艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第八話 5.5-2 原稿の日々

「秋雲くん、このページも写植と枠、メッセージの調整、ノンブル貼り終わったよ。完成原稿フォルダに入れておいた」

 

テーブルで作業していた大神が秋雲に声をかける。

秋雲の夏コミ新刊一冊目、『有明鎮守府 全艦娘マニュアル(艦娘直筆メッセージ付き)』の進捗は順調である。

追悼本の代わりに、秋雲を含め艦娘ファンへの感謝を込めてこの本を作ると決めた時に、一番のネックになる筈だった箇所、全ての艦娘から艦娘ファンに向けた直筆メッセージを貰う事があっさり終わったからだ。

秋雲の予定では、初雪や望月などの面倒くさがりや、大淀や長門などのお堅い面々、山城や千代田などのシスコンなどを説得するのが先ず大変な作業になる、と思っていた。

しかしそれは観艦式の話によって、有明鎮守府全体が秋雲の応援ムードになったこと、なにより大神が手伝ってくれることで激変した。

 

メッセージひとつ貰うにしても、自分が頼みにいくのと、大神が頼みにいくのとでは艦娘の対応が全く違うからだ。

 

例えば曙がそうだ。

彼女からメッセージを貰うのは最大の難関と秋雲は思っていたのだが、大神に頼んだら、

 

『しょ、しょうがないわね。クソ隊長がそこまで言うのなら、手伝ってあげなくもないわ!』

 

と、曙は即答。

引っ込み思案な潮などの同室の3人もまとめて、メッセージを貰ってきたのだ。

 

直筆メッセージの取得については、一事が万事こんなペース。

むしろ秋雲の作画ペースが追いつかない。

 

「あー、ごめん隊長。こっちがまだ終わってないや。小一時間くらい休んでていいよー」

「それじゃあ、お言葉に甘えようかな。今日は剣の鍛錬ができなかったから鍛錬をしに――」

「隊長待ってください。大淀さんと明石さんに、空き時間ができても鍛錬はさせないようにって言われてますので」

 

秋雲の部屋から出ようとした大神だったが、隣で作業をしていた夕雲が大神を引き止める。

大淀と明石に言われているのであれば、大神が何を言おうとも引き下がらないだろう。

大神は少し考えた後、降参する。

 

「分かったよ、夕雲くん。でもそうなると何をしていれば――ふぁぁ。……ごめん」

 

唐突に眠気に襲われる大神。

ここ最近睡眠時間が不足気味なので仕方の無い話だ。

 

「あら、隊長、眠いんですか? 膝枕でもしましょうか?」

「流石にそれは悪いよ、夕雲くんの作業が止まってしまうしね。一旦部屋に戻って一眠り――」

「あー、それはダメ。熟睡されたら困るし、悪いけどここで雑魚寝して? 後で起こすから」

「そうさせて貰おうかな。みんな、ちょっとごめん」

 

そう言うと大神は床に転がって寝息を立て始めた。

最初は艦娘、それも駆逐艦の部屋で寝ることを頑なに拒否していたのだが、ずっと作業を共にしているとなると少しは気安くもなる。

結構、無防備に寝息を立てている大神。

 

「隊長さま、寝ちゃいましたね~。巻雲も作業終わりましたよ~」

「あたしも一段落かな、秋雲~」

「私も終わりました。もう少し早く終わってたら隊長に膝枕して上げられたのに」

「うぇぇ!? 何で皆まとめて終わるのさ? ちょっと待ってよー」

 

慌てる秋雲だが、慌てたからといって作画ペースはそう上がるものではない。

 

「仕方ありませんね、みんな、酒保に行って一休みしませんか?」

「お、賛成。身体をちょっと動かしたいし、そうしよーぜ」

 

長波が身体を伸ばしながら夕雲に答える。

 

「じゃあ、そうして来てー。みんなが休んでる間に進めとくからさ」

「秋雲~何か欲しいものある~、あ、エナジードリンクは『まだ』ダメだからね?」

「分かってるって、あれはもっと追い込まれたときに使うものだからね」

「ん、よろしい~。夕雲姉さん、行きましょう~」

 

夕雲たちが部屋を出て行く。

 

 

 

しばしの間、液晶ペンタブ上でペンを動かす音と大神の寝息だけが、部屋に響き渡る。

 

 

 

そして、吐き出した息と共にペンの動きが止まる。

 

「よーし、一冊目の作画全て完了~。二冊目の作画は……どうしようかな…………」

 

