ハイスクールDevil×Dragon×Dhuman 作:4E/あかいひと
コカビエル一味が駒王町に訪れるだろうと思われる本日。
最終報告と称して私達の滞在場所である元兵藤家の家にやってきた彼を見て思ったこと。
(イ、イッセー君がおかしくなった…………?)
いや、彼は元から色々とおかしかった。じゃなきゃ幼稚園児時代から高校生を腕っ節でぶっ飛ばすだなんてことはしない。だから正確には、あれ以上におかしくなった。
「よぅイリナちゃん。予定だと今日あいつらが襲来するみたいだけど、準備の程は?」
「まあまあね。それにしてもイッセー君…………それ、なに?」
イッセー君の額から、小さいとはいえツノが生えていたのと…………その、元々底が知れなかった強者の雰囲気的な何かが、それ以上の圧を伴って私にのしかかっていた。
「ん? あ、生えただけ。まあそんなことはどうでもいいじゃん」
「どうでも良くはないかな!? というか大丈夫なの!?」
「うん大丈夫大丈夫。気合い入れたら外れるし。それよりも今から起きるだろう戦闘の方が心配だよ」
「…………私には、どうも信じられないのよね」
彼が言うには、もしかしたらコカビエルは以前のコカビエルではなく…………もっと悍ましい何かに変質している恐れがあるとのこと。どうやらそれは、私が知る中では最強の戦士である彼ですら恐れるぐらいのもの、らしい。
嘘はないだろう。だってイッセー君は基本的には誠実だ。タチの悪い冗談を、タチの悪いタイミングで言うような不謹慎な人間ではない。
しかし、それを踏まえた上でなお…………私は『イッセー君が命の危機を覚える程の敵がいる』ことが信じられない。それぐらいには、私は彼の強さを信じている。下手をすれば信仰していると言っても過言ではない。
教会の最強剣士候補に名を連ねようと、未だ背中が微かにしか見えない程の強さを持つ彼が、武者震いでピリピリとした雰囲気を放ってしまうこの状況が、幻ではないかと思ってしまうぐらいには。
「イッセー君。私は貴方が嘘をついているとは思えない。でも、貴方の思い過ごしじゃないかとは思うわ。本心から、私は貴方に勝てる相手は『黙示の龍帝』と『無限の龍神』だけだと思ってる」
「買い被り過ぎだよ…………確かにそれなりの強さは自負するところだけど、一歩間違えたらコロッと逝ってしまう程度にはぶっ飛んでないよ。真面目な話、イリナちゃんなら俺なんてやりようによっては打倒できるんだから」
彼は苦笑してそう言うけど。心配症なのだろうか…………?
「まあいいわ。頑固なイッセー君のことだから、どうせ自分の意見を曲げたりはしないのは分かってる。だから『もしもの場合』として、頭に入れておくわ」
「そうしてくれると助かるよ…………というか、頑固だなんてイリナちゃんには言われたくない」
「私にとってそれは褒め言葉ね。折れない心なんて、素敵でしょう?」
自分の信じた正義に殉じて突き進むのは、これ以上ない信仰だと思う。たとえ狂信者と揶揄されようと、だ。
…………だから教会で私は敵を作りすぎているんだけれどね。
「……まあいいけど。えっと、あとこれを」
「…………? これは」
イッセー君が微妙な顔をしつつ、何かのスイッチみたいなものを二つ、渡してきた。22世紀の猫型ロボットの秘密道具であるどく○いスイッチを白く塗り替えた、としか表せない。
「本当に困った時に、これを押して。そうするだけで、ウチの寮の地下にあるワープポイントまで転送してくれる」
「……イッセー君って、面倒見いいけど過保護だよね。まぁありがたくもらうけれど」
舐められてるわけじゃないので、そう言うことだろう。そういえば昔も、面倒見が良過ぎたりしてたなぁ……なんて思うと、その辺りが変わっていないことに安心する。
「それじゃあ、また夜にね。頼むから、無茶は勘弁な?」
「ええ、次会うときはこの問題に片が付いてるといいわね」
イッセー君が家を出て、準備のためにリビングに戻る。
「…………念の為」
信じてないわけじゃない。だから私は『擬態の聖剣』とは別に、本来の得物を用意する。
一見、長いだけに見える木箱。
そこに収められているのは…………。
「使う様な事態にならないことを祈ろうかしら」
私のセリフに呼応するように、刃がキラリと輝いた。
◇◇◇
時間は流れ、月が昇り始めた頃。基本的に夜行型な私たちにとっては体の調子が乗ってくる頃合。
夜は化物共の為の時間なのは確かだが、逆に言えばそんなアレらを狩る務めを負う教会の裏側の人間の時間でもある。教会の戦士の訓練には、夜間の戦闘行動に耐えうる戦士を作るためのそれが必修としてあるのだ。下級悪魔よりは夜に慣れてる自信あるわよ?
