ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

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どうも、実は今回のあとがき予定だったコメントを前話のあとがきに書いてしまった作者です。


面接

 

 

あれから一日が経った。今の時刻は午前10時。僕は今、

 

 

 

『青の薬舗』前に居ます。

 

 

 

なんで『青の薬舗』まで来ているのかというと、話は昨日に遡ります。

 

 

昨日、エイナさんがベルの【ステイタス】を確認した後、僕たちは防具を買いに行かないかと提案された。勿論ベルはOKだったのだが……

 

「あの、僕、防具とか以前にまだ武器を使いこなせてないんですけど」

 

「……そういえば、そうだったわね」

 

弓を使いこなせないと分かってから数日、ヘスティア様が帰ってきて【ステイタス】更新もした。一応力の熟練度も上がったのだが、ダンジョンで試してみた結果今度は命中しなくなってしまった。

狙いを定めるとこまではいいんだけど、やっぱり体が言うことを聞いてくれなかったのだ。

手が震えるというかバランスが取れないというか……。

 

まあ弓の扱いなんてドが付くほどの素人だしなー。

 

「ギルドが支給した弓は一応初心者用なんだけどね……」

 

「一番の解決策は誰かに師事することだと思うんスけど、エイナさん実は弓の名手だったりしません?」

 

「馬鹿なこと言わないで。私は武器なんて持ったことないよ……」

 

やっぱりそうですよね……。

 

「親交がある【ファミリア】の冒険者に教えてもらうことは出来ない?」

 

エイナさんはうーん、と俯いて考えた後、僕に尋ねる。

 

「一応、【タケミカヅチ・ファミリア】というかタケミカヅチ様は何かあったら頼れと仰ってくださったんですが……」

 

「あら、いいじゃない。【タケミカヅチ・ファミリア】には確か弓を使える人はいたと思うわよ」

 

「その、ホームの場所が分からなくてそれ以来会ってないんです」

 

「あぁ……」

 

納得した様子のエイナさん。例えば【ロキ・ファミリア】のような大きい派閥のホームや店を構えている商業系ファミリアのホームならば分かるのだが、【タケミカヅチ・ファミリア】は冒険者系ファミリアで名の売れたファミリアというわけでもない。

 

「神様にも聞いたんですけど、そういえば知らないなぁ、って仰って……」

 

ベルが付け加える。

 

「そっかぁ。私が調べて教えるのはギルドとしては情報漏洩になっちゃうし。他にはない? 親交のある【ファミリア】」

 

僕らは顔を見合わせる。あと親交があるといえば……。

 

「あとはミアハ様とは仲良くさせてもらってるんですけど……」

 

そう、あそこの【ファミリア】の構成員は一人。しかも非戦闘員のナァーザさんだけだ。

 

僕らが万事休すかと嘆息していると、エイナさんはキョトンとした顔をする。

 

「なに? 断られたの?」

 

「いや、断られるもなにも、ミアハ様の所の眷属は薬師さん一人ですし」

 

だけどエイナさんは僕たちの知らなかった情報をもたらしてくれた。

 

 

「薬師って、ナァーザ・エリスイスさんでしょ? あの人ほど適任な人はいないじゃない。彼女、弓の使い手でレベル2の元冒険者よ」

 

 

その情報に僕らはブースの外まで聞こえる大きさの驚きの声を上げたのだった。

 

 

 

そういうわけでナァーザさんに師事してもらうため、まだ『準備中』の看板のかかる『青の薬舗』まで足を運んだのである。

 

ちなみにミアハ様とナァーザさんとは一度ベルがポーションを買いに行くのについていって話をしたことはある。かなりお人好しな神様とそれに振り回される苦労人みたいな感じだった。

 

「ごめんくださーい」

 

扉を開けると店の奥でミアハ様とナァーザさんが奥のレジで何やら話している最中だった。二人はこちらに気付くと話し合いを止め挨拶をして来た。

 

 

「おや、いらっしゃいレオ。ポーションを買いに来たのか?」

 

「ハイポーションなんてどう? 持ってて損はないはず……」

 

あとナァーザさんは金にがめつい。

 

「いや、ポーションを買いに来たわけじゃないんです」

 

「じゃあ、なに……?」

 

半開きの目を益々薄めて頭を横に傾けるナァーザさんに勢いよく頭を下げる。

 

「お願いします! 弓の扱いを教えてください!」

 

「断る」

 

「えぇ!?」

 

迷う素振りもなく即答されるとは思っておらず変な声が出てしまう。

 

「こらこらナァーザ、うちを贔屓にしてくれてるファミリアの子なんだ。少しくらい良いんじゃないか?」

 

ミアハ様はにべもなく断るナァーザさんに困った顔をしながら口添えしてくださる。やっぱりこの神はお人好しだなぁ。

 

「ミアハ様はお人好し過ぎる……。そんなだから、いつまでたっても経営が成り立たない」

 

「うぐっ」

 

僕と同じ感想を述べられながら封殺される神様。でもここではい、そうですかと退くことは出来ない。

 

「も、もちろんタダで教えてもらおうとは思ってません! かわりにここの仕事の手伝いとかしますから!」

 

仕事の手伝いと聞いてナァーザさんの目の色が変わる。

 

「……お給金は出ないよ?」

 

「構いません。一日に少しだけでもいいので弓の扱いを教えてくださればそれだけで十分です」

 

「……ミアハ様」

 

「うむ。教えるのはナァーザ、お前だ。お前が良いというのなら私からは何も言わんよ」

 

ナァーザさんは最終決定をミアハ様に委ね、ミアハ様もこれを了承する。

 

「教えるのは開店の準備を始める前、早朝になるけど大丈夫?」

 

「はいっ。ありがとうございますっ」

 

「じゃあ今日は君にこの店で売ってる商品について教えるね。その後は、一応今日は夕方まで店番してもらうかな。明日から本格的に働いてもらうよ」

 

そう言うと机の引き出しから何枚もの書類をまとめたものを出す。商品のカタログのようだ。薬舗というくらいだからポーション系しか売ってないものと思ってたけど、回復アイテム以外にもトラップアイテムとか色々あるっぽい。

 

「あの、手伝いは1日中ですか?」

 

なんかナチュラルに勤務時間を決められたような気がしたから質問する。するとナァーザさんは捨てられた子犬のような顔をする。

 

「……だめ?」

 

ベルの買い物風景を見ているから知っている。こんなに不安そうな顔でこちらの同情心を煽ってくるが心の中は真っ黒だということを……!

 

「こら、ナァーザ。レオ君も冒険者として忙しいのだ。彼の一日を拘束するわけには行かん。午前中だけにしなさい」

 

「ミアハ様がそう言うなら……」

 

主神の言うことに渋々従うナァーザさん。でも僕の中では明日からのスケジュールについて午前中だけ手伝う場合と一日中の場合で秤にかけられる。そして、

 

「大丈夫ですよミアハ様。僕、一日手伝います」

 

一日働く方へと傾いた。

 

「さすがレオ。大好きだよ」

 

「いいのか、レオ?」

 

「ええ、今の僕じゃダンジョンに潜ってもせいぜい魔石を集めるくらいしか出来ませんし……午後空けたら勉強会あるし」

 

最後だけボソッと呟く。どうやら二人には聞こえなかったらしく首を傾げている。

 

……そんなわけで断じてナァーザさんが可愛かったからとかそういう理由じゃない。

 

 




じと目キャラは好きになりやすいです。それ故アニメでの出番が少なかったのは寂しかったです。

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