ハイスクールDevil×Dragon×Dhuman 作:4E/あかいひと
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何処かの漫画で言っていた。諦めが人を殺すのだと。
…………成る程確かに納得だ。俺は、僕は、諦めたから死んだのだ。
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食堂へと向かう道中、俺達は余計なものを見つけた。…………ああ、余計なもの以外の何者でもない。
新校舎の一階、その廊下の隅でシャッター音が鳴り響いていた。フラッシュも焚かれている。アレは撮影会だ、某コミックマーケットでよく見るコスプレイヤーの撮影会だ。もっともカメラ小僧共によって被写体の姿は見えない。が、
「…………お嬢、お嬢。あそこから漂ってる魔力、魔王クラスなんですけど」
「…………ええ、そうね。隠蔽はなされているみたいだけれど、その通り」
「…………心当たりは?」
「…………いえ、全く」
「…………嘘は良くない」
「…………そうね、ごめんなさい。現実逃避したかったの」
そんなやり取りをしていると、カメラ小僧達の隙間から姿がチラリと見えた。率直に言うと、魔法少女コスの美少女だった。…………というかアレ、ミルキーのコスプレじゃないか?
「イッセー、『ミルキー』と言うのは?」
「ん? お嬢は知らないんですか? …………知らない方が普通ですね。ミルキーってのは『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティヴ』っつー魔法少女アニメのことを指し、さらにはそのアニメの主人公のことでもあります」
「…………あー、名前だけは聴いたことがあるかもしれないわ。もしかして、貴方がたまにテレビで録画予約していたアレのことかしら?」
「たぶんそうですね」
「こう言ってはアレだけれど、イッセーが魔法少女アニメ見てるって、非常に意外なんだけれど」
「最近のはなめられませんよー? …………それに、ミルたんも見てますし」
「ああ、あのミルたんが。それはさぞかし…………」
こんな反応されてしまうミルたんの凄まじさよ。実際勧められて見始めたが、成る程これは確かにと納得してしまう内容だった。本当にお前ら魔法少女かよ? と言いたくなるほどに少年漫画の如く熱い演出と泣けるシナリオで地味にのめり込んでしまった。なおミルたんの布教活動は俺以外にも及び、俺以外のバカルテットやウチの妹達、最近では木場のヤロウも侵食されたと聞く。妹達はともかく、男子高校生が揃いも揃って魔法少女アニメにハマる絵面は客観的に見て酷いが、基本的なノリが少年漫画のそれなので致し方無しと言いたい(あとミルたんの圧力)。
ちなみに主人公のミルキーは下手な男前よりも男前なことで有名だ。それがよくわかる一例として…………攻撃は通る通らないではなく『通すもの』と言い切ったシーンがある。敵が攻撃が無駄であると煽り、その上でまだ攻撃するのかという問いに対しての答えだ。あのシーンを見たとき、二次元の住人だということも忘れて『この戦士を打倒したい』と思わされたのは黒歴史である。
…………まあ、そういったことを抜きにしても『戦士の
「まあ、それは今は置いとくとして。問題はそのミルキーのコスプレをしているのが誰なのかってことなんですけど………」
「…………すっごい見覚えあるのよねぇ、私」
「ほうほう、そうですか。………帰っていい?」
そう言って踵を返した瞬間後頭部を捕まれ、部員全員が各々の武器や拳を俺に突き付けてきた件。おう、やろうってのかいキミたち? 戦うことは吝かではないぞぅ? なんてったって、俺は軽度の戦闘狂だからナ!
『軽……度……? ああ、簡単に点火するノリが軽い戦闘狂という意味か』
ドライグ、一回腰を据えて話し合う必用があると思うんだけどどうだろう?
と、そんな風に一触即発の空気になりかけたら、それを霧散させたのはお嬢。なんとこの俺を鼻で笑いやがったのだ。
「…………何がおかしい?」
「いえ、ね。こうすれば早かったのに、と思って」
「あン?」
「逃げても結構。そのとき、貴方が過去に冥界でやらかしたことを魔王様達に虚実交えてご報告するだけよ。許してはくれるでしょうけれど…………弱味を見せることを嫌う貴方がそれに耐えられるかしら?」
「ぐっ…………脅しかい。悪魔か貴様」
「悪魔ですから(ドヤァ)」
ドヤァじゃねーよ畜生! 一般人の目がなけりゃすぐにでもどうにかするってのに!
