ハイスクールDevil×Dragon×Dhuman 作:4E/あかいひと
その1-不調×切掛×自嘲
死んだ人間は、復讐を望むか?
答えは分からんが…………でも、言わせてもらうなら、死んだ奴は遺された奴の幸せを願うし、復讐だって果たしたところで虚しさが全身を支配するだけだ。正直オススメはしない。
「しかし俺はお前の復讐心を許容しよう。罪には罰が課せられるべきだ」
行き場の無い怒りを抱える苦しみは、他ならぬ俺が1番知っている。
[ハイスクールDevil×Dragon×Dhuman]
[第3章-復讐の魔剣]
◇◇◇
『…………ちょっと! イッセーくんちゃんと聞いてる!?』
「…………んお、聞いてる聞いてる」
駒王学園高等部、オカルト研究部寮の俺の部屋にて。何故か前の家の俺の部屋より広い上にトイレシャワーも完備な贅沢なこの一室にて、半ば放心しながら俺は電話をしていた。というか土地が決まった瞬間に家が建ってしまったのはビックリだ。おかげで最初の仕事が周囲に催眠をかけることだったのは記憶に新しい。
「聞いてるよぉ〜。アレだろ、コカビエなんとかって堕天使が聖剣ぶん盗ってグレモリー領である駒王町に来てるんじゃないかって話だろう? 今のところ反応はないけど、来る可能性は高いだろうねぇ」
『あんまり呑気に言ってられないよイッセーくん!!? どっちにせよ、こっちから私ともう1人の聖剣使いが派遣されるから、その旨をリアス・グレモリーに伝えておいて欲しいのよ』
「んー、了解? というかイリナちゃん、俺が悪魔と連んでて怒らないの?」
『本音を言うなら、そりゃあ斬り殺したいわよ? でも、下手に戦争に発展されても困るし、グレモリーは悪魔にしては善良だもの。それに、』
「それに?」
『…………まあ決まった話でもないから、今は止めておくわ。とにかく、私はリアス・グレモリーに対する敵意と害意は無いも同然、と思ってくれて問題無いわ』
「そうか。個人的にはすごく助かる。というわけでお嬢の方にはそのよーに伝えておきますので。もし宿に困ったら前の家がお客さん用になってるからねー。メシも出すし、遠征費はそこまで要らんよー」
『本当に!? やった、ありがとうイッセーくん! 持つべきものは友よねっ!』
「じゃあ汝隣人を愛せよってことでもー少し落ち着きをですね」
『繋がりが見えないわよ!? まあいいわ。とにかく、また近いうちにね! イッセー君にも神の御加護がありますように』
「おー。イリナちゃんにも、精霊の御導きがありますように」
まあそんな感じで互いに無事を祈りつつ。
地味に物凄い内容の会話をしていましたとさ。
…………え、と言うかコカビエルがこっち来るってマジ?
◇◇◇
ところ変わって寮の談話室。
「ということがありまして、少々厄介なことに」
「…………貴方本当に教会とのパイプがあったのね」
「話はした気がしますけど、隣に住んでた子だったんですよ。家族ぐるみで仲良くはしてましたが、その頃はまだ家族も普通だったのでなんともなかったんです」
そんな事情も交えながら、イリナちゃんから齎された情報を報告。
というか気にしないフリをしてたけど、当時トージおじさん率いる教会側と、当時駒王町を治めていた悪魔側で戦いがあったよなぁ。フリ、というだけあって殺されそうになってた悪魔さんと教会側の戦士さんを逃したんだけど…………大丈夫だよね? うん、ばれてないばれてない。
「で、御丁寧に敵意も害意も無いということですので。呼んでもいいですよね?」
「…………まあいいわ。イッセーの友人ですもの。その辺りの度量の大きさを見せつけるのも、上に立つ者の務め、よ」
まあその辺りの不安は無いので問題ナッシングだが。
「それよりも問題は…………」
そう言って部長は上を…………正確には、木場に充てがわれた部屋の辺りを見て、溜息を吐いた。
「…………ハァ。この件は、悪いですけど手出しできませんからね」
「ええ、これは私達の問題だもの」
