エヴァとルイズのグダグダな生活   作:ゆっけ’

4 / 9
ルイズとヴィータと貴族の使命

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、貴族である。ハルケギニアにおいて貴族とは、魔法という超常的な力を持ち、多数の平民達が住まう領土を収め、良き治世を行う立場にある者の事を言う。

 

 そしてもう一つ。貴族とは、ただ権力を振りかざし威張り散らすだけの存在で在ってはならない。何の力も持たない平民達がその生命を脅かされた時、彼らの盾となり、剣となり、その矢面に立って戦うからこそ、貴族は彼らから畏敬の念を集める事が出来るのである。

 

「……」

 

 ルイズは麻帆良に現れてから、その事を深く学んだ。貴族という身分が存在せず、表向きには魔法も秘匿されている世界であるからこそ、逆に本来の貴族とはどうあるべきかという在り方に意識を向ける事となったのだ。だから、ルイズは守る事にした。何の力も持たない、一般市民達を。そう決意してからのルイズの行動は迅速だった。すぐに己の動ける範囲で各所を周り、そしてとある大きな組織に、甘んじてその身を置く事にしたのだ。

 

 その組織の名は“EDF”。

 

 外宇宙の生命体が敵対的意思を持っていた場合に備え、全世界的規模で設立された防衛軍(Earth Defence Force)の事である。そこでルイズはひたすらに己を鍛え研鑽を積み、誰もが驚く速度で成長した。たゆまぬ努力の甲斐もあり、日頃だらだらしているように見えてその実、熟練の戦士と呼べる程にまで急激にレベルアップしたのだ。

 

 だがそんなルイズの頑張りと反比例するかのように、外宇宙から来る侵略者達の勢力は日に日に増していくばかり。本日正午過ぎに決行を控えたEDFの一大反抗作戦に参加する予定のルイズだが、流石にこの極東地域を己一人でカバーするのは、手に余りそうだと分析する。だからルイズは先日仲良くなった“彼女”を、助っ人としてこの場に呼び出していた。

 

「! ……来たわね」

 

 エヴァンジェリンのログハウスに響き渡る、ピンポーンというインターホンの音。ルイズが待ち侘びていた助っ人の来訪を告げるそれは、ある意味開戦の合図と言っても過言ではない。ガチャリと玄関の扉を開いた所に居たのは、胸にうさぎのぬいぐるみを抱えて赤い髪を二手に編み込んだ小さな女の子。先日仲良くなったルイズのメル友八神はやての家族の一人、ヴィータだ。

 

「よぉ、来てやったぞ」

「悪いわね。わざわざ呼び出しちゃって」

「別に今日は暇だったしな。じゃあ早速だけど……」

「わかってるわ。また頼りにさせて貰うからね。ヴィータ隊員」

「へへ、腕が鳴るな」

 

 ニヤリと笑うヴィータもまた、少し前に一般市民達を守るという義に目覚めた一人であった。偶然その事を知った二人は意気投合し、もう幾度も共に戦場を駆け抜けていたりする。そして互いの実力に対しても十分に理解し、そこには確固たる信頼関係が築かれているのだ。

 

「邪魔するぜ」

 

 招かれたヴィータはスタスタと、勝手知ったるログハウス内のリビングルームに向かう。一見するとただ遊びに来たようにも見えるが無論、それは違う。この二人が揃った事で、この家はEDF極東支部の作戦本部に様変わりするのだ。ちなみに今現在の時刻は昼。家主であるエヴァンジェリンも従者の茶々丸も、そして八神はやても皆学校。この時間が空いているのは、居候としての立場にあるルイズとヴィータだけである。他に二人の秘密を知る者は居ない。

 

 そして二人はリビングの絨毯の上に座布団を用意し、その上に座って精神を集中させる。ヴィータという助っ人を呼んだのは他でもない。これから行う任務には、尋常でない数の敵が居る事が事前調査でわかっている。一つ間違えばそれは即、死に繋がる程の危険が伴う凶悪なミッションだ。

 

