰も気が付いていない為、現時点で悪忍勢が出張って来れない原因にもなっていたり。

 次回は、理と忍学科メンバーとの日常コミュ回。漸く大手を振ってイチャ付かせられますね。

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