あと更新遅れてすみませんでした。
支店の中に入って白夜叉の話を聞くと、北で開かれる"火龍誕生祭"における護衛みたいなものをして欲しい、とそういうことだった。
「なんで護衛なんかしなくちゃなんねえんだ?」
「ふむ。簡潔に言うと、この頃箱庭に得体の知れん"物"がうろついておるという」
「得体の知れない物?」
耀は首を傾げ、白夜叉に問う。白夜叉は真剣な眼差しで答えた。
「私は見たことはないのだが、どす黒い泥のような物に人が呑まれるのを見たというやつがいたらしい。その後、その人を見たことはなかったと聞いたが……。実際はほとんど分かっておらん」
白夜叉は困ったという風に頭に手を当てる。詩音と真尋、そして千斗はこの話の『泥のような物』に心当たりがあった。
「間違いなく"汚れ"だね」
「十中八九そうだろうね」
「でもよ、そんな人呑み込むようなことするか?あの知能がないような物質が」
千斗が顔をしかめて言った。千斗の言い分は確かに正しい。
今まで詩音たちが対峙してきた"汚れ"は、知能を一切持たず、命令されなければ動く生命体には手を出さないような物だ。基本は自然的な物に取り憑くものだが、白夜叉が言ったものは違った。
人を呑み込んだとしても、その人を操ってどこかに連れて行くなんて事は普通はできない。ただし、その"汚れ"が操られていなければの話だが。
「という事は………」
「
「ったく飽きねえなあの汚れ集団」
三人はそう結論付け、白夜叉の話を聞こうとするが、当の白夜叉は不敵な笑みを浮かべて柏手を打つ。
「ほれ、北側に着いたぞ」
『は?』
これほどピッタリ息があった事はないというほどに声が重なり、全員口をあんぐりと開けている。そして硬直が解けるとすぐに外に出て見たこともない景色に全員が見とれる。
赤く煌めく街、暖かさを感じさせる色合い、そこが北側の"煌炎の都"であった。
「綺麗ね……」
「おぉ………」
飛鳥と詩音は簡単の声を上げ、耀に至ってはキラキラと目を輝かせ、見入っている。男性陣はというと、その後ろで女性陣を見ながら街を見ていた。
「いい眺めだな」
「そうだな」
「君ら後で殺されても知らないからね……?」
十六夜と千斗がふざけたその時だった。背後の遠くの方から声が聞こえてきた。六人にとっては最も聞き覚えのある声が。
「みぃぃぃぃぃぃぃつけたのですよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!」
ズドン、という着地音と土煙とともにその物体は飛来する。土煙が晴れ、そこに見えたのは、黒ウサギならぬ修羅ウサギだった。
「見つけましたええ見つけましたよこの問題児様方!今朝リリに渡した手紙の件でお話があるのでさっさと捕まってくれるとありがたいのですがいいですよね捕まってくれますよねというか返答は聞いてませんから捕まりやがれですよこのお馬鹿様方!」
修羅と化した黒ウサギは有無も言わせぬ形相と早口で六人に迫る。流石にあの手紙を出した手前早々捕まってたまるか、と思っていた五人(詩音以外)は瞬時に逃げようとしたが、
「捕まえましたよ耀さん!」
「わ、わわっ……!」
耀はギフトを使って飛び上がったところで、黒ウサギに足を掴まれて逃走に失敗する。状況がいまいち飲み込めていない詩音はというと、
「…………とりあえず逃げよ」
考えることを放棄して、場に身をまかせることにした。
だが、黒ウサギはこれを許すこともなく、容赦なく詩音に掴みかかろうとする。
「待ちなさい詩音さん!」
「やらせるかよ!」
あとほんの少しで掴もうとしたところで千斗が詩音の襟首を掴んで、街の方へと放り投げる。こんな状況になると思ってなかった詩音は顔を青ざめて千斗を見る。
「頑張って逃げろよ!」
「あとで覚えてろこの駄狼がぁぁぁぁ!」
そう叫びながら詩音は展望台から落ちていった。