そう言って俺も溜息を吐き、件の木場祐斗のことについて、何故こうなったのかを思い出し始めた。
◇◇◇
奴の調子がおかしく…………というか、暗い影が漂い始めたのは先週、丁度寮が出来上がり、パーティーをしようということでドンチャンと騒いでいた最中だった。
おかーさまより齎された
まあそんな恥ずかし過ぎる過去の記録を開帳され、更には朱乃先輩が見覚えのある奴でも見つけたのか頻りに首をひねっている所を冷や汗とともに眺めながら端っこの方で蹲っていると、予想外の方向から、それはやってきた。
「……イッセーくん、これに見覚えは?」
「コレ…………は、お隣だった家でご馳走になった時の写真だな。壁に掛かってるのは、多分なんかの聖剣だった気がするけど…………」
「…………そうか」
その時の木場の目を見て、俺は強烈な既視感を覚えた。
『…………殺す』
それもそうか。だって、昔の俺の様な、淀み切った目だったのだから。
まあ次の日から、奴は物の見事に腑抜け始めた。普段の戦闘訓練だけは身が入るのに、それ以外のことでは、常にボーッとして、生きることに理由を見出せない様な印象を抱いた。
流石にいつまでもそんな調子では困るので、声をかけたんだ。
「…………最近、あまりにもぼやぼやし過ぎだ。何があった?」
「……イッセーくんには関係無いよ」
「ざっけんな、テメーあの写真見てから調子悪いんだろうが。無関係とは間違っても言えねぇ。…………仲間だから心配だってする。一体、どうしたってんだ」
そう言うと、木場は更に表情を翳らせた。
「…………キミがあの時、あの場にいてくれたら。中々にお人好しのキミだから、きっと僕らも」
「木場?」
「でも、そんなもしもの話をしても仕方が無いね。…………イッセーくん。僕はここのところ、基本的なことを思い出していた」
「…………何?」
「僕がなんのために戦っているのか、なんのために生きているのか…………」
その時の奴の顔は、忘れられない。
ドス黒い炎が宿った様な黒い目に、怒りに歪められたその表情。
「僕は復讐の為に生きている。『聖剣エクスカリバー』…………それを破壊するのが、僕の戦う意味であり…………存在理由だ」
戦争が無いから平和…………こんな世界で生きれるなんて、幸せだなぁとかなんとか思った生まれたばかりの俺をブン殴りたい。
何処の世界でも…………悪意が根絶することはあり得なかったのだ。それも、俺みたいな復讐鬼を生み出してしまう様な悪意が───────。
◇◇◇
「木場が聖剣エクスカリバーを恨む理由となった資料は、読ませてもらいました…………。正直、反吐が出ましたね。
そう、いつだって戦争は、人間が引き起こしてきた。
ヒューマン、ニューマン、ビースト、キャストの4種族戦争は、ヒューマンが奴隷としてそれぞれの種族を生み出し、虐げようとした為に起こった。その結果、戦争が終わってからのヒューマンの立場がクソみたいになっていたのは自業自得もいいとこだ。
SEED事変も、実はヒューマンの悪意によって引き起こされた最悪の事件。ヒューマン至上主義を掲げる秘密結社『イルミナス』は、何故あそこまで…………いや、まあイルミナスのトップであるカール・フリードリヒ・ハウザーはヒューマン至上主義なんてどうでも良くて、グラールを滅ぼすつもりでいたんだけど。どっちにしたって、ヒューマンの悪意は凄まじい。
…………まあそう言う俺も、SEEDに侵食されて遺伝子変成が起こるまでは立派なヒューマンでしたけどね。
「お嬢だって、否定しているわけではないんでしょう? 木場の復讐を」
「そうだけど…………でも、それだけを生きる依り代にするなんて…………悲しいじゃない」
うん、今となってはお嬢の言うことはとても分かるんだけど。
「復讐の最中にいるヤツに、綺麗事はどーしても、届かないんですよね…………」
いつだったか俺を引きとめようとしてくれていたヒトの顔を思い出しながら、自嘲気味に呟くのだった。