「おうおう、公開授業参観のこの日に撮影会たぁ良いご身分だなてめーら」
と、ここで第三者参上。軽く凄みを利かせて現れたのは我らがバカルテットのチンピラ枠、生徒会役員の匙元士郎くんだった。なぜだか知らんが助かった気分だ。
「ちぇっ、良いじゃねーか。こちとら親が来てて気が滅入ってんだよ。こういった目の保養ぐれーよー」
「我儘いってんじゃねーよいい歳した高校生が…………どっちにしたって通行の邪魔だ、ほらしっしっ」
…………元ちゃん、真面目なのは知ってるし、生徒会でもバリバリなんだろうなって思ってたけど、こんな仕事にも手を抜かずに頑張ってるなんて。生徒会って大変ね。
そんなことを思いながら眺めているうちにカメラ小僧達は渋々と立ち去り、この場には俺達と元ちゃん、件のコスプレイヤーだけが残った。
そして元ちゃんがコスプレイヤーに、こう声をかけた。
「…………貴女も貴女ですよ、
…………え?
思わずお嬢を見る。諦めたように首をふられた。
「えー! だってこれが私の正装だもん☆」
「冥界と人間界の常識をごっちゃにしないでください。あと本音を言うと冥界でもその格好は眉をひそめられると思いますが」
いやいや、ちょっと待って欲しい。このレイヤーさんが、女悪魔最強と名高い『セラフォルー・レヴィアタン』だって!?
「お、お嬢!?」
「…………誠に遺憾ながら、あの方は間違いなくセラフォルー・レヴィアタン様。四大魔王の一角にして、ソーナのお姉様よ」
「いやあの、それマジ?」
そりゃあ、顔の造形とかは確かにそっくりだけどさぁ!
「言わなくても分かるわ…………軽いでしょう? 凄く軽いでしょう? 仕事のときは真面目な魔王様なのだけれど、プライベートの時は…………目もあてられない位に軽いのよ。レヴィアタン様に限らないのだけれどね…………」
言われてみれば、同志サーゼクスもやたら軽かったなぁ確かに!
「補足しますと、現四大魔王様方の兄弟姉妹の皆様は、例外なく真面目な方々なのです。きっとフリーダムなご兄弟が魔王になったせいで、否が応でも真面目にならざるを得なかったのでしょうね、うふふ」
「…………頭のいたいことね」
「は、ははは……」
補足説明はありがたいんだが、そのドSな笑みはどうにかならんのか副部長。
「…………あ?」
「どうしたのイッセー?」
いや、一瞬ピリッときたので、なんだろうと思ったら、
「思ったら?」
「あちらをご覧ください」
親指で、俺達が来た方向と逆の方向を指す。すると、お嬢が今にもお花をつみに行きそうな程の苦悶の表情をうかべはじめた。
「…………わ、わたしなにもみてない」
「現実逃避もいい加減にしたほうがいいかと。ほら、会長が同志サーゼクスとお嬢のお父様連れてやって来ましたけれど」
「同志って一体どういうことよ。まあいいわ、後のことは任せ、」
「「逃がすか」」
神器を展開、それと同時にハンドガンを出現させて突きつける。そして俺とほぼ同時に塔城チャンも拳をお嬢に向けていた。
「イッセーはともかく…………小猫、貴女なにやってるか分かってる?」
「……勘違いしないでください。ちょっと躓いて、手が前に出てしまっただけです」
「ハァ、物は言いようね。まったく、貴方と関わった者は皆いい性格になったり手が出るのが早くなるのね」
「あのー、それ」
「分かってるわ、ブーメランよ。突き刺さってる自覚はあるわ。…………朱乃」
「かしこまりましたわ」
そう言って肩を落とし、彼女は副部長を引き連れてレヴィアタン様の下へ…………
「ご苦労様、匙君。魔王様のお相手、ありがとうね。セラフォルー様、お久しぶりでございます」
「いえ、仕事なんで」
「あらリアスちゃんに朱乃ちゃん、おひさー☆ 元気にしてましたか?」
…………よし、行ったか。
「じゃ、行こうか皆」
『『『え?』』』
「役割分担なのさ…………冥界関連の胃痛案件はお嬢が引き受けてくれるって契約。んで、俺はウチの家族とヴァーリ担当。塔城チャンはお姉さん担当ってね」
「(コクコク)」
ということなのでレッツゴー食堂! あばよお嬢! ついでに副部長! 後から追いかけることになるだろうから安心して先に逝けぃ!