黒ウサギは捕まえた耀を乱雑に白夜叉に投げつけ、近くにいた千斗も同じところに投げつける。当然のごとく、白夜叉は二人によって押し潰される。
「白夜叉様、お二人の事をお願いします。私はあのお馬鹿様方を捕獲もとい地獄への片道切符をワタシニマイリマスノデ」
黒いオーラを漂わせながら、黒ウサギは地面を蹴って街へと跳んでいく。今、問題児四人と修羅ウサギの鬼ごっこの火蓋が切って落とされた。
☆★☆★☆★☆
いち早く一人で逃げた十六夜は、手持ち無沙汰だったので、観光がてら街をぶらついていた。
周りに人も大勢いるため、黒ウサギには見つからないだろうとたかをくくっていたのだ。
「それにしても、やっぱり祭りだからか人が多いな。ま、別に楽しむ事に支障がなければ問題はねえんだが」
頭の後ろで腕を組み、辺りを見渡しながら歩く。所々にめっらしい骨董品やら創作品などが展示されている。これも祭りの一環なのだろうと思いながら見ていると、街の中心部の方からなにやら大勢の罵声やら怒号やらが聞こえてくる。
「喧嘩か……?」
十六夜は吸い寄せられるようにそこに近づく。するとそこには、小学生くらいの少年とそれよりも幼い少女がいた。その二人を取り囲むように厳つい男達が五、六人立っている。その全員が額に青筋を立てていた。
「おいクソガキ、テメェ人にぶつかっといて謝罪の一言もなしかアア?」
「……ぶ、ぶつかってきたのはそっちじゃないか!」
「アア!?罪をなすりつけるとはいい身分じゃねえか、よぉ!」
「ぐぅっ……!」
男達は口答えしたのをしきりに少年を殴り、蹴る。はたから見ればただの理不尽なリンチだ。
十六夜は舌打ちをしてその男達に近寄ろうとする。その時、一帯を包んでいた喧騒を切り裂くような声が響く。
「そんな事して恥ずかしくないの?大人として」
声がした方向には、笑みを浮かべている緑色のヘアバンドをした青年がいた。青年は男と少年の間に入り、少年に手を差し伸べる。
「大丈夫かい?」
「……………」
少年はよほど痛かったのか、涙ぐんでいたが青年の問いかけに頷いて答える。青年は満足そうによし、と言って少年と少女をそこから立ち去らせた。
勝手な事をしたため、当然のごとく男達は怒りを露わにする。
「なあ、何勝手なことしてんだテメェ」
「勝手なことねえ……。僕はただ、あの子達には罪がないから帰らせてあげただけなんだけど?」
「んなこと知るかよ。俺は勝手なことすんなつったんだよ。テメェには関係ねえだろ」
「うん、そうだね。でもね、そういうふざけたことやってるとーーー」
ーーーーー潰すよ
その一言と共に静かな殺気が辺りに広まる。その殺気は、規格外の力を持つ十六夜でさえも動けなくなるほどのものだった。
「ぁ…………………」
「僕はあまり無駄に争いたくはないんだよ。だからさ………分かるよね?」
「く、ぁ………くそっ!もういい、行くぞ!」
男達は顔を青ざめながらその場を去っていく。周囲にいた野次馬達も蜘蛛の子を散らすように去っていく。そんな中、十六夜だけはそこを動かずにいた。否、
こんな威圧を、自分を動けなくなるほど圧倒する殺気を放てるような人物がいることが信じられなくて。
そんな十六夜に割り込んできた青年は声をかけた。清々しい笑顔を浮かべながら。
「やあ、君が白夜叉が言ってた十六夜君だね?」
「………誰だお前。それとどうして俺の名前を知ってやがる」
十六夜は眉を顰めて目の前の青年を睨む。少なからず含まれている威圧に動じず、青年は優しそうな笑みを浮かべている。
「僕はね、"サウザンドアイズ"の傘下"桃源郷"リーダーにして癒術師である神倉ユウだよ」
笑顔のまま青年、神倉ユウは告げた。
さて、本格的にユウさん始動でございます。
そして相次ぐ詩音の不幸。
次回もさらなる理不尽が……襲うかも。
では、次回もお楽しみに!