それと今回少し長めです。
それでは本編をお楽しみください。
「さあて、始めようぜ」
千斗は戦闘態勢をとる。
「くっ、やれ二人共!」
ルイオスの命令でアルゴールと十六夜が地面を蹴る。瞬く間に千斗に迫る。そして、
「喝っ!!」
千斗の声だけで弾き飛ばされる。
「おいおい、弱すぎるだろ。お前らそこの英雄さんのお守りじゃねえのか?」
「GYAAAAAAAaaaaaaaaaa!!」
するとアルゴールから褐色の光が千斗に向けて放たれる。
「千斗!!」
「ハッ、こんなもんが
千斗はかわすことなく真っ向からその光を受ける。
「黒ウサギ、あの光の効果は!?」
「おそらく石化の能力があるかと思われます。あの光を受けたとなると……」
「それなら彼は……」
「残念ですがーーー」
「おいおい勝手に殺すなよ」
だが予想に反して褐色の光が収まった場所には、無傷の千斗がいた。黒ウサギは驚きで言葉を失う。
「石化とかズルい手を使うなぁ。ま、俺には効かねえけどな」
「くそ、おい白髪!あいつを殺れ!」
十六夜は瞬時に千斗に迫る。そして渾身の拳を叩き込もうとするが、千斗は身を翻し回し蹴りを十六夜の脇腹に叩き込む。
「あのなぁ、もうちょっとないのか?こう強い攻撃ってのがさぁ」
千斗は心底つまらなそうに愚痴る。その姿に"ノーネーム"の面子は言葉を失い、ルイオスは苛立っている。
「なめやがって………!もういい、白髪、アルゴール、与えられた力を解放しろ!!」
その命令で十六夜とアルゴールが纏う雰囲気が変わる。先ほどとは全く違う、何か禍々しいものに変わっていく。詩音はその雰囲気に心当たりがあった。
「(………これ、まさか!?)」
体の所々が痛むが気にせず立ち上がる詩音。それほど事態はマズイ方向へと進んでいた。
「(間違えるわけがない。あれは"
詩音のその予想は当たっているかがわからないが今はそれどころではない。おそらくこのままでは傾いている戦況がひっくり返される場合があるのだ。
「(でも私はまともに動けない。どうしたら………)」
詩音が悩む中、戦闘は再度始まっていた。
「GYAAAAAAAaaaaaaaaaaaaa!」
「グガァァァァ!!」
「ほっ、よっと!」
アルゴールと十六夜の攻撃を軽く避ける千斗だが、だんだん追い詰められていた。
「(動きがさっきと変わってやがる。これ一発でももらったらアウトだな)」
そう考えていると十六夜の拳が千斗の顔に迫る。それを千斗は手で受け止めた。
「おいおい危ねえな」
「グラァ!!」
「おお怖い怖い」
そして左からアルゴールの拳が迫るが、千斗はそれを避けることなく受けた。
「ぐぁ!」
アルゴールの拳は異様に強く、千斗は地面を転がり壁にぶつかる。
「千斗さん!」
「千斗、無茶するな!」
「ってぇな……、手加減なしかよこの野郎」
頰についた泥を手で拭いながら立ち上がる千斗。だが目立った傷はない。
「次はこっちから行くぞ!」
すると突然、千斗の目の前に魔法陣のようなものが現れる。だが、御構い無しに十六夜とアルゴールがその魔法陣を殴る。
「"
千斗を吹き飛ばす勢いの拳が当たったにもかかわらず、壊れる気配すら見えない魔法陣。そして千斗は不敵に笑う。
「自分らの攻撃を食らいな!"
