ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:空の丼
「か、神様、これ、書き写すの間違ったりしていませんか……?」
「……君はボクが簡単な読み書きもできないなんて、そう思っているのかい?」
「い、いえっ! そういうことじゃなくて……ただ……」
時刻は夕方。それぞれホームに帰り着いた僕らは今【ステイタス】更新をしていた。そこでベル君に驚きの成長があったようだ。
僕も後ろから【ステイタス】更新の紙を見せてもらうけど……うわ、こりゃ確かにえげつない上がり方してるなー。
「か、神様っ、でもやっぱりおかしいですよ!? ここっ、ほら、『耐久』の項目! 僕、今日は敵の攻撃を一回だけしかもらってないのに!」
「……」
ちなみに僕の【ステイタス】の伸びは普通。いや、ただの見学だったし伸びてないと言ってもいい。力、耐久は未だ0だし。
「だからやっぱり何かがっ……あ、あの、神様?」
「……」
ヘスティア様の機嫌の悪さの理由を僕は知っている。理由はもちろんレアスキルのことだろう。
【
おそらくアイズ・ヴァレンシュタインへの想いの強さによって【ステイタス】の上り幅が上がるのだろう。そしてヘスティア様はベル君に想いを寄せている、と。
ベル君も大変だねぇ。痴情のもつれとか気をつけなよ? それで何度も病院送りになってる人とかもいるんだからね。
「ボクはバイト先の打ち上げがあるから、それに行ってくる。レオ君、君も付いてくるんだ!」
「え? 僕もですか?」
「えーっと、ほら! 今日僕のバイト先に来ただろう!? そこにいたおばちゃんが君のこと気に入ったんだよ! だから来るんだ!」
今思いついたかのようにヤケクソになりながら喚くヘスティア様。でも彼はそれでも疑おうとしない。ベル君、キミってやつはなんて純粋なんだ。
「君もたまには一人で羽を伸ばして、寂しく豪華な食事でもしてくればいいさっ」
僕はヘスティア様に引っ張られながら部屋を荒々しく出る。
その際、チラリと見えたベル君は、捨てられた子兎みたいだった。
「これからどこに向かうんですか?」
引っ張られるまま教会を出て、メインストリートの方へ向かう。
「さっきの話を聞いていなかったのかい? バイト先の打ち上げだよ」
「……えぇ!? あれ嘘じゃなかったんですか?」
「失敬な。ホントだよ。……まあ、おばちゃんが君のこと気に入ったっていうのは嘘だけど」
「ちょ、待ってくださいよ!? そんなところに僕を連れてくんですか!? 嫌ですよ! なんで全く知らない職場の飲み会に参加しなくちゃいけないんですか!?」
「大丈夫だよ、皆いい人たちだからさ」
「そうなんですか、なら良かった。ってなりませんから!? そもそも僕お金ほとんどないんですけど」
「強引に連れてきてしまったんだ。さすがにボクが払うよ」
結局、あれやこれや言いながらも打ち上げ場所である酒場に着いてしまう。
……はあ、まあいっか。どうせお金ないんだし、おごってもらえるんなら。
「ヘスティアちゃーん! こっちこっち! あら、そちらの子は?」
「紹介しよう! ボクの眷属の一人、レオ君だ! 今日はこの子も参加させてもらっていいかい?」
「あぁ、今日じゃが丸くん買っていった子ね! いいわよ全然。でもちゃんと会費は払ってね」
「わかってるよおばちゃん!」
結局ヘスティア様のお金だけじゃ二人分足らず、僕の所持金と合わせてギリギリ払うことが出来た。
―――2時間後
「―――そしてベル君は言ったんだ。『僕も、神様に出会えて良かったです』って! その時思ったよ、ボクはきっとこの子のことを好きになるって! それからというものボクはベル君一筋なんだよ!」
「そーなんですかー」
「だというのに! せっかくボクらが愛を育み始めたと思ったのにまさかのヴァレン何某! そんなにヴァレン何某がいいのかい!?」
「それはキツイですねー」
「だろー!? そもそもベル君はダンジョンに夢を見すぎなんだよ! 今時ハーレムなんてはやらないに決まってる!」
「それはすごく同感します」
ヘスティア様はかれこれ2時間愚痴をこぼし続けていた。ベル君との思い出話を語っては不満をこぼしを繰り返している。ちなみに今の髪留めの話は2回目。もう完全に出来上がってるな、これは。
僕も最初の頃こそ真剣に聞いてあげていたけど途中からはもう聞き流しちゃってる。ヘスティア様もなんだか独り言っぽくなってるし。
……さすがにスキルのことを大声で話したりはしないよね?
