エヴァとルイズのグダグダな生活   作:ゆっけ’

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エヴァとルイズのグダグダな正月

「ねぇエヴァ、この芸人達何なの? つまんないんだけど」

「雛壇芸人だな。まぁただの賑やかしとでも思っておけ」

 

 麻帆良学園敷地内に建てられたログハウスの中。

 騒がしい音声を伝えるテレビの前で、炬燵に入って蕩けている二人の少女。

 

「何が正月よ。録な番組やってないじゃない。五月蝿いだけの芸人とか要らないのよ」

「そう言ってやるな。こいつらも今しか稼ぐチャンスがないんだ」

 

 死んだ魚のような目でピッピとリモコンを操作する彼女の名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 ピンクブロンドの髪が美しい、華奢な体格をした少女である。

 彼女は本来なら、テレビ等という科学の産物とは無縁な、ハルケギニアという異世界に居たはずの少女だ。

 その彼女がなぜ今、ここにいるのか。それは全くの偶然によるものだとしか言えない。

 

「ねぇ」

「何だ」

「お腹空いたわ」

「そうか。私もだ」

「何かないの?」

「茶々丸が作っておいた筈のおせちはどうした」

「昨日全部食べちゃったわよ」

 

 トリステイン魔法学院での使い魔召喚の儀式から、早半年。召喚失敗の爆発に自らが巻き込まれ、気付いたらルイズは時空を超えて麻帆良にいた。

 煤けた状態で呆然と佇むルイズを最初に見つけたのは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。このログハウスの主である真祖の吸血鬼だ。

 その後何故か、第一発見者としてエヴァンジェリンはルイズの仮の保護者に抜擢され、元の場所に戻れるまで寝食を共にする羽目になったのだった。

 そこに至る過程で様々なゴタゴタがあったのだが、今は割愛する。

 

「ねぇエヴァ」

「何だ」

「ちょっと外のコンビニまで行っておでん買ってきてよ」

「断る。貴様が自分で買ってこい」

「嫌よ。外寒いんだもん」

「なら我慢しろ」

「それも嫌。私はおでんが食べたいの。だから買ってきて」

「知らん」

 

 ヴァリエール家と言えば、トリステイン王国で知らぬ者のない大貴族。その三女であるルイズも、当然一端の貴族である。

 だがもし、今の彼女の姿をトリステインの民が見たとしたら、皆間違いなくこう思うだろう。

 「何このものぐさな平民は」と。

 それほど、彼女は日本の文化に染まっていた。頭の先までどっぷりと染まりきっていた。

 マントではなく半纏を着込み、炬燵から一歩も出ようとせず、テレビに文句を付けるこの姿を見て、一体誰が彼女を貴族だと思えるだろうか。

 

「ねぇ」

「何だ」

「他にやってないの? 面白いやつ。スカパーとか」

「正月はこんなものだ。慣れろ。それとウチにそんな訳の分からん物はない」

「何よケチくさいわね」

「そんなに暇なら初詣にでも行って、始祖なんたらでも崇めて来ればいいだろ」

「嫌よ寒い。きっと始祖ブリミルも、こんな寒空の下でまで崇めなくて良いと仰る筈だわ」

「適当な神だな」

 

 最早信心の欠片もないこの少女。異世界だという事で、本性ダダ漏れである。

 そもそもエヴァンジェリンは、本来彼女のような世間知らずな少女を嫌っていた。

 だが見知らぬ世界にたった一人というルイズの境遇に自分を重ねてしまい、一応こうして面倒を見てやっているのだった。

 

「もー、茶々丸(メイド)はいつ帰ってくるのよー」

「さぁな。めんてなんすとやらが終わるまでだ」

「お腹空いたー」

「駄々を言うな。金ならあるんだ。買うか作るかすればいいだろう。勿論自分でな」

「……」

 

 エヴァンジェリンの従者たる茶々丸は今、ハカセや超によって20xx年問題の対処メンテナンスという謎の儀式に連れて行かれてしまっており、居ない。

 それはつまりこの場を片付けたり、料理を作ったりする人間がいない事を示している。

 二人が入った炬燵周辺には開けられたままのスナック菓子の袋や、中途半端に残って炭酸の抜けたペットボトルが転がっていて、目も当てられない状態だ。

 たった一日でここまで汚せるのは最早才能と言っていい。

 

「ねぇ」

「何だ」

「暇だからしりとりでもしましょうよ」

「お前の拙い日本語で、数百年を生きる私に勝てると思っているのか」

「わからないわよ。負けた方がコンビニ行っておでん買ってくるってのはどう」

「……大した自信だな。良いだろう、その勝負乗ってやる」

 

 ルイズは、こう見えて頭は悪くない。

 麻帆良に現れてからの三ヶ月で、ハルケギニア共通語とは全く系統の違う日本語を、ほぼマスターしてしまっているのだ。

 そうしてお互い自信満々で始まったしりとり勝負。

 二人して寝転がった状態のまま、熾烈な熱戦が繰り広げられる事数分。

 最終的に「ル」攻めという奥義を使ったエヴァンジェリンに手も足も出せなくなり、ルイズはぐぬぬと唸るのだった。

 

「卑怯よエヴァ。ルばっかり」

「フ、それは私には最上の褒め言葉だな。さぁ、負けは負けだ。ルイズ、おでんを買ってこい」

「うー……」

 

 自分で言った手前、行かないのはルイズの心に一割ほど残っている貴族としてのプライドが許さない。

 一応、少し動こうと身体を起こしてみるルイズ。

 しかし。だがしかし。ああしかし。この炬燵。日本の伝統、匠の技の結晶、炬燵。

 一度入ったら二度と出られない、まさにこれこそ魔性のマジックアイテム。

 こんなのに捕まってしまったら、逃げられる訳がない。

 ヒュウと炬燵布団の脇から入ってくる隙間風に屈し、ルイズはベタっと座布団の上に潰れてしまった。

 起き上がっていた時間、僅かに二秒。

 

「……駄目。やっぱり駄目だわ。私ここから動けそうもない。ああごめんなさいお父様。ルイズは悪い子になってしまいました……」

「おい待て。何がお父様だ。謝るならまず私にだろうが。御託はいいから早く買ってこい」

「あー、早く帰ってきて何か美味しい物作ってくれないかなー茶々丸(メイド)……」

「人の話を聞け!」

 

 果てしなく自堕落な正月を過ごすルイズとエヴァンジェリン。

 その後このグダグダな空気は、そうなっているだろうと見越した茶々丸が鍋の具材を買って帰宅するまで繰り返されたという。

 

 本来なら有り得ない筈の二人の出会い。

 だが意外とこんな似たもの同士の物語も、どこかにあるのかもしれない。


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