ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:空の丼

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レオ君が【神々の義眼】をどのくらい使いこなせているのか、そのあたりを描くのが結構難しいです。


君に届け!

 

 僕が円形闘技場に入ると、すでに魔物の調教は始まっており観客席はほとんど埋まっていた。

 

「これ、座る場所あるかなぁ」

 

 入り口付近でも調教は小さく見えるので問題はないのだけど、とりあえず座れる場所を探して通路を歩く。

 

 しかし、よくあんなに凶暴そうな魔物相手に華麗に立ち振る舞えるもんだ。今調教を行っている女性だって、見る限り華奢で魔物と戦えるようには見えないのに。

 

 やっぱり【神の恩恵(ファルナ)】のおかげなんだろうなぁ。

 

「あーっ! 君はあの時の糸目クンじゃんっ! おーい!!」

 

 空いている席を探してフラフラしてると少し離れた場所から突然大きな声が。

 糸目という条件が合致していたため、聞き覚えのない声にもかかわらず反射的に声がした方に振り返る。

 

 うわっ、なんだあの恰好? 痴女? 肌晒し過ぎでしょ。

 

 目が合ったような気がするけど、あんな格好の人に見覚えはない。大方、僕の近くに他にも糸目クンがいるんだろう。

 そう思い、無視して歩き出す。

 

 が、ガシッと腕を何者かに捕まれる。

 

「ちょっとー、無視するなんて酷いじゃんっ」

 

 手を振っていた痴女さんがいつの間にか近づき、僕の腕に絡みついていた。

 

「ちょっ、な、何ですか一体!? 人違いでしょ! アナタ誰ですか!?」

 

 目に毒な光景に目を逸らしながら尋ねる。

 

「人違いじゃないよー。キミ、何日か前に『豊饒の女主人』でアイズと奥で話したりベートに絡まれたりしてたあの糸目クンでしょ?」

 

 よくご存じで。

 

「確かにそれは僕ですけど……」

 

「あたしはティオナ、それで向こうに座ってるのがティオネとレフィーヤ。あたし達あの酒場にいたんだよー」

 

「そ、そうなんですか」

 

 正直あの時は色々と精一杯であまり周りを見ている余裕はなかった。覚えてるのは話を聞かせてくれたヴァレンシュタインさんと絡んできたベートさんくらい。

 

「糸目クン席探してるの? こっちあいてるから来なよ!」

 

「うぐ!?」

 

 ティオナさんは強引に僕の腕を自分がいた席の方に引っ張っていく。見ると、やはり有名人だからなのか周りが遠慮して席に若干の余裕が出来ている。

 

 そこにティオナさんとティオネさんに挟まれる形で座らされる。

 

「ちょっとっ、強引に引っ張っちゃダメでしょ馬鹿ティオナ……妹がごめんね、えーっと……」

 

「レオっす、どうも。あの、僕なんかがここに座っちゃっていいんですかね?」

 

 振り返る気はないけど後頭部に殺気が集中してて気になる。

 

「いいわよ、お金払って入ったんでしょ? それよりも、聞きたかったことがあるんだけどいいかしら?」

 

「何ですか?」

 

「あの時、どうやってベートを転ばせたの?」

 

「!?」

 

 ティオネさんは獲物を狙う蛇のような目をする。

 

 あの時は誰にも【神々の義眼】が見えないようにしたはずだ。そもそもベートさんは酔ってたんだから転んでも不思議じゃないと思うんだけど。

 

「あっ、それはあたしも気になる! どーやったの?」

 

「わ、私も気になりますっ」

 

 他の2人もこちらを見てくる。

 

「そんな転ばせただなんて……僕が叫んだと同時に、偶々ベートさんが転んだだけじゃないんですか?」

 

「それはないわね」

 

 必死に誤魔化すが断言するティオネさん。

 

「そうだよねー。確かにベートはイヤな奴だけど実力はホンモノだし、ちょっと酔ったくらいで尻餅なんて考えにくいよね」

 

 冷や汗が流れる。

 

 こいつらっ……、最初からこのために僕を席に座らせたな……。

 

 とはいえ、さすがに【神々の義眼】のことを話すわけにはいかない。

 

「……スキルです。それ以上のことは言えませんっ!」

 

「え~いいじゃん、ね、どんなスキルなの?」

 

「他ファミリアの人のスキルの詮索なんてやめてください。トラブルの元になりますよっ」

 

