ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

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ついに初ダンジョン……?




言えない(1)

「『冒険者は冒険しちゃいけない』。これを絶っっっっっっっっ対! 忘れないで!!!」

 

 ベル君に案内されてギルドで冒険者登録を済ませた後、彼のアドバイザーを務めているというエイナ・チュール氏にまず最初に言われたアドバイスがそれだった。

 

「大丈夫ですよエイナさん。僕が先輩としてちゃんと付いてますから! 無茶はさせません」

 

「どの口がそんなことを言ってるのかな~?」

 

 えっへん、と胸を張るベル君にビキリ、と青筋をたてるエイナ氏。

 まあ昨日も死にかけたとか言ってたし、無茶ばっかりしてるんだろうなぁとは予想がつく。なのでここは僕が安心させる一言を贈ろう。

 

「エイナさん、任せてください。僕ってボコボコにされるの慣れてますから。案外打たれ強いんですよ?」

 

「な・ん・で、ボコボコにされるの前提なのよー!? 話聞いてた!? そうなる前に逃げなさいって言ってるんです!」

 

 うーん、エイナさんは気苦労に絶えない生活してそうだな、と怒られながら。

 

「はぁ……。でも、ベル君にパートナーが出来たのは素直にうれしいよ。やっぱりダンジョンは何が起こるか分からないから一人(ソロ)だと心配だもん……。いーい? 二人とも調子に乗って進み過ぎちゃ駄目だよ? ベル君、先輩としてちゃんとレオ君のこと守ってあげるのよ? レオ君、ベル君が無茶しそうになったら止めてあげてね?」

 

「はい! エイナさん」

 

「は」

 

 僕らはエイナさんの忠告に揃って返事をする。

 

 この人は本当に僕らに親身になってくれるんだな。大切に思われている、そう思うと、やっぱりそう軽々しく無茶は出来ないな。

 でも、やっぱりどうしようもない時はあるんですよエイナさん。どうしても退けない時ってのは絶対に訪れる。だからその時無茶することだけは、先に謝っておこう。……心の中でだけど。

 

「さて、これで一応ダンジョンの説明も一通り終わったし、レオ君に装備を渡します。ベル君が使ってるのと同じライトアーマーと……武器は何にするか決めた?」

 

「あ、はい。一応ベル君と相談して……弓にしようってことになりました」

 

「なんでまた弓? 弓を使った経験は?」

 

「経験はないですけど、それを言ったらどの武器も使った経験ありませんし。ベル君が前衛だから僕は後衛に回ろうかと」

 

 他にも、【神々の義眼】のおかげで命中率について考えなくていいっていうのもある。ただし腕は別だけど。

 

「ふむ。確かに2人共前衛よりレオ君が後衛に回ってくれた方が安全に魔物を倒せるもんね。分かった。じゃあ弓と矢をある程度、あと緊急用のナイフも支給するね」

 

「ありがとうございます」

 

 装備一式をエイナさんの手から受け取る……って、あれ、エイナさん? なんで装備から手を放してくれないんすか?

 

「レオ君、とりあえず今日はベル君の後ろで見学よ。【神の恩恵(ファルナ)】を手に入れたからって自分も戦えると思って前に出たり、あまつさえ一人になるようなことは絶対しないでね?」

 

「わ、わかりました」

 

「よろしい」

 

 パッと装備から手を放すエイナさん。そしてコホンと小さく咳払いをする。

 

「ようこそ、迷宮都市オラリオへ。私達ギルドは貴方を歓迎します。……さ、行ってきなさい。今日が貴方の冒険譚の1ページ目よ」

 

「……はい!」

 

 

 

 

 ――――――ダンジョン内

 

 

「とぉうっ!」

 

『ギエピッ!?』

 

「やあ!!」

 

『ぷぎゃあ!?』

 

「……ふう。どうでした? 今のがコボルトです。大体一階から四階層までは今のコボルトとさっき倒したゴブリンが主な魔物かな」

 

「うーん、僕でも倒せるかなぁ」

 

「大丈夫ですよ。【神の恩恵(ファルナ)】を授かった時点で、僕らはゴブリンやコボルト程度なら倒せる力を手に入れてるみたいですし。あ、でも複数と同時に相手にするとやっぱり危険だから、なるべく一対一にするように心がけてください」

 

 

 今僕らがいるのは一階層。

 僕にとって初めてのダンジョンであるということでエイナさんからもしばらくは1階層に留まるようにと仰せつかっている。

 

 まあベル君は下の階層に行きたがってるけど。

 

【神々の義眼】は魔物に対しても有効らしく、その魔物のオーラの色のほかに魔石の位置も特定できた。

 とは言えこれが分かったところで魔石を破壊しても意味がないためあまり役には立たないかな。

 一方役に立ちそうなものもあり、

 

「ん、ベル君、右の壁からコボルト2体、多分1分後」

 

「了解!」

 