魔法陣が光を帯びる。そして十六夜達を吹き飛ばした。
「どうだ?自分の力の味は」
「な!?どういうことだ!?」
「返したのさ。俺が食ったそいつらの衝撃をな。おかげでこっちは全くダメージを受けずに済んだし」
「な!?なんなんだよお前は!?」
「言わなかったか?俺は"全てを食らう魔狼"って。まあ簡単に言うならフェンリルってやつだが」
「フェンリルですって!?」
千斗の言葉に驚きの声を上げる黒ウサギ。
「そ、そんな……箱庭の二桁と同等の力を持った神獣が何故ここに!?」
「さあ?俺が転生して与えられた役割はそれだったし、桁とかそんなことは知らない」
「円卓の騎士に箱庭二桁の神獣……。もう訳がわからないわね」
「でも、この状況はどうにもって詩音!?」
すると突如全員の視界に詩音が現れる。即座に十六夜の死角へと回り込み肩に触れる。そして詩音が立つ場所が光り輝く。
「……………」
ブツブツと何か言っているが千斗達の元には届かない。そして光が強くなると同時に詩音の声が聞こえた。
「"
光はそこにいる全員の視覚を奪う。詩音の声は鈴のように凛と響く。そして光が収まると同時に見えた光景にその場の全員が驚愕する。
「う、嘘!?」
「十六夜さんが……十六夜さんが倒れてるですって!?」
そう、十六夜は力なく地面に倒れ伏しているのに対し、詩音は立っていた。
「やっぱり……出てきなよヒミカ。あんたがいるのは分かってるんだから」
「ふふふ、やっぱり詩音は鋭いわね」
そう言って突如現れた玉座の前に立てっている銀髪の少女。
「でも、気付くのが遅かったわね。その子は逃したけれど、もう一人は
ヒミカがそう言うとその隣に現れる黒くくすんだ物体。それはどこかアルゴールに似ていた。
「さてと、それじゃあ私はそろそろ。また会いましょう癒術師さん」
ヒミカがクスリと笑って消える。そしてアルゴールのような物体の形がぐにゃりと変形する。そしてその姿はアルゴールを肥大化したようなものだった。
『GYEEEAAAAAAaaaaaaaaa!!』
その黒い物体は唸り声をあげて褐色の光を全身から放つ。
「ケッ、効くかよ!"
褐色の光は全て千斗が作り出した魔法陣に吸い込まれていく。
「おい詩音!なんなんだよあいつは!?」
「
「おいおい、まさかの黒幕さん登場か?」
「いや、あの子は手を下さない。その代わり、ああいう風に誰かに力を与えて攻撃させる。それがあの子のやり方だよ。まあそれはいいとして、アルゴールをなんとかしないと」
「なんとかするって………お前結構体力やばいだろ?」
「へへ、大丈夫だよ。これ終わらせたら存分に休むつもりだから」
笑顔を見せる詩音だが、その笑顔はどこか無理矢理作ったようなものだった。
「そうか。無理すんなよってもう無理してるか」
「うん。とりあえず、あいつの注意引いてくれる?その間にルイオスをなんとかするから」
「了解だ」
そう言って千斗は先ほど食らった褐色の光を放つ。アルゴールはそれを自らの拳で打ち砕く。
「ギフト無効化か?いやたんに自分自分のギフトが効かないだけか」
『GYAAAAAAAaaaaaaaaa!』
つん裂くような叫び声を放ち千斗へと接近するアルゴール。
「へっ、来いよ三流!格の違いってもんを見せてやらぁ!!」
☆★☆★☆★☆
千斗がアルゴールの注意を引いている中、詩音は事態についていけずに困惑しているルイオスに目をつけていた。
「(所詮は親の七光りってことか………。でも狙うなら今しかない)」
詩音はギフトカードから"水珠の弓"を取り出して構える。
「(狙いは両肩と両足。あとは地面に墜落するようにあのブーツの破壊ぐらいかな。腕がもつかわからないけどやるしかない!)」
魔術で水の矢を作り出し、弦を引っ張り放つ。それはルイオスの右肩に吸い込まれていき命中した。
「ぐあ!?」
突然の事に体勢を崩すルイオス。詩音はそれを見逃さず、次々と矢を打ち込んでいく。
「い、一体誰が………!?」
「これで終わり!」
最後に二本の矢を同時に放ち両足のブーツを破壊する。ブーツに生えていた羽は消え、ルイオスは地面に落ちる。打ち所が悪かったのか、すぐに気を失った。
「よし!千斗、あとお願い!」
☆★☆★☆★☆
詩音がルイオスを地面に落とした頃、千斗はアルゴールの相手で手一杯だった。
「この野郎、手加減ってもんを知らねえなオイ」
『GYAAAAAAAaaaaaaaaa!!』
「だあぁぁぁ、ギャアギャア五月蝿え!」
あえて全力を出さず、なかなか攻められずにいたためイライラが募る千斗。その時だった。
「よし!千斗、あとお願い!」
詩音がそう叫ぶ。その言葉を聞き、ニヤリと笑う千斗。
「待ってました!さあて、エンディングの時間だぜ星霊さんよ!」
千斗は拳を握り構える。するとその拳の甲に狼を主にした刻印のようなものが現れる。
『GYAAAAAAAaaa!』
「終わりやがれ!"