「あら? 私たちとことを構えるつもり」

 

「……」

 

「ふふ、冗談よ。今日の所は勘弁してあげる。アナタがレアスキル保有者って分かったことだし」

 

 うわぁ、えげつないなあ。探る気満々だよ。

 

 ジトーっとした目でティオネさんを見ていると、観客席がドッと歓声を上げた。

 

 見るとちょうど魔物の調教に成功したところだった。

 

 そして入れ替わる形で新しい調教師の人と魔物が闘技場に現れる。次の調教師は屈強な男性だが、魔物の方も尾を合わせれば体長七メートルにも及ぼうかというかなりの大きさの竜。

 

 その凶暴な唸り声に思わず体をこわばらせる。

 

「なーにー? 怖いの? 少年」

 

 ティオネさんがからかうように僕の顔を覗き込む。

 

「そりゃ怖いですよ。あんなのに襲われたらたまったもんじゃないです」

 

 もっとも、あれ以上に凶悪な化け物やら吸血鬼がいる街で暮らしてるんだけど。

 

「大丈夫だよ糸目クン! ちゃんとダンジョンに潜って鍛えていけばいつかアレも倒せるようになるよ!」

 

 いやぁ、それ一体いつになります?

 

 睨み合っていた調教師と魔物が遂にぶつかり合う。それに合わせて今まで以上に大きい歓声が闘技場を包む。

 

「でもっ、ちょっとおかしくないですかっ? あのモンスター、きっとトリだったと思うんですけどっ」

 

 レフィーヤさんが歓声に耳を抑えながら声を張る。

 

「言われてみれば……」

 

「それに……さっきから【ガネーシャ・ファミリア】の連中が慌ただしいわね」

 

「あ、やっぱりそう思う?」

 

 ティオナさんもティオネさんも眉をひそめる。

 

 そう言えば確かに運営っぽい人たちが慌ただしく動いてるなぁ。おいおい、もしかしてトラブルか? 観客席に被害が出るようなことは止めて、くれ……よ―――

 

 

 ――――――。

 

 

「どうしますか?」

 

「……少し、様子を見てきましょうか」

 

「糸目クンはここで待っててねっ……糸目クン?」

 

 またしても見えてしまった。【神々の義眼】は捉えてしまった。

 

 先程魔物が出てきたゲート、その向こうの暗がり、肉眼じゃ見えなかったであろう奥の方にローブを頭から被った人影。

 

 見間違えるはずがない。あの時、『豊饒の女主人』の前でベルを見ていた、『バベル』の頂きから見下ろしていた『美』だ。

 

 その『美』はローブの奥の瞳で僕を捉える。そして一瞬笑ったかと思うと影へ消えていった。

 

「糸目クンっ!? 大丈夫!? ここから動いちゃダメだかんね!」

 

 ティオナさんは僕に言いつけて、ティオネさん、レフィーヤさんと外へ駆け出していく。

 

「……」

 

 もう誰もいないゲートの影を見つめながら考える。

 

(どうしてこんなところに? あの女神は怪物祭の関係者なのか? いや、この祭りに協力してる神はガネーシャ様だけだって聞いてる。……いや、そんなことよりも)

 

 あの女神は、どこか何かを企んでいるような顔をしていた。もしかしたら―――

 

(ベルが危ないかもしれないっ……!?)

 

 さっきのティオナさんの忠告を無視して僕は駆け出す。

 

 

 闘技場を出ると、奥の広場でティオナさん達が何やら話し合っている。

 

「簡単に言うと、モンスターが逃げおった。ここらへん一帯をさまよっとるらしい」

 

「えっ、不味いじゃん、それ!?」

 

 えっ、不味いじゃん、それ!?

 

 彼女らが話していることが事実であるのを告げるようにどこかからモンスターの遠吠えらしきものが聞こえてくる。

 

 闘技場の魔物ということは、あの竜や猪のような奴らが逃げ出したということだ。僕やベルのような駆け出し冒険者が襲われたら一溜まりもない!