まあそんな自慢とも自虐とも言えるネタは置いておいて。
「……なにもないな」
「……ええ、なにもないわね」
笑っちゃう程に、私達の仕込んだ結界に反応がない。無論、それとは別に見回りもしているが…………それでもなにもないのだ。気配も感じ取れないとなると…………
「…………念の為にアレを持ってきたのは正解かもしれんな」
「…………ええ、本当。
許可をもらって町の各所に設置した結界は、異形に反応するもの。悪魔だったり、堕天使だったり、龍だったり。
でもおかしいわね、反応するはずのイッセー君たちの反応もないのよ。騙す実力はあれど、詰めが甘いわ。もっとも、私たちがそう思うことを狙っているのかもしれないから、油断はできないわね。
「用心するに越したことはない、か。ゼノヴィア、構えときなさい」
「いつでも戦闘に移行できる状態にあっても、か?」
「ええ、明らかな異常事態。探知に引っかからない謎の敵とくれば──────」
視界の端に、ズブズブと黒いモノが湧き出た。
「「ッ!!」」
アレは敵だ、そう直感が告げた。余り確証のないものを信じるのは嫌だが、今この場においては信じるべきだろう。
腰の左側に巻かれている『擬態の聖剣』を、太刀に擬態させつつ黒いモノとの距離を詰める。居合の様に振り抜こうとした時には…………黒いモノは、趣味の悪い小さな人形の様なモノに変わっていた。
「シッ!!」
横一閃。見た目に反して硬度はある様だが、あってないも同然。
上半身と下半身で分断、そうしてその悪趣味な人形擬きは元の黒い何かに戻っていく。
「こういうことよ…………まさか、気配も無く現れるとは思ってなかったけれどね」
「だな」
そうしてゼノヴィアが『
勘が告げる……『アレに触れてはならない』と。せめて先ほどの様に形を取るまでは、こちらから触れるのは自殺行為だと。
その勘を裏付けるかの様に……この何かが這った場所がずず黒く爛れていく。…………現在地点が公園でよかった。少なくともこの時点で一般人を巻き込む様なことはない。
しかしこの状況でも動けるのが、今私と背中合わせで構えている相棒。
そう思考を巡らせた時点で、
「破ッ!!!」
破壊の聖剣が地面に突き立てられ、破壊のオーラを周囲に撒き散らす。黒い何かは悪しき性質を持っていた様で、破壊の聖剣のオーラを受けて蒸発する様に消えていく。
「やるわねぇ、流石はゼノヴィア」
「軽口を叩いてる暇があるのか!?」
「……そうでもしないとこの状況に耐えられないのよ」
蒸発させたとはいえ、焼け石に水状態だったらしい、またも黒い何かが地を這う様に、こちらに殺到してくる。おそらく、飲み込むつもりか。
「立て直しよゼノヴィア、道を作って!!」
「承知したッ!!」
振り下ろされる聖剣。そしてその切先からビームの様に噴き出る破壊のオーラが、道を作る様に黒い何かを破壊していく。跳んで避けたいところだが、落下地点にコレが現れると避けようがないための苦渋の決断だ。
できた道を駆け抜けて黒の包囲網を抜ける。そして、そうこうしているうちに…………
「………持ち替えよう。少なくとも、周囲の被害が、なんて言ってられない」
「その方が良いわね」
先程同様に、黒が形を取っていた。それも、さっきの人形擬きのみならず、人形擬きよりもさらに小さな二足歩行タイプの怪物、複眼に見える人型怪物、四足歩行タイプの怪物などバリエーションも豊富ながら…………ざっと見でも100体と、数も相当。ゼノヴィアが持ち替えようとするのも納得である。
現状アレらについて分かっているのは、聖属性の攻撃がよく効くということと、何らかの汚染をするということか。すぐにでも撤退して、イッセーくんたちの協力を仰ぎたいところだが…………今逃げたらこれらが放置されることを意味する。悪魔の支配する町とはいえ、この地に住む人間に罪はない。見過ごすだなんて選択、出来ようはずがないのだ。
「ゼノヴィア、今できる最大の一撃を準備なさい。私はその間、奴らを足留めする」
「大丈夫なのか?」
「あら、誰に向かって言ってるのかしら?」
本当は不安だ。でも、弱い背中は見せられない。
「私が、紫藤イリナが、あの化物共に遅れをとると?」
「成る程、それはすまなかった」
信頼の色をした声が、私に届く。ならば私はその信頼に足る動きをしなければ。
聖剣を
「…………さて、と」
小太刀を十字に構え、詠唱する。
「『天に召します我らが父よ。願わくば我に異形を祓う力を与えたまえ。Amen.』」
異形共の時間でありながら、聖なる加護を授かる為のルーティーン。構えた刃を十字架に見立て、祈りを捧げることで、最低限ではあるが教会の機能を得ることができる。システムの裏を突いた、と言えばせこく聞こえるが、使えるものを使って何が悪い? とだけ言っておこう。