一旦立ち上がり身体を大きく伸ばした秋雲、再び椅子に座り共通化していない――つまり大神に未だ見られていないフォルダを開く。

そのフォルダ名は『初恋Destroyer』。

秋雲と大神のR-18本であるのだが、恋愛パートにもそれなりに力を入れた作品だ。

 

大神に未だ見せていないのは、本のネームを書いているときに夕雲に「大神さんへのラブレターみたい」と言われたのもある。

確かにそうだ、この本には秋雲から大神への告白シーンが存在する。

漫画の中とは言え、秋雲が必死に考えた大神への告白の言葉を大神に見せる。

 

それが告白以外の何だというのだろうか。

 

それを見た大神がどう反応するのか、考えてしまったら見せることに弱気になってしまった。

 

肯定されたらどうしよう。

 

「いや、そんな事ある訳無いのは分かっているんだけどねー」

 

大神男色説を作った元凶の一人だし。

 

そんな風に迷っているうちに完全に言い出すタイミングを失ってしまった。

 

 

 

あと、R-18本を駆逐艦が作ること自体、隊長にどう思われるのか怖かったというのもある。

まだR-18シーンは未完成なのだというのもある。

 

モノの構造はネットとかで調べたから一応分かっている。

でも、その知識のモノで貫かれようとしている絵を描いているとき、大神と絡んでいる絵を描いているのに自分が大神以外の誰かに貫かれようとしている気になった。

 

なってしまった。

 

一旦そう思ってしまってから、ペンが止まった。

R-18パートの進捗はよろしくない。

というか殆ど進んでいない、このままだとこの本は落ちてしまうだろう。

 

もし解決方法があるとしたら、大神のモノを実際に見せてもらう事くらいだ。

なのだが、

 

『大神さんのお○○○○を見せてください』

 

そ ん な の 言 え る か ー !!

 

秋雲は机の上で悶絶する。

 

 

 

と、そこで秋雲は気が付いた。

 

今、無防備に寝ている大神の寝息に。

 

起こしてくれると言った秋雲の言葉を信じて、すやすやと寝ている大神の存在に。

 

なにより、大神と二人きりだということに。

 

「そうよ、秋雲。今なら――」

 

振り返ると、秋雲はゆっくりと大神の方へ近づいていく。

 

手には何も持っていない、スケッチブックなんか今は必要ない。

 

ちょっとだ。

 

ちょっと見るだけで秋雲の知識上のモノは、大神のモノへと更新される、昇華される。

 

それだけで、この本は正しく大神と秋雲のR-18本となる。

 

「そうよ、これは新刊のためなんだから――」

「……うーん」

「ひゃわぁっ!?」

 

寝返りを打った大神に飛び上がって過度に反応する秋雲。

 

「……」

「大神さん、起きた?」

「……すー」

 

どうやらまだ寝ているようだ。

ならばと大神の股間に秋雲はゆっくりと顔を近づける。

それだけで濃厚な大神の臭いを感じたような気になって、頭がクラクラしてくる。

 

ああ、他のR-18本で書いてあったように、好きな人のお○○○○の臭いだけで頭がクラクラするのって本当なんだ。

 

今なら大神になんでもしてあげられそうだ。

手でさすったりすることも、舐めることも、咥えることも苦になるとは思えない。

 

『秋雲くん、してくれるかな』

 

寝ているはずの大神が、自分で描いた漫画と同じ台詞を言っているような気がした。

なら、自分のすることは決まっている。

 

漫画と同じように、

 

大神さんを楽にしてあげて――

 

そして、大神さんを迎え入れて、ひとつになって――

 

「秋雲さん……隊長にいったい何しようとしてるの?」

「ぎょえー!!」

 

耳の傍で聞こえる底冷えのするような夕雲の声に秋雲は絶叫した。

 

もちろんそれで、大神の目は覚めた。

 

 

 

「えーと、何で秋雲くんは正座しているんだい?」

 

秋雲の部屋で作業を続ける大神。

だが、指揮を執る秋雲は部屋の端で正座させられていた。

 

「天罰です、あと一時間秋雲さんはそうしてなさい」

「あ~、やっぱり隊長のBL本にしておくべきだったかな~」

 

大神のBLを描けないくせに呟く秋雲だった。

 

 

 

ちなみに2冊目の本は結局大神に手伝わせること無く、秋雲は完成させた。

 

最終的に本を大神に見せることに違いはないが、それは秋雲自身からの大神への告白とセットだ。

そう決意する秋雲だった。




大神がR-18原稿見て恥ずかしがるところよりも、自分は艦娘が悶えてるところをみたいw
だからこんな構成になりました。
あと昨日の好感度表はこの結果込みとなります。

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