癒術師も異世界から来るそうですよ?   作:夜明けの月

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はい、弁明の余地もございません。
遅れて申し訳ないです。
他の作品の進行を先にしてたらこっちがおろそかに……。
今後気をつけます。
では、本編どうぞ。


まさかの再会

場所は変わって、北側の展望台下ーーー

 

「あの馬鹿狼絶対にしめる………」

 

詩音は、頭や服に木の葉や枝を付けたまま多大なる怒りを込めながら呟く。

 

現在詩音は、黒ウサギから逃げようとしたところ、千斗に首根っこ掴まれ、街の方へと放り投げられたせいで落下位置にあった木に引っかかりながら街付近へと落ちていた。

 

幸い、レンガ畳みに直撃するということは避けられたため、怪我もほとんどない。高所から投げられるという恐怖は味わったが。

 

「はぁ……これからどうしよ。黒ウサギも行っちゃったし」

 

黒ウサギは詩音が落ちたのを見たにもかかわらず、他の人を追うために跳躍していったのだ。落下中、詩音はそれを目にした時思った。

 

ーーー何故私を先に捕まえないのか、と。

 

そんなことはさておき、すぐさま放置された詩音は、これからどうしようか悩み、すぐに歩き出す。

 

「お祭りやってるみたいだし、とりあえず歩いて回ろっと」

 

考えることと、今起こっていることに関する疑問を全て放棄して楽しむことに専念した。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

街に足を踏み入れると、そこは展望台から見た通りの幻想的な街並みだった。

 

森や活気のない街ばかり見てきた詩音にとっては、魅力的で興味をそそるものばかりだった。

 

「おぉ〜!賑わってるねぇ」

 

目を子供のように輝かせながら感嘆の言葉を漏らす。

 

様々な屋台、美しい彫刻品などの作品、橙色の街灯の明かり。それら全てがキラキラと輝いている。

 

祭りというもので胸を満たしながら歩いていく。そんな時だった。

 

「わぷっ」

 

「ん?」

 

詩音は突然足に衝撃が来て立ち止まる。コツンと何かが当たったような気がした詩音は、足元を見下ろして固まる。

 

「……誰よ、前を見て歩いていない大馬鹿者は」

 

風になびく綺麗な銀髪、リリ達年長組と同じような背丈、そして聞き覚えのある声。

 

その条件が頭の中で揃った途端、詩音は口をあんぐりと開けてわなわな震える。

 

「まったく、こっちはお祭りを楽しんでいるというのに。ちょっと、あなた聞いて……る……………」

 

銀髪の少女は顔をあげて詩音を確認し、詩音のように口をあんぐりと開けてわなわなと震える。

 

「日見華!?」

「詩音!?」

 

「「どうしてあんたがここに!?」」

 

まさかの再開に双方ともに大声を出して驚愕で数十秒動けなかった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「今思えば、あんな事書くんじゃなかったわね」

 

「今思ったところで後の祭りだけどね」

 

「………駄洒落?」

 

「そんなつもりまったくなかったんだけど……」

 

一方、逃げ延びた真尋と飛鳥は仲睦まじく腕を組みながら街を歩いていた。

 

なぜ腕を組んでいるのか、それは飛鳥のある一言が原因だった。

 

 

 

時は黒ウサギから逃走直後まで遡る。

 

その時、二人は街の噴水のあたりで膝に手をつき、荒い息を吐いていた。

 

体力や運動神経が転生特典で強化されている真尋に比べて、飛鳥は誰かを自分の命令に従わせる事ができるだけで他は普通の女の子だ。

 

そのため、真尋にあわせることはできず、かといって抱きかかえられたりするのも恥ずかしいので走って逃げたのだが、思ったより疲労したのだ。

 

真尋は真尋で、なぜか祭りを一緒に回らないか?という通りすがりの女性達の誘いを断り、かわしながら走っていたため、余分に体力を使ってしまったのだ。

 

「まさ、か……逃げるのが、こんなに大変、だなんて……」

 

「僕も、そう、思うよ………」

 

はぁー、と息を吐き出すと、飛鳥は周りを見渡した。いつの間にか踏み入れていた街並みに感嘆の息を漏らす。

 

「凄いわね……。あの高いところから見たよりも魅力的だわ……」

 

「そりゃ、そうだろうね。ここは異世界で、僕らの見たこともないものが沢山あるんだからさ」

 

「それもそうね……」

 

真尋は飛鳥の街並みに見惚れている姿に笑みを浮かべて、立ち上がって飛鳥に手を差し出す。

 

「それでは、お祭りへと行こうか。エスコートは任せてくださいませ、お嬢様」

 

「あら、そんなことしてくれるのかしら?」

 

「これでも一応騎士の端くれだと思っているからね」

 

「ふーん、それなら任せるわ」

 

