ハイスクールDevil×Dragon×Dhuman   作:4E/あかいひと

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(…………こっそり投下)


その7-四九×頭痛×旗建

 

◆◆◆

 

 

私の存在に、一体どれだけの意味があったのか。

 

結局、人生なんてロクなものじゃない。

 

でも、だから、せめて、せめてあの人が命を繋いでくれた、私の妹だけは…………

 

 

◆◆◆

 

 

「…………ハァ」

 

バサリ。音を立てて紙束が机の上に放り出される。その1番上に書いてあるのは『リチャード・トゥイラーに関する報告書』という文字。

 

グリゴリから…………正確にはヴァーリの根城から戻ってきて、すぐにあのお嬢をとっちめてやろうと思って寮の部屋をノックしたが居らず、良く良く考えたら今は悪魔のお仕事の時間だわなと諦めて自室に入ったら、机の上にこれが置かれていたのだ。先手を打ったと、そういうことか。

 

そしてそれを読みきった俺は、思わずため息を吐いた。『不幸』というには、少々救いの無い内容だったためだ。

 

「……『49er』」

 

『懐かしい単語だ……当時の、1848年のカリフォルニアには、当時の赤龍帝もいた、白龍皇もいた。当時の二天龍は、殴り合うことも撃ち合うことも、殺し合うこともせずに、別なもので争っていた』

 

「金発掘による稼ぎか?」

 

『ああ……。結局、最期は覇龍の暴走で殺し合うことになり、俺たちが負けた。しかしゴールドラッシュが終わるまで、奴らは狂ったように金を集めていた。覇龍によって暴走こそしたものの、当時の相棒は満足して逝った。その証拠に、ヤツは残留思念として残っていない』

 

「……満足するとそうなるのかよ」

 

『残留思念、これは一般的な幽霊にも言えることだが、強い意思が無ければ残ることは少ないな。特殊な術を起動すれば話は別だが』

 

「暴走したのに?」

 

『奴は、稼ぎの大半を何処かに送ってはニコニコと笑い、誰かからの手紙を受け取っては、またニコニコと笑っていた。…………ま、そういうことさ』

 

「…………そうか」

 

『そして余談だが、カリフォルニア・ゴールドラッシュがあれだけ大規模なものになったのは、宣伝効果以上に二天龍がその場にいたことが大きい。色々なものを呼び込むからな、俺たちは。そして、覚醒未覚醒を問わず神器保持者も多く集った。あのリチャード・トゥイラーとか言う虎も、それに引き寄せられたのやもしれんな』

 

……相変わらずのはた迷惑生産機だなぁドラゴンってのは。

 

「『49er』に成功者はいない…………まあある意味では自分の思惑通りにいった連中もいたんだろう、俺の先輩みたいに。それでも、リックはそうじゃなかったみたいだ」

 

一攫千金を求めて、人生の立て直しを求めて、家族と共に目指した新天地。しかし、道中の船で自分を除く家族全員が感染症にかかり、まず父親が死んだ。

 

なんとか辿り着いたカリフォルニア。しかし49erとは言いながらも既に1850年の足音は近く。その時には既に、容易に取れる金は粗方攫われており、企業による採掘が始まろうかというタイミング。まだ残っている採掘しやすい金鉱は、血で血を洗うような余所者排斥や、インディアンズの駆逐が行われている。彼らの隙間を縫うように金を拝借するも、そんな状況で満足のいく程の稼ぎを得ることができようはずもなく、お金が足りないことで治療費を払えず、ここで母親が死んだ。

 

悪いことは立て続けに起こるらしい。学のないリチャードは、節約の為に川で水を飲んでいた。採掘によって汚染されている川の水を。そんなことをしてマトモでいられるはずもなく、彼もまた、最後に残った家族である妹と共に床に伏せることになる。

 

稼ぐことができなくなった時点で、彼らの命運は決まったようなもの。治療を受けることができなくなった彼らは、そのままその他大勢と共に野たれ死ぬ、

 

「…………はずだったのを、ギリギリで拾って貰えた、ってところか」

 

記述こそ無いが、一家全員でゴールドラッシュに行くなんて、ギャンブルでしか無いように思う。つまり、大博打せざるを得ない状況にあったということだろう。ついてないにも程がある。

 

「人間時代ですらザッと掻い摘んで纏めてコレだよ。よくもまああの男、普通でいられるよな……性癖だけじゃ説明がつかないぞ」

 

『この手合は、『自分』を悟らせないからな。で、どうするのだ相棒?』

 

「どうしようも無いんじゃない? …………や、打てる手は打っておくけどさ」

 