教会としての最低限の機能。私を中心とした一定範囲内は敷地……神によって守護された土地となり、服の中は信徒を守る建屋となる。まあ即興で最低限のそれだから、どこぞのラノベに出てくるシスター服には到底及ばないけど。
しかし、異形を屠るには十分過ぎる。
構えを解き、逆手持ちに切り替える。リバースハンドは普通に持つよりも力が入りやすく、普通の素手格闘とも併用しやすい。一応は女の子で筋力にはそこまでの自身がない私でも、それなりの威力が見込める。
「ッ!!」
深く脚を曲げ、弾丸の如く前方に跳び出す。
先頭集団である二足歩行タイプを蹴り上げ、宙に浮いたところを掻き切る。さらに形が潰れる前に蹴り飛ばし、他の二足歩行タイプにぶつけて足留め。
「ギュピッ!!」
「ッ!?」
そこを狙いすましたかの様に、人形タイプが氷の様なものを飛ばすが回避、距離を詰めて拳を突き出し、顔部分を打ち抜く。
「ッ、ラァッ!!」
崩れる前に振り払い、すぐ側まで来ていた人型タイプの目に当たる部分に飛ばし、視界を奪ったところで剣になっている両腕を切り飛ばし、無力化。
「ギュルルッ!!」
「甘いッ!!」
そして四足歩行タイプ。飛びかかっていたようで、空中からそのそこそこ大きい体躯で迫っていた。だが空中は翼のない生物には無防備な場所。少し跼み、下を取って思いっきり右の小太刀を振り上げて斬る。
ここで今この右腕が伸びた体勢が『隙』だと判断したのか、別の兵士タイプが襲ってくる。
「ハァッ!!」
しかし伸びきってはいなかった腕。切り上げる勢いを利用して振りかぶり、眼前の兵士タイプを切りつけつつ、身体を回転させて逆の腕で肘打ちを見舞い。小型を巻き添えにしつつ身体を崩していった。
「…………フゥ」
一旦攻勢が落ち着いたところで、刀に突いた黒を払う。まるで血を払う動作と同じだが、心情は同じである。
(全く、手の内を晒さずに戦うのは骨が折れるわ)
心の中でそう毒突く。だって、あの人形タイプと人型タイプは、情報収集を目的としたそれにしか見えない。複眼なのと、攻撃を避けようとしている動作からそうとしか思えない。
おそらく、奴ら様は情報を共有できるのだろう。その上で対処をされると面倒だ、だから全力では戦えなかった。
だがまあ、私の目的は足留めだ。
「イリナッ!!」
後ろから聴こえる相棒の声。私は避けるようにその場から離脱。
「いくぞ『
彼女の本来の武器。破壊、斬れ味においては他の追随を許さない、分裂したエクスカリバーでは及ぶどころか太刀打ちできない程の格を持つ、伝説の聖剣『デュランダル』。これだけ聞くとすごい剣だが、かなりのじゃじゃ馬で、そこに在るだけで攻性の聖なるオーラを無闇に撒き散らし、相応の力量が無ければ使い手の言うことを聞かないという、余り信用のできない聖剣だ。とは言え今代の所有者である彼女との相性は良いらしく、技量がまだ足りてない現在でも、ある程度は彼女の意向に沿う様に動いてはいるが。
そして、そのデュランダルが、先程の破壊の聖剣同様に振り下ろされる。
地を裂く様な轟音と共に、先程とは比べ物にならない程の聖なる光が剣より射出された。
放たれた異形を焼き尽くす暴力は、汚染された地面ごと破壊し尽くし、黒の軍勢を跡形も無く消し飛ばした。
「…………ゼノヴィアに似て豪快ですこと」
「俗に言う『脳筋』だからな、私は。だからこそ相性が良いのだろうが」
代償はある。思い出もいっぱいある公園がめちゃくちゃだ。しかし、背に腹はかえられないのよ…………。
「しっかし、なんだったのかしらね、アレ」
「間違いなくコカビエルに因るものだろうが…………」
「ほう、アレらを退けたか。まあその位はして貰わねばな」
空より、声が降ってきた。
聞き覚えのない声。しかし、誰だかは分かる声。
しかし、例えその考えがあっていたとして…………私はそのことを一瞬認められなかった。
(……声から読み取れる圧が、おかしい?)
それはもしかしたら…………余り考えたくないことだが…………イッセー君のそれよりも。
上を見上げる。そこにいたのは、六対の黒翼、黒い装束を身に纏った、厳つい風貌をした男。見てくれだけは堕天使。それも格の高い、幹部級の。
でも私は、
「…………堕天使、コカビエル?」
確認を取るために、ボソリとその名を零す。だが、その名前に奴は顔を怒りに歪めた。
「『コカビエル』? ハッ、あんな弱かった男はもう存在せん」
…………成る程、イッセー君が言ってたことはこういうことか。確かに私では太刀打ちできないかもしれない。
「我は『ダークファルス【
その名乗りを聞きながら、私は久しく感じていなかった濃厚な『死』の気配に心を震わせた。
とうとう出てしまったぜぇ…………。
あ、黒いのの解説は次回で。