 しかし、彼女達は負けない。負ける訳にはいかない。無力な人々の平和と安全の為に。これより、彼女達は修羅に入る。人と会っては人を撃ち、神と会っては神を撃つ。情け無用。容赦無用。侵略してくる無粋な輩に、二人の力を見せつけてやるのだ。

 

 

***

 

 

「くっ……」

 

 銃を片手に、息を荒くするルイズ。おぞましい侵略者達の尖兵の死骸が、彼女の目の前に散乱している。

 

「何とか、第一波は退けたわね……」

 

 ルイズが参加した、星の命運を賭けたEDFの一大反攻作戦。だがその奮闘も虚しく、今や地球全土は、まるで月面のようになっていた。

 

 クレーターと瓦礫。廃墟と荒野。侵略者達の強大な力の前に、人々はいとも容易くその命を刈り取られ、崩壊した人類文明は無残な姿を曝け出されている。ルイズとヴィータが所属するEDFもまた、侵略者達の猛攻によって壊滅寸前であった。かろうじて情報センターとそのオペレーターは生き残っているようだが、インカムを通して聞こえてくる世界各国の戦況情報は、気を滅入らせるだけの不協和音でしかない。

 

「私も焼きが回ったものだわ……」

 

 ルイズは、持っている火器に弾薬を装填しながら呟いた。AS-99。EDF本部が開発した新型アサルトライフル。人体など連射される弾丸のたった一発が掠っただけで、粉微塵に吹き飛ぶ威力を持つ強力な銃。だがそんな武器でさえ、侵略者の尖兵には何発も当てなければ効果がない。アサルトライフルはルイズが最も得意とする武器であり、日頃から使い慣れているそれは、今も手にしっくりと馴染んでいる……のだが。

 

「全く……持ってくる武器の選択を誤るだなんてとんだ失態よね……」

 

 EDFの隊員は、一度に二つの火器を装備する事が出来る。ルイズはその、己の持つもう一つの武器を見て、思わず自分の選択を悔いた。長距離狙撃用スナイパーライフル、ライサンダー2。華奢な砲身であるにも関わらず一発で戦車の砲撃並みの破壊力を誇り、付けた狙いと寸分違わぬ命中精度を誇るという人類の切り札だ。侵略者の戦闘機械すらも数発で叩き落す恐るべき兵器であり、つい先ほど届けられた最新型なのであるが、如何せんルイズはスナイパーライフルに不馴れだった。

 

「やっぱり、いつものロケットランチャーにしておけば良かった……」

 

 精密性を求められる位置取りや狙撃という特殊な攻撃方法に苦戦を強いられ、ルイズはライサンダー2の持つポテンシャルを引き出せていなかった。体力もかなり消耗しており、戦局が芳しくない事をルイズは認めざるを得ない。敵の攻撃が止んでいるこのつかの間の休息を享受する中で、ルイズは縋るような気持ちを言の葉に含ませながら、背中を預けるもう一人の戦士に連絡を送った。

 

『ヴィータ、そっちはどう?』

「ああ。あたしも、まだ何とか大丈夫……」

 

 ルイズの後方、数kmの位置。インカムを通して聞こえてきた雑音混じりの声に、ヴィータは気丈に答えた。正直口ではそう言ったものの、ヴィータにだってそこまでの余力は全くない。

 

「……」

 

 ヴィータもまた、EDFから最新のデバイスを受け取って使用している。鹵獲した侵略者の兵器を解析し、開発された人類の英知、XSXプラズマランチャー。トリガーを一回引くだけで、砲口から四方向に発射されるプラズマは有無を言わさず半径数十メートルの範囲にある建築物を木っ端微塵にまで粉砕する。侵略者に一矢報いる為の、人間の最後の牙だ。

 

「残量は……空、か……」

 

 もう一つヴィータが携帯している武器は、近距離兵器レイピアGスラスト。銃口から正面に向けてプラズマアーク刃を多数展開して敵を容赦無く切り刻む、近距離戦での対生物・対侵略兵器の制圧に最も適した武器である。

