ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:空の丼
真剣な話を書いている時「シリアスが一番書くの難しいわー」
戦闘シーンを書いてる時「戦闘が一番書くの難しいわー」
そんな作者ですが今日も笑顔で頑張ります。
―――マズイッ!
僕は咄嗟に動けないベルを庇うように横へ飛ぶ。見ると間にいたリリも同じ動きをしている。
「ぐっ、ぅ……!」
「―――ぁ!?」
なんとか大剣の直撃は避けたものの、ミノタウロスの一撃によって砕かれた岩盤が僕の背中や肩に打ち込まれる。
おそらくリリにも同じことが起きている。
地面に身体から着地した僕は、背中の痛みを堪えながら急いで二人を見る。
ベルは目立った外傷はない。だけどリリは僕以上に傷だらけだ。
運悪く大量の岩の破片が跳んできたのか、リリが纏っていたローブはボロボロに切り裂かれ頭からは血を流している。
「リ、リリ……?」
「……ぅ……ベ、ル様……」
幸いなのはまだ気を失っていないことか。顔を歪めながらもベルに呼ばれて反応を示す。
「ッッ」
赤く染まっていくリリを見てベルの目つきが変わる。さっきまでの恐怖に怯えるだけの目ではなくしっかりと敵意を持ってミノタウロスを睨んでいる。
『ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
そして倒れたリリを僕に任せ、一歩前に出て叫んだ。
「――ファイアボルトォオオオオオオオオオオオッ!?」
ベルが突き出した右手から緋色の雷が迸る。
『ブゥオッ!?』
【ファイアボルト】はその威力をもってミノタウロスを押し返した。
その光景を見たベルは、ここぞとばかりに【ファイアボルト】を連発する。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
その光景を僕はリリにポーションを浴びせながら見守った。
ベルの手から打ち出された炎はいつしかミノタウロスの周りを爆炎に変え、黒い煙がダンジョンの一室にたちこめる。
煙によって普通なら見えない部屋の奥、ミノタウロスを僕は眼を凝らして視る。
魔法が効いていないわけではない。ミノタウロスは足に踏ん張りをきかせ、大剣を持っていない方の腕で頭を庇いながら一歩も動けずにいる。
しかし、致命傷には程遠い……!
「はぁ、はっ……!」
そうとも知らず、ベルが息を切らして魔法の連発を中断する。
「逃げろベル!!」
『ンヴゥッ』
炎の雨が止んだことでミノタウロスはすかさず動き出し、ベルへ向かって大剣を横に薙いだ。
「く―――がっっ!?」
間一髪、大剣が直撃する前にベルは思いっきり後ろへと飛ぶ。
おかげでベルの体はバラバラにならずに済んだものの、それでも大剣はベルを軽装の上から殴打する形となり吹き飛ばされる。
「~~~~~~~~~~~~っ!? ……ぁ、ぎ!?」
ダンジョンの壁に激突してやっと勢いの止まるベル。その体からは主の命を一度守り力尽きた軽装がずり落ちた。
『ヴォオォオオオオオオ!』
何とか振るえる足で立ち上がるベルにミノタウロスは追い打ちをかけるべく突進を始めようとする。
「っ、止まれええええええええええええええええええええええ!!」
『ヴォウオ!?』
今度こそは間に合わせる。
【神々の義眼】によって視界を歪まされたミノタウロスはベルに突き進むことは出来ず、足元をふらつかせる。
「ベル、リリ、今の内だ! 逃げて!」
立てるまで回復したリリは僕の言葉に頷き、ダメージを負ったベルを支える。
しかし……ダンジョンは逃げ出すことを許さなかった。
『―――――――――――――――――――――――――――――――――――!!』
通路の奥から現れたのは、大量のバッドバット。
この上層において、僕が唯一対応できない魔物の群れだった。
なんて、
「ぁっ、うああああああああ!?」
頭が痛い。怪音波が耳をふさいでも全身に入ってくる!?
我慢、しなきゃいけないのに……集中しなきゃいけないのに……!
ダメだ……、もうこれ以上集中出来ない……っ!
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
解き放たれた猛牛が雄叫びを上げる。
「そんな……なんで……?」
修羅場を一つ潜ってきたかのような風貌をしたミノタウロスと、その取り巻きの様に群れるバッドバット。
リリの絶望に満ちた呟きが耳に届く。
ミノタウロスは頭を一度軽く振り、今度は僕へと突っ込んできた!