「(I`ll be back………)」
「(あ、それ戻ってこれないフラグや)」
背中で雄弁に語る彼女の姿を見て、次は我が身なんだと思いましたとさ…………
◇◇◇
「あ、白音とイッセーだ。さっきぶりー…………って痛い痛い痛い初手アイアンクローって男としてどうなのにゃ!?」
「安心しませい、顔に傷は付けんさ。まあ頭蓋骨には御愁傷様と言っておこう」
「鬼! 悪魔! イッセー!」
「鬼や悪魔と並べるな、俺は清く正しい人間だ。まぁ3/5程はドラゴンになっちまったが」
「ツッコミ所が多すぎる!?」
またも廊下でエンカウント。今度は駄猫、またの名を黒歌。え、黒歌の方が本名だって? ヴァーリに余計な知識を吹き込んでニヤニヤしてるこいつは駄猫で十分だ、マジ許すまじ。
「……お姉さま、ここでは私は『塔城小猫』だと何回も注意しましたよね?」
「細かいことはいいじゃないのー! …………それに、この名前を本当の意味で呼んであげられるのはもう私だけだもの。人目がないところではなるべくそう呼んであげたいのにゃ」
「そ、そのこと自体はその………嬉しいんですけど」
「いやーん! かーわーゆーいー! これはもうお持ち帰り不可避よね!? ね!?」
「色々とまてい、黒ちゃん。いやほんとに待ってくれ」
今この一瞬で聞きたいことが一気に増えたんだけど。
「……私も、たった今聞きたいことができました」
「あ、塔城ちゃんも?」
いや、何となく分かるけどね。
せーの、
「黒ちゃんの妹って塔城ちゃんだったの!?」
「お姉さまと先輩はお知り合いだったのですか!?」
「え、そうだけど」
さらっと言うんじゃない、という言葉を飲み込みつつ、塔城ちゃんに視線を向ける。
「えっと、うん。黒ちゃん…………黒歌ちゃんとはそれなりに長い付き合いなんだ。というか、黒ちゃんから駒王学園に妹がいるとは聞いていたけど、まさか塔城ちゃんだったとは」
いやぁ、思いの外隱業が上手いからさっぱりわからなんだ! や、少し考えたら分かることなんだろうし、十分察してもいい内容だよな。この辺りが『何故その直感を日常で使えない』と嘆かれる所以だな。
「というか、私言ってなかったかしらん?」
「……恐らく、言ってないかと。お姉さま、割と忘れポンチだから」
「ぐっ…………妹からの鞭がっ! ハァ、ハァ…………!」
「興奮してねーでさっさと説明しろや駄猫。拳骨落とすぞ」
「に''ゃうん!? 落としてから言うことじゃないにゃん!! これだからこのムッツリ赤龍帝は…………あ、待って、分かったから、分かったからその手を下ろしなさい。そのGダンガムの様に真っ赤に燃えてるその手を!」
あまりにもなことを言い始めたのでちょっと切れちまったぜ!
「全く、ひどい目に遭うところだったにゃん。…………うん、率直に言うとね白音、私達をあの糞外道悪魔から助けてくれたのは、このイッセー。その時からの付き合いね」
「……………………あれ、なんでしょう? かなり衝撃的なカミングアウトだった筈なのに、イッセー先輩というだけで納得できてしまう私が」
『『『ウンウン』』』
いや、納得したように頷くんじゃないよテメーら。
「それにしても、あーんなに小さくて可愛かったイッセーが、こんなに大きくなるとはねぇ…………時の流れって残酷だわ」
「てめぇは親戚のおばちゃんか。というか、あの時点で可愛げも糞もねークソガキだったと記憶しているが?」
「意外とそうでもないにゃ。年相応に格好いい台詞を披露しながら火の玉をガンガン投げ落とす姿は悪魔が焼き付くされるのに目をつむれは微笑ましいごっこ遊びだなぁって」
「…………その時俺、何て言ってたっけ?」
「えっと確か、『フハハハハハハハハハハハ! 太陽王の威光の前に平伏せェ!』とかなんとか。早すぎた厨二病よね」
…………なにやってたんだ当時の俺ェ。や、理由は思い出したけど。
「…………当時の俺の名誉の為に言うけど、厨二病じゃないから。演技だから。身バレ防止のために似ても似つかない奴の真似しただけだから」
「そうだったんだ。ちなみに出典元は?」
「前世にいた旧文明の王様。俺達がぶっ倒した連中の一人」
「…………それ、あの娘も遭遇しちゃってたり?」
「ヴァーリの奴と会ったのはその後だから、奴は合ったことはないはずだ」
