ハイスクールDevil×Dragon×Dhuman 作:4E/あかいひと
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敗者の末路は、それはもう酷いものです。
だから、というわけでもありませんが。敗者達の成れの果ての集いが、真っ当なわけがない。
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銀のロケットを畳み、懐にしまう。辛いときはよく眺めているのですが、今の僕にとっては更に気落ちさせるものでしかありません。精神的な苦痛も愉しめる僕ですが、こればかりは性癖を越えたところにあるのでどうしようもないです。まだ真人間のような部分が残っていたようで、内心嬉しいのですが。
そんな風に宛がわれた個室で独り、ため息をついていると、ノックの音が飛び込んできました。
「リチャード・トゥイラー、よろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
入室を促すと、入ってきたのは見た目だけは妙齢の女性。俗に言うところのキャリアウーマンとやらの様にスーツを着こなした美女は、僕を見るなり急に顔をしかめました。
「…………貴方と知り合って、まだ少ししか経っていないことを承知で言います。…………この部屋はアブノーマルの極みですね、この変態」
そう言って、彼女は他に見れるものがないと、僕を蔑んだ目で見下ろしました。いやまあ、ええ、無知とか三角木馬とか鎖とか、所謂そういうことに使うもの、沢山ありますから、そうもなりますよね。それにしても、そんなこわねで、そんな目で見られると…………
「ウッ…………ふぅ。失礼、思わず高ぶってしまいました。ですがまだ足りない、もっと、もっと見下すように…………」
「………………………………」
「おっと、無表情無関心放置プレイですか? イイですね、思っていたのとは違いますが、これはこれでゾクゾクしますよ…………!」
「処置無しのド変態ですね貴方はッ!」
「我々の業界では褒め言葉ですっ!」
そこで不毛と判断したのか、言いたいことを飲み込んで、盛大に溜め息をつきました。少しもの足りませんが、仕方ありませんね。
「それで、どうしたのですか?」
「…………。どうかしているのは貴方の方ですが、私は飲み込みましょう。ええ、私は出来る女ですので」
「あの、自分で出来る女って言うの、恥ずかしくはないのですか?」
「何処に恥ずべき点が? これ以上もこれ以下もない事実ですので」
一見すると嫌味に聞こえるかもしれないですが、確かにそれは我々も認める事実でした。事情を知っている者からすれば、寧ろ謙虚なのではないかとすら思います。目の前の女性は、僕が知る限り最もプライドが高く、他人には厳しく、自分にはもっと厳しい方ですから。
まあもっとも、自分への
「つっこみません、つっこみませんから…………!」
ちなみに、ツッコミ属性として親しみの持てる性格をしてる様で、我々の間では弄り甲斐があると専らの評判です、羨ましい。
「…………ハァ、貴方と話していると、ろくに進みませんね。とにかく聞きたかったことがあったのです。リチャード・トゥイラー…………貴方、赤龍帝:兵藤一誠に会いましたね?」
「!」
何故バレたのでしょうか? 別に隠していたわけでもないとはいえ、大っぴらに公言していたわけでもないのに。
「その反応はやはりそうなのですね? 何故分かったのかという疑問に答えますと、あの男と遭遇すると何かしらの形で変革が始まるからです。自覚はないのかもしれませんが」
「…………参考までに、どのような変化が僕にあったのか教えてもらえますか?」
「幾つかありますが、一番分かりやすいところで言うならば、被虐嗜好が少し治まっているというところでしょうか? 貴方の場合、少し治まったところで手の施しようがないのは変わりないのですが」
「……………………」
いざ、指摘されてみると納得する部分は多少あります。彼を見て『(物理的に)めちゃくちゃにされてみたい』と思ったのは間違いなくそうなのですが、ほんの少し『倒してみたい』と思ったのは否定出来なかった。そう思わせるだけの何かが、あの赤龍帝にはある。この、被虐趣味である僕にそう思わせるだけの何かが。
「成程、納得です。ですが、まるで体験したかのように言いますね?」
「ええ、そのせいでこうなったクチですからね、私も」
「…………正直意外です。元からそんなノリなのかと」
「ノリ、等と言われるのは些か不本意ではありますが、謂わんとしていることは分かります。自分で言うと悲しくなりますが、こうなる前はそれはもう愚か且つ無様極まりない女だったのですよ。兵藤一誠は、それはもう非常識の塊で、憎き赤龍帝ではありますが、私へ変化をもたらしてくれたことは素直に感謝しています」
…………すごい。厳しさの塊にこうまで言わせるとは。
「もっとも、私は遠目に見ただけですので変化は薄い方でしょう、グレモリーなどと比べれば。そして、私は必要以上に野蛮になるつもりもないのでもう遭遇したくもない」
「あ、あはは…………」
らしくもなく乾いた笑い声をあげてしまう。予定では、否応なしに関わらざるを得ないのだから諦めればいいのに、と思ってしまうのは僕だけでしょうか?