「―――マズッ……!?」
「うああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
次の瞬間、ベルの叫びと共に僕の体が横に吹き飛ぶ。
その衝撃はミノタウロスのものではなくベルが庇うように肩で吹き飛ばしたものだった。
一時的にバッドバットの怪音波から逃れることが出来たが、その代わりにベルがミノタウロスの突進を受ける形になってしまう。
「この……っ!」
集中力を取り戻した僕は再び、ミノタウロスの視界を乗っ取り動きを止める。
その間にベルがバッドバットを数体刻みながら群れから離脱する。しかしバッドバットの量は尋常じゃない。何体刻もうと焼け石に水だ。
「ハァ……ハッ……」
「っ……、ぅ……」
先程のダメージで息を切らすベルと未だに頭痛が走る頭を押さえる僕が並ぶ。
相対するのはベルの恐怖の対象であるミノタウロスと【神々の義眼】が効かないバッドバット。
ミノタウロスの動きを妨げようにもバッドバットが邪魔で支配できない。ベルがバッドバットの群れを処理するにしても数が多すぎる上に奴らは部屋全体に散っている。一体一体倒している間にミノタウロスに襲われるのが関の山だ。
あまりにも相性が悪すぎる……!
「……レオ様はミノタウロスの視界の支配に専念してください。ベル様は【ファイアボルト】でバッドバットを一掃する準備をお願いします」
ミノタウロスを挟む形で僕らとはルームの反対側にいるリリがハンドボウガンを用意しながら僕らに指示を出す。
「リリ……?」
「リリ、早く逃げて……!」
「リリは逃げません。リリが……モンスターの囮になります……!」
リリはそう言うとバックパックの中に仕舞われていた血肉の入った袋を取り出す。
「何やってるのリリ!?」
「ダメだ! 危険すぎる!!」
僕らはリリに向かって叫ぶが、リリは腕を震わせながらも動きを止めず僕らに笑いかける。
「ミノタウロスはレオ様が止めてくださりますし、バッドバットの群れもベル様がすぐに倒してくださるでしょう? だから―――大丈夫です」
リリは袋を開ける。
『ヴヴォ……?』
『――――――――――――――――――――』
一斉に魔物たちの標的が切り替わる。まずは比較的リリの近くにいたバッドバットが怪音波を出しながらリリに迫る。
「ぁ……っ! 舐め、ないでくだ、さい……!」
リリは頭を押さえながらも決して膝を地面に付けずにハンドボウガンで対応しながら出来るだけ多くのバッドバットを惹き付け続ける。
しかしそれだけで対応出来るわけもなく彼女の体は鋭い牙によって徐々に切り刻まれていく。
そしてそんなリリに牛頭の巨体が襲いかかろうとする。
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
「リリぃいいいいいいいいいいい!?」
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
僕は出来る限りの力を眼に込めて、ミノタウロスの視界を支配する。
今までに見たことないほどの群れを成すバッドバットはリリの血肉だけでは全てを引き付けることは出来ず、僕にも怪音波と鋭い牙が迫る。
皮膚は切り裂かれ、激しい頭痛と熱に見舞われる。体中が熱湯に浸かっているかのように熱い。
でも、構うもんかっ……!
例え意識を失ってでもこの眼の使用は止めない。リリを死なせたりなんかしない!
「――――――、ベル……様!」
充分にバッドバットを引き付けたリリが血肉をルームの片隅へ投げつける。それに釣られもはや大きな黒い塊にしか見えない群れがルームの端へ移動する。
「【ファイアボルト】オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
ベルが右手を突き出し、階層中に響き渡るほどの叫びを上げ、大きな炎雷を群れに叩きつける。
「【ファイアボルト】【ファイアボルト】【ファイアボルト】!!」
再び、ルームの片隅が黒煙に包まれる。
だが今回の標的はミノタウロスじゃない、バッドバットだ。
いくら群れをなそうとあれだけの火力に上層の魔物が対抗できるわけがない。バッドバットのほとんどが死滅した。
「やっ……た……」
それを見たリリが地面に血だまりを作りながら倒れる。
「リリ!?」
ベルが残った数匹のバッドバットを切り捨てながらリリの所へ向かう。
ベルはリリを抱きかかえると僕に向かって言う。
「レオ、早くここから離れよう!」
そう、あとはミノタウロスだけだ。【神々の義眼】があれば逃げるなんて容易い。
でも……。
「レオ……? レオ!?」
バッドバットの群れは居なくなったにもかかわらず、いまだに体中が熱い。
そしてさっきから何かが焼ける匂いが鼻につく。この匂いは魔物が焼け死んだ匂いだけではない。僕の目蓋が焼ける匂いでもある。
「ごめん……ベル……!」
いつのまにか頬が地面についていた。痛みのことも、立つことすら忘れるほどの【神々の義眼】への集中。
その代償に僕は動けない。
そして――――――
『ヴォオオオオオオオオオ…………』
眼の支配が解ける。どんなに眼に力を込めようと【神々の義眼】が動かない。
ミノタウロスは解き放たれ、僕とリリはベルを残して、倒れた。
レオの【神々の義眼】とバッドバットの関係が弥勒の風穴と最猛勝に見えた。
格上にも有効な強い能力は封じられるのが世の常です。