それでは本編をお楽しみください。
「それじゃあ始めようかな。ルールは簡単。私にあなたの力を認めさせて」
「OK。始めよう」
詩音は構えて戦闘態勢に入る。その後ろには黒ウサギ達がいる。
「詩音さん頑張ってください!」
「頑張れ」
「あなたなら大丈夫よ」
「それがそうでもないんですよね」
「あ?」
そこに突如ランスが現れる。ランスは険しい顔で言う。
「詩音様の力は
「あまり効果が出ないのか?」
「そういうことになります。簡単に言えば、特定の敵以外はあの人は普通の女の子と変わりません。身体能力も秀でているわけではないし、あの力さえなければあの人は普通の年頃の女の子です」
「何………?」
ランスの言葉に十六夜は顔をしかめる。つまり、詩音は特別身体能力も優れていなければ、致命傷を受ければ死んでしまうのだ。
「こればかりは詩音様にどうにかしてもらうしかありません。僕達ではどうにもできませんから」
そう言ってランスは詩音の方へと向く。玉藻前は詩音に迫っていた。
「くっ!?」
「避けてばかりじゃどうにもできないよ、っと!」
玉藻前は狐火を出す。それを詩音に向けて放つ。詩音はかわすが、
「がら空き、だ!」
「ガッ!?」
脇腹に玉藻前の蹴りを受ける。そのまま吹っ飛び地面を転がる。
「どうしたの?あなた本気じゃないでしょ?」
「ケホケホッ………本気だよ、私はいつでも……だって
「ふーん、まあ別にいいけど」
「だから、弱くても、立ち向かうんだ!」
詩音は起き上がり地面に触れる。すると地面を覆う氷が一部割れて氷塊となって空中に浮き上がる。
「へえ、そんなことできるんだ。でも」
玉藻前は自分の周りに狐火を生み出す。
「これ、どうにかできる?」
その言葉と同時に狐火と氷塊は激突する。双方が当たった瞬間弾けて消える。その瞬間に詩音は立て直そうとするが、
「隙あり」
玉藻前はそれを逃さなかった。もう一度脇腹を蹴り転がせる。
「か………くぁ…………」
「あれ〜、私の見当違いだったかな?強いと思ったのに弱いね」
「……………そ、れは」
「これじゃあ長引かせるのも癪だね。さっさと終わらせるね。私さ
弱い女って嫌いだから」
その瞬間、玉藻前の霊格が上がる。亜麻色の髪は白くなり爪が長くなっている。
「絶対絶命ってやつかな…………」
詩音は諦め気味に立ち上がる。
「(まさか……速攻で異世界に来て、あんな啖呵まで切ったのに、ここで終わりなんて………)」
詩音は目の前にいる敵を睨む。せっかくの自由は、目の前の敵にうばれようとしているのだ。
「(でも……私じゃ………)」
『君は強くない』
不意に詩音の頭の中で何かが響く。
『確かに君は弱い。強くないし、いつも僕らの足を引っ張ってばっかだよ』
「(これ………いつ聞いたっけ………)」
『でも君なら僕より強くなれる。癒術っていうのは鍛えて強くなるものじゃない。あいつらにしか効果はないし他の奴らなんか来たら僕らはおしまいだ』
その声は淡々と告げる。
「(ああ、あの時か………私が癒術師になった………)」
『僕はもう長くない。だから君にこの力を託す。この力は君を強くする。だからもう一人にはならないよ。君を助けてくれる人はこの先必ず現れる』
その声は淡々とそう告げる。
「(そんなことも言われたっけ………)」
詩音は懐かしそうに目を瞑る。
「(でも……もう無理ーーーー)」
『だから君はこんなところで死んではいけない。目を覚ませ。君は君だろう詩音!』
その声が響く。あの懐かしい声が、響き渡る。
「さて、もう終わらせるかな。じゃあね」
玉藻前は狐火を撃ち出す。それに詩音は気づいていない。
「詩音様!!」
「詩音!?」
「よけて!!」
ランス、飛鳥、耀は叫ぶが詩音はそれに気づかない。
「……………まだだよ、まだーーー」
そして狐火は詩音に飛んでいき、地面に炸裂する。確実に詩音に当たっている。爆炎は詩音が立っていたところを燃やし煙を上げている。
「う、そ………」
「詩音さん!!」
それを見ていた黒ウサギは顔面蒼白で叫ぶ。十六夜と白夜叉の顔は険しく、飛鳥、耀は目を見開き動揺していた。
「まだ、終わってない!!」
凛と声が響いた途端、爆炎は消え去る。煙が晴れてそこにいたのは、