 

「くそっ……エネルギーが……」

 

 だが、そんな強力な武器だ。当然使うのに必要なエネルギーは膨大な物となる。ヴィータが背負ってるプラズマユニットから、各種兵器に供給されるエネルギーには限度があった。一度に使い過ぎるとオーバーフローを起こし、緊急チャージモードとなって全ての火器が一時的に使用不可に陥ってしまうのだ。今、ルイズと共に辛くも敵の第一波を退けたヴィータは、まさにその状態の渦中にあった。

 

『来たわ! 九時の方向! 第二波よ!』

「ちっ……」

 

 突如として廃墟の彼方に現れる、巨大生物の群れ。蟻、羽蟻、そして蜘蛛。生理的嫌悪を引き起こす虫達がそのまま巨大化したとしか思えない、それらこそが外宇宙からの侵略者の尖兵である。そんな巨大生物を輸送し、上空から無制限に戦場へ投下しているのは、侵略者の戦闘艦“巨大UFO型キャリアー”。遠方に薄らと見えるそれもまた、ルイズ達にとって絶対に破壊しなければならない攻撃目標だ。

 

「やらせない……地球はやらせない! やらせはしないわぁぁぁーーー!!」

 

 迫り来る大量の蟻達に向け、後退しながら遮二無二アサルトライフルを乱射するルイズ。銃撃に曝され、甲高い叫び声を上げて絶命していく無機質な蟻達。だがその死体すら乗り越えて、まるで大波のように巨大生物達の群れは押し寄せてくる。その、まさしく地獄(インフェルノ)とすら言える大群の中に、ルイズの小さな身体は無情にも飲み込まれていった。

 

『きゃぁーーー!』

「ルイズーーー!!」

 

 ルイズの悲痛な叫び声が途切れ、インカムからはザーというノイズの音しか聴こえなくなる。ヴィータは遠くに山のように群がる蟻の群れを、沈痛な面持ちでただ見ているしか出来なかった。プラズマユニットには飛行能力が備わっており、チャージモードが終わってさえいれば、直ぐに駆けつけるが出来た筈である。なのになぜ、自分はこのタイミングでユニットをオーバーフローさせてしまったのか。

 

「ちっくしょぉぉーー!」

 

 ヴィータは己のエネルギー運用効率の悪さを歯噛みして悔しがった。そしてそんな無防備なヴィータの前にも、巨大生物達は容赦無く襲ってくる。不気味に蠢く無数の巨大蜘蛛が飛び掛かり、腹部の下方から人間の力では決して引き千切る事の出来ない、粘着力の高い糸をヴィータに向けて発射して……

 

「うわぁーーー!」

 

 

***

 

 

「随分と、楽しそうだな。ルイズ」

「!?」

 

 画面一杯に広がる、Mission Failedの文字。イキナリ背後から聞こえて来た、この場に居ないはずの人物の声。聞こえた瞬間、ルイズとヴィータはビクリと肩を震わせた。そして油が切れたブリキ人形のような動作で、恐る恐る、二人は振り返る。そこに居たのはこの家の主、腕を組んで眉を釣り上げるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルその人。

 

「……」

「……」

「……」

 

 ちらりとルイズが時計に視線をやると、予想していたエヴァ達の下校時刻をとっくに過ぎていた。どうやらエヴァ達の帰宅にすら気付かぬ程に、ルイズとヴィータは熱中してしまっていたらしい。今まで自分一人の時はこんな失敗は無かったのだが、よりによってヴィータを家に呼んでいる時にバレてしまうとは。ルイズ痛恨の不覚である。

 

「ルイズお前、今朝も少しやっていただろう。ゲームは一日一時間だと、前に言ったはずだな?」

「べ、別に……その……い、いいい今始めたばかりよ? ね、ねぇヴィータ」

「お、おう」

「ほぉう」

 

