ハイスクールDevil×Dragon×Dhuman 作:4E/あかいひと
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え、これ俺のせい?
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ガシャン! と音が鳴った。
視線を向ければ、我らがオカルト研究部副部長、姫島朱乃先輩がお盆に載せたティーセットを落としたところだった。
「……申し訳ありません、すぐ片付けます」
そう言って彼女は魔力を使ってそれらを片付けようとして、失敗。うまく纏まらなかった魔力が暴発し、更なる二次被害をもたらした。
めちゃくちゃになった部室、一瞬にして廃墟の如き様相を見せる俺達の根城を眺め、部長たるお嬢は溜め息をついて俺に視線を向けた。
「…………『3回転』」
魔法に触れて少ししか経っていないが、それでも俺も馴れたもので。自前の魔導具である時計の秒針を三回ほど逆に回すことで、この惨状を起きる前の状態に巻き戻した。実はこの魔導具、別にこういう巻き戻し効果は副作用であり、本来は巻き戻した時間による歪みを蓄積し、それを放出する攻性の物なんだが……………まあ、道具は役に立ってこそではあるのだが。
「………朱乃、貴女の主として命令します。しばらく、放課後は活動を控えなさい」
「い、いえ……………そういうわけには、」
「口答えは厳禁よ、朱乃。それに、私は『命令』と言ったわ」
「で、ですが!」
「聞こえなかったのかしら? それとも、発言の真意を汲み取れないほど、貴女は愚鈍だったかしら? 」
「……………っ!」
今日はいつにも増して、空気が重い。そして、今まさに、その重さが最高値を記録し続けている。基本的に笑顔を絶やさない部のツートップが、悲しみを滲ませながら苦い顔をしてる点から、それが窺える。
「…………私は、貴女にそんな本意ではない言葉を投げさせる程に、不様なのかしら?」
「そうね、どちらかと言えばその通りよ。……………何も言わないし、何も聞かない。だから、暫くは心の整理に時間を充てなさい」
「わかり、ました」
そして朱乃さんは、ふらふらと帰り支度を整え、退室しようとして「朱乃」と、お嬢から声を掛けられた。
「申請、出しておくから」
「っ!」
「餅は餅屋ではないけれど、ね?」
「……………ごめんなさい、リアス。ありがとう」
押し殺した声が、部室に残された。
◇◇◇
結局、全員が全員ロクな精神状態じゃなかったので、副部長どころか全員がオカルト研究部事態も暫く最低限のお仕事を除き休業。妙な空気のまま全員寮へと帰り、お嬢はその辺りの手続きをするために部室に残り、
「本当によかったんですか?」
「いいのよ、アレで。丁度、三勢力会談の準備、という名目があればなんとかなるもの」
副部長がいない今、愚痴を聞くべき役割は誰のだと、副部長が淹れる筈だった紅茶を啜りながらソファーに沈む俺。
「私、どうしたらよかったのかしら?」
「……………」
「無理にでも、聞き出せばよかったのかしら?」
「……………」
「友達甲斐がないのかしらね、私は」
「ハァ……………一番参ってるの、実はアンタだったりすんのか?」
割とグイグイいくタイプのくせして、変なところで真面目なんだからなぁもう。
「後悔するぐらいだったら、変なこと気にしないで根掘り葉掘り聞いちまえば良かったんだ。どーせアレだろ? 『友達だけど、形上は上司だから、無理に聞いたら命令みたいでもうしわけない』とかそんなこったろ? さっき念押しで『命令』って言ってたのにな」
「だ、だってそれは………ムグッ!?」
またなんかグダグダ言いそうだったから、その口にスコーンを投げ入れた。
「ゲホッ、ゴホッ…………殺す気!? 気管に入ったんだけれど!?」
「いや、別に」
ホントだよ、いっぺん死んでみる? とは一瞬思ったけれど。
