癒術師も異世界から来るそうですよ?   作:夜明けの月

1 / 25
はい、夜明けの月です。

新作、よろしくお願いします。

それでは、お楽しみください。


プロローグ

緑が生い茂る森林の中央に湖がある。そこで一人の少女が佇んでいた。淡い青色の肩にかかっている髪、そこに付けられている緑色の髪留め、蒼色の瞳であり、ベージュのカーディガン、その中に青色のTシャツ、灰色の短パン、青のスニーカーを身につけていた。

 

「ここもダメなんだね………。もうやりたくないのに……」

 

『ですが、貴女がしないことにはこの世界は』

 

「分かってる。でも、これはねぇ………」

 

少女は何かと話しながら湖を見る。その湖は廃棄物やらヘドロやらで汚く濁っていた。少女は嫌そうな顔をしてその水面に手を入れる。ドロッとした感じに嫌な顔が一層酷くなる。

 

『ほら、しっかりしてください』

 

「分かってるよぉ~………うぅ」

 

少女は完全に涙目である。だが、その少女は唱える。

 

「"湖を包む汚れよ、全て無に還りなさい"」

 

すると先程まで汚かった湖が一瞬で澄み渡り、綺麗な湖へと変化する。

 

「もうヤダ………」

 

『我慢してください。貴女が辞めることは許されないのですよ?』

 

「でも、もうあの汚いの触るのやだよ……。ドロッとしたのとかべチャッとしたのとかも」

 

『しかし、それが貴女にかせられた使命なんですよ。ほら、次行きますよ』

 

「はーい」

 

少女は気が乗らないようにだらだら歩いて次の目的地へと向かった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

少女の名前は水無月 詩音(みなづき しおん)。彼女は汚れた世界において、汚れを浄化する作用を生まれながらにして身に宿し、人の身に余る術を使う事のできる癒術師(ゆじゅつし)というものだった。

 

癒術師とは、全てが汚れた詩音が住まう世界においてそれを浄化し世界を戻す役割を与えられた人のことである。そして、汚そうとする者を退治するために、魔術、召喚術、錬金術などといった術も使えるのである。

 

そして、その役割を担う人物が詩音一人だけだった。

 

「なんでこんなに世界は汚れちゃったんだろうね」

 

『全て人間のせいです。不法投棄、廃棄物の処理をしないなどといった馬鹿げたことが今の状況を招いたのです』

 

「だからって、それを私になんで押し付けるの?」

 

『それは………』

 

詩音ではない声の主は言葉に詰まる。それもそうだ。その力に目覚めるまでは普通の少女。目覚めた後では汚れを取り除く救世主。そして、自由は完全に奪い去られたのだ。

 

「もう、嫌だよ………」

 

『詩音様………』

 

「こんな事、もうしたくない……。私だって自由に生きたい。自分を抑えつけたくない……」

 

『それは僕らも十分承知しております』

 

「だったら、少しぐらい休ませてよ……。休みなんかなくてそれで、仕事ばっか。もうやだよこんな生活。私だって普通に生活したいよ……。自由に、自由に生きたい……」

 

詩音は足を止めて俯いた。顔からはポタポタと雫がこぼれ落ちている。そんな時だった。突如、右の方の草むらが揺れ、狼が飛び出てきた。詩音は涙を拭い狼を見る。

 

「ワンッ!!」

 

「………フェルンどうしたの?」

 

「ワンワンッ!!」

 

フェルンと呼ばれた狼は口に封書を加えて詩音に差し出す。

 

「私に?」

 

「ワンッ!」

 

「ありがとうフェルン」

 

フェルンから封書を受け取りフェルンの頭を撫でる詩音。封書の裏側を確認すると丁寧な字で『水無月 詩音様』と書かれていた。

 

「何これ……?」

 

『それは貴女の自由への手紙です』

 

「私宛の?誰から?」

 

『それよりも、貴女に言うことがあります』

 

「ん?なに?」

 

詩音に謎の声の主は告げる。

 

『コホン、それでは言います。ーーーー貴女は自由への切符(手紙)を受け取った。そして貴女には選択する権利がある。一つはこの汚れた世界で生き続け、決められた仕事(ルーチンワーク)をし続けるのか。そしてもう一つは、幾多の困難が待ち受ける未知なる世界へと飛び立ち、その先の自由を手に入れる運命を選ぶのか。僕らは貴女の意見に従います。僕らは貴女の従者ですので。さて、貴女の解答を聞きましょう。前者を選ぶのでしたら手紙を破り捨ててください。後者を選ぶようでしたら封書を開け、手紙を読んでください』

 

詩音は封書を見て考える。だが、詩音の頭の中に答えは一つしかなかった。

 

「もちろん開けるよ。未知なる世界なんて楽しそうだもん。それに自由も欲しい」

 

そう言って詩音は封を切って手紙を読む。そこにはこう書かれてあった。

 

『悩み多し異才を持つ少年少女達に告げる。その才能(ギフト)を試す事を望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我ら"箱庭"に来られたし』

 

その文面を読んだ瞬間、

 

 

詩音は大空に放り出された。

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

「うお!?」

 

「きゃっ!?」

 

「………え?」

 

詩音は周りを見て状況を確認する。わかる事は、自分を含めた四人と二匹が下にある湖に向かって一直線に落ちているという事だ。

 

「ちょ、ちょっとランス!?困難ってこれの事!?」

 

『さあ?僕には分かりません』

 

ランスと呼ばれた声の主は素知らぬ風に答える。

 

「あーもう!フェルン、風起こして!」

 

「ワォン!!」

 

フェルンが風を起こし落下している詩音達を包むが、

 

「(くそ、これじゃ間に合わない!!)」

 

仕方なく魔術を使い水を操って三人と二匹を受け止める。

 

「ふぅ、なんとかなったね」

 

『……詩音様、自分は?』

 

「あ」

 

直後、ドボンッという音と共に一つの水柱が上がった。

 

こうして詩音の異世界への第一歩は、自分を受け止める事を忘れて自分だけ湖に落下、というなんとも残念な事になった。

 

 

 




どうでしたでしょうか?

上手くかけてるか心配です。

それでは次回もお楽しみに。

次回予告

手紙を開けてみるとそこは異世界だった。

池に落ちた詩音が見たものは三人の人間。感じ取ったものは隠れている不審人物。

「異世界に呼ばれちゃいました♪」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。