ハイスクールDevil×Dragon×Dhuman 作:4E/あかいひと
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まあ、とりあえず、俺の勘は仕事してないってだけだな
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…………時系列で纏めると。
・俺、意識せずに姫島さん家の母子を助ける。
・俺、運悪く終わった頃にやって来た堕天使バラキエルに勘違いされて撤退戦しつつ逃亡。あのパパ堕天使ちょー怖かったよぉ…………。
・朱乃さん、恩人に何してくれてんだと父親に癇癪を起こし、お礼を言うために家出。行動力あんなぁこの人!
・朱乃さん、一人になったところをいろんな勢力から狙われ…………そこで第二の恩人に遭遇、救出される。運が良かったんだねぇ……。
・お互いがお互いの為に一緒に旅をしつつ、途中で第二の恩人と別れる。その際何度もお礼を交わし合ったとか。
・朱乃さん、別れて暫くして何らかの理由で力尽きた模様。詳細を語りたくなさそうなので、一応問題はなさそうだし聞かないことにする。
・朱乃さん、その行き倒れた先でお嬢と遭遇。色々な手続きや取引を経て、お嬢の眷属として悪魔陣営に所属することに。
・その色々な手続きに取引というのが、彼女の生まれを斟酌した結果『親に会えないのはまずいだろう?』ということで、許可が出れば実家に帰って家族と過ごせるようにする為のものであったとのこと。パパ堕天使はその折に朱乃さんに謝り、彼女の方も軽率だったと謝り、それで仲直りしたらしい。
・朱乃さん、そんなわけでいいとは言えないが悪くない着地点に落ち着き、お嬢の協力のもと、それでも最初の恩人を探していたのだが…………つい最近見つかったらしい。というか、俺だった。
・朱乃さん、それとは別に第二の恩人の安否を気にしていた。これもまた、お嬢の協力のもと探していたらしい。
「…………そして見つかった。まさか、あの『リチャード・トゥイラー』が貴女を助けた男だったとは」
「……ええ。意味がないとは言いませんが、探しても見つからないのに結局二人とも、もう一度私の前に姿を現したんですから」
というわけで、現在俺たちは境内の家お邪魔させていただいて、そこの一室にて腰を落ち着けて情報のすり合わせを行ってたのだった。その間妹二人は空気を読んで別室に行ってくれたが…………ううん、気まずい☆
「いやしかし、本当に申し訳ありませんでした朱乃さん。俺が名前を残すなり、もう一度会いに行けばこんなことにはならなかったのに」
「気にされるとこちらの方が申し訳なくなりますわ、イッセーくん。子供の頃とはいえ、軽率な行動をとったのは私なのですから。もう少し頭が冷えていれば、父に探してもらう様に頼めたものを…………」
それに、と言って朱乃さんは柔らかに微笑む。
「その軽率さのお陰で、今の仲間や友がいます。頻繁に会うことは難しいですが両親もいますし、和平が進めば煩わしい手続きも消えます。反省はしていますが、後悔なんてできない程に、私は幸せです」
「……ですか」
「ですので、もう一度だけ」
そう言って、朱乃さんは佇まいを直し、深く頭を下げた。
「本当に、ありがとうございますイッセーくん。今の私が幸せだと断言できるのは、間違いなく貴方のお陰です。貴方があの場にいてくれなければ、もしかしたら私は死んでいたかもしれない、母が死んでいたかもしれない。…………どちらか片方が生き残って、父を恨んで生きていたかもしれない」
「偶々、ですけど…………どういたしまして。戦うことしか能のない男が、誰かの幸せに寄与できたのなら、これほど嬉しいことはありませんさ」
そうなのだ。基本的に
それに…………家族に会えなくなる苦しさを味わう人が少なくなればとは思うしね。
「本当に、無事で良かった」
◇◇◇
さて、俺の話は終わった。
「…………てわけで、次の話なんですが」
「…………ええ、そうですわね」
ドSなそれではなく、本当に心のそこからの笑顔だった朱乃さんの顔が曇る。