千斗はその拳でアルゴールを殴る。すると、
アルゴールの半身が消し飛んだ。
『G、Gugya………!?』
「じゃあな星霊さんよ。これにてゲームは終了だぜ」
アルゴールは千斗の攻撃によって霧散する。その一撃で"ノーネーム"の勝利が決まった。
☆★☆★☆★☆
「やっと帰ってこれたぁ………」
"ノーネーム"の本拠の居間にあるソファーにダイブする詩音。身体中に包帯やら絆創膏やら貼られていたが御構い無しである。
「体が痛みますよ?」
「………先に言って」
詩音はソファーの上でピクピクと震えている。
「んで、どうすんだこいつ」
「あの、黒ウサギ。私はどうしたら………」
復活した十六夜がレティシアを指差して言う。
十六夜は復活したのは良かったが、髪は元の色には戻らず白のままであり、そしてギフトに"
「レティシア様が戻ってこられて本当に良かったのですよぉ〜!」
「こ、こら黒ウサギ!抱きつくんじゃない!」
レティシアに抱きつく黒ウサギ。側から見れば金髪ロリに抱きつく変態ウサ耳コスプレ少女である。
「レティシア様は以前ここで「メイドとして」過ごしていたようにしてもらって構いませんって誰ですか変な言葉加えてきた人は!」
真尋と千斗、レティシア以外の全員が明後日の方向を見て口笛を吹く。レティシアはというと、顎に手を当て真剣に考えていた。
「メイドか……。助けてもらった恩もあるし家政婦をやれというのであればやろうではないか」
「レティシア様まで〜!?」
「ふふ、金髪少女の使用人ってちょっと憧れてたのよね」
「メイド……あんまり見たことないなぁ」
「俺は見たことあるがな」
「まずそういう存在がいなかった」
「纏まりがないなここは」
「そういうものだって認識しておかないともたないよ?」
「それではよろしく頼むぞ。えーと……ここは主人殿と呼べば良いのか?いや良いのですか?むむ、少し違うな。良いのでございましょうか?」
「それ黒ウサギの真似ならやめたほうが良いよ?馬鹿がうつ………苦労することになるから」
「今馬鹿が移ると言いかけましたよね?言いかけましたよね!?」
そんなこんなでレティシアが"ノーネーム"に加わった。
☆★☆★☆★☆
その日の夜、"ノーネーム"は野外で歓迎会を開いていた。
「皆さん!今日はこのコミュニティに来てくださった詩音さん達の歓迎会です!羽目を外しても構わないので存分に楽しみましょう!」
「「「「はーい!!」」」」
子供達が笑顔で返事をする。詩音はその姿に癒されていた。
「はぁ……子供達可愛いなぁ……」
「私はああいうのはあまり得意ではないわね」
「子供はあまり好きじゃない」
「ええー!?何で!?」
「「いや何でと言われても」」
詩音は飛鳥と耀と話していた。そこに料理を盛った皿を持っている十六夜、真尋、千斗が来る。
「まあ人には好き嫌いがあるからな」
「詩音のそれは行き過ぎてる気がするけどね」
「ま、俺はあまり嫌いではないな。撫で回されるのは苦手だが」
「それ姿が狼の時でしょ?」
楽しく会話をしていく中、黒ウサギが両手を広げて言った。
「それでは皆さん、本日の大イベントです!天幕にご注目してください!」
そう言われて上を見上げる詩音達。するとそこには数多の星が流星のように降り注いでいた。
「わぁ……!」
「綺麗ね……」
「この流星群は新たな同士達によって生み出されたのです!私達に敗北した"ペルセウス"は"サウザンドアイズ"を追放され、あの星々から旗を降ろすことになったのです!」
その事実に飛鳥は驚愕する。
「まさか……あの空から星座を無くすっていうの!?」
そこに先ほどまで司会をしていた黒ウサギが来る。
「どうでしたか!驚きましたか!」
ふふん、と胸を張って言う黒ウサギ。
「ああ、度肝を抜かれたよ」
「まさか星座をねえ……。あ、なかなか面白そうなこと思いついたぜ」