「詩音さん………」
「無事だったんだ………」
「ごめんね心配かけて」
詩音は力なく笑いかける。そして玉藻前に不敵に笑う。
「あなたのおかげで大切なこと思い出したよ」
「死にかけたというのに?」
「うん。おかげで、あなたに勝てる」
玉藻前はまるで訳が分からないという様子だ。詩音は魔法で水を生成する。その水をある形にしていく。
「癒術師は汚れを浄化するために生まれてきた、私はそう思ってた。でもある人が教えてくれたんだ。私は、そんなために生まれてきたんじゃない。誰かを救うためにここにいるんだ!!」
ある形を成していた水は弾け飛ぶ。そして先ほどまで水があった場所には蒼い弓があった。
「"水珠の弓"だっけ。ってなんでもいいか。とりあえず、私今から本気出すよ」
詩音は弓の弦を引っ張る。するとそこに水でできた矢が生み出される。
「これまでの私とは違うよ!!」
詩音は矢を放つ。不意をつかれた玉藻前は避けることができず右腕に矢が突き刺さる。
「つっ………!!」
「まだ!」
矢を射続ける詩音。玉藻前は右腕を押さえつつ矢をかわしていく。
「貴女はなんなの!?いきなりこんな力……ふざけてるとしか思えない!!」
「そんなの決まってるじゃん」
詩音は玉藻前を見据えて叫ぶ。
「私は
そしてもう一度矢は放たれる。次は玉藻前の右足を射抜く。
「ぐあ……!」
「終わらせない、本気で、全力でやってやる!!」
詩音は矢を放ち続ける。それは玉藻前の左足、脇腹、左肩と射抜いていく。
「はぁ……はぁ……私はね、もう失いたくないの。誰かが目の前でいなくなるなんてもう嫌なの。だから」
貴女に負ける訳にはいかない、と真剣な眼差しで言う。玉藻前は気圧されたのかその場に崩れ落ちる。その次の瞬間、詩音の目の前に羊皮紙が現れる。
『勝者 水無月 詩音』
とそう書かれていた。
「ありゃ……?以外に呆気ない?」
詩音は間の抜けた声を上げる。そしてその目の前で座り込んでいる玉藻前は、
「ぐぅ………うぅ……」
なぜか泣いていた。
「は、え?」
その姿に詩音は驚きを隠せない。
「………どういうこと?」
詩音は後ろに振り向きそういった。その顔は若干引き攣っている。
「そやつはあまり負けたことがなくてな。自分が仕掛けたギフトゲームに負けたらそうなるゆえ気にせんでいい」
「でも、これって私のせいだよね?」
「まあ少しはな」
白夜叉はそういったため罪悪感で押しつぶされそうな詩音。詩音は玉藻前の近くに行き頭を撫でる。
「ごめんね。私も負けたくなかったんだ」
「ぐすっ、いい気にしてない」
玉藻前はそっぽを向いてそういう。
「そういう訳にもいかないよ。そうだ!!こうすればなきやむかな」
詩音はそう言って玉藻前に抱きつき頭を撫でる。
「ごめんね」
「なん、で……私、貴女を殺そうと……」
「そんなの関係ないよ。結果的に死ななかった。それでいいじゃん。それに私、あなたとお友達になりたい!」
「え?」
「だってこんなに可愛いんだもん!毎晩抱き枕にしたいくらい!」
目を輝かせながら玉藻前を抱きしめる詩音。さっきまでの雰囲気はどこへ行ったのだろうか。突然の変わりように白夜叉以外が口をぽかんとだらしなく開けている。
「なら、隷属する。名前教えて?」
「私は水無月詩音。あなたは?」
「玉藻前」
「ならタマモだ!むふふ、これで抱き枕確保だー」
笑顔を浮かべてそういう詩音に玉藻前は困惑する。
「気にしなくていいですよ」
「へ?」
困惑する玉藻前に話しかけたのはランスだった。
「いつもこんな感じですから。戦闘が終わったら何もかも忘れたかのように振る舞うんですよこの人は」
「は、はぁ………」
「とりあえずよろしくお願いします。僕はランスロットです」
「どうも………」
かくして詩音のギフトゲームは詩音の勝利で幕を閉じた。
どうでしたか?詩音の本気は。
あの矢も一応詩音の所持品です。
そして次回はギフト鑑定!詩音のギフトがわかりますよ!
それでは次回もお楽しみに!
次回予告
玉藻前とのゲームに勝った詩音。そしてとうとうギフト鑑定をする時が来る。
白夜叉にもらったギフトカード。そこに記されていたのはーーー?
「ギフト鑑定ってなんだか呆気ないね」