それにしても、フハハハーン改めカムハーンは強敵でしたね…………ぶっちゃけ、カムハーン本体は確かにゲロ強かったけれど、戦いにくさはシズルモードが断トツだったんだよなぁ。正直極まったレベルのあの頭脳とそこそこに鍛えられた身体があれば普通に強いのに、旧文明人の謎パワーアップも乗っかってワケわからんことになってたし…………それを言うならミカinエミリアも大概だったなぁ。
「というわけで、数年越しの再会ということになるのかな? や、厳密には違うし、そもそも当時の塔城ちゃんに直接会ったわけじゃないんだけど…………うん、安心した。無事でよかったね」
「い、いえ。寧ろごめんなさい。ずっとお礼を言いたかったのに、今の今まで…………本当、ありがとうございました」
「いーのいーの気にすることないって。それに悪いのはそこの忘れポンチのせいでしょうよ。謝れ黒ちゃん」
「謝ってくださいお姉さま」
「え、これそういう流れ? 昔を思い出して懐かしさに浸って感謝を述べるだけのながれじゃないの? なんで私が責められる流れに!?」
「冗談だ」「冗談です」
あまりにもあたふたする黒ちゃんが面白くて、顔を見合わせくすりと笑い、同時に言う。
「ぐぬぅ…………なんなのよこの弄ばれてる感じ。それにしても、仲良いわね? 私としては嬉しいけどにゃ」
「ここにお嬢が入って、俺ら『胃痛・頭痛同盟』だから」
「…………主に親族、身内による精神的苦痛に耐える者の集まり」
「(何処かの猿に教えてやった方がいいのかしら…………?)」
いやあの黒ちゃん。そんな哀れなものを見る目で見て欲しくはないのだけど。確かに哀れではあると思うけれども。
「あ、そういえば白音! お姉ちゃん、ちゃんと白音の勇姿を収めたからね! 古文の授業でピン! と手を挙げてる姿とか、」
「…先輩、先にどうぞ」
「…………良い旅路を、小猫ちゃん」
妹愛が暴走し始めた黒ちゃんを、小猫ちゃんが誘導してどこかへと消えていく。あのまま池羽、俺達は時間一杯黒ちゃんの妹語りに付き合わされた筈だ。ごめんね小猫ちゃん、なんか君とさらに仲良くなれた筈なのに見捨てる形になって。君の覚悟は無駄にしないよ…………でもね、なんだか涙が止まらないんだ。
◇◇◇
「そしてラスボスは貴様か、ドMタイガーリック!!」
「いつの間にか愛称が付けられていたことに喜べばいいの? それともいつの間にか蔑称が付けられていたことに悦べばいいの!?」
「食い気味にハァハァしてんじゃねーよド変態ッ!」
二人の尊き犠牲を経て、俺達は漸く食堂に辿り着いた。そこにいたのは相変わらずなドMと、
「…………助けてくれイッセー、この男の相手は率直に言って精神を病む」
「うん、ドンマイヴァーリ。でも諦めろ」
何処か死んだ目をしている哀れな白龍皇。
や、本当ドンマイ。俺は関わりたくはないけれど。…………できることなら関わりたくはなかったなぁ。
とりあえず、何も頼まずにいるのも気が引けるので、適当に食券を買い、注文して受け取り、この二人の近くに座っていく。
「で、どうようちの学校? アホなところも結構多いけどさ、悪くないだろ?」
「ああ、貴方が子供みたいにはしゃいでいるのも頷けるというものだ。……ああ、勿論悪い意味ではなく、いい意味でだ」
「……………………」
「心底羨ましいと思う…………私達には、無かった物だ」
「…………ああ、まったくだ」
前世、グラールでの俺の最終学歴はハイスクール中退…………というか進学して割と直ぐにSEEDが降ってきたから実質中卒に等しい。後々になって資格とかの為にカレッジに講義を受けにいくこともあったけれど、そういうことじゃないからな。
改めて、当時は大事な物を投げ捨ててひたすらに復讐に奔走してたんだなぁと思うと、少し泣けてくる。
「…………ふむ?」
「……あ? どーしたよリック」
「いえ、まるで通ったことがない様な反応だな、と。少なくとも、イッセーは今まさに、高校生じゃありませんか」
「ヴァーリ、説明してないの?」
「する意味は薄い、と判断したのだが」
まあ、確かにそうだが。これ以上バレるものも、回収出来るものも少ない。まあなので、ざっくりと。
「いやね、俺達は俗に言う前世持ちなのサ」
「…………ほう?」