「奇遇だな、俺もだ」
「何ですか千斗さん、十六夜さん」
千斗と十六夜は空を指差して宣言した。
「「
その言葉にポカンとだらしなく口を開ける黒ウサギ。詩音達はというと、その言葉に笑顔を見せていた。
「それ面白そうだね」
「良いじゃない。高い目標は嫌いじゃないわ」
「面白そう」
「千斗にしては良いこと思いつくじゃないか」
「一言余計だこの野郎」
「どうだ黒ウサギ。とてもロマンがあるとは思わないか?」
放心状態の黒ウサギに十六夜が問う。黒ウサギはあってから見せたことのないような満面の笑顔で頷いた。
「はい!それはとてもロマンがございますね!」
「じゃあ決まりだな」
「楽しくなりそうだね!」
こうして夜は更けていった。
☆★☆★☆★☆
「詩音」
「ん?どしたの真尋?」
歓迎会が終わった後、詩音は風呂に入りパジャマで部屋に向かっているところを真尋に呼び止められた。
「少し話がある」
「何?」
「今日のことについてだ」
そこには千斗もおり、二人は真剣な顔をしていた。
「今日?"ペルセウス"の白亜の宮殿でのこと?」
「ああ。お前、あいつの知り合いか?」
あいつとは、途中で出てきた銀髪の少女、峠坂日見華のことだ。
「ヒミカのこと?」
「そうだよ。誰なんだよあいつは」
詩音は少し考えるようなそぶりをして真剣な顔で話す。
「二人は"ロイズファクトリー"って知ってる?」
「うん。確か唯一"汚れ"を扱うことのできる集団だよね」
「そう。彼女はその最高権力者のうちの一人だよ」
詩音が淡々と言う。その言葉に言葉を失う二人。
「一戦交えたことはあるんだよ。でも徹底的ににやられた。しかもあの子は戦闘員じゃないというね」
「おいおい、どうして最高権力者が………」
「さあ?私には分からない。今のところは」
「今のところは?ということは後になればわかるの?」
「さあね。私は預言者じゃないからわかんないよ」
「だよね。呼び止めてごめんね」
「それじゃあおやすみ詩音」
「うん、おやすみ〜」
詩音は二人と別れ自室に向かう。
「何か大変なことが起きなきゃいいんだけどね」
☆★☆★☆★☆
三桁のとある大きな屋敷の最奥の部屋。そこには6人の人がいた。
「ヒミカ、結果報告を」
「ええ。結果は上々ですわ。研究資料は大変いいものが手に入ったわ」
「ふむ、そうか。それなら研究の方は任せたぞ」
「分かったわ」
くすくすと笑っているヒミカと大きな椅子に腰掛けて頬杖をついている男。そのやり取りに一人の青年が言った。
「おーい、俺の出番はまだかよ。じっとしてるのは嫌いなんだが」
「五月蝿い。あんたは我慢というものを知らないの?」
「んだとコラ」
「二人とも、言い争いはよくねえぞ」
「そうじゃぞ。やめておくのじゃ二人とも」
「シュンヤとシキの言うとおりだ。やめておけマナ、ミカゲ。そんなことに労力を使わずに力を貯めておけ。すぐに必要になるぞ」
椅子に座っている男にそう言われ言い争いをやめる青年と女性。
「もうすぐ全員が集まる。それまでは力の解放はするな。我らの目的のためにな」
椅子に座る男は不気味な笑みを浮かべてそう言うのだった。
これにて第1章は終了となります。
1話ぐらい番外編を挟んで2章に行きたいと思います。
それと活動報告で真尋と千斗のヒロインアンケートをしております。
よければ回答よろしくお願いします。
あと、コラボなども募集しています。
それでは次回もお楽しみに。
次回予告
"ペルセウス"との戦いから二日後。詩音は朝起きると体に違和感があった。
部屋にある鏡を見るとなぜか姿が6歳の頃ぐらいのものになっていた。
他のメンバーも実年齢と姿が一致していなかった。それが起きたのはなんとも意外な理由でーーー!?
「朝起きたら幼女になってるのは異常だと思う」