エヴァとルイズのグダグダな生活   作:ゆっけ’

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エヴァとルイズと呪われてた姫君

 

 エヴァンジェリンのログハウス。今、その中はある意味で戦場であった。

 

「あ、お前! その肉はあたしのだ!」

「何言ってるのよ! これはあたしが先に目を付けてたの!」

「うるせぇよこせ! はやてのギガウマ料理は渡さねーぞ!」

「鍋なんだから何食べたって一緒でしょ! あなたはこっちのしらたきでも食べてなさいよ!」

「何だと!」

「何よ!」

「はいはい。まだ沢山あるからルイズさんもヴィータも喧嘩せんで仲ような」

「全く、見た目通りに餓鬼だな貴様らは」

 

 くつくつと香り豊かな湯気を立て、煮立つ鍋の中には色取り取りの食材達。テーブルの上に置かれたそれを、四方から囲んでいる四人の少女。一人はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。言わずと知れた真祖の吸血鬼。この家の主である。もう一人は、本来なら麻帆良とは縁も由もないはずのトリステイン貴族、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。召喚失敗により麻帆良に現れ、今現在ここで厄介になっている居候である。そしてもう二人は、今日この時この家に初めて来た客人達だ。

 

「あ、お出汁が少なくなってきたかな……ちょっと取ってくるな」

 

 一人目の少女の名は、八神はやて。麻帆良からは少々離れた都市に暮らす、10歳の少女である。元々足が悪く車椅子での生活をしていたのだが、現在は快方に向かっており何とか松葉杖を使って歩く事が出来ている。ルイズより遥かに年下なのに生活力のある、しっかりとした少女だ。

 

「ん、いいよはやては座ってろって。あたしが取ってくる」

 

 そしてもう一人の少女の名は、ヴィータ。八神はやての家族であり、その容姿は10歳のはやてに比べてさらに幼い。元々は魔道書のプログラムという存在であったが、ある事件を機にその呪縛から解き放たれ、今ははやての家で他の家族と共に仲良く暮らしているのだ。

 

 さて。なぜそんな全く関係のかの字も見当たらない彼女達が、エヴァンジェリンの家で一緒になって鍋を囲っているのか。そもそもの切っ掛けはルイズにある。

 

 ルイズは麻帆良に現れた当初、酷く混乱した。自分の置かれた境遇に絶望し、一時は本当に塞ぎ込んだ。だがエヴァンジェリンの突き放したようでどこか思い遣りも垣間見える言動と、この場には居ない茶々丸という優しいメイドに諭され、徐々に前向きになったのだ。そして、折角この見た事もない技術に溢れた日本という国に来たのだからと、ようやく周囲に目を向け始めた。日々コタツでだらだらするようになった寒い冬に入る前までは、それはもう精力的にその文化を学び取ろうとしていたのだ。

 

 その一端で、彼女が情報収集に使っていたのがそう、インターネットである。最初こそおっかなビックリだったがそこは元々飲み込みの早いルイズ・フランソワーズ。瞬く間に知識を吸収していき、その使い方をマスターしていたのだ。

 

「ごめんねはやて。ここまで来てもらっちゃって。その……足、大丈夫だった?」

「うん大丈夫。リハビリにもなるしな、丁度良かったんよ」

「そう? でも、無理しないでね」

「ありがとな、ルイズさん」

「……。しかし、お前いつメールなんかしていたんだ」

「ん、エヴァが学校行ってて居ない時とかにね」

 

 はやては、ルイズのメール友達だった。

 

 勿論、最初はお互いの名前も住んでる場所も知らないただの暇潰し相手みたいなものだった。だがルイズは見知らぬ人と簡単に交流出来るという事に新鮮さを感じていたし、はやても足が良い方向に向かった事で徐々に活発さを取り戻し始めていた。これが思いのほか上手く噛み合い、トントン拍子に二人はメールの上で本名等も明かせる程の仲になっていったのだ。

 

 そして、たまたまこの日ルイズは家に自分ともう一人しかいないんだーと伝えた所、はやての方も自分ともう一人しかその日は家に居ないので、良かったらご飯でもご一緒しませんか、という話になったという訳である。

 

「フン……」

「なぁアンタ」

「ん?」

「……アンタって、はやてからは吸血鬼だって聞いたけど本当なのか?」

「別に無理に信じろとは言わんぞ。証明するのも面倒くさいからな」

「いや信じないとかそういう訳じゃねーけど……。ならさ、アンタはずっと昔から歳も取らずに、その見た目なのか?」

「……まぁ、な」

 

 見知らぬ他人だからかどこか遠慮が見えるヴィータは、真祖の吸血鬼であるエヴァンジェリンに興味があった。何を隠そうヴィータも見た目通りの年齢ではない。魔道書のプログラムとしてずっと昔から成長もせず、幼い少女の姿をしているのだ。

