「ちょっとまったですわ~!!」
雪崩れ込んで来たすみれたち花組の面々。
「む……いやいやいや、しょうがないかー」
一世一代の告白を不意にされて一瞬憮然とした表情を作る秋雲だったが、入ってきたのが2歳程度の幼児と知って気を取り直す。
流石に2歳相手に本気で怒るのは大人気ない。
しゃがんで目線を合わせると、すみれに尋ねる秋雲。
「ん~、どうしたのかな? キミたち、間違って入り込んじゃったのかな?」
「まちがっていませんわ! ここはしょういのおへやですわよね!?」
「確かに、ここは大神さんの楽屋スペースだけど。ダメだよ、大神さんの事を少尉って呼んじゃ。
大神さんは大佐さんで、隊長さんなんだから」
完全に幼児相手に言い含めるような口調の秋雲。
それがすみれは気に食わない、完全に相手として見られていない。
こちらは確固たる5人の敵の1人、秋雲であるということは知っているのに。
秋雲に言い返そうとするすみれだったが、後ろから大神に近寄ったさくらが全力で大神を抓った。
「おおがみさん、なにしてるんですか! くちくかんにいいよられてでれでれして!!」
「この抓り方……まさか、さくらくんなのかい?」
帝劇に居た頃と同じ衣装だったのに一目見て分からなかったと言うのか。
そのことがさくらを更に激昂させる。
霊力を用いて膂力を強化し、更に全力で抓る。
「まさかじゃありません! そんなにかんむすとのせいかつがよかったんですか!!」
「い、いてえぇぇぇぇっ! さくらくん、何をそんなに怒ってるんだい!?」
2歳児とは言え霊力まで用いた膂力で抓られると流石に痛い。
「コラー! そこのキミ、大神さんに何してるのさ! 大神さんは大切な人なんだから!!」
すみれから離れ、さくらと大神の間に割って入る秋雲。
「たいせつなひと……そうでしょうね。こくはくまでしようとしたくらいですからね!」
「いや、それはそうだけど。キミには関係ない話でしょう!?」
「かんけいあります!! わたしとおおがみさんはしょうらいをちかったなかなんですから!!」
「うそっ? 大神さん?」
「ちがっ、そんなことはないって!」
さくらから出た衝撃的発言に、思わず大神を見やる秋雲。
大神は全力で首を振っている。
「さくらさん! いぜんのことについてはひとまずおいておくといったでしょ! それならわたしだってしょういとしょうらいを!!」
「おおがみはん、うちにもちかいよったよなー」
「その口調は紅蘭? それじゃ、金髪の子はマリアなのか? そこの子は……まさかカンナ!?」
「おひさしぶりです、たいちょう」
「へへ……ひさしぶりたいちょう。こんなかっこうなのにわかってもらえてうれしいぜ」
さくらたちの発言に秋雲が衝撃を受けている間に、他の3人も大神たちの周囲にべったりだ。
しかも、やけに大神と仲が良さそうに感じる。
急に危機感を覚える秋雲、自分一人では対処できないかもしれない。
もし、その結果大神を奪われたりしたら――
秋雲は禁じ手を使うことを決意する。
『全艦娘に秋雲から通信! 大神さんの楽屋に集合してー! このままじゃ大神さんが、ロリ神さん、ううん、ペド神さんになっちゃうよー! 取られちゃうよー!!』
毎度おなじみ艦娘への全方位無差別電信をぶっ放す。
早速大神の楽屋に入ろうとしていた睦月、如月、響、朝潮が駆け込んできた。
「秋雲ちゃん、ペド神さんってどういうことにゃしぃ?」
「ロリ神さんならともかく、ペド神さんだなんて。如月が大神さんを元に戻して、あ げ る」
「大神さんは渡さない」
「隊長、ペドってどういう意味でしょうか、教えていただきたいのですが!」
その4人が真っ先に駆け込んだことを見て、さくらたちは自分達の予想が正しかったと知る。
「さあ、みなさん、うちあわせどおりいきますわよ!」
「隊長~、隊長がペドってどういうことデース! キリキリ白状するデース!!」
「大神くん、私とあろうものがいながらペドってどういうことです! あとでお風呂に入りましょう! 大人のよさを再確認してもらいます!!」
僅かに遅れて金剛と鹿島が楽屋に駆け込んできた。
「としまはだまってらっしゃい!!」
だが、入った瞬間すみれの言葉のカウンターが突き刺さる。
「年増デースか……」
「年増……」
その場で崩れ落ちる二人。
そして花組の5人それぞれが駆逐艦娘に相対する。
最初に相対したのは響とマリア、共にロシアにかかわりのある少女だった。