 

 話し合う彼女らに見つからないように広場を迂回し大通りへ向かう。

 

 そしてゴーグルをつけて目を開く。

 

『視る』ものはオーラ。色々な人のオーラが混ざり合い酔いそうになるのを堪えて、ベルの透明なオーラを探す。

 

 しかし、他の人たちのオーラと混ざり合い痕跡が見つからない。

 

 そこでもう一つのオーラを思い出す。

 

「―――あった」

 

 それはあの女神のオーラ。あの女神が手を引いている可能性があり、しかも彼女は魔物が出てくるゲートの影にいた。

 

 もしかしたらという思いだったが、的中した。あの女神の強烈なオーラの痕跡が魔物と思われるオーラの痕跡と重なり合い奥の方へ伸びている。

 

 ちょっと前までベル達はここにいたのか!

 

【神々の義眼】を限界まで酷使して痕跡を追うと、だんだんとベルのオーラも確認できるようになる。そしてそのオーラはどちらもダイダロス通りという路地に入っていく。

 

「なんだよここ? まるで迷路じゃないか」

 

 オーラの痕跡が視えなければ、確実に迷子になっていたであろう路地を走る。

 

 しかしベル達を見つけるよりも早く、

 

『グゴォオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 魔物の雄叫びと岩か何かが砕けるような音が耳に届く。

 

 ―――マズイッ!

 

 もうベル達は襲われているかもしれない。だけど雄叫びが上がった場所まではまだ距離がある。

 

「っ……ソニック!」

 

 この世界の住人に見つからないように隠れていたソニックを呼ぶ。

 

「さっき雄叫びがあった場所を探ってきてくれ。くれぐれも魔物に見つからないようにな」

 

 ソニックの視界を共有し、今も雄叫びと破壊音が聞こえる方角へ向かわせる。

 

 

 

 ―――見つけた!

 

 すると路地をいくつも抜けた先のちょっとした広場のような場所でベルとヘスティアを見つけ出す。

 

 しかし―――

 

「間に合わないっ!」

 

 歯をかみしめる。

 

 ベル達の近くにはすでに魔物がおり、ベル達に狙いをつけている。その魔物の特徴はエイナさんから受けた勉強会で習ったシルバーバックという魔物の情報と一致している。

 

 シルバーバックはたしか11階層が出現階層だったはずだ。

 

 しかも一度刃を交えたのか、ベルが護身用に持ってたナイフが折れている。ベルの体も祭りに行くということで武装していなかったためボロボロだ。

 

 このままじゃベルが殺されてしまうっ! 何でもいい、どうにかしてベル達を助けなきゃ!

 

 ―――どうやって?

 

 この眼が、【神々の義眼】が僕にはあるじゃないか……!?

 

 

 ―――この距離じゃ届かないだろ?

 

 そうだ、離れすぎている。今までこんなに離れたところにいる生物の視界を支配したことなんてない。

 

 でも、それが何だっていうんだ。僕自身は離れていてもソニックはもう届いている。【神々の義眼】だけはソニックを通して届いているじゃないか!

 

 

 ―――出来るのか?

 

「出来るかじゃない。やるんだ……ベル達を助けるんだ!」

 

 

 眼に力を込める。眼球が急激に熱くなるのを感じる。

 

 構わない。やれ、レオナルド!

 

 たった二人の家族(ファミリア)くらい救ってみせろぉ!!

 

 

 

『ガァアア!?』

 

 

 ソニックとの視界の共有を解かないまま、ソニックの目を通じて魔物の視界を支配する。

 

 

 目を抑え、ふらつくシルバーバック。その隙にベル達は走って逃げ出す。

 

「……ぐあっ!?」

 

 その光景を見たところで、熱に耐えきれなくなり眼の支配を切る。

 

 な、なんとか間に合った……。一時しのぎにすぎないが窮地は脱したはず。

 

 でも状況は油断ならない。ベルもヘスティア様も、あの魔物に一発でも貰えばきっと死んでしまう。

 

 だからシルバーバックが彼らに追いつくまでに僕も合流するんだ。そしてあの魔物を【神々の義眼】で攪乱して時間を稼ぐんだ。そうすれば、もうこの地区一帯に魔物を討伐するため散っているティオナさん達第一級の冒険者が追いついて倒してくれるはず。

 

 他人頼りな作戦ではあるが、現状これしかない。

 

 

 

「―――待て」

 

 

 

 しかしその行く手を聞き覚えのある声をした巨体が阻んだ。

 




今回は原作では描写されたことのない【神々の義眼】の使い方をしてみました。

というのも、Dr.ガミモヅが結構離れたところにいるザップさん達の視界を支配していたので、レオ君も見えている生物くらいなら例え離れていても視界ジャック出来ると見当をつけた次第です。

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