「ま、キツい物言いで止めるってのも、友達だからできることだと俺は思うがね。それに、良くは分からんのだが、実家に帰るように促したんだろう? あの人なら、貴女がどれだけ思ってくれてるか、分かってるだろうけどね」
そうじゃなきゃ、『本意ではない言葉を』なんて言わないはずだし。
「それに、今からでも遅くないんだから。様子を見て、行ってあげたら?」
「………本当に、そうかしら?」
「おう、遅くないとも。なんせ、相手が生きてる。感謝を伝えたいとき既に家が消えていた
「笑えないし泣いてるじゃない貴方……………」
でも、ありがと。
そう言い残して書類仕事に戻ったお嬢を見て、とりあえずは大丈夫か。と判断した。
いやぁ、それにしても我ながら紅茶淹れるの上手すぎだろう。や、完調の朱乃さんには負けるけれど。
「そんな朱乃よりも、グレイフィアの方が上手なのよね……………未だに背中が見えないって言ってたわ」
「ああ、だってメイドだし、しかたねーっすよ。メイドって生き物は、なんか最強臭漂うし」
アニメの見すぎと言われてしまうかもだが、実際凄いメイドが多いのだから仕方がない。
「……………あ、そういえば」
「そういえば?」
「いえ、封印せざるを得なかった僧侶が解禁されたのよね」
「…………………………えっ?」
◇◇◇
…………えーっと、なんでこうなったんだっけ? お嬢の愚痴を聞くために部室に残ったら、何故かお嬢の封印されし僧侶の元に二人で向かうことに。
「いやあの、こういうのって眷属と一緒に行くものではないのですかね?」
「そうしたいのは山々なのだけれど、私達が顔を出そうとすると、いつの間にか部屋の外に追い出されてるのよね……………何を言ってるのか分からないと思うけれど」
「……えぇと、ネタじゃないんですよね?」
「ええ、もちろん」
なんだその奇妙な冒険の吸血鬼みたいなの。また俺のスタ○ドが火を吹くぞ。
「ある意味で間違っていないのがなんとも言えないところね。まあそれはともかく、イッセーならばそうはならないかも、ということで連れてきたわ」
そ、そんなにヤバいやつなの?
「まあ、私では扱いきれない、扱ってはならない存在として公式な場などでは伴に連れてはダメ、というだけであって、別に封印というわけでは無かったのよね。確かに、当人は絶大な力を持ってはいるけれど、その力の制御は完璧なのよ」
「……………???」
「じゃあ何故封印だなんて呼んでいるのか、疑問のようね? 答えは単純、本人が何より、その謹慎のような命令を嬉々として受け止めて引きこもったからなのよ」
…………んー、えっと?
「軽い謹慎を、自分は働いてはいけないのだと曲解して、自分で旧校舎の一室に引きこもり、ノリノリで封印を施して、今に至るというわけよ」
「つまり、ニート志願?」
「その通り、よ……………ハァ」
痛そうに頭を押さえて溜め息をつくお嬢に、なんとも言えなくなる。
「引きこもり過ぎるのもどうかと思って連れ出そうと、封印を毎回解くのだけれど、そのたびにいつの間にか外に追い出され、『ごめんなさいぃ!』と叫ばれるの。……………謝るくらいなら、少しぐらい外に出ても良いじゃない、全く」
「あ、あははは……………」
まるで、引きこもりの子供を案じる母親のようである。ママさんも大変だ。
「いつかはなれるのかしらね? 正直、自分が誰かを男女的な意味で好いて付き合う前に政略結婚してそうなりそうな気がするわ」
「お嬢……………」
「いいのよ、割り切ってるもの。他の子がどうであろうと、私はそれでいいと思ってるもの。なにより、結婚してから愛が芽生える例もあることだし、悪いことではないわ。それに、自分がそういうことになってるのを、あまり想像できないのがどうもね………冷めてるのかしら、私」
いやまぁ、一般的な女子に較べたら冷めてるとは思うけれど。
「全く、なんで貴方は悪魔じゃないのかしら? そうしたら、結婚相手として申し分ないのにね」
「そりゃ遠回しな告白ですかいお嬢?」