 実は二人の後ろで少し前からスタンバイしていたエヴァンジェリンに、そんな取ってつけたような言い訳が通用する筈もない。コントローラーという名のデバイスを握り締め、二人がやっていたゲームソフトの名前は“THE・地球防衛軍2”。地球を侵略しにくるインベーダーと様々な武器を駆使して戦うアクションゲームである。先日ルイズは麻帆良にある各所ゲームショップを巡り、安かったからとこれを購入して、見事にどハマりしたのだった。

 

 そして「地球を守るは貴族の使命!」等とのたまい、家主のエヴァ達の目を掻い潜って日夜ゲームの修行に励んでいたのである。ヴィータの方もまた、似たような理由でこのゲームにハマっていた。ただ家でずっとやってるとはやてに怒られるので、こうして昼間にルイズの所に来ては、助っ人という形で思う存分堪能していたという訳である。

 

「あ、じ、じゃああたしはこの辺で……」

「まぁそう慌てるな。折角の客だ。お前らにとっておきの“おもてなし"動画を見せてやろう」

 

 立ち上がろうとしたヴィータの肩をがしっと抑え付け、ニヤニヤとエヴァンジェリンは黒く笑った。その言葉に、ヴィータは大人しく座布団に座り直す。ヴィータにとって一番怖いのは、八神はやてにこの事を知られて怒られる事だ。つまりエヴァンジェリンの機嫌を損ねるのは宜しくないという結論に達する。そしてルイズの中でもまた、今までで培われた対エヴァ警報が鳴り響いていた。エヴァのあれは、絶対に良からぬ事を考えている顔だと。

 

「茶々丸」

「ハイ、マスター」

 

 エヴァンジェリンの従者であるガイノイド。茶々丸がいそいそと、部屋の隅に置かれた観葉植物の所へ近付いていく。そして何だと見ているルイズとヴィータの前で、茶々丸は植物の葉と葉の隙間から、何やら極小の機械らしき物体を取り外した。よく見ればそれには小さく、レンズのような物が見える。そしてその機械から伸びたコードは、目で追って行くとルイズ達が注視していたテレビの真下。HDDレコーダーに繋がっているらしい。

 

「い、一体何を見せるって言うのよ……」

「クックック。なぁに最近貴様の挙動がおかしかったのでな。こんな事もあろうかと、昨日の内にリビングに監視カメラを設置しておいた」

「な!?」

 

 そう。つまり観葉植物の所から、今日これまでのルイズと、ついでにヴィータの全状況が、しっかりハッキリ録画されていたのだ。ゲームに感情移入しまくり、EDF隊員に成り切って地球を防衛していた(つもりになっていた)ルイズとヴィータの、なまら恥ずかしいプレイ風景が。その一部始終が、レコーダーの中に、ありありと。

 

「フハハハハ! さぁ、貴様らのあられもない醜態を、存分に拝ませてもらおうじゃないか!」

「や、やめてエヴァ! お願い! お願いだからぁー!」

「うわー馬鹿やめろ! んなもん再生すんなぁー!」

 

 顔を真っ赤にして暴れようとするルイズとヴィータ。何だか結構涙目だ。しかしそんな二人は背後から茶々丸にガッチリとホールドされ、再生を阻止する事も、この場から逃げ出す事すらも封じられている。まさに、逃げ場なし。そして無慈悲なエヴァンジェリンの指がレコーダーの再生ボタンから離されると、ゆっくりとテレビ画面に、コントローラーを握った二人のドヤ顔姿が映し出され……

 

『敵は多いわねヴィータ。……いえ、でも大した事はないわ。だって、今日はあたしとあなたで、ダブル……』

「いやぁぁぁそれ以上は見ないでぇぇーー!」

「ハッハッハ、断る」

 

 こうして外道魔王エヴァンジェリンにより、決して人に見られたくない恥ずかしい黒歴史を、一から目の前で再生されるという公開処刑に処させるルイズとヴィータ。勿論その後しっかり八神はやてにもこの情報は届けられ、二人揃ってゲームやり過ぎだというありがたいお説教を喰らったのは言うまでもない。





管理局?ゲームの発売日?グラーフアイゼン?
何の事です?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。