「道中、顔は隠されていたので気がつかなかったのですが、一度だけ見たことがあるんです。そんな不確かな記憶を頼りに、リアスの力を借りながら探していたのですが…………」
先に再会してしまったと。
「ですが、仮にもっとたくさんの情報があったとしても、彼……リチャード・トゥイラーさんを見つけることは、恐らくできなかったでしょう。…………消しきれない痕跡を除き、その情報を消されていたのですから」
「はい…………あいつの情報は残せなかったのでしょう。悪魔陣営、貴族社会の闇に巻き込まれた典型例なんスからね」
リチャード・トゥイラーという男は、とにかく不幸だった。いや、今も不幸のはずだ、多分。それでも、悪魔に転生するまでの人生は、不幸で、救いがなくて、見れたものではなくても、誰かが悪いわけではなかった。誰もが幸せになろうとして、噛み合わずに不幸になった。時代が、間が、悪かったのだ。
でも、悪魔時代は違った。不幸な上に、意図的にリチャード・トゥイラーという男はドン底に突き落とされたのだ。極秘資料に目を通した時、思わず紙を持つ手が震えてしわくちゃにしてしまう程度には、俺もその胸糞の悪さに吐き気を覚えた。思い出すのも億劫である。
他人の俺ですらそうだったのだ、同じ資料を読んでいるはずの、あいつに救われた朱乃さんの胸中は…………察することができない程度には、胸糞だったろう。
「ですから、正直納得してしまうんです。…………あの人が、和平なんて受け入れられなくても」
「…………もうそこも知ってんすね」
「ええ…………」
間違いなく、あの男は噂のテロ組織に属しているのだろう。
だが、
「……俺は1つ、腑に落ちなかったんですよ」
「?」
「あの男は、筋金入りのドMでした。精神的苦痛すら、自分の快感にしてしまえる程に」
「え、ええ…………」
戸惑う様に頷く朱乃さん。いきなりそんなことを言われても困るよな、うん。……でも、なんでそんなウズウズしてるように見えるんでせうか? 気にしたら飛び火しそうだからスルー一択だけどね!
「だがあの男、それに自分の妹を巻き込むのはノーサンキューとも言っていました。だから、腑に落ちない」
「それはつまり…………彼の妹が不幸になることはしない筈なのに、ということですか?」
「ええ」
現在、リックの言でなら自分の信頼できる者のところに預けているとのことらしい。だが、その信頼できる者っていうのは、そういう事情を知っている裏世界の住人だということだ。もし三大勢力とテロ組織が戦争になったときに、全く影響を受けないとは考え辛い。
「確かにあの男には三大勢力…………というよりは、悪魔陣営に復讐するに足る理由はあるでしょう。だが、たった一人残っているあいつの肉親を巻き込む程とは思えない。でなければ、現状で既に行動を起こしていなければおかしいからです。それに、三大勢力会談で顔を出すだろう悪魔は悪魔陣営の中でとびきりクリーンな、『魔王』なんですから。復讐対象じゃない」
そこから導きだされる考えは、1つだけだ。
「妹です…………あの男の妹の身に、何かが起きている」
「……………………!」
「あれだけの不幸を背負って、なお我慢できていた男を動かすには、俺にはソレしか思い付かんのですよ」
俺のため息が、和室に吸い込まれるように消えていく。
そして、沈黙。今、彼女は何を思っているのだろうか?
「……イッセーくん」
「はい」
「まどろっこしいことは聞きません。それを私に話したのは、してもらいたいことがあるから。そうですね?」
「ええ。食堂の時の反応で思いました、長い生の中で、ヤツにとっては瞬き位だろう時間しか共に過ごさなかった筈の貴女に、あの男は結構な反応をしていました。なら、これを使わん手はない」
一呼吸おいて、俺は言葉を吐いた。おそらく、前世含めて初めてだろう、
「リチャード・トゥイラーを
戦ってみたい相手を戦う前から潰すとかいう、盤外戦闘のお誘いなんて。
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