ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

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女の子に膝枕してもらった経験なんてないです。
犬モフモフしながら寝た方が気持ちいいに決まってるから羨ましくなんてないやい!




 

「明日はさ、レオも特訓についてこない?」

 

【ステイタス】の更新が終わりホームで寛いでいるとヘスティア様が席を立ったタイミングでベルがこっそり話しかけてきた。

 

「特訓って……アイズさんの?」

 

「うん。アイズさんに聞けばほら、何か掴めるかもしれないし」

 

 なるほどなぁ。彼女はオラリオ屈指の第一級の冒険者。意見を聞くだけでもためになるかもしれない。

 

「ベルがどんな風にあそこまでボコボコにされてるのかも気になるし、うん、明日はついて行くよ」

 

「そこ関係ないじゃん!?」

 

 

 

 

 

 

 翌日、ベルにたたき起こされた僕はヘスティア様を起こさないように二人でこっそりと外に出た。

 

 日が出る直前のまだ暗い大通りを歩いていく。僕らと同じように今からダンジョンに向かう人、逆に疲れた顔で今から帰ろうとしている人、この時間帯でも冒険者の姿はちらほら確認できる。

 

「へ~、まさか壁の上で特訓してるとは思わなかったよ」

 

「アイズさんが僕なんかに特訓をつけてるなんてバレたら大変なことになるからね。ここだったら人に見つかることはないし」

 

 狭い路地を数回曲がった先にあった小さな柵を開けるとそこは暗い階段が続いていた。ベルは魔石灯の入ったランプを取り出し階段を照らす。

 

「思った以上に暗いね」

 

「足元は気を付けてね。でも上は凄いよ。オラリオ全体が見下ろせるんだ。凄い綺麗だよ!」

 

「へー、じゃあ期待してようかな」

 

 

 そしてその期待は裏切られることなく、僕の心を感動で包み込んだ。

 

「……すげぇ」

 

 ヘルサレムズ・ロットのような大都市のネオン輝く煌びやかさは無いけどその分シンプルな壮大さは比べるまでもない。万神殿(パンテオン)円形闘技場(アンフィテアトルム)などの巨大な石造りの建物が所ところでずっしりとその存在感を放っていて、だからと言って景観に閉塞感を生むことなく周りの建物と協調しあっている。

 

 奥に見える反対側の市壁も狭苦しいイメージを持たせるのではなく、このオラリオという都市を完成させるのに一役買っており、あたかも世界はここだけにしかないような、一抹の寂しさと同時に孤高の気高さを感じさせる。

 

「ね、凄いでしょ」

 

「なんでベルが誇らしげなんだよっ」

 

 まるで自分の功績を自慢するかのように胸を張るベルに苦笑いを浮かべ肩を叩く。

 

 ベルの後ろ、オラリオの外の風景も眼に入るが、こちらの光景にも感動を覚える。

 

 言ってしまえば山と川以外に何もない。ただただ地平の彼方まで自然が続いている。何がすごいってこれだけクッキリと景色が分かれていることだ。

 

 片や人工的な建物に溢れる大都市、片や人っ子一人いない大自然。そしてそのどちらもが別の方向性の壮大さを誇っている。

 

 隔離居住区の貴族(ゲットー・ヘイツ)とその外とはわけが違う。

 

 こんな光景はヘルサレムズ・ロット……いや僕がいた世界じゃ絶対に見れない光景だろう。

 

「……星」

 

 ふと上を見上げるともう明け方だというのに雲一つない空の上に星がうっすらと輝いている。その景色がこの世界の空気がどれだけ澄み渡っているのかを伝えてくる。

 

 ヘルサレムズ・ロットに星はない。そもそも世界の中心で星を見るなんて発想が浮かばない。なんせ電気が煌々と輝いているから。

 

 魔石灯の光はどちらかというと火に近い。鈍く強い光だ。だからネオンと違って星の光を奪わない。

 