ん? なんか機嫌悪くなったな。
「成る程成る程。そして二人はその時からの知り合いで、今世ではなんの悪戯か、宿敵同士にならざるを得ない枷を嵌められた。そういうわけですか」
「意外と淡白な反応だな。自分に置き換えてハァハァすると思ったのに」
茶化すようにそう言うと、一層真剣な顔でリックはこちらを睨んできた。
「僕はそう誤解されるほどの節操なしかもしれませんが、人の幸せを踏みにじるような出来事にまで快感を覚える程、精神的にも人外に堕ちた覚えはありません。ましてや、運命をなんて」
「…………ってーと?」
「恐らく既に僕について調べていると思うので言いますが。痛い目を見ることに関してはともかく、運命とも言うべき星巡りの悪さに関しては唾棄すべきものだと感じているのです。まるで、僕は、僕を取り巻く人々は、幸せになってはならないのだと決めつけられているみたいで。僕に関しては、構わない。ですが、僕に良くしてくれようとした人達までその運命に囚われてしまうのは…………。なので、運命に苦しむ方を見てそんなことは、死んでも思えません」
「……分からないでもない。私も、運命と言うべき『使命』に囚われていた側だからな。当時その余裕は無かったが…………今思い返してみると、な」
「…………おーやだやだ、心当たりが多すぎる」
リックの言うことは、俺も思ったことだった。何故、と運命を呪ったことは一度や二度では利かない。今でこそ、運命は切り開くと決めているが、その境地に至るまでにどれだけかかったことやら。
「だがリック、私達はもう」
「ええ、二天龍としての因縁は清算できたのでしょう。素直に喜ばしいことだと思います。本心から、我が事の様に嬉しいです。……が、まだあなた方にはそうとも言うべき何かがある筈だ。心当たりがないとは言わせません」
遮るようにリックは言う。その目に俺達を咎めるような色をのせて。
「少なくとも、あなた達は件の暗黒物質に、それを操る生命体に、運命を感じているはずだ」
「「……………………」」
なにも言えない、言えるわけがない。俺達は間違いなく、SEEDに、ダークファルスに、運命を感じている。
俺は、
「
「…………耳に痛い忠言確かに受け取った、49年組の生き残り殿」
「…………弱冠手遅れ感は否めないが、抗わない理由にはなりはしない、か」
しかし、やはり見た目からは想像もできない程に、年を重ねてやがるなこの虎悪魔。まったく、やり辛いったりゃありゃしない。
そんな風に、食堂の空気をどんよりとさせていたところで、さらにどんよりとした空気を纏った何かがやって来た。
「…おつかれさま、イッセー。私はやりきったわ」
「……しばらくの間、お姉さまの顔を直視できそうもありません」
「うふふ、大変でしたわね♪」
というか、死にかけのお嬢に顔真っ赤の小猫ちゃんに、そんな二人を見て何処かお肌を艶々させながら微笑んでる副部長だった。おう、ドSって恐ろしいな!
「んー、なんか申し訳ない。意外とこっちは落ち着いてて」
「いーのよイッセー……最難関がまだ残ってるでしょ?」
「…………あー」
そういや、まだ親父お袋に妹達と遭遇してないなぁ…………あー胃が逝ってしまわれるぅ…………。
と、そんなことを言い合ってるうちに、副部長の笑い声がいつの間にか止んでることに気が付いた。というか、副部長とリックが驚いたように顔を見合わせていた。
その顔は、何処か嬉しそうで、悲しそうで。そういった正負の感情が混ざりあったような声を、二人は上げた。
「あ、貴方は…………あの時私を助けてくれた…………!!?」
「もしかして、あの時倒れていたハーフ堕天使の女の子…………?」
これってどういうことなんだろう? いや、分かってる、現実逃避良くない。
お嬢を見る、見るからに痛そうに頭を押さえていた。
視線が交差する。目が如実に訴えていた、『助けてくれ』と。
俺は視線でこう返す『無茶言うな』と。
なんにせよ、ここで新しい真実が判明した。核クラスの、とびきりの爆弾の。
(朱乃サンを助けたのが、リチャード・トゥイラーだったなんて…………!!!)
というか副部長が完全にホの字なんですけどォォォォォォォォオオオオオオオッッッ!!!!?
感想批評ダメ出し、よろしくお願いします。