ライブラの一員がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:空の丼
タイトルは思いつかなかったので銀魂を意識してみました。深い意味はないです。
前衛にベル、後衛に僕を据えて、ベル曰く念願のパーティーを組みダンジョンに潜る。いくらベルのステイタスが上がっていようがダンジョンでソロはやはり危険が伴う。だから僕の参入によってダンジョン攻略はグンと楽になり到達階層も増えるだろうと予想できた。
が、現実は非情だった。
「まさか弓を扱うのがあんなに難しいとはねぇ。アハハ、びっくりしたよ」
「笑い事じゃないよ、もう。たしかにレオにはスキルがあるから連携は取れるけどさ、さすがに使えない武器を持ってダンジョンに下りるわけにはいかないでしょ」
時刻はお昼。僕たちはギルド二階の簡易食堂にてご飯を食べながら、今後の方針をどうするか話し合っているところだ。
理由は僕が弓を使えないことが発覚したから。
ちなみにベルはシルさんから貰ったお弁当。いかにも女の子が作りました感漂うお弁当を取り出した時は周りから嫉妬の眼差しを向けられていたが、ベル君これに気付かず華麗にスル―。
「そもそもなんで使えないんだろうねぇ。【
僕は顎に手を当てて首を捻る。
「僕も弓なんて使ったことはないから分かんないよ。でも、考えられるのはやっぱり【ステイタス】不足じゃないかな」
「確かに力は0だけどね」
【
「でも今日から数日留守にするってヘスティア様言ってたよね」
「……じゃあレオの【ステイタス】更新はしばらくお預けかぁ」
結局、ヘスティア様が帰ってきて【ステイタス】更新が行われるまでは、初日のように午前中のみ二人で一階層の魔物を倒して、午後からはお互い自由行動ということになった。
自由行動といってもベルは五階層付近で魔石集め、僕は街で元の世界へ帰る手がかり探し兼観光とやることは決まってるんだけどね。
「それじゃあ午前中の分の魔石とドロップアイテムの換金お願いね」
「了解。あんまり無理して下の階層に降りすぎるなよ」
魔石やらが入った袋を受け取り、ベルには一応釘を刺しておく。
「分かってるよ。神様やミアさんにもああ言われたからね」
うん、どうやら大丈夫そうだ。さて、今日はどこを観光しようか。
換金のためギルドに行くとエイナさんと鉢合わせた。
「ふーん、ステイタス不足ねぇ。あんまりそういう話は聞かないんだけど……まあいいわ。それでしばらくの間はレオ君は午前中だけ、ベル君は午後もソロでダンジョン探索ってことになったのね?」
「はい。駄目でしたか?」
人の命がかかっているため当然といえば当然なのだが、エイナさんは過剰なまでに慎重に物事を見る。
だからせっかく二人いるのにベルにソロで潜らせるという判断はエイナさんにとって理解できないと言われるかもと思ったが、
「ううん。ベル君にもレオ君にも自分のペースがあるだろうから文句は言わないよ」
優しい微笑みと共に了承してくれた。よかった。
「それにちょうどよかった。私もね、レオ君に時間を作ってほしいと思っていたところなんだ」
「え?」
胸を撫で下ろしたのも束の間、エイナさんの表情が怪しく光ったように感じた。何か嫌な予感がするんだけど……。
「レオ君、今の話からして午後は暇ということで良いのよね?」
「い、いや、暇というかなんというか……オラリオを見て回ったりしなきゃとか―――」
「暇よね?」
「……ハイ」
なんとかこの場を脱しようと言い訳を考えたが、顔をズイッと近づけてきたエイナさんに一蹴される。
「実は私ね、アドバイザーを担当してる冒険者に、少しでも生還率を上げてもらうためにちょっとした勉強会を行っているの」
「へ、へー、そうなんですか……」
冒険者たちのことを本当に思いやっているんだなとは思うけど、この勉強会については実はベルから聞いてる。
曰く、逃げ出したくなるほどのスパルタらしい。……何がちょっとしたなのだろう。
「ベル君には上層についての基本的な知識は教えたけど、レオ君はまだ何も知らないでしょう? 私もちょうど午後から時間が取れたから一緒に勉強しよっか?」
エイナさんの表情は変わらず優しい微笑みを浮かべている。浮かべているはずなのだが、ちっとも優しく見えない! なんか後ろにゴゴゴゴゴゴゴッって効果音が見える!?
「まさか、イヤとは言わないよね?」
僕の数日間の午後の自由時間は勉強会で潰れることとなった。
ヘスティア様がホームを留守にしてから3日。
この3日間はダンジョンとギルドとホームをずっと周回していたように感じる。おかげで魔物の知識は大分ついたけど。
よくあんなスパルタ授業をベルは逃げもせずに受けれたもんだ。これがダンジョンに潜る意気込みの差なのかね?