と、ここで部谷に備えられたスピーカーからブザーが鳴る。何故このパターンなのですか…………と壁掛け時計を見て、納得。気が付けば、結構な時間をぼーっと過ごしていたみたいです。
「定期召集ですか。では、私達も」
「ええ、分かりました」
全く、人生とは儘ならないものです。
自分の命は、一度だって自分のものだったことはない。その理不尽が、堪らなく
嗚呼、本当に厭になる。
「ハァ…………互いに、儘ならねぇ不幸っぷりだな。そうだろ、カテレア・レヴィアタン?」
「私は不幸なのではなく、義務に縛られただけです。勘違いしないように、リチャード・トゥイラー」
◇◇◇
「…………またなーんか余計なことした気がするぜぇ」
『いつものことではないのか?』
「いや、そうなんだけれど…………うぅむ」
「兄。基本、兄のすることに無駄なし」
「そ、そうですよ! お兄ちゃんのしたことが悪いことに転がったことは基本的にありません!」
そうか…………? そうなのか…………。うん、シスターズに言われるとそんな気がしてくる。
そんなこんなで、今俺とエーナとアーシアは大分持ち直して復活したらしい朱乃さんに呼び出され、指定された場所に向かっていた。父さん母さんはいないが、気分は家族でピクニックである。
とはいえ、会話はしつつも俺の手にはタブレット端末が。先日新婚総督と会った際に思い付いたものを作るために、設計図を製作していた。
「そういえば、お兄ちゃん。さっきからそれは何を描いてるんですか?」
「スペースコロニーの設計図」
「すぺーすころにー?」
イエス、スペースコロニー。万が一俺らが狙われた際に、万が一手に負えない事態が発生した場合の一時避難所として、いずれ誰かが宇宙に進出する際の拠点として使えるように、その他色々な思惑があって建造してみようと決意したのです。しかし、アーシアはイマイチピンと来てないみたいだった。
「簡単に言うと、宇宙に別荘作ろうぜってことだ!」
「宇宙に別荘…………凄くロマンチックですね!」
はっはっは、アーシアからのキラキラとした尊敬の視線が心地いい! ちなみに出来上がるブツがなんなのか朧気に察しているエーナはジト目だが。
スペースコロニーはスペースコロニーでも、
『あとは、動力だな』
「それな。俺やエーナを動力源として縛り付ける訳にもいくまいし」
そのままクラッド6の同型艦を建造するのなら問題は無かったんだけど、建造予定のコロニーは、今の時点でも128倍程エネルギーを喰う。新たな動力炉を開発するにあたり幾つか案はあるのだが、そこまでいくと専門外且つ管轄外、素人の生兵法で事故なぞ起こそうものなら、良くても悪夢のクラッド0事件の様な目に…………あー、思い出したくねー!
「…………最悪、蛇、使う?」
「いんや、実は最悪案は他で考えてるんだ」
『俺の生前のツテで、こんなモノが手に入ってな。見せてやれ、相棒』
「おーう。ほれ」
左手にだけ神器を装備させ、そこに格納していたブツを取り出す。パッと見、普通の盾である。
「あっ、私これ知っているかもしれません。お兄ちゃん、これは船としても使えると言う『プリドゥエン』という盾なのではないですか?」
「おっ、博識だねぇアーシア。そのとーり! これはかのアーサー王が使ってたとされる盾にも
『相棒が適当にぶらついていたときに、それを盗…………収集していた知り合いのドラゴンと出くわしてな。脅…………話し合いの末、釣り合うだけのお宝と交換して手にいれたのだ。全く、あの男は…………自分の宝物庫にしっかりと鍵をしていないからこうなるのだ』
なお、終始ドライグはキレて威圧的だったけれど、話し合いと取引事態は真っ当なものであるということを俺が証明しておこう。
「で、こいつをコロニー…………宇宙
「なんというか、ドライグさんとお兄ちゃんの神器、どんどんとビックリ箱みたいになっていきますね」
「姉、姉、多分違う。ビックリ箱どころか要塞以上に過剰」
「うん、俺もそう思ってるから、流石に二の足踏んでる状態で。俺に問題はなくても、赤龍帝の籠手は次代へと受け継がれるものだからね」
ぶっちゃけロンゴミニアドの時点でも十分に危ない代物である。既存の神滅具格付けの順位を変動させるレベルで。俺が付け足した『機能』の方はリセットできる範囲なんだけど…………調子に乗ってやり過ぎたなぁ。一応、リセットにともなってロンゴミニアド自体に施した改造もリセットされるであろうことが唯一の心残り救いだ。
『甘い、甘いぞ相棒! 俺はなんとしてでもアーサー王の武具、宝物を回収して取り込むぞ! 誰にも否とは言わせん!』
「気持ちは分かるけどさぁ…………」
ドラゴンとは、宝を溜め込む収集家の面もある。それ以上にドライグにとって、アーサー王という人間は特別な存在だったのだろう。回収したい気持ちは分かるけどねぇ。
「それにお前、聖王剣コールブランドはどーすんだよ。今もペンドラゴン家の家宝になってるって言ってたじゃないか」
『あれは別だ。宝物庫に入っていた訳ではなく、あの男の血族が持っているのだから俺も文句はない』
「じゃあ、ペンドラゴン家の人間が、ロンゴミニアドとかプリドゥエン返せーって言ってきたら?」
『流石にそれは悩むが、恐らくそれはないと見ていい。アーサー王はともかく、あの一族は基本的に俺に対して頭が上がらないのだからな』
流石に悩むんだ…………。
『と、そうこうしているうちに着いた様だな。どうだ相棒、見覚えがあろう?』
ドライグに言われ、タブレットから顔をあげる。眼前に広がる光景は、かなり長目の石段に、その先の赤い鳥居。
…………うん、見覚えあるね。小学校の時にこの辺で暴れた記憶があるよ。
「ようこそお越しくださいました」
「「「わっ」」」
背後から声がかかる。振り替えると、巫女装束を纏う朱乃さんが、いつものようにニコニコと微笑んでいた。
「さて、イッセーくん」
「……………………はい」
「
「……………………いえ、顔も忘れてた薄情なヤツで申し訳無いです」
…………ブーメランて、このことだったか────────っ!!