 

「ふーん……」

「何だその目は」

「いや……何ていうか、お仲間みたいなもんかなって」

「?」

 

 思わぬ所に自分と同じような見た目で時が止まってる少女がいる。ヴィータは何となくだが、仲間意識のようなものを持った。特にヴィータの過去に踏み込むつもりもないエヴァンジェリンはその事には何も言わず、脇からドンと一升瓶を取り出す。鍋にはやはり、日本酒である。

 

「あ! エヴァンジェリンさんお酒なんて飲んじゃダメやで」

「いいんだよ。私はこう見えて何百年も生きているからな」

「ああそうか、アンタみたいなのがたまに聞く“ロリババア”ってやつか」

「……。おい表へ出ろそこの万年ゲートボール小娘。貴様の頭もスカンと打ち抜いてやろうか」

「ゲ、ゲートボール馬鹿にすんな! ていうか何でソレ知ってんだよ!?」

 

 乱暴な口調で捲し立てるヴィータ。昔から少女の姿と言えど、精神的に老成している訳ではないらしい。そして、何故初対面のエヴァンジェリンがヴィータの密かな趣味を知っているのかというと、それはまぁきっと真祖の吸血鬼だからだろう。600年を生き抜いた年の功は伊達ではないのだ。

 

「なんや、仲ようなってくれてるみたいやな」

「まぁエヴァは元々あんなんだからね。それにしてもはやてって、こんなに料理上手だったんだ」

「うん。私ずっと一人で暮らしとったから……自分で色々出来るようにならなあかんかってん」

「う……」

 

 ルイズは思わず呻いた。ルイズは生まれてこの方料理どころか、台所に立った事すらない。大貴族の娘はそんな事しなくて良いからだ。だがしかし、こんな足の悪いいたいけな少女ですらこれほど苦労をしていると知り、ルイズは何だかちょっとそんな自分が恥ずかしい気になっていた。

 

「……でも私な、大変だなんて思った事、一度もないんよ。それ所かちょっと前から新しい家族が出来て、大切な友達も出来て、前より何もかもがずっと楽しくて……。ルイズさんともこうして知り合えたしな」

「……」

「あ、ほら、煮えとるよ。……はい、エヴァンジェリンさん」

「ん。悪いな」

「はやて、あたしにも!」

「はいはい、ヴィータは山盛りやね」

「……」

 

 ルイズは、思わず目を逸らした。はやてが眩しすぎてまともに見れなかったのだ。そしてさらに、何だか泣いちゃいそうでもあった。

 

 何この可愛い子。それに比べて私ってばなんなの。エヴァと茶々丸に甘えてこんな自堕落な生活してるあたしって。貴族としての誇りが聞いて呆れちゃうわ。……いや、逆に考えるのよルイズ。これを転換点にすればいいの。そうよ、これを機にもっと誇りを持った生活に変えればいいんだわ。大丈夫私なら出来る。そうまずは、こんな良い子と偶然にも知り合えた事を、始祖ブリミルに感謝する所から。……あれ、でも待って。そもそも前に始祖に祈りを捧げたのって……いつだったかしら。

 

「……」

「? ……ルイズさん? どないしたん?」

「もう腹いっぱいなんじゃねーのか」

「それはない。ルイズはいつも夕飯を食った後、デザートは別腹等とほざいて甘い物をたらふく……」

「……」

 

 ルイズは己を恥じ、頭を抱えた。ある事ない事……まぁ全部ある事だけど……を言いふらすエヴァを睨みながらだ。そして少しの間ぷるぷる震えると、突然ガタンと大きな音を立てて立ち上がった。その小さな胸に宿った決意の火を今ここで自らの口に出し、今日この日、自分は改めて生まれ変わる事を誓うのだ。

 

「エヴァ!」

「どうした」

「私決めたわ! 今のままじゃ私、何か色んな人に顔向け出来ない気がする!」

「そうだな。私もそうだと思うぞ」

「うん! だから私、頑張る!」

「……。ああ頑張れ」

 

 何を頑張るのかがイマイチ分からないが、本人がやる気になっているならエヴァンジェリンに特に文句はない。……と言うかまぁ実の所、エヴァンジェリンはまともにルイズの言葉を取り合っていなかった。吸血鬼としての長い経験が教えてくれている。こう言った突発的な決意なんてのは、往々にして長続きしないものであると。

 

「なんやよくわからないけど、元気なんが一番や。はいルイズさんの分。これも大盛りや」

「わーい!」

「……おいルイズ、何を満面の笑みで受け取っているんだ。頑張るんじゃないのか」

「あ……も、勿論頑張るわよ…………えっと……明日から」

「……」

 

 とにかく、何だか楽しい夜の宴であった。

 


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