「もうほとんど見えないね。夜になればもっと見えるだろうけど……、星は僕の故郷の方が綺麗だったかな」

 

「ここより綺麗なんだ……」

 

 当たり前か。星は都会より田舎の方がよく見える。

 

 そういえば昔はよくミシェーラと星を眺めてたっけ。

 

「懐かしいなぁ。僕も子供のころはよくおじいちゃんと星を見てたっけ」

 

 ベルも同じように子供の頃を懐かしむ。

 

「ねえ、いつか……僕の故郷に遊びに来なよ」

 

「え?」

 

「なんかレオって都会の出身っぽいし、灯りのないところで星を見上げたことないんじゃない? 僕の故郷は本当に何もないからさ、でもその分レオが見たことない景色は見せれると思うんだ」

 

 僕はベルに異世界のことを話してない。だから彼は僕がいつかいなくなることを知らない。

 

 その無邪気な笑顔に少しだけ胸が絞められる。

 

 本当ならベルには正直でいたい。

 

「……うん、そうだね」

 

 でも、今だけは打ち明けることが酷く無粋に思えた。

 

 たとえ叶えられる日が来なくとも、今だけはその約束を大切にしたかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ん、待たせたかな?」

 

「あ、アイズさんっ……おはようございます!」

 

 しばらくするとアイズさんが壁の上に姿を現した。ベルは早速耳まで赤く染めて勢いよく頭を下げる。

 

 これだけオーバーリアクションをとるベルもベルだけど、それで気付かないアイズさんも結構な大物だよなぁ。

 

「君は、確か酒場で話した……」

 

「レオナルド・ウォッチです。今日はベルの特訓風景を見学に来まして……邪魔はしませんから見ていてもいいですか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 僕はベルとアイズさんから少し離れたところまで行き、壁にもたれかかる。

 

 

 ドサッ

 

 

「ん?」

 

 何かが倒れるような音が聞こえ振り向くとアイズさんの前でベルが仰向けに倒れて気絶していた。

 

 え? 何? どういうこと?

 

「アイズさん、えっと……これどういう状況ですか?」

 

「……私、人に戦い方教えたことないから、加減が分からなくて……」

 

 アイズさんは眉を下げて、叱られた子供のようにしょんぼりしている。

 

 つまりアイズさんとベルは模擬戦みたいなことをやって、ベルをノしちゃったと? 僕が移動する十数秒の間に?

 

 ……いや速すぎだろォ!?

 

 こんなん修業でもなんでもないわ!!

 

 

 するとアイズさんはササッとベルに近づく。

 

 まさかたたき起こすのかと疑ったがそうではなく、ベルの頭の横で正座したかと思うとその頭を膝の上に乗せはじめた。

 

 そして頬を緩めてベルの前髪をモフモフし始める。

 

「……アイズさん」

 

 口を三角にしてビクッと体を揺らした彼女は慌てて手を後ろに回す。

 

「……なに?」

 

「いや何じゃなくて、こっちのセリフなんですけど。僕はベルの修業を見に来たんですけどもしかして今日はやらない感じです?」

 

「こ、これは……早く体力が回復する、秘伝の技で」

 

「アイズさんも冗談が言えたんですね」

 

「じょ……!?」

 

 もはや壊れかけの機械のようにぎこちなく首をゆらす『剣姫』さん。

 

 まさかとは思うけど、膝枕するためにわざとベルを気絶させてるなんてことはないよね……?

 

 凄まじい早さで気を失った親友と、挙動不審になりながらも膝枕を止めないその親友の想い人を見ながら、深いため息をつく。

 

 綺麗な景色で心を洗われたかと思ったら漫才のようなものを見せられて……なんだか悩んでたのが馬鹿らしくなってきた。

 

 いや……このくらい肩の力を抜いててもいいのかもしれないな。

 




ネオン輝く大都市にしろ石造りの古代都市にしろ実際に見たら感動モノでしょうねぇ。
海外旅行行ってみてー。

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