そう言って、手元でくるくるとあそばせていたスマートフォンを握り、メールを送る。

 

「さぁて、コレどーするよ? コレ俺の手に余る事態じゃん? いろんな意味で止められねーよ」

 

『最悪、武力にモノを言わせるまでだが…………』

 

「どのタイミングで襲ってくるか分かんねーのに? 最悪のタイミングでやられるとマジ困るんだけど。それに、さぁ…………」

 

放り投げた資料を見て、溜息をつく。

 

「お前も俺を通して読んだろ、アレ。なんのしがらみもなく、ただ戦うだけなら嬉々として剣を握るけど…………あいつと戦うと、()()()()()()()

 

『いいや、負けん! いや勝て、何としても勝て! 虎に負けることは何があっても許さん! 相棒、貴様もドラゴンの末席に名を連ねたのなら、相応の義務というものがある!』

 

「どんだけタイガーに負けたくないんだよ…………」

 

まあ戦う以上は、心情的に負けるつもりで戦うつもりはないけど、あらゆる状況を想定するのは戦闘職には必須だろう?

まあそりゃ、俺も自分の強さに自信はありますよ? 正直条件次第では誰が相手でも負けない筈だ。……あくまで、条件次第。それにほら、俺デューマンだし。

 

『確かに、相棒の虚弱さだけはどうしようもない、か…………』

 

「そして、それがどうしようもなく相性が悪い。…………ドMってな、相手が強ければ強いほど脳内麻薬で限界を超えてくるんだよ」

 

『…………ああ、そういう手合には覚えがある。邪龍は特にそうだ、どれだけぶちのめされてもしぶとく立ち向かってくるからな』

 

「へぇ、そりゃあすげぇ」

 

ま、それはともかくだ。

 

「最悪、戦おう。その為の準備をしておく。…………でもそうならないために、だ」

 

妹を、どうにかしないとな。

 

『『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』というヤツか?』

 

「間違いじゃないけど、そうじゃないんだなぁコレが!」

 

『…………?』

 

さて、間に合うと良いがな…………。そう思いながら、その意識を落としていった。

 

 

◇◇◇

 

 

翌日の朝、寮の食堂にて俺突っ伏す。

 

「…………不覚、忘れてた」

 

そう、忘れてた。俺は昨日のど変態との遭遇ですっかり忘れていたことがあったのだ。

 

「今日、授業参観だった…………!!」

 

授業参観…………それはある種の羞恥プレイ。相応の覚悟を持って臨まなければ、心を殺られてしまう悪夢の行事…………!

 

というのは冗談にしても、正直授業参観にはあまり良い思い出が無いのは事実。どこぞのイリ坊のお陰でご近所付き合いが改善される前は、もう見事に兵藤家は村八分を食らっていたわけだ。なんでかって? 俺のこの肌のせいだ。自分で言うのもアレだが、気味が悪いのは確かだわな。そんでもって、改善される前の授業参観は、そりゃあもう地獄の一言に尽きた。クラスメイトの親御さんに、バケモノを見る目を向けられるのはまだよかった。実際中にドライグいるし。でも、父さんも母さんも『息子の晴れ舞台だ!』とか言って針の筵の中に嬉々として飛び込んでくるもんだから、嬉しい反面俺に向けられる視線が幾らか2人の方に向いてしまうことが悲しくて仕方がなかった。

 

…………でまあ、今更俺のことをそんな目で見るヤツはほとんどいないけれどさ。裏を返せばまだ少しはいるわけなのよ。それに駒王学園高等部の授業参観は、参観と言うよりも公開授業、オープンスクールだ。保護者達だけでなくて、中等部の後輩共も観に来れるのだ。無論その親も。なんなら来年受験する予定の外の中坊共だって下見で来たりする。県外からも来たりするってことは、慣れてない連中も来るってことだろう? 安心できないんだよなぁ、うん。実際去年の授業参観はそれなりに目立ってしまって凹んだし。

 

「というわけで、授業参観マジ気乗りしません」

 

「「同感ね(です)」」

 

ありゃ、ボソッと呟いた独り言をお嬢と塔城チャンに拾われたぜ。

 

「別に来るのは構わないのよ……ええ、来るのは。けれど、あんまりはしゃがれると恥ずかしくって仕方が無いわ…………」

 

「……姉さま、ここぞとばかりに写真を撮ってくるから、どうしたものかと」

 

「へぇ、塔城チャンとこはお姉さんが来るのか。…………あとお嬢に関しては、ガンバ?」

 

そして3人で乾いた笑いを上げて、虚しくなってため息一つ。

 

「あらあら、贅沢な話ですわ。……私の両親は、来たくても来れないそうなので」

 

「ははは……そもそも僕にはいないですし」

 

「かぁ〜っ。それだけ気にかけて貰えてるってことの裏返しだと思いますがね。ウチのオカンなんか『他所様に恥ずかしいとこ見せんじゃないわよ』で終わりましたから」

 

「まあ思春期男子にとってはある意味ありがたいことではありますが」

 

そしてそんな俺たちを責めるように、残りのメンツがジト目と共にそう言ってくる。…………うん、なんかゴメンよ?