しかし昨日の勉強会はエイナさんが忙しいということでいつもより早く打ち切られた。
なんでも怪物祭という年に一度の催しが今日、開かれるらしい。エイナさん達ギルドの職員はその準備に追われているとのこと。
その話を昨日の夜ホームでしたら、ベルも怪物祭のことは知らなかったみたいで目をキラキラさせながら「行こう!!」と言ってきた。
正直僕も息抜きが欲しかったし、この街、というか世界にどのくらい滞在するかも分からないのに年に一度のイベントを見逃すのは惜しい。
ということで今日は怪物祭を見に東のメインストリートに行くことになった。
「わぁ~、凄いよレオ! 人がいっぱい! 僕こんなお祭りは初めてだよー!」
「確かにすごい人の量だねぇ。なんていうか、こういう平和なお祭りって久しぶりで涙が出そうだよ」
「ホントにレオの故郷ってどうなってるの?」
「とにかく今日はお金のことなんか気にせず楽しもうな、ベル!」
「ねえ聞いて!? いろいろレオの過去が心配になってきたんだけど!? あとお金のことは考えて使ってお願いだから!」
東のメインストリートは人や亜人でごった返していた。大きな通りの端にはたくさんの出店が並んでおり、そこではじゃが丸くんや焼き鳥をはじめとした歩きながら食べれる料理からアクセサリー、果ては剣などの武器までいろんなものが置いてあった。
とりあえず祭りのメインである魔物の調教が行われる闘技場を目指して歩こうとすると「ぐぅ~」という音が二つ。
「そう言えば朝食食べてなかったね」
「そうだね。どこかで買って食べようか……あ、あそこにじゃが丸くんの店があるよ。あそこで買おうよ」
「え~じゃが丸くんかぁ。嫌いじゃないけどせっかくの祭りなんだしもっと違うの食べない?」
ベルがじゃが丸くんの店に行こうとするのを止めて辺りの出店を見渡す。
すると一つの出店が目に入った。
「おっ! ハンバーガー屋さんがあるじゃん! ベル、あそこ行こう! ハンバーガー食べよう!」
「は、はんばーがー? 聞いたことないんだけど……?」
ベルを引っ張って「"B"KING」と銘打ってある屋台まで歩く。
「すいませーん、大ハンバーガーと大コークください」
『ハァイ!』
「ちょっとレオ!? これ朝食にしては重たくない!?」
ベルはメニュー表を見ながら呻く。どうやら本当にハンバーガーを見るのは初めてらしい。なんともったいない!
「大丈夫大丈夫。案外ペロッと入っちゃうから。そんなに気になるならこれなんてどうよ?」
「う~ん。じゃあそれにするよ。すみません、ベジタブルバーガーひとつお願いします」
『ハァイ!』
店員さんはテキパキと注文されたバーガーを作り紙袋に入れる。それをお金と交換し、またメインストリートを歩きはじめる。
「この街でも売ってるなんて知らなかったなぁ。ちょうどこの味が恋しくなってたところなんだよね」
「……ねぇ、今の店員さんって、あれ神様たちが言ってた『コスプレ』なのかな? 魔物みたいな格好してたけど……」
「え? 普通じゃなかった?」
「…………僕の常識がどんどん崩れてる気がする。これが祭りかぁ……」
ベルが何やら呟いてるけど気にせず紙袋からハンバーガーを取り出し一口齧る。
これこれ! このザ・ジャンクフードって感じ! 今までオラリオでは見なかったから本当に久しぶりだよ。
「おーいっ、ベールくーんっ!」
ハンバーガーを食べ終わって他の出店も周っているとベルの名前を呼ぶ聞き覚えのある声が。
「神様!? どうしてここに!?」
すっごいご機嫌な笑顔で走ってくるヘスティア様。
「おいおい、馬鹿なこと言うなよ、君に会いたかったからに決まってるじゃないか!」
ああ、なるほど。
つまりはヘスティア様は今回の祭りに合わせてデートをご所望みたいだ。
「あ、あー、そういえばベル? 僕は用事があったのを思い出したよ。祭りは二人で楽しんできなよ」
「え?」
「レ、レオくんっ、キミってやつは……! ありがとう! 少しだがお小遣いをやろう。なに、気にすることはないさ!」
ヘスティア様は嬉しそうにお礼を言ってくる。あの、これ、お金入ってないです。
「それじゃあ、ベル、祭り楽しんできなよ」
「え? ちょ、レオ? どういうこと?」
未だに状況を理解できていないベルを置いてその場から離れる。
と、言っても、本当に用事があるわけじゃないし、祭りは楽しまさせてもらうんですけどね。
ただすぐに鉢合わせになるのはマズイ。多分二人は出店を見て回るだろうから僕は先に闘技場の方へ足を運ぶとしよう。
せっかく三日間も(午前中だけとはいえ)ダンジョンに潜ったのに全カットでお送り致しました。
まあ、レオ君、魔石拾いくらいしかやることないですし……。