そんな心配もしながらヘスティア様の話に相槌を打っていると僕たちの前に人影が現れた。
「よ、ヘスティア。今日は随分荒れてるな」
「……タケじゃないか。どうしたんだいこんなところで?」
「いや、実はな、うちのとこの命が今日、レベル2になったのでな。そのお祝いだ」
「ホントかい!? そりゃおめでたいね! よし、ここはボクが奢ってあげよう。たくさん飲んで食べて楽しむといい!」
「ヘスティア様、僕らこの打ち上げ代で素寒貧ですよ」
「ハッハッハッハ、ヘスティアのとこも家計が厳しいのは知っている。たとえお金があっても受け取るわけにはいかないさ」
タケと呼ばれたこの人もオーラを見る限り神様らしい。昔の東洋風な出で立ちで顔は神様の例に漏れずかなり整っている。
その後ろには同じく東洋風な格好をした人たちが6人。
不意に男神様の顔がこちらを向く。
「して、こちらの子はヘスティアの子かな?」
「そうだよ! ボクの二人目の眷属、レオ君だ!」
「どうもっす。レオナルド・ウォッチと言います」
「タケミカヅチだ。よろしくな。しかし驚いたな、ヘスティアの眷属は一人しかいないと聞いていたが……」
「あ、実は昨日入団したばかりなんですよ。だからまだ右も左もわからなくて」
「ほう。そうだな、最初のうちは分からないことも多いだろう。だが諦めず歩んでいけば、いつか道が見えてくるさ」
「それでも道に迷った時はいつでも俺たちに頼っていい。役に立てるかは分からんが」
「……はいっ。ありがとうございます」
タケミカヅチ様は女だったら絶対に惚れてるであろう微笑みを浮かべる。
【タケミカヅチ・ファミリア】か。タケミカヅチ様はもちろん、眷属の人も優しそうな人たちばかりだ。
いつかお世話になりそうな予感を覚える。
「おーい、ヘスティアちゃん、そろそろ二次会に行こうって話になったんだけど……って、寝ちゃってるわね」
隣のテーブルにいたおばちゃんがヘスティア様に話かける。が、ヘスティア様は眠ってしまっていた。
「あー、大丈夫ですよ。僕が家まで運びますから。気にせず二次会に行っちゃってください」
「あら、そう? じゃあよろしく頼むわね、レオちゃん」
おばちゃん達が会計を始めるのを見て、僕はタケミカヅチ様の方へ振り返る。
「それじゃあ僕らはこれで失礼します。タケミカヅチ様、あと皆さんも、楽しんでくださいね」
「うむ、また会おう」
僕は「ベルくーん愛してるよぉ」などと寝言を言うヘスティア様を背中に抱え、酒場を後にした。
「ただいまー」
ヘスティア様を抱え、教会の隠し部屋の扉を開く。部屋にはまだ魔石灯は点いてなく、人の気配もない。
「あれ? ベル君はまだ帰ってきてないのかな?」
ヘスティア様をベッドに寝かせ、部屋を調べるが、やはりまだ帰ってきていない。
その事実に違和感を覚える。
彼がどこに行ったのかは見当が付く。朝、シルさんと約束した酒場に夕食を食べに行ったんだろう。
でも、こんな時間まで帰ってこないなんてあるかな?
ザップさんみたいな人なら、どこか女の人に家にでも泊まってるんだろうってことで心配する必要は皆無だけど、ベル君は憧れの人がいるし、そもそもまだ子供だ。
普通だったら、夕飯を食べたらすぐ帰ってきてヘスティア様を迎えるくらいするだろう。
「まさか柄の悪いのに捕まったりしてるんじゃ……」
僕の脳内に強面の男たちに囲まれる白い子兎のイメージが浮かぶ。
「……探しに行こう」
僕は万が一のために帰ってきていないベル君を探してくるという旨を記した書置きをして教会を出た。
【タケミカヅチ・ファミリア】とのパイプゲット。
レオ君は作品に描かれてないところで人と仲良くなってるイメージ。