「それでは、お手をお借りいたします」

 

真尋は差し出された飛鳥の手をとって歩き出した。

 

 

 

そして時は戻る。最初は手をとって歩いていただけのはずなのだが、いきなり飛鳥が腕を組むように指示してきたため、真尋はされるがままになっていた。

 

周りから仲睦まじいカップルだと勘違いされながら、それを知ることもなく二人は祭りを楽しんでいく。

 

「(……せっかく腕を組んだというのに、反応薄くてつまらないわね)」

 

「(とか思ってるんだろうけど、そんな思惑にははまらないからね)」

 

と考えがバレバレな飛鳥であった。

 

そんな時、人混みに紛れてあまり見えてはいないが、二人を殺気のようなものが襲った。

 

二人はその殺気を感じ取ったのか、ビクゥッと飛び上がり、真正面に視線を向ける。その先には、目を不気味に光らせ、頭に生えた耳のようなものをピンと張って、修羅のような雰囲気を放っているウサギがいた。

 

「ミィィィィツケタ、のですよ」

 

ホラー映画か、と思われるような声音で言った途端、地面を思いっきり蹴って二人に迫る。

 

「ま、まずいっ!久遠さんはあっちに、僕はあっちに逃げるから!」

 

「わ、分かったわ!」

 

二手に分かれて逃げ出す二人。黒ウサギは、悩むことなく、反射的に真尋の方へと方向を転換する。

 

「くそっ、僕の方に来たか!」

 

「逃がさないのですよ!」

 

地獄の鬼ごっこは、真尋vs黒ウサギという二人によってクライマックスを迎えようとしていた。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

詩音は、街中のベンチに神妙な面持ちで座っていた。

 

その原因は、詩音の横に座っている少女にあった。

 

「これ、食べる?」

 

「え、あ、うん。ありがと…………………じゃなくって!なんでこのにいるの!?」

 

「誰だってお祭りは楽しみたいでしょう?」

 

「黒幕かつ事件の種が何を言うか!」

 

「ほらほら、周りの人の目が痛いから座ってりんご飴でも食べてなさい」

 

「私りんご飴大好きーっじゃなくって!」

 

詩音は、突然出くわしたロイズファクトリーの幹部、峠坂日見華となぜか同じベンチでぎゃあぎゃあ騒いでいた。ほとんど騒いでいたのは詩音だが。

 

「なんでここにいるの」

 

「ん?私はただお祭りを楽しみに来ただけよ。悪巧みとかはないわよ」

 

「本当に?」

 

「本当よ。今回はね」

 

日見華のその何か意味のありそうな言葉に顔をしかめる。今回は、というところが気になったが、詩音はそれを無視して話を進める。

 

「なら、なんであなた一人なの?」

 

「あら?レディが一人で出歩いちゃダメなのかしら?」

 

「レディというよりガールって言った方がいいんじゃない?」

 

「ふーん、見る目ないのね。こんな立派なレディなのに」

 

日見華が(ない)胸を張ると、詩音はぷっと吹き出す。

 

「お子様のくせに何を言うか」

 

「…………誰がお子様よ脳内お花畑」

 

「だ、誰がお花畑だこの腹黒女!」

 

「五月蝿いわよ身体つきだけが取り柄の淫乱ビッチ」

 

「私そんなのじゃない!」

 

「どうだか。コミュニティの男たちを夜這いやらお風呂へ潜入やらしてその身体で射止めているんでしょ?」

 

「誤解招くようなこと言わないで!私そんなことしない!ていうかできるわけない!」

 

日見華は、顔がトマトのように真っ赤になっている詩音を一瞥してくすくすと笑う。

 

誰かをからかった奴は、その仕返しが倍くらいで帰ってくる、という以前真尋から聞いたことを実感した瞬間だった。

 

「そ、そんなことはどうだって「へぇ、してるのね夜這い」〜〜〜ッ!!もうそのことはいいの!それよりも、本当に悪巧みとかしてないよね?」

 

「まだその話をするつもり?今回は私は関係ないわよ。…………他の面子が何をしでかすかわからないけど」

 

「え?」

 

「なんでもないわよ。それじゃあ、私は行くわね」

 

そう言ってベンチから立ち上がって去っていく日見華。

 

そんな中、詩音の頭には日見華がボソッと小さく呟いた言葉だけがぐるぐると回っていた。

 

『他の面子が何をしでかすかわからないけど』

 

「また、何か起きるっていうの……?」

 

そんな不安に満ちた詩音の声が、虚空へと消えていった。

 

 

 




フラグは立てていく。これは基本ですね(回収しきれる範囲なら)

現在、真尋と千斗のヒロインに関してのアンケート募集中です。
第2章が終わるまでしているので、よろしくお願いします。

では、次回もお楽しみに。

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