 

「…………あ、でもとりあえず、ウチのオトンとオカンが『今日はみんなの親御さんの代わりに死力を尽くす!』とか言ってたので、おそらくみんなの教室に出没すると思います。お覚悟を」

 

「…………あれ、そういえば兵藤さん達はどちらに?」

 

お嬢のセリフはごもっとも。この時間なら本来この2人は俺たちと一緒に食堂の席に着いてるはずなのだ。

 

「…………既にスタンバってんじゃないんすかね?」

 

『うわぁ…………』

 

この日の為にカメラから自作してたらしいしね、分身の術にも磨きを掛けてたし。…………間違ってもバレちゃダメよ2人とも。

 

 

◇◇◇

 

 

そんなわけで、色々とゲンナリしながらみんなより先に寮を出て学校へ向かうと、見覚えのある連中が近所の喫茶店でモーニングを食べていた。

 

…………というか、ヴァーリに駄猫に、どえむたいがーだった。

 

中身はともかく見た目はキラッキラしてる連中なので、色々と目を引いてるなぁとか思いながら、関わるのはのーさんきゅーなのでスルーしようとした。

 

『ん? あ、イッセー』

 

できなかった、窓ガラス越しにヴァーリが気付いた。読唇しなけりゃよかった。

 

気がつくや否や、すぐに連中は会計を済ませてバタバタと喫茶店を出た。ついでに野次馬も引き連れて。

 

「おはようイッセー。いい天気だな」

 

「…………天気の前に幾つか気になることがあるんだけどよ?」

 

「もう、ダメでしょヴァーリ! ここは『おはようまいだーりん♡』って媚び媚びの声で抱きつけばイチコロ…………って痛い痛いイッセー痛い腕の関節はそっちには曲がらないぃぃぃぃいいいいいっ!!?」

 

「おう駄猫、てめぇよくもまあ余計な知識をこのド天然にぶち込んでくれやがったなぶっ飛ばすぞ」

 

「黒歌さん羨ましい…………イッセー、僕にもやってくれませんかね?」

 

「どえむたいがー、ハウス」

 

「成る程、動物プレイですか! 鞭打ちでもなんでもきてください! カモン! カモンッ!!」

 

…………とりあえず、三者三様に手が付けられねぇ!? いきなりコレとか、俺のキャパシティにも限界ってもんがあるんだからな!!

 

「…………や、で真面目な話。なんでお前らここにいんの?」

 

「私は妹の授業参観ね。親代りとして、白音の成長を見届ける義務が私にはあるのよ!」

 

「涎が垂れてなけりゃ妹思いの良い姉だったのになぁ…………」

 

「漫画的表現ってヤツよ」

 

そう言って、無駄にでかい胸をえっへんと張るこいつを見て、こいつの妹さんは大変だろうなぁ……と言う感想が浮かび、飲み込む。

 

「私は単純に、転入するからその下見だ」

 

「…………え”、マジで?」

 

「マジだ。一応許可は取ったぞ、多方面に」

 

…………こいつ、駒王学園に来んのかぁ。コレ、俺まで胃痛フラグじゃない? ヤダよ胃痛キャラはお嬢1人で十分だって。

 

「…………で、お前はどうしてだ、リック」

 

「そうですね、今度の三大勢力会談、アザゼル総督の護衛として参加しますので、その下見といったところでしょうか?」

 

「へぇ、全員中身はともかくまともな用事で来てたんだな」

 

「「こいつと一緒にするな」」

 

「嗚呼、イイッ! その視線をもっとぉ!」

 

「…………うん、真面目にすまん」

 

…………ってちょっと待って? この面子に加えてあとウチの親、お嬢のご家族も来るってこと?

 

「……………………頭痛い」

 

とりあえず、今日が無事に終わることを祈ろうか。まあ俺が信じてる神様は現状エーナだけだからご利益あるかはわっかんないけど!

 

『(大丈夫、願い聞き届けた)』

 

あっ(察し)

 




感想批評ダメだし、よろしくお願いします。

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