「ふっ、冗談よ。ヒトとしては好きだし、隣に立たれるのも悪くないけれど、ときめかないし何より胃が痛いからそういう目で見れないわ。なにより、」
「なにより?」
続きを促せば、お嬢はなにやら……………遠くのものを眺めるように言った。
「貴方は、パートナーというよりも『羨望』の対象、目標ね。貴方の背中に追い付きたいと、貴方の隣に立ってみせたいと、そう思う人間だもの。……………今の私では、まだ足りないわ」
「そう、ですか……………」
それはなんというか……………少し、寂しい気がする。ほんの少しだけ。
「あ、勘違いしないで頂戴。別に、壁を感じているとか、そう言うことではないの。羨望、目標の前に貴方は私の悪友なのだから。ただ、そういうのを抜きにして考えると、ね。……………貴方の言葉を借りるなら、『どうしても倒したいエモノ』と言うべきかしら?」
んん、なんだろう。嬉しいんだけど、それってつまりべた褒めってことじゃないか? ううん、顔があつくなる。
「まあでも、ここまでにしておくわ。貴方をからかうのも悪くないけれど、あの可愛い白龍皇に申し訳ないもの」
「……………いやあの、別にまだ付き合ってるわけでは」
「その、『まだ』が答えなのではないかしら?」
「…………………………」
そう、なんだろうか? 自分でもよくわからない。まあ、確かにアイツのことか好いているのは間違いないんだけれど。
「少なくとも、暗黒神から守るために命を賭けたレベルでは好きですし」
「うん、さらっと言っているけれど貴方あの子のこと好き過ぎるでしょう」
うん、かもしんない……………。
とはいえ、それが恋愛のそれかと言われると、首を捻らざるをえない。
「そもそも、どこに好かれる要素があったんだろうか……………」
「イッセー、貴方唐変木とか言われないかしら?」
「……………よくご存じで」
難聴系でないことが救いだ……………切実に。
「そうこうしているうちに着いたわ。此処よ」
っと、ちょうどいいタイミングで着いたのは、旧校舎の一階の隅っこの部屋。
「うわぉ、これまるで要塞じゃねーか」
がっちがちに黄色いテープで封印されているドアを見て、思わずヒく。引きこもるためだけにここまでするかよ。
「解除するのに1週間かかるのよねぇ…………」
もっとも、と言って彼女は掌に魔力を集めた。
「あの訓練を経た今なら、このぐらいなら一瞬ね」
そして、一瞬にしてその封印は消滅した。
「最近、貴方が斬れば解決っていうのを、なんとなく掴めてきた気がするわ。封印も、負傷も、距離も、なにもかも、消し飛ばしたらなんとかなるものね」
「リアス・グレモリー、我が悪友……ようこそ此方側へ」
「ふふっ、ありがと 」
ようやっとその境地に到ってくれたか。これでようやっと(グラールで)一流に踏み入れたことになるな。
『(やはり、グラールは魔境…………)』
聞こえてんぞドライグ、後で殴り合いな。
『(いいとも、存分に殺し合いだ。っと、それはともかく
え、懐かしい気配? そう思って、扉の奥の気配を読み……………
「……………あ''」
こ、これは、この気配は……………!
とんでもない焦燥感に襲われ、慌てて扉を飛ばすように開く。
するとそこは、ネカフェの一室のような空間が広がっていて、その中心には、この部屋の主であろう金髪の小柄なヤツが土下座をしていた。
「先生ごめんなさい先生ごめんなさい先生ごめんなさい先生ごめんなさい先生ごめんなさい先生ごめんなさい」
ついでに、こんなことも呟いていた。
「でも、しかたないんですぅ! 僕は危ないハーフヴァンプだから、外に出ちゃいけないんですぅ!」
…………意を決して、言った。
「本音は?」
そして、ヤツはこう叫んだ。
「働きたくないですぅ! 働きたくないですぅ!」
……………最後に会ったのいつだったかな? そんな風に現実逃避をしながら、背中から突き刺さるお嬢の視線から意識をそらした。
え、こうなったの俺のせいなの……………我が生徒、ギャスパー・ヴラディ?
感想、批評、ダメだし、よろしくお願いいたします。