「ハラショー」
「はらしょー!?」
牽制の一撃をマリアに叩き込む響。
驚きと共に一歩下がるマリア。
「ハラショー、ハラショハラショ」
「はらしょー!」
しかし続けざまに放たれた響の連撃を避けると、マリアは響の懐に飛び込んで一撃を放つ。
クリーンヒットしたそれに響がよろめく。
「はらしょー!!」
「ハ、ハラショー!」
とどめの一撃とばかりにマリアが放ったそれを紙一重でかわし、クロスカウンターを仕掛ける響。
だが、互いの一撃はとどめを刺すには至らなかった。
もう戦いは無意味だと、勘付いた二人が離れる。
「ハラショー」
「はらしょー」
がっちりと握手を交わす二人。
長い戦いを経て強敵は友となったのだった。
「なにをやっているのかさっぱりですわ!!」
そこツッコまない。
「まったくしょうがないな、あさしおってのはだれだい?」
「あ、はい。朝潮は私です」
手を上げた朝潮に向かいファイティングポーズを取るカンナ
「あんたたちかんむすにはわるいけど、たいちょうはかえしてもらうぜ」
「何を言ってるのですか? 隊長を求めているのは朝潮達だけではありません。大臣閣下が、大元帥閣下が、何より日本、世界中の人々が求めているんです! それに隊長は海を取り戻し、世界に平和を取り戻すまで戦いをやめるような方ではありません!!」
「あんた……」
そうである、自分達が結婚を迫ったときもそう言って断ったではないか。
事件も収まり、一時的とは言え平和を取り戻した帝都においてもそうだったのだ。
なら、深海棲艦が跳梁跋扈する今現在において、大神が剣を置く訳が無い。
「それに隊長はこう言っておられました! 『俺たちは世界の、人々の平和のため戦う!! たとえ、それがどんな絶望にまみれた戦いであっても俺たちは一歩も引かない! そして絶対に勝つ!!』、と! 朝潮はそんな大神さんの、盾となり、剣となり、戦う所存です! もし、隊長が華撃団を出られるというのなら、朝潮も華撃団を辞し大神さんの傍に付き従う覚悟です!!」
「あはははははは! あたしのまけだ」
そうだ、何よりそういう大神だからこそ花組は、カンナは、大神を好きになったのだった。
「?」
「あんたのいうとおりだ。たいちょうがそういうひとだから、あたしもすきになったんだった」
そう言ってカンナは朝潮へと手を伸ばす。
「ありがと、あさしお。あんたのおかげでだいじなことをおもいだしたよ。たいちょうのことよろしくたのむぜ」
「はい、お任せください!!」
そしてマリアと響のように深く握手を交わす。
大神の事を頼むという想いと共に。
「なあ、このままだとうちらわるものになっておまへん?」
「うぐっ、だからってこのままひきさがれませんわ!!」
「しょうがないな~。あきぐもはんにはわるいけどたいちょうはかえしてもらうで」
「そんなことはさせないよ! 大神さんは秋雲達の隊長なんだから!!」
次に相対するのは秋雲と紅蘭。
「そういいはるけど、あきぐもはん、たいちょうになにもされたことおまへんやろ?」
「なっ! そんなこと無い! 裸見られたし抱き締められたし、同じ部屋で寝たりしたもん!」
「な、なんやてー!」
自分はお風呂を大神に見られたことがある。
それをアドバンテージとして話を進めようとしたのだが、この駆逐艦は自分の先を行っていた。
それに、
「おなじへやでねたって、ま、まさか……」
「そう、この本の後半の通りだよ!」
そう言って、秋雲は大神と秋雲のR-18同人誌『初恋Destroyer』を紅蘭に手渡す。
慌てて本の後半部分に目を通す紅蘭。
それは、桃色なR-18行為が次から次へと連発される、紛れも無くR-18本であった。
「口が、あそこが、お○○○○が……きゅー」
乙女とは言っても、その貞操観念は太正時代のもの。
R-18行為が乱発し、卑猥な言葉が乱れ飛ぶ本の内容に圧倒されて紅蘭の思考回路はショートしぶっ倒れる。
「こ、これは!?……!!!!???? お、おおがみさん~!?」
いきなり紅蘭がぶっ倒れたことを訝しんださくらが薄い本を手に取り、その後半R-18シーンを目にして同じく赤面してぶっ倒れる。
「まったくなんですの、ほんのいっさつくらいで……!? おおがみさん、こんなことを!?」
そしてすみれもぶっ倒れた。
決まり手 薄い本のR-18シーン
中途半端な文量になったので途中でぶった切って3を作るか、後編で終えるか迷った結果前後編となりました