 ダンジョンの壁の中、魔物の出現を察知することが出来る。

 これで一応奇襲対策は出来たかな。

 あと、【神々の義眼】による視界支配は魔物にも有効だった。対複数が危険なダンジョンじゃこの目は場凌ぎにはかなり有効だ。

 

 これで試せることはとりあえず一通り終わったかな。僕が元いた世界とやれることはあまり変わんないみたいだ。

 あとは支給してもらった弓だけど、今日は見学だけにしとけって言われてるしなぁ。

 

 それに……。

 

 ぐきゅぅ~~~。

 

 コボルトから魔石を取り出し終わったところで僕のお腹が盛大に鳴き声をあげる。

 

「そろそろお昼にしましょう」

 

 

 

 ――――――バベル2階

 

「ベル君は戦い方とか誰かに習ったりしてない感じ?」

 

 僕は食堂で一番安かったサンドイッチを頬張りながら尋ねる。

 

「……やっぱり分かっちゃいます?」

 

 同じくサンドイッチを食べているベル君が頬を掻きながら眉を下げる。

 

「僕ってオラリオに来るまではただの農民だったんです。だから半月前までレオさんと一緒で戦闘経験なしでして。ファミリアにも先輩とかいないし」

 

「そっかぁ」

 

 100%我流とのこと。勇気あるなぁ。

 

「まあ俺も人のこと言えないけどね。先輩たちの背中を見てたとは言っても正直次元が違って真似できるもんじゃないし」

 

 斗流血法とかブレングリード流血闘術とか、ぶっちゃけあれどうなってんの?

 

「やっぱり師匠とか欲しいです……。レオさんはその先輩方から何かアドバイスとかなかったんですか?」

 

「う~ん……、俺も一回先輩たちに聞いたことあるんだけど、参考になりそうなのは『武装しろ』。」

 

「お金があったらそうしてるんですけどね」

 

 ベル君の顔に苦労がにじむ。今は生活するだけで精一杯なのは昨日の食事で分かってる。

 結局世の中金なのか! ファンタジーみたいな世界でも金ですか! ……当たり前か。

 

「ギルベルトさんが『相手の動きを子細に観察するのが全てかと。どんな敵であろうと完全なものはありません』って言ってたな。それくらいかな」

 

「観察……。完全なものはない、かぁ。なるほど、カッコイイな~」

 

 ベル君は目をキラキラ輝かせたあと少し怪訝な顔をする。

 

「今のアドバイスとか、昨日の『誇りに思う』とか、レオさんの先輩って結構只者じゃない気がするんですけど、今まで何処で暮らしてたんですか?」

 

 ギクゥッ!!

 

「ベル君って人を疑うこと、出来たんだね……」

 

「何かバカにしてません!? レオさん、正直に話してください! なんか隠してますね?」

 

 うーん、どうしようか……。

 

「本当にごめん……。でも、今は、言いたくないんだ。だから……気持ちの整理がつくまで、待ってほしいんだ。その時が来たら話すよ。……約束する」

 

 なるべく深刻そうな顔をして重たいトーンで言ってみる。あんまり演技力には自信ないけどこれで誤魔化せたりしないかな?

 

「あ……僕の方こそ、すみません。そうですよね、レオさんにだっていろいろ事情がありますよね。それなのに問い詰めるような真似して……本当にすみません!」

 

 あ、あああああああああああああああああああああああ!!

 

 なにこれ!? めちゃくちゃ罪悪感酷いんだけど!? 小動物苛めてる気分になるんですけどおおおお!? ごめんよベル君、別に君が思ってるような重たい事情はないんだ。ただ君は隠し事が出来なさそうだから話さないようにしてるだけなんだ。

 

「いいいいやいや、べべ別に気にしてないからだだだ大丈夫っすよよ」

 

「本当ですか? ありがとうございます」

 

 心配そうに上目づかいで見つめてくる。

 

 チョロイ。クラウスさん並にチョロイよベル君。

 

「ささ、さて、飯も食い終わったしそろそろ出ようか」

 

「そうですね。そろそろ戻りましょう」

 

 話を切り上げるべく席を立つ僕。それにベル君は素直に従ってくれる。

 

「それでレオさんは午後はどうします?」

 

「そうだなー……とりあえずダンジョンの見学はもういいかなって思うんだよね。ベル君だって一階より下の階層に行きたいだろ?」

 

「は、はい、まあ」

 

「だったら俺のことは気にせずに行ってきなよ。俺はオラリオの町を観光してるからさ」

 

「……分かりました。 じゃあ夕方には戻るのでまたその時に」

 

「うん」

 

 会計を済ませて店を出ると、ベル君は走ってダンジョンまで向かっていった。

 

 

 

 

 




「レオが武器を持って魔物を倒す? ハハハ、ご冗談を」この作品を書いてた私の感想です。
しかし、いつかはぶち当たる壁。Dr.ガミモヅとの戦いを経たレオ君ならばきっと乗り越えてくれると思います。
ちなみに作者は弓の知識0です。モンハンで使ったくらいです。



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